第14話:誰より険しく美しく
「聞いたぞせせりちゃん。新人ヒロインをゴム手袋でぶん殴ったって?」
ハイビスカス少女隊の待機部屋。
珍しく姿を見せた西銘ふたおがそんなことを口にした。
それは以前のサクマドンナーとの戦いのことだ。
放電能力を持つサクマドンナーに対し、せせりはゴム手袋をはめてラッシュ攻撃でとどめを刺したのだ。
「ゴムは電気につよいからね! 科学の勝利ですよ」
どや顔で言い切るせせりにふたおは苦笑する。
「でもあの時のせせりーむっちゃ強かったな」
「だからよー! ゴムの力って凄いよ!」
「きっとせせりちゃんの"特性"が発揮されたんだろうな」
「特性?」
「せせりちゃん達のハイビスカスアーマーやあたしのイルゼアーマーには装着者のイルゼを引き出し、増幅する力がある。それは知ってるはずだ」
「それが武器やアーマーになって出てくるんですよね」
しじみの言葉にふたおは頷いた。
「イルゼってのは基本的に"幻想"――聖霊のような位相の違う相手に干渉できる能力なんだけど、人によってはそこに+アルファで能力がつくことがあるんだ」
「炎属性とか水属性の攻撃できたりするばー?」
「そういうのもあるね。あたしの特性は逆境時の能力強化らしい」
「らしい?」
「今までの戦いからそうじゃないかってことは分かるんだけど、断定ができないんだよなぁ。ま、ほぼそれで間違いないけど」
「診断とかできないんですか?」
「人によっては能力を把握する方が特性が発揮できないこともあるらしいんだよね。あたしの特性だって逆境に立てば強くなるからってそれを当てにしてたら負けちゃうしね」
ゲームのように体力が何割を切れば能力が発動する、といったことはない。
逆に言えば体力に余裕があっても追い詰められていると感じれば力を発揮できる。
能力を把握してればその分の余裕があると錯覚する可能性もあり、発動が遅れてしまう。
そう考えれば確かにふたおの特性も把握していない方が力を発揮しやすいのかもしれない。
「なるほどですね」
「せせりちゃんの場合は意思力での能力強化辺りになるのかなぁ。絶対に負けない、絶対に勝ちたい、そういう気持ちが力になってるのかもな」
「わたしは負けず嫌いだからね!」
「そういう能力がしじみ達にもある、んでしょうか?」
「あるさ。君達ハイビスカス少女隊は桃山中学過去最高のイルゼ能力を持っている。きっと、とんでもない力を持っているはずさ」
「とんでもない、力……」
「でーじワクワクしてくるさー!」
ふたお先輩からそんな話があってから、3人は自分の特性について考えていた。
そんな時、ハイビスカス少女隊に出撃要請が入る。
場所はミュージックタウン。
コザに存在する音楽施設だが、その広場では小さななにかが蠢いていた。
足元を動き回る小さな人型。
「うわ、なにこれ!?」
「……プラモデル、か?」
そうそれはどこからどう見てもプラモデルだった。
トリコロールカラーの二本角に緑の一つ目、丸っこい流線形ロボなどしじみには見覚えのあるデザインのロボット達が暴れ回っている。
「来たわねハイビスカス少女隊!」
元凶は言うまでもない。
イタズラ3人娘だ。
「もう、また変なの大暴れさせてぇ!」
「ふっ! これぞリアルウォーシミュレーション粒子の力です! 指示を全然聞き入れてくれない以外はアメイジングな出来でしょう?」
「つまり暴走してて手がつけられないってことじゃねーか!」
「やっぱりちゃんとバリとか取った方が良かったんじゃないですかぁー!?」
「ニッパーじゃなくて爪切り使ったのも……ダメ?」
「これ全部組み立てたばー? なんか倒すのかわいそうだばーよ」
その場には数十体のプラモデル達。
それを動かして遊ぶために必死で組み上げたと思うと破壊するのはためらわれる。
「だけど、止めるためには――倒さなきゃ!」
せせりがそう覚悟を決めた瞬間、地面が盛り上がり蔦のようなものがプラモデルを絡み取り、握りつぶした。
「この蔦――まさか!!!!」
「「「ブーゲンビレア見参!」」」
「華麗な踊りをご覧あれ」
「あいえなー! 何しに来たばー!?」
「ロボットが暴れているという情報がありましたからね。Dr.ドリームの仕業ではないかと出てきたのですが」
「違ったよーだね。ま、でもヴィラネスの悪行は放っとけないねぇ。放っとけないよ」
「潰す」
「また3人娘を消そうとしてるんでしょ!? そんなことはさせないよ!」
「そんなことはさせない? それはこちらのセリフです。出会った以上、今度こそ確実に除去しますわ」
周囲をクヴェスタの生やした石の植物が取り囲む。
クヴェスタの能力は周囲にあるものに植物のような性質を与え、それを操作、成長することができる。
今もアスファルトに植物のような性質を与え、それを急成長させることでアスファルト製の木を複数生やしたのだ。
これでイタズラ3人娘の退路は断たれた――ということだ。
「チッ、やるしかねーってことか」
「だからよー」
やる気満々のせせりに対して、しじみとたてははやや気後れしている。
「大丈夫、わたし達だって強くなってるんだよ! 勝てる!」
どちらにせよここで戦わないと話は進まない。
せせりは先手必勝とばかりに駆けだした。
「ベジェトルカ、ツィーチュカと一緒に陽動を。その隙に周りの木をなんとかして見せる」
「諒解さー!」
その後を追うようにたてはが拳を掲げ駆け出す。
しじみもスプリームトリスメギストスを構え、援護射撃を行うように見せて周囲の木々を吹き飛ばせないか状況観察に徹した。
「バーベナストレート!」
切り込んだせせりの一撃を、
「聖域、展開」
スヴァティニェの障壁が防ぐ。
「たっぴらかす!」
そこに重ねて叩きつけられるたてはの強烈な一撃。
だが、スヴァティニェの障壁は破れない。
「反転。衝撃」
そして始まるブーゲンビレアの反撃。
「シラーチュカ」
「ソニックブリット!」
障壁の防御力を反発する衝撃へ転化させた一撃でせせりとたてはの態勢を崩す。
そしてシラーチュカの弾丸のような一撃はたてはを吹き飛ばし、ダメージを与えた。
「最初からクライマックスで行くよ! グレートバーベナ!!」
せせりはバーベナストレートにイルゼを灯し、一気に巨大化させる。
その一撃でシラーチュカをボール球のように打ち飛ばし、さらにクヴェスタを狙った。
「ルースト」
それを足元から生えるアスファルトの木が絡めとり、動きを止める。
「ツィーチュカ!」
しじみの幻想弾による援護射撃をスヴァティニェの障壁が弾き飛ばした。
どう考えてもハイビスカス少女隊はブーゲンビレアに太刀打ちできていない。
こんな状況でも諦めていないのがせせりだ。
「負けないもん!」
何故なら――
「わたし達はハイビスカス少女隊だから!」
瞬間、せせりの身体を絡めとっていた木が砕ける。
「何ですって!?」
「わたしはまだまだ、強くなれるんだぁ!!!!」
その言葉に呼応するように、せせりの身体に目に見えてイルゼが湧き出していた。
「スヴァティニェ!」
「聖域――キャッ」
スヴァティニェの障壁を一気に切り崩す。
「シラーチュカ!」
「ソニック――ぐぅっ!?」
シラーチュカの鋼の拳を殴り返す。
そして――
「ルースト!!!!!」
周囲から聳える、様々な植物を模したアスファルト細工。
それは一斉にせせりに襲い掛かり、その一撃を止めんとする。
何本ものアスファルト植物たちを切り刻まれ、砕かれるがクヴェスタも負けることはできなかった。
自らの信念の為、悪を倒すため、そしてそんな悪を庇うハイビスカス少女隊の愚かさを証明するため。
せせりの全力、そしてクヴェスタの全力がぶつかり合おうとした瞬間――強烈な冷気が周囲を包んだ。
「なんなの!?」
「これは――!?」
不意に周囲が凍り付く。
それはクヴェスタが生やした植物も例外ではない。
凍り付いた植物達は、そして――砕けた。
周囲の光が氷に反射し一点へと集まる。
それはまるでスポットライトのよう。
そしてその中心に、その3人組は立っていた。
「戦いはそれまで! こんなことしても意味ないわよ」
「誰!?」
イラ立ちのこもった声でクヴェスタは乱入者へ声を上げる。
「わたし☆は空のオブロハ!」
「海のモジェ」
「陸のゼムニェ!!」
「「「ソメイヨシノ、ショータイム!」」」
「ソメイヨシノ!!」
せせりがどこか歓喜の入り混じった声を上げた。
何故ならせせりはその名をよく知っていたからだ。
いや、名前だけならこの場にいる誰もが聞いた事あるだろう。
なぜなら彼女たちは――
「トーキョーの超人気ティーンチーム、ソメイヨシノ!?」
「誰だばー?」
「今、テレビでもネットでも毎日のように騒がれてるのに知らないのか!?」
「わーが興味あるのは近所の飲食店だけさー」
「ええ……」
そう、今知らない人はいない一番人気のスーパーヒロインチームだからだ。
まぁたてはは知らなかったようだが。
「!! 植物が砕けた――ってことは!」
クヴェスタが気付いた時にはもう遅い。
「今のうちに離脱しましょう!」
「逃げろー!!!!」
「危ない危ない……」
「逃がした! ソメイヨシノ!!」
「カリカリし過ぎじゃない? 見たところそんな害のありそうじゃなかったしいーじゃない」
「あんななりでも規格外のスーパーヴィラネスなのよ!? それを逃がすなんてどんな被害が出るか!」
「んー、でも彼女たちは大丈夫だと思うんだけどなぁー」
「貴女までハイビスカス少女隊みたいなことを!!」
どこかしらばっくれているような様子こそあるが、彼女――オブロハがイタズラ3人娘を逃がしたのはわざとらしかった。
「わたし達スーパーヒロインの仕事はスーパーヴィラネスを倒すこと、そのはずなのに!」
「違うわ。スーパーヒロインの仕事は人々を守ること」
「それは当然。ですがその為には全てのヴィラネスを撲滅しなくては真の平和は訪れない!」
「言いたいことは分かるよ。だけど、ヴィラネスを減らすためには倒すしかないって言うのはどうなのかな?」
「そーだそーだ! サクラちゃんの言う通りだ―!」
「サクラちゃんって誰だばー?」
「ソメイヨシノのリーダー、オブロハがアイドル活動してる時の名前だな」
「アイドルだばー?」
「今時珍しくないだろ、スーパーヒロイン兼ねてるアイドルは」
そう、オブロハはサクラという名前でアイドル活動もしており、せせりはそのファンだった。
だから登場時にやたらテンションが上がっていたのだ。
「面白くないわ! ヴィラネスを庇うのもまた悪――それがわたし達の信条でして」
「何がキミをそこまで駆り立てるのかはわからないけど……ならわたしたちも倒す?」
「ティーンチームではトーキョー最強とも言われるソメイヨシノ……お手合わせできるのなら願ったり叶ったりね」
ブーゲンビレアとソメイヨシノの間に火花が散る。
「わたし達、蚊帳の外?」
「だな……3人娘も居なくなったからやることないし」
「だからよー」
「主役なのに……」
呆然と佇むハイビスカス少女隊をよそにブーゲンビレアとソメイヨシノの戦いが始まった。
「ソニックブリット!」
最初に撃ち込まれたのはシラーチュカの弾丸のような一撃。
だがそれにソメイヨシノは一歩たりとも動かない。
モジェがただ一言。
「風が吹く……」
とだけ呟いた。
瞬間、吹き抜ける風。
それはシラーチュカの拳の軌道を逸らし、明後日の方向へ吹き飛ばした。
「ヂヴォキー・ズブロイっ!」
お返しとばかりに駆け出したのはゼムニェ。
その姿はまさに野獣。
身体を獣化することができる野生の鎧という異能力によるものだ。
「ルースト!!」
それを迎え撃つのはアスファルトのジャングル。
クヴェスタの異能力により様々な形をした木々が覆い茂る。
だがゼムニェの野生には敵わない。
一気にジャングルを切り抜け、クヴェスタの目の前に。
「聖域……っ」
その一撃はクヴェスタへ――いや、素早く矛先をスヴァティニェに変えた。
そして一撃。
「何か嫌なニオイがしたけど、正解かな?」
「スヴァティニェ!」
あまりの速さにさすがのクヴェスタも驚愕の声を上げるしかない。
その時クヴェスタの生やした木が光に包まれる。
そして、砕けた。
「氷結能力……厄介な!」
「氷結? わたしの能力はスヴェトレー・イェヴィシュチェ! キラキラ⭐︎の能力だよ!」
と本人は言うが氷結能力である。
とは言え、彼女が自身の異能力を「キラキラの能力」と称するだけはある。
周囲の水分を凍結させ、その手に握ったのは氷のマイク。
さらに周囲を凍らせ、光を眩く反射、増幅する氷塊を作り出すことで光のステージを作り出した。
それはただの演出ではない。
強烈な極光は相手の目を眩ます武器となる。
「それじゃあ行くよー!」
マイクに向かってそう叫び、さらに持ち手を逆にした。
そう、作り出した氷のマイク……その本当の使い方は槍だった。
「オーバーマスター!!」
光を纏う鋭い一撃。
更に周囲を氷で覆い、逃げ場を無くす徹底ぶり。
それで決着はついた。
「あのブーゲンビレアが手も足も出ないなんてな……」
「やっぱりサクラちゃんはすごいや……」
「トーキョー最強さー」
ブーゲンビレアはじめての敗北だった。
それも完膚なきまでの完敗。
そしてハイビスカス少女隊にもソメイヨシノの鮮烈さは刻まれる。
自分たちの理想を、理想以上の力として持つその姿。
「わたしもあんな風になりたい!」
せせりの言葉と全く同じ思いをしじみも、たてはも心に強く感じたのだった。




