葛藤
短編小説です
夜になると、母は何度も壁に頭をぶつけた。
ベッドの上で、世の全てに絶望したように、悲哀に満ちまくった顔から涙を流す。
俺は初めの内、どうすればいいのか分からなかった。だけど、取り敢えず優しい言葉をかけてやっていた。
「大丈夫だよ」
「母さんはなにも悪くないよ」
「俺は味方だよ」
そんな言葉を30分ほど並び終えたら、母は安心したように眠りにつく。
毎晩、毎晩遅くまでそんなことを続け、時には日付が変わることもあった。
でも、眠った母を横目に見て俺は安心した。それに、開放感も。
そんな生活は2週間も続いた。
それでも母は変わらず、壁に頭をぶつけ続ける。はじめの頃よりも強く。
人間は、何度も何度も同じことを繰り返すと、流石に慣れてくるもので。
俺はその頃から、毎晩家中に響く、母の壁を打つ『どん、どん』と言う音に慣れ始める。
だから、もう構わずに放っておいた。
すると、不思議なことに母の壁を打つ頭の音は、小さくなっていく。
そして、6日目の朝。
俺がシャワーを浴びに風呂に行くと、母は右手首を切って死んでいた。
俺は驚いたり、悲鳴をあげたりはしなかった。
かわりに、酷い開放感に満ちていた。
読んでくださり、ありがとうございます!
小説は書くのが初めてですが、少しでもおもしろいと思っていただければ幸いです。