第13話:雷神!? サクマドンナー誕生!
時刻は既に真夜中。
真っ暗闇に沈む公園に1つの人影があった。
「絶対、絶対にスーパーヒロインになって見せますわっ!」
手に持ったのは父親に頼んで作ってもらった特注のスーパーヒロイン用の武装。
彼女――サクマドンナこと佐久間かおりの父親はスーパーヒロイン用の武器や防具の開発を行なっていた。
故に彼女もスーパーヒロインに憧れ、そしていつかは父の作った装備を身に纏いスーパーヒロインとして活躍する日を夢見ていたのだ。
「せめて力を、体力を付ければ――ッ!!」
不意にサクマドンナの頬を水滴が伝う。
と思ったのも束の間、雨水が激しく打ち付けてきた。
そして轟音。
光がサクマドンナの視界を焼き尽くした。
給食後の長休みの時間。
ハイビスカス少女隊の待機部屋に集まったせせり、たては、すずめの3人は特にやることもなくくつろいでいた。
「みんな慰霊の日はちゃんと黙祷した?」
「せせりーはやったばー?」
「もちろん! なんなら全方位に対して30分ずつ黙祷したよ」
「何ですかソレ。意味わからないんですけど……」
「せせりーが意味わからんのはいつものことさー」
「むー、たてはちゃんにそんなこと言われるのは心外だよ」
先日、6月23日の慰霊の日をどう過ごしたのかで変な盛り上がりを見せる室内。
慰霊の日は先の大戦において日本軍の組織的な戦闘が終結したとされる1945年6月23日にちなんで制定された記念日である。
沖縄県内でこの日は休日となっている。
「そういえばしじみさんは?」
「なんか先生に頼まれてることがあるって言ってたけど」
「そうなんですねぇ」
その時、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
「おい、聞いたかみんな!?」
「しじみちゃん?」
部屋に入ってきたのは当然しじみ。
だがその表情には驚きのようなものが入り混じっている。
「せせりー、今日サクマドンナ休みだったんだって?」
「そういえば来てなかったけど……なんかあったの?」
そうたずねるせせりだが、しじみの様子から何かあったのは確実。
予測を裏切ることなくしじみは言った。
「サクマドンナが雷に打たれて病院に運ばれたって!!!」
それは昨夜。
公園で素振りをしていたサクマドンナを襲った急の落雷。
その直撃で病院に運ばれていたことをしじみは職員室でたまたま聞いてしまったのだった。
「そういえば昨日の夜、すごい雷が鳴ってましたね」
「サクマドンナ……生きてるの?」
「そう思ってあげは先生にも聞いてみたんだが、どうやら大丈夫だったらしい」
「しに頑丈!」
「ってことでお見舞い行こうぜ!!」
放課後。
「4人乗せるのは定員オーバーなんだけど……!」
「がんばれアルトワークス!」
「あげは先生もっといい車にしてよー。ランボルギーニとか」
「無茶言わない!」
「てかランボルギーニだともっと狭くなりそうだな……」
なんていつも通りの冗談交じりにやってきた某大型病院。
その一室にサクマドンナこと佐久間かおりはいた。
「やっほー、サクマドンナ元気-?」
「アナタたちは……」
いつもの高飛車で元気が有り余っているような様子は見えない。
それでも雷に打たれたという割には傷もなく元気そうだった。
すぐお見舞いとして面談することができたのもそれが理由なのかもしれない。
「雷に打たれたんだって? ちゃんと歩けるか?」
「どんな質問ですの」
「いや、雷に打たれて生きていたけど下半身不随になった戦国武将とかいたじゃん」
「誰ですのよ」
「それよりも、雷を使えるようになったりしてない!?」
「なんか霊力とかが宿って特殊なことができたりしませんか!?」
「何もありませんわ。火傷も後遺症もなし――わたくしはそう聞いてますわ」
せせりとすずめの微妙に興奮したような質問にもサクマドンナは静かに返す。
「何もないんですか……。まっ、無事なら良かったです。ゼリーを持ってきましたよー」
「しにおいしそうさー! たてはも食べていいー?」
「全く……騒がしいのですわ! 茶化しに来ただけなら帰ってくださる?」
「せっかく心配してあげてるのにー」
「その言い方、本当気に食わないですわ」
「はいはいそこまで」
どこか火花を散らすようににらみ合うせせりとサクマドンナの間にあげは先生が割って入る。
「佐久間さんも元気そうで安心したわ。もう気が済んだでしょ? 帰るわよ」
「へーい。じゃあねサクマドンナ! 学校で会おうねー!」
「今度から気を付けろよー」
「わーにも雷に打たれても平気な方法教えてほしいさー!」
「それじゃあ、お邪魔しました!」
今までの騒がしさから一転、急に静かになった病室。
サクマドンナは静かに自分の右手を見ていた。
その手のひらに閃光が走った――ような気がした。
「突然の花火で大混乱大作戦、準備は良いかしら?」
「準備オッケー! これだけ大量の花火――爆音轟音で驚天動地だね!」
「耳栓もしよう」
市内にある少年院跡地。
円筒形の機材を大量に広げ、そんな計画を声高らかに語り合うイタズラ3人娘の姿があった。
その口ぶりからその機材とは花火を打ち上げるためのものらしいことがわかる。
「そしてこれをドッカーンと――」
瞬間、激しい爆音。
強烈な爆発。
衝撃が周囲に広がっていった。
「な、何ですの!?」
爆発に巻き込まれ、地面に這いつくばりながらもネジェストは今しがた急襲を仕掛けてきた相手を探す。
爆炎が収まっていく中、1つの人影の姿が見えた。
鋼鉄の装甲を身に纏い、槌を右手に構えた――それはきっとスーパーヒロインなのだろう。
「何者、でして……っ!?」
「わたくしはスーパーヒロイン・サクマドンナー! 雷神、サクマドンナーですわ!!」
サクマドンナーは右手に持った槌――サクマハンマーを大きく天に向かって突き上げた。
その瞬間、激しい明滅と共に閃光が周囲に迸る。
それは雷。
激しい雷電の一撃がネジェストを、ネスミスルを、プシェジターを襲った。
「「「そこまでだ!!! ハイビスカス少女隊――」」」
「ってあれ? なんか様子おかしくない?」
「だな。もしかして、前回と展開被ってる?」
「ネタ切れだばー?」
地面に倒れ伏すイタズラ3人娘と1人佇む見知らぬ人影。
3人は以前あったDr.ドリームとの戦闘を思い出す。
「来ましたわね、ハイビスカス少女隊!」
戸惑う3人にサクマドンナーはその槌サクマハンマーを向けた。
「うわ、知らない人に"いつものセリフ"言われた」
「まーたあの3人をさらおうとしてるヴィラネスか?」
「ヴィラネス? わたくしはスーパーヒロイン! その名も、雷神! サクマドンナーですわ!!」
サクマドンナーの全身から放たれる雷の閃き。
ハイビスカス少女隊の3人は体中がピリピリとしているような錯覚を覚える。
「雷神サクマドンナー……まさかな」
「冗談で雷を使えるようになるなんて言ったけど……」
「あいえなー! 大変!」
そしてその正体にも気づいた。
そう間違いない。
雷神サクマドンナーの正体はサクマドンナこと佐久間かおりだった。
「女と雷神をかけたのか……」
「ドンナーって?」
「ドイツ語で雷。北欧神話の雷神トールのドイツ名でもあるな」
「マイティ・ソーさー!」
なんて雑談を交えているところに急な雷撃。
「うわっ、なにするの!?」
「ハイビスカス少女隊、わたくしと勝負しなさい!!」
バリバリと電撃が迸る。
そこから放たれる迫力は本物。
サクマドンナーは本気でハイビスカス少女隊と戦うつもりだった。
「なんで? サクマドンナーもスーパーヒロインなんでしょ!? ヒロイン同士が戦う理由なんてないよ!」
「そうはいきませんわ! わたくしは幸運にもスーパーヒロインとしての力を手に入れた。この力を使って証明しないといけないことがあるのですわ!」
「証明しないといけないことだって?」
「ええ。ハイビスカス少女隊やブーゲンビレアなんかよりもわたくしの方がスーパーヒロインにふさわしいということを証明してみせますわ!」
「あい、だからって戦うことはないと思うわけさ!」
「これはわたくしにとってのけじめと決別でもありますの。観念してわたくしの踏み台となるのですわ!!」
サクマドンナーの感情の高ぶりに呼応するように周囲への放電が行われる。
つい最近、異能力に目覚めたとは思えないほどの出力。
サクマドンナーがこれだけの自信を持って戦いを挑んだことがよく分かった。
「やるしかないみたいだね」
「サクマドンナーの頭を冷やしてやるぞ!」
「だからよー! お仕置きするさー!」
せせりはバーベナストレートを、しじみはスプリーム・トリスメギストスを、たてはは両腕を掲げ一気に駆けだす。
「行くよ必殺! ロケットハート!!」
先陣を切ったのはせせり。
その特性である俊足を生かし、まさにロケットのようにサクマドンナーの懐へ飛び込んだ。
それはまさに一瞬。
せせりも着実にその実力を伸ばしていた。
だが、対する雷は光速。
つまりは一瞬なんてものじゃない。
「ぐぁっ!?」
せせりの悲鳴が響く。
サクマドンナーの身体から放出された電撃がせせりの身体を打ち付けたのだ。
「ツィーチュカ! くっ、インパクト・ファクター!!」
咄嗟にスプリームトリスメギストスから幻想弾を打ち放つしじみ。
だがその連撃は――
「当たりませんわ!」
「知ってるよ!」
むなしく地面を抉っただけ――ではなかった。
「きゃっ」
地面を抉った幻想弾はその衝撃を周囲に広げ、瞬間、激しい爆発を巻き起こす。
その爆発による衝撃波は周囲の大地を揺らし、サクマドンナーの態勢を崩した。
「ファイトいっぱーっつ!!」
そこにたてはが右腕を大きく振り上げ突っ込む。
しじみの放った幻想弾はあくまでサクマドンナーの隙を作り、たてはの一撃を入れさせるためのもの。
「ですが、コチラだって!!」
サクマドンナーは必死に踏ん張り、そして右腕に持ったサクマハンマーを構える。
そしてたてはの右腕とサクマドンナーのハンマーがぶつかった。
「くっ、重い……ですわ」
「ガンガンいくさー!!」
サクマドンナーはとっさに左手を柄に沿える。
それでも力はたてはの方が上だ。
「けれども――負けられませんわァ!!!」
不意に強烈な電撃がサクマハンマーからジェットのように噴出した。
「あいやー!?」
そう、まさにジェットだ。
放電によって加速をつけたサクマハンマーの一撃は、たてはの一撃を弾き飛ばす。
「ヴェルダージ」
更にサクマハンマーの先端から放出された強烈な雷電砲。
もはやビームのような一撃はハイビスカス少女隊の3人を蹂躙した。
「つ、つよい……っ」
「自分の力の使い方をよく考えてるさー」
「サクマドンナは努力家だからな……」
実際、サクマドンナーは自らの放電能力を知った後、力を研究、特訓し僅かな日数で物にしていた。
そしてその能力を補助するのが身に纏っている装甲だ。
装甲の各所には大容量のバッテリーが内蔵されており、放電能力でそれらを充填。
身体能力の強化、補助機能を維持している。
さらに恐ろしいのはある種のコンデンサーとも言えるサクマハンマーの存在だ。
エネルギーを充填し、さらに変異させることであのようにビームのような一撃を放つことができる。
「負けを認めるなら今のうちですわよ!」
「それは……できないよ! ブーゲンビレアにも負けて、新人のスーパーヒロインにまで負けちゃったら立つ瀬ないもんねっ」
せせりの言葉に鼓舞されるように、しじみもたてはも力を振り絞り立ち上がった。
「あなた達の諦めない真っ直ぐな所、わたくしは尊敬してますわ。ですけど……」
雷撃。
「実力が足りてなくては、そんな強さもただ虚しいだけですわ」
「お前は、力が欲しいのか……っ?」
「そう、力が欲しいわ。理想を掲げ、人々を救うというスーパーヒロインという姿に相応しい力が!」
更に雷撃。
「そして、ブーゲンビレアには理想がありませんわ。彼女たちはヴィラネスを倒すことに執着している。人々を守る為に立ち上がり戦うスーパーヒロインとしては認められない!」
それは彼女自身が今まで抱いていたコンプレックスからくる言葉だった。
スーパーヒロインに憧れ、誰よりもその姿を求めた1人の少女はしかし中学1年生という早い段階でありながら現実を知り、打ちひしがれた。
そんな時、目に入ったのがスーパーヒロインとしての資質に乏しい新人スーパーヒロインチーム・ハイビスカス少女隊。
そして才能はあれど曇った瞳で宿敵の後を追いかけるブーゲンビレアの姿だった。
「どうしてそんな実力で人々を守ろうだなんて思ったんですの!?」
それはハイビスカス少女隊に向けられた言葉。
「どうして与えられた才能を正しく扱うことができないの!?」
それはブーゲンビレアに向けられた言葉。
「わたくしは弱く何もできなかった自分に決別しないといけないのですわ!!!」
それはきっと彼女の理想とするスーパーヒロイン像とはかけ離れているのかもしれない。
それでも彼女はけじめをつけなくてはならないと――そう考えていた。
「実力が足りてないとか言われても――わたしはスーパーヒロインを諦めないっ! 粘って粘って何度倒されたって立ち向かう。それがわたし達の戦い方だから!」
「言うほどそういう戦い方をしているのかっていう話は別にしてな!」
「強いて言うならDr.ドリームと戦った時はそうだったばーよ!」
「なら、わたくしを倒して見せなさい!!」
スーパーヒロインとしての活動歴だけでは覆せないようなサクマドンナーの強力な異能力とスーパーヒロインに対するこだわり。
このままハイビスカス少女隊は敗北してしまうのか?
その時せせりの視界にあるものが入った。
せせりの口元に笑みが浮かぶ。
それは勝利を確信した笑みだ。
「ツィーチュカ?」
せせりは拾ったそれを両手にはめる。
「ぬー?」
しじみもたてはもせせりが急に余裕を見せた理由が分からない。
「手に付けてるのは――ゴム手袋か?」
そう、せせりが手にはめたのはゴム手袋。
どうしてその場にあったのか――それは分からない。
それでもせせりはソレに勝利を見出していた。
「な、まさか――」
しじみはすぐにせせりの企みを理解する。
「無茶だ!」
そう言うとっくの前にせせりは一気に駆け出していた。
「ロケットハート!!」
自らをロケットのように加速させ、バーベナストレートによる突きの一撃を与える必殺技。
その一撃は高速だが、
「バカの一つ覚えですわ!!!」
対するサクマドンナーの雷撃は光速。
そう、最初の一撃の二の舞になる――――はずだった。
せせりはバーベナストレートの構えを解いて大きく掲げる。
サクマドンナーの放った雷撃はその矛先をバーベナストレートの切っ先に向けた。
避雷針――ということだ。
「いやいやいや、でも手に持ってたら意味ねーだろ!」
思わずつっこんでしまうしじみ。
事実、サクマドンナーの雷撃はバーベナストレートを伝いせせりの身体に流れた――はずだ。
「なっ、速度が落ちないですって!?」
「そんな雷撃、効かないよ!」
「何故ですの!?」
「ゴムだからッ!!!!」
せせりはいたって真剣にそう言い切った。
「ありえませんわ! これだけの雷撃、ゴム手袋程度で防げるはずは――」
「ゴムは電気を通さないッ! わたしはそう聞いたもんね! 絶縁体ってヤツ!!」
「ざ、戯れ言を!!」
サクマドンナーは必死に放電し、せせりの進撃を阻む。
だがせせりの速度は落ちない。
ダメージは入っているはずだ。
それなのに止まらない、攻撃が効かない!
そしてせせりはサクマドンナーと距離を詰めると両拳を固める。
「絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁――」
「絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁絶縁――ッ!!」
最後に一撃、強烈なアッパーカットを決め、
「これが絶縁体の力だァー!!!!」
叫んだ。
「んな、無茶な……ッ!!」
そんな言葉を最後に、サクマドンナーの意識は闇に沈んだ。
そして再び光。
目覚めたサクマドンナの顔を心配そうにのぞき込むせせり、しじみ、たてはの姿があった。
「あなた達……は……」
3人ともハイビスカスアーマーを纏っていない普段通りの姿。
それを見てサクマドンナはすぐに理解した。
「そう……あなた達がハイビスカス少女隊」
「ごめんね思いっ切り殴っちゃって」
「殴ったってかラッシュしてたしな……」
「絶縁ラッシュさー」
「――ッ、本当、無茶苦茶ですわ」
身体を起こしたサクマドンナが痛みで表情をゆがめる。
「大丈夫?」
「これからスーパーヒロインとして活動するんですもの。この程度、なんともないですわ」
「やっぱりヒロインとして活動を――」
「当然ですわ。戦いでは負けましたけど、だからと言ってあなた達を認めたわけではありませんわ。――ですけど」
「ですけど?」
「わたくしもまだまだ未熟だということが分かりましたわ。これからしっかり鍛えてあなた達なんかよりも最高のスーパーヒロインになってみせますわよ」
「うん。わたしもサクマドンナに負けないようにがんばるよ! 最高のスーパーヒロイン、みんなで目指そう!」
「そうだな」
「だからよー!」
「バカ言わないで欲しいですわね。わたくしはあなた達となれ合うつもりはなくってよ」
「えー、いいじゃん。クラスメイトなんだしさー」
「関係ありませんわ」
ぷいとそっぽを向くサクマドンナだったが、その表情はどこか晴れ晴れとしていた。




