婚約破棄られお嬢様with自称タイムスリップ息子
身に覚えのない罪に問われ、婚約者である王子に追放を言い渡された。その経緯について、多くは語るまい。
本来ならば悲嘆に暮れるべきなのだろうけれど、追放先へ向かう道中、行き倒れの青年をうっかり馬車に乗せてしまったせいで、それどころではなくなった。
「まったく、こんな美人を追放するなんて、あの馬鹿王子どうかしていますね」
「はあ、どうも……」
「ま、そのお陰で母上はこれから父上と出会い、恋に落ちるわけですが」
「へえ、そう……」
「そして2年後、僕がおぎゃあっと誕生するわけでして!」
きっつい。
青年は私の姿を認めると、なぜか自分は未来から来た私の息子だと主張して、行き倒れとは思えないほど元気よく、ゴキゲンな妄想を語りだした。
春の陽気が恨めしい。きっと彼は、頭に花が咲き乱れてしまった類の人なのだろう。馬車の中逃げ場はなく、さりとて助けた人を放り出すわけにもいかず、私は青年の異次元トークに付き合わされる羽目となった。
身分を明かしていないのに、どうして私のことを知っているのかと訊ねたら、「そりゃ母上ですから」とあっさり返された。怖い。
「時空魔法に失敗し、この時代に落ちてしまった時にはどうなることかと思いましたが、こうして母上にお会いできるとはなんたる僥倖。運命もなかなか粋なことをしますね」
「やっぱり人違いじゃないかしら」
「僕が母上を間違えるはずないじゃないですか。お喜び下さい、僕は貴女の息子ですよ」
……うわぁい。
「——それとも、僕が未来の息子であるかどうか疑っていらっしゃる?」
「そうね、疑うよりもう少し手前の段階にいるわ」
「なんてこった……」
青年は端正な顔を悲しげに歪ませながら項垂れた。その横顔を見つめても、時を越えた母子の絆は芽生えてこなかった。
「……確かに、僕を信じられないのも無理はありません。僕はどちらかと言うと父上似。おまけに足が長くてハンサムだ。こんなイカした男が未来の息子だと言われても、びっくりしちゃいますよね」
「貴方の自己評価の高さにびっくりだわ」
「こうなったら父上と確認して頂く以外に方法はないな。さあ、先を急ぎましょう」
「えっ。貴方まさかついて来るつもり?」
「はい。僕、お金ありませんし」
私に集るつもりなの? 助けてもらっておいて、なんて厚かましい。親の顔が見てみたい。
……でも、まあいいか。
どうせこの先、予定などないのだし。
彼と一緒にいれば、少なくとも涙を流す必要はなさそうだ。