第12話:我学の結晶!? Dr.ドリーム襲来!
オキナワ市内。
某ショッピングモール。
日本最古のショッピングモールとも言われるその場所で、今日も元気にイタズラ3人娘が暴れていた。
「おーほっほっほ、ドリアン持ち込み大作戦は成功のようね」
「恐れおののけ人間タチー!」
「愉快痛快」
ドリアンの異臭を漂わせながら笑い声を上げるイタズラ3人娘。
そこに――
「見つけたぞ」
長髪を翻す、1人の女性が姿を現した。
その目元は仮面で覆われ、その背後には似たような格好をした複数の人影が見える。
「何者ですの?」
「妾はDr.ドリーム。貴様らが噂の3人娘だな?」
「噂? 3人組はたくさんいますからね。それが私達だとは限らないわ」
「悪行を働く零落した3体の聖霊種――貴様らだろう?」
「何の用かしら」
「なに、少しばかり昆虫採集に来ただけよ。大人しく妾と共に来るがよい」
Dr.ドリームの指示に従い、その配下と思しき人型達がイタズラ3人娘を取り囲んだ。
「……機械人形?」
「従我だ」
「贋作……」
ファレシュナーと呼ばれたそれはネジェストの口にしたように機械人形――つまりはロボットだった。
Dr.ドリームに似た姿を持ち、その僕である等身大の人型ロボット。
それが彼女の最大の戦力だ。
「では来てもらおうか」
「「「そこまでだ!」」」
その時響いたいつもの声。
姿を現したのは当然、
「「「ハイビスカス少女隊、参上!!!」」」
意気揚々と姿を見せたハイビスカス少女隊だが、普段とは様子が違うことにすぐ気が付く。
「誰? その人たち」
「イタズラ3人娘が……捕まってる?」
「何してるばー!? 嫌がってるさー!」
従我によって身体を拘束されたイタズラ3人娘。
通常であればロボットのような科学兵器ではイタズラ3人娘のような聖霊種を捕縛することはできないはずだが、従我は魔力を帯びている。
それは即ち、Dr.ドリームは現代ではほぼ存在しないと言われる魔術使の素養を持つものだった。
「ハイビスカス少女隊……この区域のスーパーヒロインか。同人誌すら出ておらぬ弱小チームが妾に構おうなど」
「あらあら聞きました奥さん。わたし達を弱小チームですってよ」
「あらあらあら、イケ好かないどっかの誰かさん達を思い出しますわね。クッソムカツク!」
「ブーゲンビレアと同じこと言ってるさー」
「ほう」
Dr.ドリームは"ブーゲンビレア"という単語に反応を示す。
「ブーゲンビレアに手酷くやられたか? それならば尚更、妾には敵わんぞ」
「やってみないと、わからないよねっ!!」
せせりはバーベナストレートを構えると一気に駆け出した。
ハイビスカスアーマー・イエローサムライ2000GTによる俊足。
それはDr.ドリームとの間合いを一瞬で詰める。
閃いたバーベナストレートの刃はDr.ドリームの右腕で受け止められた。
その腕に纏わり付く魔力の圧。
それはせせりの斬撃をいとも容易く防ぐ。
「ミスレシュカ!」
「スプリームトリスメギストス!」
そこを狙って放たれたしじみの幻想弾。
だがそれも、従我が壁となり阻んだ。
「やったるさー!!」
だが最初の2撃はあくまでフェイク。
本命は拳を固めたたてはの一撃!
その右腕はイルゼを纏い巨大になる。
そして轟音。
豪快な一撃は確かにDr.ドリームを捉えた――はずだった。
「まだ甘いな。戦うというのなら殺す気で来い!」
瞬間迸る魔力。
雷撃のような明滅を繰り返す魔力はハイビスカス少女隊を吹き飛ばした。
「時間が惜しい。ゆくぞ」
地面に伏せるハイビスカス少女隊には目もくれずDr.ドリームは従我に撤退の指示を出す。
「待ちなさい」
そこに響いた声。
それはハイビスカス少女隊の3人にとっては聞きたくもない声だ。
つまり――
「ブーゲンビレアか」
「久しぶりね、"ユメ"」
「"サキ"。未だにその名で呼ぶか」
Dr.クリームとクヴェスタが睨み合う。
2人の間にあるのはただならぬ気配。
そう、それは因縁の気配だ。
「クヴェスタ、言葉をかわす必要ない。倒そう」
「だぁね。しっかりこの手で決着をつけないと」
スヴァティニェとシラーチュカもいつもにも増して喧嘩腰。
それはこの4人の関係にあった。
元々、この4人は同じ小学校に通う親友同士だったのだ。
朗らかで人付き合いのいいクヴェスタこと東恩納サキ。
物静かだがどこか毒のあるスヴァティニェこと山城セイカ。
快活で高い身体能力を誇るシラーチュカこと高江洲ハルカ。
そして、引っ込み思案で人見知り気味な玉城ゆめ。
4人とも異能力を持つことから非常に仲が良かったのだが、今ではスーパーヒロインとスーパーヴィラネスという立場になってしまった。
「ふん、分かっておろう? 同じ異能力者であろうとその力には差が出る。貴様らでは妾には勝てん!」
実際、Dr.クリームの力は凄まじかった。
その能力は神秘。
今ではおとぎ話の域となってしまった魔導を纏い、行使できる才能。
そしてそれはイタズラ3人娘などの下級聖霊種であれば十分に並び立てる程の力を持っていた。
そして現代においてその神秘というのは強固な防御力を持つ。
「ですが、わたし達だって幻想を持っています」
「イルゼがあれば神秘にも干渉できる」
「シラーチュカ達はお前を倒すためにこの力を研ぎ澄まさせて来たんだッ!」
「ルースト!」
クヴェスタがかかとを鳴らすと地面が歪み、生命を宿す。
コンクリート製の蔦がうなりを上げてDr.ドリームを取り囲んだ。
「ストジェット」
スヴァティニェの障壁が弾け、シラーチュカを弾き飛ばす。
「攻撃!!」
その身体を硬化させ、強化したシラーチュカによる砲弾のような一撃。
ブーゲンビレアお決まりのコンビネーションアタックだ。
「だが甘いっ!」
しかし自信満々に「妾には勝てん」と言っただけはある。
「ズピーヴェイ、ズピーヴェイ、ズピーヴェイコネツ」
低く響いたその声に釣られ、Dr.ドリームの魔力が隆起する。
そして力の奔流に変わりシラーチュカを弾き飛ばした。
それだけではない。
『ズピーヴェイズピーヴェイズピーヴェイコネツ』
詠唱が奇妙に反響する。
いや、違う。
それはDr.ドリームが操る従我から紡がれた声。
従我から従我へどんどんと広がっていく輪唱に伴い、Dr.ドリームの魔力も増幅していった。
その輪唱は破壊の力を齎す強大な魔力へ変化し、そして、弾ける。
「きゃっ!?」
「……聖域、展開っ」
「まっずい!!」
スヴァティニェが障壁を張り踏ん張るがDr.ドリームの魔力は強力。
「従我にはあんな使い方もあった!?」
「魔力の増幅器……今までの比じゃない」
「伊達に天才児と言われてたワケじゃないってぇ?」
「滅べ」
Dr.ドリームの最後の一押し。
その一撃で強固なはずのスヴァティニェの障壁も決壊。
ブーゲンビレアは倒れた。
「我が才智。侮ったな。それと――隙を突くつもりなら諦めるがよい」
それはDr.ドリームの背後で隙を伺っていたハイビスカス少女隊に向けられたものだった。
ブーゲンビレアとDr.ドリームが戦っている間、態勢を立て直したハイビスカス少女隊は捕縛されているイタズラ3人娘を助けようと近づいていたのだ。
「いやいやまさかー。そんなおこがましい事しようとしてますよーっと、バーベナストレート!!!」
せせりが放った一撃はファレシュナーの1体を機能停止させる。
「容易く打ち倒されておきながらまだ反抗する気力があるなど」
「めげないしょげない諦めない! それがミスレシュカ達のとりえでねっ!!」
しじみは口元に笑みを浮かべながら幻想杖スプリームトリスメギストスから幻想弾を射出した。
「ベジェトルカ!! 頼むぞ!!」
「えー、お前らぶっ潰す!!」
しじみの放った幻想弾を回避したファレシュナーだったがそれはしじみの狙い通り。
一纏まりになったファレシュナーを、巨大化したたてはの両腕が圧縮し叩き潰す。
「一網打尽! けっこー数が減ったね」
「どうだ。とっととその3人を放してやるんだな!」
「ふん。其れらはヴィラネスだろう。貴様らの敵――何故取り戻したい?」
「敵は敵でもライバルだばーよ! お前みたいな意味ワカランたーに連れていかせるつもりはないわけさ!!」
「ってことで、突貫!!」
「ふん」
せせりの号令で突撃するハイビスカス少女隊。
それをDr.ドリームは鼻で笑うと左手を掲げた。
瞬間、中空からファレシュナーが降り立ち、ハイビスカス少女隊の進行を防ぐ。
「なっ、また増えた!?」
「チッ、仲間を呼ぶタイプのヤツか!」
「全部たっぴらかせば関係ないさー!!」
「たわけ。ズピーヴェイ、ズピーヴェイ、ズピーヴェイネシュチェスチー」
『ズピーヴェイズピーヴェイズピーヴェイネシュチェスチー』
口ずさんだDr.クリームの言葉をファレシュナーが復唱した。
その広がりと共にDr.クリームの魔力の波紋が大きく、強力になっていく。
そして衝撃。
「くっ、まだまだ! 何度も負けてはいられないよ!! わたし達は無敵のハイビスカス少女隊だからね!」
「幻想弾を勢いよく炸裂させれば擬似的なバリアが張れる。計算通りだな」
「わーにはよくわからんけど、ガムシャラに戦えばいける気がするさー!」
「この感覚……イルゼが高まっている。成る程……思いの外厄介かもしれんな」
Dr.ドリームは呟くと指を鳴らした。
合図を受けたファレシュナーは宙に浮き上がり加速を付けるとハイビスカス少女隊の3人にそれぞれ組みつく。
そして、
「爆ぜよ」
ファレシュナーは自爆した。
轟く爆音、巻き上がる爆炎。
それは当然ただの爆発ではなく、魔力を帯びている。
「くっ……自爆攻撃とかマヂかよ」
「あがひゃー! しに厄介!!」
その一撃は言うまでもなく強烈。
鋭いダメージがハイビスカス少女隊3人の身体を襲った。
「でも、まだ立てるよね!? 絶対に、諦めたりしないんだから!」
勇気と決意を絞り出すようなせせりの声にしじみとたてははうなずく。
「いくよっ。レディーアクション!!」
「援護するぞ。ビート・スパイラル・ビート!!」
「むるたっぴらかす!!! 両腕520%さー!!!」
「ファレシュナー!!」
Dr.ドリームはファレシュナーを迎撃に向かわせるが3人の連携攻撃で一気に撃破された。
「くぅっ、何度も何度も!! しつこい奴らめ!!」
吹き飛ばしても吹き飛ばしても立ち上がってくるハイビスカス少女隊。
それもその度にDr.ドリームの攻撃に対応してくる。
「何故そんなに食らいつく!?」
「もちろん、大切な人を助けるためだよ!」
「友達――って言ったらヘンだが得体のしれないヤツに渡せるような存在じゃないってことだ」
「だからよー! 置いていくなら赦してやってもいいばーよ」
「戯れ言を!!」
「グレートバーベナを使うよ!」
「ならコッチだってザーブレスコヴィー・グラナートを!」
「わーも520%するばーよ!」
「ベジェトルカってそれ以外の技名ないのか!?」
「気合入ればいいばーよ!」
「いい加減に――」
その時Dr.クリームは奇妙な違和感を覚える。
身体が――動かない。
足元に目を向ける。
地面から生えたアスファルト製の蔦が自身の足に絡みついていた。
「東恩納サキ!!」
「癪ですが……ここはハイビスカス少女隊を、利用させてもらうわッ!!」
そして爆音。
「貴様ら……ッ。この雪辱は何れ返してやるぞ!! フォウカー!」
強烈な一撃を食らいこの場を不利と見たDr.ドリームは強烈な豪風を巻き起こす。
その衝撃に乗じ姿を消したのだった。
「これがハイビスカス少女隊の力だ!!」
クヴェスタの影なる力添えがあったことも知らず勝ち誇る3人。
だが確かにハイビスカス少女隊が食らいついていってなければ得られなかったであろう勝利だった。
平穏を取り戻したショッピングモールの影、1人の少女がその戦いを目にしていた。
「ハイビスカス少女隊、そしてブーゲンビレア――あんな低俗なスーパーヒロインが幅を利かせているだなんて……っ」
その言葉に宿るのは怒りと失望。
「わたくしに、わたくしに異能力さえあればもっと最高のスーパーヒロインができるはずですのにッ!!」
そう拳を固める少女――佐久間かおりはただ何もできない無力感を人知れず感じていたのだった。




