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改編版シリーズ

遺言(改)

作者: 尚文産商堂
掲載日:2009/02/28

俺は、ビルの屋上にいる。

周りは、誰もいない。

時が、俺の体を包み込んでいる。

ほかには、何も無い。

覗き込めばたちまち連れ去られるような高いビルの屋上。

見上げれば、無限の(そら)がある。

俺が信じていたものは、ただ、俺を裏切ることしかしなかった。

俺自身、それを信じていた。

だが、明らかに裏切り行為を続けた跡、俺は信用しなくなった。

だから、そいつに対して、俺は今までしてこなかったこと、おれ自身の主張をするために、この場所にいる。


徐々に人が集まり始めた。

下を見れば、ごみのような人が集まっているのがわかる。

宙に目を向ければ、天使と悪魔がこちらに微笑んでいる。

後ろからは、警官が何かを叫んでいる。

俺は、一言だけ伝えた。

「名前など、とうに捨てた」

聞こえたかはわからない。

明らかに異質な空気が、俺の周りを取り囲んでいる。

「後は、野となれ山となれ、さ」

俺は、続けた。


無限の宙からは、天使と悪魔がこちらを見ている。

そこだけが、俺を裏切らない唯一の場所と信じている。

常に裏切り続けられた俺が、本当に行くべき唯一の地点。

そうだと信じている。


下を見ると、徐々に人は増えている。

「俺たちは、本当に幸せと言えるのか?」

俺は、自問した。


人たちは、どこかへ流れていく事が無いように、この場に滞留し続けていた。

幸せかどうかなんて、誰にもわからない。

おれ自身は不幸せだと思う。

ただそれだけのことだった。


俺は自答する。

「そうではなかった。ただ、おれ自身は不幸せだと信じている」

宙では、天使と悪魔がこちらを見ている。

ただ、じっと見てるだけだった。

何をするわけもなく、ただ、見ている。

俺は、彼らに聞いた。

「君たちは、幸せなのか?」


彼らは、何も答えない。

言葉は、どこかへ流れ去っていく。

後ろから、声が聞こえる。

だが、俺は答えない。

「すべてのものは、捨て去った。これ以上俺には必要ない」


俺は、彼らに聞いた。

「俺は、彼らの元へ向かってもいいのだろうか」

彼らは答えた。

「自らの身に聞け。さすれば、答えは得られる」

俺の心は、すでに死に絶えている。

俺は、何も考えなくなった。


たった一歩。

それですべてが終わる。

俺は、たった一人だけを貫いてる時間に聞いた。

「俺は、俺自身の意思で、時間を止めてもかまわないのだろうか」

時間は、ただ、鼓動と同じ周期で刻み続けるだけだった。

俺は笑った。


たった一歩。

それを踏み出すだけで、時は止まり、また、動き出す。

これまでも、これからも動き続けるであろう時間は、俺の周りにまとわりつく。

「これで、本当にいいのか?」

俺は自問した。


誰も答えない。

あるのは、目の前に広がる無限の宙。

ただ、それだけだ。

ほかには、何も無い。


ゆったりとする時間の周りには、せわしない時間が流れている。

人は、いつからこれほどのことを忘れてしまったのだろうか。

どこで、道を間違えたのだろうか。

すでに、曲がり角を過ぎ、元へは戻ることは、かなり難しいだろう。

だが、今ならきっと間に合う。


俺は、天使と悪魔に聞いた。

「俺は、死ぬべき存在だろうか」

彼らは答えた。

「我らは、その問いの答えを知らぬ。唯一知るべきは、そなたの心なり」

俺は、それを聞くと、少し笑った。

「俺の心、か…」

すでに、心には空虚が支配している。

何も答えない。


俺は、再び聞いた。

「では、彼らは、幸せだろうか」

「幸せとは、そのものにより変わるもの。不変ではない。ただ普遍なのは、すべてのものは幸せと言えるものを持ち合わせていることのみ」

天使が言った。

「幸せとは、そのものにより変わらぬもの。不変である。ただ、普遍ではないのはそのものの心のみ」

悪魔が言った。


俺は、笑い、下を見た。

「この者たちは、幸せなのだろうか…」

誰も答えなかった。

何もいなかった。


世界には、俺一人。

そのような気がする。

だからこそ、俺は自由になる。

精神的にも、肉体的にも、人生的にも、そして、魂的にも。


一歩、足を踏み出した。

俺の体は、ゆっくりと降り始めた。


天使と悪魔は、俺に近づいて聞いた。

「悔いは無いのか?」

「あったら、こんな事しないさ」

俺は笑っていった。


下からは嬌声が聞こえてくる。

ゆっくりと動き出す周りの風景は、俺の道を示している。

天使と悪魔は、ひとつになり、俺と口付けを交わした。

刹那、俺は、俺自身を見ていた。


徐々に早くなる時間。

耳につんざめく悲鳴。

ゆったりとする俺の魂と、すばやく動く俺の体。

精神は破綻をきたし、魂は自身で悲鳴を始める。


いつまでも続いていくこの行動は、どこまで続くかわからない。

天使と悪魔は、相変わらず笑いを止めない。

何を聞いても、何も答えない。

俺は、最後にひとつだけ聞いた。

「人とは、何だ?」

笑いをやめ、言った。

「人を人たらしめるのは、そのものが人と認識することだけ。人と認識しなければ、そのものがいかに人の形をしても、そのものは人ではない」

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