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小説家、箕原啓の調査〜因習の村と呪われた夏の記録〜  作者: レブラン


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12/21

12話


 連絡手段がとれないまま二日が経つ。

 スマホの電源を入れるがバッテリー切れなのかいくら押しても反応しない。

 ネットへの接続、メールも電話すら不可能である以上、最小限時刻の確認のみだったので長くはもったほうだろう。

 最後に確認した日付と時刻に対し、教授の付けていた腕時計で確認したところ、現時刻は午前0時を回り七月という死の月を迎えた事がわかった。

 この二日間食事すらとらせてもらえず絶食体験するとは思ってもみなかった。

 流石に体力の消耗もひどく、腹も減り喉もかれ声を出すのも億劫おっくうだ。

 動き回ろうとしても体力が無駄に消費するだけなので床に這いつくばるように寝転がっているが、向かいに目を向けると杉田さんも同じよう寝転がっていた。教授も端山さんもおそらく同じだろう。

 俺達四人は牢獄されてから、各自調べていたことに対する報告と結果を話し合った。

 話し合ううちに根本的なルールという流れのような物が次第にわかっていった。

 隠岐村での実権を担う代表者つまりは御堂峰家当主が一つの掟を決めた。それは信仰対象であるお憑き様に対する“生贄”。もちろん、生贄にされる側は自身が生贄にされるとわかると反発するだろう。そこで事前に何らかの合図はある。昔はわからないが、今なら端山夫妻や俺が経験した空白の手紙だ。

 それが生贄の対象者である合図となり、このことは旧隠岐村に住む老人達は皆知っていたかもしれない。対象としても知っている隠岐村に元から住んでいる人よりも、この事実を知らない移住者のほうが都合がいいからだ。

 そのことを知らなかった俺ように何らかの反応を起こせば田舎であるこの町では噂は即座に広がり、グレーに近い事を村全体が行ったとして、それを目撃しても目を瞑る事で暗黙の了解となる。毎年、同じことを繰り返し行われていたのは明白であった。

 この事実を知った端山夫妻はマスコミにリークする前に捕まり殺されたと結論づけた。

 多分、いや俺達も確実に……。


「千鶴に会いたいな」

「千鶴くんの事が気になるのかね」


 思わず口に出していたようだ。

 恥ずかしいとは思えなかったが、こんな時だからなのか千鶴の顔が思い浮かんでしまった。


「約束したんです。祭りを一緒に回るって、だけど果たせそうにないのが」

「そうか、まあ彼女達なら無事だろう。私も家内の事が心配だ」

「二日も連絡なしですからね。あいつ曰く、自分の孫やその友達なら保証するだろうけど、奥さんはまた別ですからね。もし何らかの行動を起こしていたら」

「ああ、多分狙われるだろう」


 沈黙が襲う。そんな沈黙を消すように端山さんは云った。


「奥さんは富加さんが連れていかれる際に御堂峰の者を見たりしましたか?」

「ああ……、まさかっ!」

「ええ、もしかしたら助かるかもしれないですよ」と端山さんは教授に同調するように云った。


 二人の会話にいまいちピンとこない。頭が回らない。


「どういうことですか?」

「箕原さん、つまり富加さんの奥さんが目撃していることによっての情報は得ているはずです。彼女達、千鶴ちゃんと千奈ちゃんは僕達四人が丸二日も連絡とれていない。そうなると来る場所は必然と僕達が集まった富加さんの家となるわけです」

「……ああ、なるほど。俺達がいないのも含め教授が攫われたという事実が伝わるのか」

「そうです。更には僕達が話していた七月というデッドライン。流石に異常性は彼女達でも気づくと思います」

「だけど、行動に移せば彼女や教授の奥さんも危険に晒すんじゃ」

「いや仮に聞いて行動を起こしたとしても平気でしょう」

「どうして」

「箕原さんが云ってたじゃないですか、彼女達を信用信頼しているってなら僕も信用信頼しなければと」


 俺はハッとした。

 端山さんの云う通り、俺自身彼女達の安否のあまり信頼を欠如していたかもしれない。

 気づかせるように云った。


「そうですね。端山さんの云う通り彼女達を信じて待つ」

「ああ、君達だけじゃない私も信じるさ」


 教授も同意するように云った。

 限りなく低い確率だろう、だがそれでもまだ可能性はあると信じて俺達は結束するように信じ待つ。

 そんな時、扉がドンという音とともに開く。

 足音が数音鳴り響く。


「もしかして」


 助かった。そう希望の光が差したかに見えた。

 だがそれは幻だとすぐに気づかされた。

 俺の目の前、いや杉田さんのほうを向けていた数人のスーツ姿の男達。

 その中の一人に杖を突いた老人、御堂峰茂だ。


「時間切れじゃのう」


 男達は扉を開けると中にいた杉田さんを引きずりだすと、無理やり連れて行こうとしていた。

 俺は力を振り絞り、鉄格子へと着くと間から手を伸ばす。


「何してんだ」

「何じゃその汚い手は」

「杉田さんをどこに連れて行くんだ」

「気づいておるじゃろう。隠岐村の外じゃ。まずは今年の生贄一号はこいつでいいじゃろうと」

「なっ……。杉田さんは連れて行かせない」


 俺は力の限り手を伸ばし、指先を茂のすそをつまむ。


「汚い指をはなさんかっ!」


 茂は指を払いのけ、俺の腕を何度も踏みつける。

 腕に激痛は走るが杉田さんを逃がさんとばかりに掴もうとするが手は空を切る。

 満足したか踏みつける事を止め、茂とスーツ姿の男達は杉田さんを連れて扉から出て行った。

 しばらく呆然とし空っぽの牢屋、俺の目にそんな誰も居ない牢屋が映る。

 もう町の外へと連れ出されただろうか、杉田さんはもう。そんな事を考えていくうちに俺は悔しさから目頭が熱くなるのを感じ、いつの間にか嗚咽を漏らすように泣き崩れていた。

 そして投獄されてから更に二日後、扉が再び開かれると複数の足音が聞こえ、俺の扉の前に止まると鍵を開ける音が聞こえた。

 ついに俺の番か。そう思い諦めがついたその時、誰かに抱き着かれ懐かしい聞き覚えのある声がした。


「おじさん、おじさん」


 「千鶴か」そう呟くと俺は気を失うように眠った。


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