第11話:目指せ夢の即売会
「ブーゲンビレアの更に上を行くとしたらどうしたらいいと思う!?」
以前ブーゲンビレアと戦い敗北を喫したハイビスカス少女隊。
その事実にせせりは気が立っていた。
「着実にヒロイン活動をして力をつけていくしかないだろう」
「特訓するさー!!」
「それもそうだけど、もっと楽に上に行く方法があるでしょ!」
「楽に……?」
「アニメ化しよう!」
「「…………?」」
何言ってんだコイツといった表情でみつめてくるしじみとたてはにせせりは黒板を強く叩く。
「ブーゲンビレアはマンガ化してるんだよね!?」
「そうだな」
「ならその上に行くなら――そう、先にわたし達がアニメ化しちゃえばいいんだよ!!」
「だある! せせりーかしこいさー!!」
「でしょ?」
歓声を上げるたてはにドヤ顔のせせり。
それに対してしじみは「はぁ」とため息を吐いた。
「そう簡単に言うけどさ、普通は順調に人気を出したスーパーヒロインが辿り着くのがアニメ化だぞ。そもそも認知度なんてほぼないしじみ達がどうやってアニメになれると思うんだ?」
「そりゃもう上の人に頼みに行くしかないよね。今わたし達をアニメ化させないとライバルの負けるぞぉーそれでいいのかぁー? ってさ」
「脅しか?」
「そもそも上ってどこだばー?」
「それはもちろん市役所でしょ! 市役所行くよ!!」
「追い返された……」
「そりゃそうだ。やっぱり地道にコツコツやるしかないってことだ」
「基礎練は大事というわけさ」
「でも何すればいいのぉ……」
「同人誌を作ろうぜ」
「同人誌? なんで?」
「ブーゲンビレアが言ってただろ。"同人誌すら出てない弱小"って」
前回の戦い。
確かにブーゲンビレアのリーダーであるクヴェスタはそのようなことを口にしていた。
そしてクヴェスタがそういうことを口にする理由もある。
「いいか、今この大スーパーヒロイン時代の現代においてそれぞれのスーパーヒロインの人気度の指標ってなんだと思う?」
「"このスーパーヒロインがすごい"でしょ」
「お店で見たことあるばーよ!」
「コミックの発行部数に決まってるだろうが!!」
そう。
この現代、各地で活躍するスーパーヒロインの活躍を元にしたコミックが発行されることがある。
当然、ミス・ファイアやマミンカ・マリンカも例外ではない。
「それに今時、同人誌の力も侮れない。まずは自分たちで描いて出して、そこからじわじわと人気を根強いものにしようじゃないか!」
「自分で出すのってありだば?」
「例えばマミンカ・マリンカは自筆のエッセイ漫画を描いている。それにハイビスカス少女隊の正体がしじみ達だとは知られていない。つまり、描いてしまえばこっちのもんってことだ!」
「それで、誰か絵を描けるの? せせりは全然だよ」
「たてはもさー」
「任せろ。まだ練習中だがこの中ならマシな方だろう」
ということでハイビスカス少女隊の同人誌作りがスタートしたのだった。
「マンガを描くにあたってまず必要なのはストーリーだ! どんな話にする?」
「いつも通りイタズラ3人娘が出てきて倒すって話がいいんじゃないの?」
「今までの戦いを参考にするばーよ!」
「たてはちゃんにしては良い意見だね!」
「だな。基本としてはイタズラ3人娘が事件を起こす。そこにハイビスカス少女隊が駆けつけて倒すってところか」
そんな話をしながらしじみはタブレットを操作しはじめた。
そこには今までハイビスカス少女隊の出撃した事件の内容が記されている。
モモヤマ第2公園でのはじめての戦闘から無灯ライダー、ネトピールなどといったイタズラ3人娘以外のヴィラネスとの戦いもきちんとそこに記録されていた。
「今までの戦いでなんか派手なのあったっけか?」
「やっぱり、氷人の大量製造とか、市営運動公園でロボットとか、こいのぼりが竜になるのは派手だったねぇ」
330沿いで起こった氷人と呼ばれる謎のモンスターを大量製造し人々を凍えさせようとした事件、市営運動公園でロボットのおもちゃで遊んでいたら暴走して手が付けられなくなった事件、そして鯉のぼりが竜になってしまう事件。
その3つは人々への被害も多少ながらあり、確かにこの3人が関わった事件の中では一番派手だと言えた。
「組み合わせるならその辺りってことだな」
「組み合わせるばー?」
「当たり前だ。同人誌なんだしちょっと盛らないとな」
「せせりもそれは賛成だよ。いつも大活躍してるにしても、フィクションの中では更に大活躍させないと!」
「決まりだな! で、どのエピソードからどういう要素を取るかだが……」
「竜は欲しいさー!!!!」
「だよね! やっぱり派手って言ったらドラゴンだもんね!!」
「ドラゴンクエストさー!!」
「イタズラ3人娘が竜を召喚する。それをハイビスカス少女隊が倒す。それが大まかなストーリーだな!」
そういいながら、しじみは黒板に「ハイビスカス少女隊」「ドラゴンを倒す」などと書いていく。
「それで次だ。マンガは一つ一つ手順を踏んでいくことで完成する。まず何をすればいいかわかるか?」
「マンガを描くー!」
「腹ごしらえさー!」
「気が早い! まずはネームだろうが!」
「ネーム?」
「マイネーミーズペン!」
「私の名前はペンです……?」
「違う! ネームっていうのはいわゆるマンガの設計図って言われるやつだ。どんな構図のどんな絵をどんな風にページに配置、コマ割りするかってやつだ」
「ってことは完成した時のイメージを一先ずメモるってことだよね? ならそのまま描いちゃってもいいじゃん」
「それで足りないところや多すぎるところがあったら描き直すのが大変だろうが。それにイメージを固める意味合いもあるんだろ」
「ふーん、マンガとか描いた事ないからわからなかったよ」
「だからよー。しじみーはよく描くばー?」
「…………」
「しじみちゃん?」
「マ、マンガは初めてだが――イラスト描ければ……なんとかなるだろう!」
「なんか不安を覚えたさー」
「たてはちゃんに言われたらオシマイだよ」
「えーいうるさい! そこから下書きにペン入れ、そしてトーンなりベタなりで整えて完成だ!」
「それで完成したのはどうするの? 売る?」
「だな。スーパーヒロイン作品の同人誌即売会があるはずだし売ろう!」
「なんだかワクワクしてくるね!」
「だからよー!!」
まだネームに一切手を付けてもいないが、3人の想像――いや、妄想が膨らみテンションが上がっていく。
「イベントに参加するにしても何部くらい刷るかは悩むけどなぁ。はじめてだし……50くらい?」
「ここはでっかく100くらい行こうよ!」
「どうせなら500くらいにするばーよ!!」
そう盛り上がってきたその時、急に待機部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
「あなた達はなめています!!!!」
そこに立っていたのは金髪の見知らぬ女子生徒。
「…………だれ?」
一瞬の沈黙の中、せせりがそう口にする。
「ひぁっ、すみません! 私、つい……」
口元を抑えて慌てふためくその少女に、しじみは見覚えがあった。
「3組の竹内すずめとか言ったっけ?」
「はい。1年3組竹内すずめです!」
「なんでまたこんな場所に……」
ハイビスカス少女隊の待機部屋はその性質上、校舎内ではあるがやや奥まったところに存在する。
確かに秘密のスペースとかではないので一般生徒でも来ることは可能なのだが……。
「私、方向オンチで……迷ってたらなんか同人誌がなんとかとかイベントに参加とか聞こえてきてつい」
「もしかしてすずめちゃん、そういうの詳しいの?」
「えっ!? いや、えっと、同人誌を作ったことは……ないんですけど」
「買う方か」
「うっ」
ズバリなしじみの言葉にすずめは肩を震わせた。
恐らく、普段はそういう趣味があることを隠しているタイプなんだろう。
「気にすんな。ここにいるのは全員オタクみたいなもんだ」
「あっ、だってサブカル研究会ですもんね。そういう部活があるなんて知りませんでしたけど」
「サブカル研究会……? いや、別にこの集まりは部活とかそういうのじゃねーけど……」
「でも表にそう書いてましたよ?」
「は?」
しじみはいったん教室の外に出た。
見上げると、教室のクラスや室名が書かれているプレートに「サブカルチャー総合研究会」と書かれた紙が貼りつけられているのに気づく。
「誰だコレ貼ったの!?」
せせりが無言で右手を掲げた。
しじみはつかつかとせせりの傍に近寄ると小声で言う。
「何でこんなの貼ってるんだよ」
「なんか部活みたいな雰囲気出したくて……」
「しかもよりによってサブカルうんぬんって」
「この学校オタク少ない気がするから興味を示さないと思って……」
「隠れオタク釣れちゃったじゃん……」
とりあえず、誤解はときつつ丁重にお帰りいただこうということになったのだが……。
「でも、同人誌作るんですよね!?」
「作る……つもり、だけど……」
「私、そういうの興味あります! お手伝いしますよ!」
すずめはすずめで割り切ったのか堂々とそう言い放った。
「ここは一緒に同人誌作るしかないと思うわけさ」
「同人誌を一緒に作るのはまだいい。けど、もし出撃とかあったらどうするんだよ」
「その時はテキトーに理由を付けて出撃するしかないよね……」
「仕方ねーか……」
ということで新たにすずめを加えた4人での同人誌作りは進行していく。
「それで同人誌を描くための画材とかはあるんですか?」
「ふっふっふ。そこはしじみに抜かりないぜ。見よこの文明の利器を!」
「いつも使ってるタブレットじゃん」
「なんと今回そこに、このペンとお絵かきソフトも加えちゃうぞ!」
「最近流行りのタブレットでイラストを描くってやつですねー!」
しじみは準備のいいことに、ハイビスカス少女隊の備品であるタブレットにちゃっかりソフトとペンを追加していた。
「これで描く練習もしていたし、使い方はバッチリよ」
「私にも教えてもらっていいですかー!?」
「もちろん! この同人誌はみんなで完成させたいとしじみは思うわけさ。なら、みんなにも使い方を覚えてもらわないとな」
「楽しみです!」
「なんかしじみちゃんとすずめちゃんで盛り上がってるね……」
「わったーにはついていけんさー」
呆然とするせせりとたてはを差し置いて、同人誌制作はスタートした。
基本的にマンガはしじみが描いていく。
そこにベタやトーンを貼っていくのが他の3人の仕事だった。
それ以外にすずめはしじみと意見を出し合いながら構図やコマ割りについて考えていく。
それは数日をかけて行われ、そしてある日――ついにそれは完成した。
「「「「できたー!!!」」」」
待機部屋に響き渡る歓声。
確かにそれは完成したのだ。
ハイビスカス少女隊初の同人誌、その原稿が!
「これがわたしたちの躍進の第一歩になるんだね!」
「ああ。4人で力を合わせた最初の作品だ!」
「これが大きな一歩になるばーよ!」
「はい! どれだけ未熟でも1つの作品を完済させた。それはすごく価値のあるものです。例え――」
すずめが言葉に詰まる。
「……例え、クソみたいなできの原稿が出来上がったとしても、な」
その場に訪れる沈黙。
それはしじみの言葉を確実に肯定していた。
「どこかイベントに申し込みますか?」
「申し込むかや莫迦」




