第15話:転校生はガイノイド
「みなさんにお知らせがあります!」
朝のホームルーム。
せせりが属する1年5組の担任であるゆいな先生が朗らかな笑みを浮かべながら言った。
「このクラスに新しい仲間が加わりますよー」
その言葉にクラスがにわかにざわめき立つ。
「どんな子なんだろうねせーりー!」
せせりの友人であるゆみもそわそわと転校生の登場を待っている。
今朝唐突に教室内に設置された新たな一席。
それから転校生が来るのでは? とクラス内では噂になっていた。
それが事実だと分かりクラス内に期待が膨らんだ。
そして教室に入ってきたのはまるで作り物のような端正な顔立ちの少女。
特に男子の熱狂は言うまでもない。
とは言え、せせりはその転校生の存在を先に知らされている。
なぜならば……
「はじめまして。ワタシは対スーパーヴィラネス戦闘支援用ガイノイド、ジョカスタ型1番機ミリエと申します」
恭しく頭を下げる美少女の口から出たトンデモない自己紹介にクラスは一気に静まり返った。
「ミリエちゃんは人の生活を体験するためにこのクラスに入ることになります。みんな仲良くしてあげてね」
そして放課後。
いつものハイビスカス少女隊の待機部屋。
そこにハイビスカス少女隊の3人に加えミリエの姿もあった。
「ふーん、それでせせりーが世話役になー。大丈夫かミーリー。いじわるとかされてない?」
「モンダイありません。すごくテイネイに教えてくださります」
そもそもせせりのクラスに入ることになったのはあげは先生の判断だった。
スーパーヒロイン支援用のガイノイドであるミリエが学校活動をするに当たってスーパーヒロインであるハイビスカス少女隊の付き添いがあるのは当然。
そして3人の中で一番無難そうなのがせせりだったと言うわけだ。
「ふたおに任せようかと思ったけど3年生は受験勉強もあるしね」
とのことだ。
「消去法じゃねーか」
「仕方ないさー」
「ワタシのホウからのキボウでもあります。ですからタンジュンにショウキョホウというワケでもありません」
「そーなの?」
「ジツはナンドかおあいしたコトがあるんです。おぼえていませんか?」
「ミリエちゃんと?」
せせりだけではなくしじみもたてはも覚えがないようだ。
「ごめんね。覚えてないや……」
「シカタありません。あのコロはゼンゼンちがうスガタでしたから」
「ま、過去は振り返っても意味ないしね! それよりもミリエちゃんってすごい機能があるんだよ!」
「すごい機能? やっぱり対スーパーヴィラネス用の超兵器とか……?」
「わくわくしてくるさ!」
「そういうのじゃないけど、しじみちゃんが好きそうなやつだよ」
「オレが?」
「それではミリエちゃん! どうぞ!」
「ハイ。モード変更」
ミリエの呟くような声の後、にわかにミリエの両目と髪の毛が虹色に輝き始める。
「うぉぉぉおおお!!! かっこいい!!!!」
「ほら、やっぱり食いついた……」
「まさかこんなにウけるとは……」
「じーみーは光るものが大好きだばーよ」
それから暫く雑談を続けるが、特に出撃も何も起きそうにない。
「じっとしてるのもなんだし、パトロールでも行くか」
しじみがそんなことを提案する。
パトロールとは言うがそれは名ばかりの食べ歩きやショップ巡りだったりする。
まぁ、近場にそんなおしゃれなお店があるかと言うとないのだが。
「いっそライカムまで行く?」
「わたしは家から近いしいいけど」
「たてはは何か食べられればいいばーよ!」
「そう言えばミーリーはガイノイドなんだよな。さすがに物は食べれないか」
「モンダイありません。ワタシにはありとあらゆるモノをドウリョクへとヘンカンするキノウがあります」
「つまり、ミリエちゃんも食べられるんだね!」
「ハイ。おばあさまがユウメイなタイムマシンからチャクソウをエたといってました」
「味もわかるばー?」
「ハイ。リョウリなどのカジもおこなえるよう、スキャンキノウがトウサイされてます」
「ハイテクぅー!」
盛り上がる4人の背後――人影が1つ、不自然な動きを見せていた。
明らかに彼女達をつけているような素振り。
そう、その人影はチャンスをうかがっていた。
自らの目的を果たすためのチャンスを。
だがその存在にミリエは気付く。
そして――一も二もなく振り返ると右腕を突き出した。
右腕は一瞬で砲身へと変わり、エネルギー弾を放出する。
「うわ、ミリエちゃん!?」
爆風が吹き荒れ、そして静寂。
「敵か?」
「はい。ワタシたちをつけているようでした」
「仕留めたばー?」
「いえ……」
せせりたちには煙でよく見えないが、ミリエの目にはしっかりとその反応が見えていた。
「危ないじゃないかミリエ……」
煙の向こうから女性の声が聞こえる。
そして姿を現した。
奇妙な機械のメットのようなもの頭に被った謎の人物。
「何アレ、不審者!?」
「識別。スーパーヴィラネスのブレインディザスターと認識」
「ブレインディザスターって言ったら……あの有名なスーパーヴィラネス!?」
しじみはその名を知っていた。
各地で様々な事件――特にコンピューターに関する大事件を引き起こしていると言われるスーパーヴィラネス。
「ボクのことを知ってるなんて光栄だなぁ」
「みなさん、ココはにげてください」
ミリエがブレインディザスターの前に立ち、静かにそう言った。
「そしてスーパーヒロインへレンラクを。それまでもちコタえます」
せせりたちは頷くと素早く駆け出す。
だがブレインディザスターはそれを意にも介していないようだった。
そう、彼女の狙いは――
「モクテキはワタシ、ですか」
「そう、君を迎えにきたんだ。ミリエ。どうだい、僕の元に来ないかい? あんなばあさんの所より楽しい事を保証するよ」
「おコトワりです」
「それなら力尽くで連れて行くとしようかな」
睨み合うミリエとブレインディザスター。
一見ただそれだけ。
だが実はもう戦いが始まっていた。
「そこまでだ!」
「「「ハイビスカス少女隊、緊急出動!」」」
「ハイビスカス少女隊? ネトピールが負けたっていう新人チームか」
「ネトピールを知ってるの?」
「無能な怪盗だったよね。変な矜恃で新人に負けちゃうんだもん。笑ったよ」
怪盗ネトピールを……それどころかあの時の戦いを知っているような素振り。
「ネトピール……ムロクッチ……ミリエ、そうか!」
そこでしじみは気付いた。
「ネトピールがムロクッチなんておもちゃを盗もうとしてるのは変だと思ったんだ。お前の差し金か」
更にムロクッチに搭載されたAIの名前はミリエ。
そう、このジョカスタ型ミリエの頭脳こそがあのムロクッチ。
ハイビスカス少女隊とミリエはあの事件の時に出会っていたのだ。
「あの時に君を手に入れられれば良かったけれど、仕方ない。行こうか、ミリエ」
「させないよ!」
せせりはバーベナストレートを構えると、一気に駆け出す。
その速度は――
「遅いよ」
鈍足!
「身体が、上手く動かない……ッ!」
「君達、異能力とか無いのかい? アーマー頼り? それなら勝てないよ。僕にはね」
せせりのハイビスカスアーマー・イエローサムライ2000GTの機能は何らかの力によって阻害されていた。
「ハッキング能力か!? けど、そんな素振りは……」
「素振り? そんなのが必要だっていうのかな」
「異能力者だばー?」
「いや、ネットじゃそんな情報は――」
しじみはその時ハッとした。
ブレインディザスター……その名は誰もが聞いたことあるスーパーヴィラネスの1人。
しかし、その情報が全く出回っていない。
しじみが聞いたことあるのは「コンピューターのエキスパートでハッキングが得意」その程度だった。
少し前までスーパーヴィラネス収容所に囚われていたが何者かの手助けで脱獄。
ただ、その何者かと思われるヴィラネスの目処はカケラもついていないという。
それこそ、そんな人物はいないかのように。
「コンピューターにアクセスできる異能力……!?」
そう。
それは自らの頭脳をネットワークに接続。
そこからコンピューターなどにアクセス、操作することができる能力だった。
まさに人間コンピューター!
「よくわからんけど、メールとか送れるばー?」
「ふふ。どうだろうねぇ?」
とは言え、ハイビスカスアーマーは単純な科学力だけで作られたものでもない。
それはつまり、幻想という領域だ。
そこを利用すれば――
「まだ、戦う手はある!」
しじみはスプリームトリスメギストスを構え、幻想弾を射出する。
その一撃は問題なく撃ち出され、地面を抉った。
「強力だね……確かにこんな攻撃、当ればただじゃあおかないなぁ」
対するブレインディザスターに対抗手段らしきものは見えない。
つまり、アーマーの能力を多少ダウンさせられたとは言え、押し切ることは十分に可能だ。
「確かに君達のアーマーを完全に掌握、機能を落とす事はできない。でもね、この場にはもう一つ純粋な科学の落し子がいるんだ」
「科学の落し子……? そんな哲学の子供みたいなのが?」
「!! ミーリー!!」
そう、確かにその場にいた。
対スーパーヴィラネス用のガイノイドであるミリエが。
そして何故、ミリエが動きを止めたのか……戦いはもう始まっていたのだ。
「ファイアウォール突破。ブレインディザスター.netに接続するんだ」
「要請、承認……」
ミリエの口から無機質な、そんな声が漏れ出す。
「ミリエちゃん!」
「ミーリー!」
「あいえなー!」
「さぁ、僕のところにおいで! ミリエ!」
「…………ネットワークを検索。発見。接続成功。本ガイノイド、ジョカスタ型ミリエは同人販売サイト.netに接続します」
「「「「ん?」」」」
まさかここでこれほどまでの一体感が得られるとは思いもしなかっただろう。
ハイビスカス少女隊の3人は当然、ブレインディザスターの声までもがハモった。
「ミリエ、ちゃん……?」
「シツレイ。オしサークルのシンサクがでているとツウチがあったので、オモわずカクニンしにいってしまいました」
「莫迦な! 確かにハッキングは成功したはずだ!」
「サイシンエイのカガクリョクをあまくミすぎていますね。おばあさまおテセイのセキュリティ、そうタヤスくはヤブられません」
「科学の力ってすげー」
「タタカいのトチュウでしたね。ではケッチャクをつけましょう」
ミリエは右腕を伸ばし手首を捻る。
「ミリエランチャー、ハッシャします」
そして放たれた閃光でブレインディザスターを吹き飛ばしたのだった。
「カガクのショウリです」




