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小説家、箕原啓の調査〜因習の村と呪われた夏の記録〜  作者: レブラン


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16話


 次の日、朝早くに俺は一人で診療所にいた。

 どこかが悪いかと云うわけではない。目的は同じ診療所に居る老人達だ。

 ここに来てかれこれ十分と云った所だろうか、予想通り見知った老人達は居た。

 問題は老人達は俺の話を無視するように談話を続ける。

 老い先短いからか、誰もが自分には関係ないといわんばかり。

 流石に困り果てていたその時、老人達は談笑が止まり顔色が変わる。

 誰かが俺の肩に手を置くと、確認するように俺は視線を向けた。

 するとそこに居たのは御堂峰議員であった。


「遅れて申し訳ない箕原くん。君に頼まれていた写真が届いたのでな。確かにこれも彼女が写っていた。君の考えは間違いないだろう。それで話はどうなっているかね?」

「いえ、それが誰も話に応じなくて……」


 診察室から飛び出しこちらに向かってくる人物が、 前に俺が診察を受けたときに担当していた医者だ。


「これはこれは御堂峰先生このような場所へ。この度はどうなされましたか?」

「いえ彼、箕原くんが私に協力を求めにきまして、御堂峰家当主として快く応じたわけですよ。聞いていらっしゃるとはお思いですが、存亡の危機的状況であるが故にこの横小見町、いえ隠岐村に住まわれるご年配の方々にも協力を仰ごうと思ったわけです。が、どうも思い過ごしの用で……」


 さっきまで談笑をしていた老人達はみながみな困惑の色、というか全員が青ざめる表情に変えていた。

「残念ですが、行きましょう」そう云うと、老人達の一人が御堂峰議員のスーツを震える手で掴み「わ、わかりますわかりますからどうか」と懇願するように訴えかけていた。

 なにかしらの圧力をかかっているのだろうか、そんなことを思いながら俺は黙って見ていた。

 その後、俺の質問に素直に答える老人達。

 隠岐村の地図、また現在の横小見町の地図、スマホの地図等を照らし合わせていく。すると当時に雷が落ちたと思われる場所が判明する。


「俺の家?」


 御堂峰議員はまだ処理しないといけない仕事があるらしく、診療所を出ると迎えの車に乗り込み行ってしまう。

 俺は自宅に戻ると、周囲を注意深く警戒するように見回りながら庭を歩く。

 手入れしてないから雑草が伸びまくっていて歩きにくい。

 何か痕跡があるはずだからと御堂峰議員には言われたが、見回しても見回しても草ばかり。塀を上ってみるが周囲は小川と田んぼに巨木が一本生えているがの見えるのみ。


「あそこの巨木も調べてみるか」


 幅二十、高さは三十ぐらい。樹齢は三百歳、いやそれ以上といった所だろうか。

 町のシンボルであるのに、普通なら御神木として口縄くちなわを付けられているだろうがそれもない。

 周囲も怪しい所は一切見受けられず、木も変哲もない。


「箕原さん」


 聞き覚えのある声に、まさか……。そう思い、ゆっくりと振り返り声の人物に顔を向けると俺は硬直した。

 まるで心臓を掴まれる思いがした。

 どうして彼女がここに。

 背中が当たる感触、巨木にでもぶつかったのだろう。

 俺は無意識のうちに後ずさりをしていた。


「無事だったんですね良かったです」

「あ、ああ。杉田(・・)さんこそ……ご無事で」


 あれから数日経っているのに褐色の良い顔色。いつもの笑顔。穏やかな口調。

 今の状況を知ってか知らずか、杉田美穂はいつものように俺に接する。

 俺も杉田美穂を見てると本当にお憑き様かと疑いをかけてしまう。

 しかし、確かめなければならない。


「杉田さん。よく無事でいられましたね。あの車の中で」

「ええ、私が女性と云う事や暗さもあり上手く逃げ果せる事が出来たので」

「この数日間心配でしたよ。今ここにいるという事はどうしてました? 俺や他の人はまだしも杉田さんは仕事の役場の人に連絡しないと心配でしたでしょ」

「あのあと下山する事ができて、職場の人達にも事情を話して信じてもらいましたよ。そのあと同僚の所に匿ってもらいました」

「ということは、俺達が捕まって三日から四日目ぐらいですね」

「ええ、そうなりますね」


 その一言で全身の鳥肌が立つ感覚に陥ると同時に俺の中で疑念は確証へと変わる。

 この杉田美穂は嘘をついている。どうしてか?

 そんなのは明確だ。お憑き様と云われる祟り神であると。


「実は、俺達がいなくなったあと杉田さんの役場に丹波千鶴と御堂峰千奈、彼女達が行ったらしいんです。何故だかわかりますか?」

「私がいるかどうかですね」

「ええ、そこであなたの在職確認もしたそうです。すると杉田美穂という女性は存在しないとありました」

「それは先ほどもいった通り、事情を話して」

「杉田さんが云ったのは俺達が捕まってから三、四日後だと。彼女達は俺達が捕まって七月という月になってから聞いたそうです。それに御堂峰千奈。彼女の親は町長の息子であり議員をやっていまして、確認ぐらいは容易にできるんです。それに調べる程度でなら隠す必要性もない」


 彼女は「それは……」そう言葉を詰まらせ黙る。

 俺は懐から一枚の写真を取り出し、彼女に見せた。


「これは過去隠岐村にて撮られた写真だそうです。ここにあなたが写っている。今よりも昔のであり、ここに来る前に隠岐村の時から住んでいる老人達にもこの写真を見せた所、知ってる人などが多数。当時と変わらない容姿との事」

「他人の空似じゃ」

「俺もそうと思いました。だけど、図書館や丹波家に残っていた資料には憑神は人間と瓜二つの容姿。対象となる人物にだけ近づく者」

「仮に私が疑われたとしても、他にもいるんじゃないですか? 千鶴さんなんて箕原さんとよく一緒にいるじゃないですか」

「確かに千鶴は俺と一緒にいる事は多いです。が、彼女は違います。過去に起きた事をあなたは自ら証明したはずです」


 俺は二枚の別写真を取り出すと見せつけた。

 写るは子供の頃の千鶴の姿と若くも神主の文彦さんの姿。

 前に新聞を調べていたときに見つけた記事の写真。

 御堂峰議員に頼み、当時撮っていた新聞会社に問い合わせ。至急当時の写真を送ってもらったのだ。


「これは十年前の新聞記事で千鶴が文彦さんとともに当時あった祭事。千鶴は今と変わらないなら姿も同じはず。だけど、これに映っているのは幼い千鶴の姿。しかし、もう一つのほうが問題」


 一枚目の見物客を拡大したもの。

 その中に写っていたのは杉田美穂の姿。

 十年前と変わらぬ容姿。


「あなたは今の姿のまま何故いるのか。そもそも、丹波家当主の神職である文彦さんが年々力が衰えていると自覚するほどに。それはなぜか? 一番削ぎたい人物じゃないかと。だけど文彦さんは隠岐村の神職であるが故に、お憑き様という存在を繋ぎとめる必要がある。そしてなぜ毎年こんなことをするのか? それは」

「それは人間をからかうのが楽しいから。当時この地に降り立ってから今現在まで人間のやる事なす事は変わってない。私が気に入った物を散々潰して我慢してやったのに、今回も同じような事をしたから」


 何かが乗り移ったかのように豹変し、口調さえも変わる。

 すぐさま理解した、これがお憑き様と云われる存在であると。

 

「それでどうして俺の前に?」

「あなたは調べていたのなら理解しているでしょ」

「……俺を殺すのか?」

「いいえ、あなたは最後。どうやら私はあなたを気に入って興味あるようなの」

「お気に入り?」

「元々ここに住んでいる人達は多少なりとも私の影響を何らかの形で受けていたの。それが如実に現れるか現れないかは別。あなたとてここに移住してきたときはそこまで影響はなかった。しかし住んでいる場所だからかもしれないけど、何故かあなたと千鶴ちゃんの二人は急激に育ち始めたというわけ。千鶴ちゃんは長く住んでいるからわかるとして、あなたはそうじゃないでしょ? 多分だけど、この場所はその影響が強いからなんじゃないかなと思ってるわけ」

「なら俺が今こうしてお憑き様であるあんたに強い影響があるとして、どうして殺す事にするんだ?」

「特に理由はないかな。けどしいて云えば周囲の人間を順次殺していくことで絶望する顔が見たいし」

「それならあんたが思ってる最悪な結果を先にするまで」

「へえ自殺でもするの?」

「最悪それも持さない考える必要があるな。このまま残ってても遅かれ早かれ殺されるならあんたに殺される前に先に死んだほうがいわなって」

「それがあなたが思ってる最悪な結果というなら見当違い」

「そうかな? あんたは俺を気に入ってると。他にもさっき、俺の事を殺すのは最後と云った。ということは、俺の行動次第であんたにとって面白くもありつまらなくなる結果にも繋がるわけだ。これまで何百年かは知らないが、久々の生贄である俺がまだこうして生かしている事に対して楽しみにしているわけだし」


 杉田美穂は俺の顔をじっと見つめながら何かを考えるように沈黙している。

 遠くでは祭りの練習をしているからか太鼓たいこの叩く音が耳に聞こえる。

 ドンドンと鳴り響く音がまるで時間制限の時計の音のように感じた。

 沈黙の果てに杉田美穂は俺に近づくと喉元を掴み殺しにかかってきた。

 俺は彼女の冷たく(・・・)細身の腕を掴み離そうとするが、びくともしない。

 女性とは思えないほどの人間離れした怪力に息が出来ず、次第に意識が朦朧としてくる。

 そんな中杉田美穂は「やっぱりやーめた」そう云うと、気が変わったのか手の力が緩み息ができるようになった。

 むせかえる中どうしてやめたのか理解ができなかった。

 だが、彼女の手は未だ彼女の手は俺の首元を掴んでいる。いつでも再開できる状態だ。


「今聞こえている太鼓の音って祭りの準備でしょ? 毎年この町では行われてる行事。私を祝う祭事。神聖なる儀式。だったらその祭事が終わったあと順番に殺していけばいいかなって。どうせ前のように皆逃げられないわけだし」


 首元を掴む手が離れると背中を木に預けながら地面に座った。

 俺は彼女を睨むが、彼女は涼し気な表情でクスクスと笑う。


「残りの数日があなたにとっての寿命。私にとって少しぐらい伸びた所で変わらない。それまでの間どんなことをして、無様な恰好でもがくのか楽しみにしてる」


 杉田美穂は俺の視界から姿を消し去った。

 緊張の糸がほどけたのか力いれようにも震え足腰に力が入らない。どうやら腰が抜けたようだ。

 車が通っても止まるとは思えずかといって人が通るとは思えないし、連絡するとしたら力のある知り合いか。

 俺はスマホを取り出し端山さんへと電話をした。

 どうやら教授と共にいるらし急いできてくれるとのこと。

 通話を終えるとため息とともに思わず苦笑を漏らす。

 情けない話だ。あんだけ豪語して何も打開策も思い浮かばず、ただ相手のなすがまま。そして次第に悔しさが込み上げ地面を叩く。


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