第10話:遠く舞う華
『私の歌を聞けぇぇぇえええ!』
朝早くから鳴り響くネジェストの怒号。
オキナワ市ウエチのとある公園で楽器と音響器具を持ち込んだイタズラ3人娘が騒いでいた。
どこから入手したのか巨大なスピーカーから放たれた爆音が周囲の建物を震わせる。
『イカしたメンバーを紹介するわ! ベース、ネスミスル!』
『いぇーい!!!』
『ドラム、プシェジター!』
『ダラララララララ――ダンッ』
『そしてボーカル兼ギターはこの私、ネジェストでお送りしますわ! それでは一曲目! 6月だからロック!』
そして放たれるのは不協和音。
ボーカルの技術はともかくとして、そもそも曲どころか単調なリズムにさえもなっていないやたら高低差のある謎の楽曲。
そこに子どもに弾かせたほうがマシとまで言える雑音でしかない楽器音が重なり合う。
それはもう一種の殺人音波の域にまで昇格されていた。
こんな阿鼻叫喚の地獄に3つの光が差し込む。
「「「ハイビスカス少女隊、レディー・ゴー!!!」」」
『来たわねハイビスカス少女隊!!!』
キィンとマイクがハウリングし、ハイビスカス少女隊の耳をつんざいた。
「もー、せっかくライカムでマンガ買ったとこだったのにこんなことしてー!」
そういうせせりの手には一冊のコミックが収まっている。
近所にあるイオンの書店でコミックを入手したせせりだったが、読もうとしていた時に召集がかかりあわてて出撃したのだ。
「本当だな! コッチだってもう少しで戦艦サーキットクリアできそうだってのに!」
しじみもスマホを片手に何やらポチポチやっている。
「ちょっとスピード上げたらすぐ吹っ飛ぶ! しにわじわじぃする!」
『この状況でいったい何をしてるんです!?』
「最近はじめたスマホゲーだけど……運営はクソクソ言われてるけどゲーム自体はわりと無課金にも優しくていいんだぜ?」
「誰も聞いてないよ……」
「まぁ、××◯◯のゲームだしな」
「××◯◯はわたしにとっても敵だけど、そういう……」
『××◯◯がクソでして!? あの××××と◯◯◯が合わさり最強に見える××××◯◯◯がそんなわけないですよね!?』
「ネジェストが食いつくばー?」
「ネジェストって実はゲーム好き? 最近の××◯◯のゲームしたことある?」
『…………まぁ、ない、ですけど』
「クソってかやらかしてることもあるから不信感がなぁ……」
『そうですの……』
謎のしんみり感が辺りを漂う。
「戦おっか」
そんな中響いたせせりの声でやっと臨戦態勢へと入った。
ハイビスカス少女隊とイタズラ3人娘がぶつかり合おうとする瞬間、地面の一部がグニャリと歪み、鋭い木のようなモノが生えてきた。
「なんなのっ!?」
「なんですの!?」
見た目こそ木のようだが、その表面は石を削ったようにざらざらで地面が変質したものだった。
もちろんそれはハイビスカス少女隊の攻撃ではなく、そしてイタズラ3人娘の魔術でもない。
つまりは――第三者の介入!
「お初にお目にかかれます。わたしはクヴェスタ」
「シラーチュカ!」
「スヴァティニェ」
「「「3人合わせてブーゲンビレア!」」」
「華麗な踊りをご覧あれ」
突如現れたのは3人組のスーパーヒロインチーム。
「ブーゲンビレアだって!?」
「知っているのミスレシュカ!?」
「今年4月から活動しているナハ市を拠点にした3人組のスーパーヒロインチームだ」
「4月って――」
「ベジェトルカ達と同いさー!」
そう、ブーゲンビレアはハイビスカス少女隊とは同期のスーパーヒロインチームとなる。
それだけではなく全員中学1年生であり、学年までも全く一緒だった。
「とは言え向こうはすごいぞ……有名ヒロイン事務所の所属でデビュー時から大々的に売り出されている。つい先日コミックも発売されてすごい売り上げだとか……」
「その通り」
「コミック!? そんなの買う人、どうかしてるね!」
「とは言いつつ、あなたの持っている本はブーゲンビレアのコミックじゃあなくて?」
せせりは手に持っていたコミックに目を向けた。
その表紙にはブーゲンビレア:スーパーヒロインズとタイトルが書かれ、3人を模したキャラクターの姿があった。
「くっ、書店員め。騙したな!」
「騙してはないだろうけど……」
「ふふ。では、見ていなさいハイビスカス少女隊。未来に咲き誇るブーゲンビレアの美しさを!」
リーダーであるクヴェスタはふわりと柔らかいお辞儀をすると、トン、とかかとを鳴らした。
瞬間、クヴェスタの足元から木の根のようなものが膨れ上がり、イタズラ3人娘に向かって伸びる。
「クヴェスタ……繁栄の異能力を持つブーゲンビレアの司令塔」
「繁栄って増えるばー?」
「違う。物を植物のように変質させる能力だ」
それがどういうものなのかご覧いただこう。
クヴェスタの足元から伸びた木の根っこのようなもの――それはこの公園に敷き詰められたタイルが植物のような形に変化したものだった。
そしてそれは見た目だけではない。
「ルースト!」
クヴェスタがその力を強めると、石製の木は"成長"していった。
枝が伸び、葉が生え――そして開花する。
伸びた細い枝々がイタズラ3人娘を取り囲んた。
「プシェジター!」
「木々を吹き飛ばす……自然の、猛威」
プシェジターは両手に扇を掲げ、思いっ切り振り切る。
瞬間、魔力の奔流が強力な嵐になった。
風は木の葉を吹き飛ばし、枝を折る。
「ネスミスル」
「かっ飛ばすよ!!!」
舞い散る石木の破片を目くらましにネスミスルが一気に駆け出した。
両脚の装甲棘が振動し、鋭さが増す。
強烈なその足蹴りを褐色のヒロイン、シラーチュカが受け止めた。
「シラーチュカ。怪力の異能力を持つ正統派のパワーヒロインだな。パワーだけじゃなく身体が鋼鉄のようになるとか」
「くっ、かったい!」
「援護しますわ!」
ネジェストは刃を振りかざすが、その時ブーゲンビレアの中で一番小さなヒロイン、スヴァティニェが右手を掲げる。
「きゃっ」
瞬間、ネジェストの身体が衝撃で吹き飛んだ。
「スヴァティニェ――その名前の通り聖域を周囲に展開する。つまりはバリア能力だな」
弾き飛ばされたネジェストはネスミスルとプシェジターを巻き込み地面にたたきつける。
「イタズラ3人娘にダメージが通ってる……ブーゲンビレアも幻想持ちか」
「わたし達と同じなんだね」
「だからよー」
それでも1人も異能力者がいないハイビスカス少女隊に対してブーゲンビレアは3人とも異能力者。
そういう意味ではスーパーヒロインとしての素質は差があった。
「それではこれにて」
クヴェスタの力が膨れ上がる。
石木は今度は姿を変え、強烈なしなりのある蔦のような姿へと変貌した。
そのしなりを利用した鞭のような一撃。
とは言え、その極太の鞭による打撃は強烈な鈍器による一撃と何ら変わらない。
地面を揺らし、激しい音を鳴り響かせた一撃はイタズラ3人娘を叩き潰した。
「あら、まだ"生きていますの"?」
さすがはイタズラ3人娘。
普通の人間であれば当然死んでいるような一撃でも無事だった。
とは言え、見るからにダメージは大きいようだが。
「さっさとトドメをさそう」
「心苦しいけど仕方ないね。悪は滅ぼす。それがワッターの使命!」
「そうね。デーモンを滅ぼせるのは限られた者だけ。その力を持ったからにはその使命がある」
クヴェスタのどこか説明口調のような言い分はおそらくハイビスカス少女隊への当てつけだろう。
そしてそれをハイビスカス少女隊の3人も気づいていた。
イタズラ3人娘に"トドメの一撃"を放とうとしていることも。
「消えなさい。悪霊共」
瞬間、せせりが、しじみが、たてはが何の示し合わせもなく一斉に動いた。
「バーベナストレート!」
「スプリームトリスメギストス!」
「両腕520%さー!!」
再度叩きつけられたクヴェスタの放った蔦の鞭をハイビスカス少女隊の3人が受け止める。
「ぐっ……重いっ」
「負けるな、ハイビスカス少女隊の力を見せてやるぞ!」
「だからよ! 全力全開で受け止めるさー!!」
「ヴィラネスをかばうのですか?」
まさかヴィラネスに加勢するとは思ってなかったクヴェスタが驚きの声を上げた。
表情を見るにシラーチュカとスヴァティニェも驚いているのがわかる。
「かばうよ! さすがに殺人は見逃せないよ!」
「殺人? 彼女たちは人ではありません。排除すべき敵です」
「人じゃあなくたって意思疎通できる相手だろ。殺す以外に手はあるはずだ!」
「それで何か変わったかな? 更生もしない、人のように収容もできない、ただ害を及ぼす現象のような相手にさ」
「そもそもそんな悪いことしてないばーよ! ちょっとまさいだけさー!」
「それでいつかどうしようもない被害が出た時にそう言い訳する?」
「そういうことがあるかどうかなんてわからないじゃん!!」
「その通り。だからこそ今の内に芽を摘むべきなの。あの3人が悪意から生まれた存在である以上何が起きないとも限らないものね」
「あの3人なら大丈夫だもん! ちょっと困ったことするけど悪い子たちじゃないのはよくわかってるから!!」
「ヴィラネスを信頼するなんて――愚かよ!」
ブーゲンビレアの意識が完全にハイビスカス少女隊へ向かったことをしじみは察知した。
「ここは何とかしてやるからお前ら逃げろ」
「何を言ってまして!?」
「いいから!」
「くっ、今回はお言葉に甘えさせていただくわ!」
「仕方ないね……ちょっとダメージが、大きすぎるし」
「感謝……」
その場から逃走を始めるイタズラ3人娘。
だが――
「逃がさないさ!」
「逃走は許さない」
シラーチュカとスヴァティニェがそれに気付いた。
スヴァティニェの張ったバリアの反発力を利用し、シラーチュカが一気に飛翔、加速する。
「ベジェトルカ!」
「わかってるばーよ!」
せせりの咄嗟の指示をすぐさまたてはが了承。
そしてその全イルゼを両腕に注ぎ込む。
ベジェトルカの両腕のアーマーが一気に巨大化しクヴェスタの攻撃を押し返した。
その隙にせせりはその瞬発力を活かし、一気にシラーチュカの正面に立つ。
「ツィーチュカ、援護するぞ!」
さらにしじみは攻撃支援機オストを分離させるとせせりの支援に向かわせた。
「くぅっ、ひらひらと厄介だよねっ」
「邪魔をするのは得意だからねっ」
支援にきたオストの動きもあり、素早く動き回るせせりの動きにシラーチュカは翻弄されている。
「全く――ルースト!!」
そこに伸びたクヴェスタの操る木々。
せせりの速度を殺し、そしてイタズラ3人娘を捕縛するためだ。
「絶対に、させないから!!」
せせりのイルゼが高まる。
その力はバーベナストレートに伝わり、せせりの意志を力にするようにその姿を変化させた。
姿自体は変わらない――だが、その大きさは巨大になる。
「いっけぇ、グレートバーベナ!!」
巨大な横なぎの一振りはクヴェスタの木々をなぎ倒し切り倒した。
そしてその隙にイタズラ3人娘はその姿を消した。
「逃がした――なんてことを……」
「これで戦う理由はないよね」
「だな。まさか理由もなしにスーパーヒロイン同士で戦う、なんてことはないよな」
「ヴィラネスをかばうスーパーヒロインなんてスーパーヒロインじゃないね。それで十分理由になると思うんだけどねぇ」
「その通り。クヴェスタ、戦うなら指示を」
「あいえなー。やる気マンマンさー」
たてはの言う通りシラーチュカとスヴァティニェは戦うつもりらしいが、クヴェスタは呆れたように首を横に振った。
「まぁ、いいわ。こんな同人誌すら出てない弱小ヒロインチームに構うだけ無駄だったってこと。シラーチュカ、スヴァティニェ、帰りましょう」
「あ、帰っちゃう? それもいいか」
「クヴェスタがそういうなら」
「むっ、なんか弱小とか言われたら戦いたくなっちゃうね」
「あら、やるというのなら相手をするわよ。こんな無名のチーム、倒したところで何の得にもならないけれどね」
「コミックの売り上げがいいからって調子のるなよ!」
「だからよー! 人気とかよくわからないけどここでの主役はハイビスカス少女隊さー! なら、負けるわけないばーよ!」
「うん、ベジェトルカ良いこと言ったね!」
「ああ。見せてやろうぜ。ハイビスカス少女隊の力をな!!」
武器を構え、一気に飛び出すハイビスカス少女隊の3人。
そして次の瞬間には地面に伏せるハイビスカス少女隊の姿があった。
「時間を無駄にしたわ。帰りましょう」
その場を立ち去るブーゲンビレアの3人の背を、ハイビスカス少女隊はただ拳を握りしめて見送ることしかできなかった。




