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11話


 重い扉が閉まる音が聞こえ、袋を取るとそこが牢屋内だと気づく。

 周囲を確認すると鉄格子、ぼっとんトイレ、石壁、壁には鉄鎖付きの手枷てかせが二つ繋がれ、ファッションアクセサリのようにかけられていた。

 窓は見当たらず、外を確認することができないからして地下なのだろうか。

 鉄格子から顔を出そうとするが、鉄格子の狭さ故に脱出は不可能。

 ぼっとんトイレからは……、流石に無理。というか外には出れないだろう。

 見た所、通路は一本道にドアが一つに電球が数個程度だからそこまで明るくはない。

 前に視線を向けると対面には今俺がいるのとまったく同じ形の牢屋が一つ。

 少し横に目を向ければ、また同じ牢屋が一つと。

 廊下の長さと牢屋の数からして計四つ。俺は一番奥の牢屋に入れられている。

 監視員みたいなのはいないから刑務所ではないのは間違いない。

 俺は整理するよう拉致された時から考えた。

 車は物の数分もしないうちに止まる。

 車の移動距離から察するに、家から一キロもしない距離。

 横小見町内である事はまず間違いないだろう。

 しかし、どうして俺が拉致されなければならないのか。

 というか、俺はどうしてこう冷静でいられるんだろ。車の中にいたときは焦ってたのに。


「まあ普通じゃない状況だし、落ち着き始めたってのはあるか。とりあえず脱出方法がないのか探してみたいが。そうだ」


 ポケットに入っていたスマホを取り出し電話をかけてみる。

 一向に電話が繋がる気配がない。

 ネットで検索しようと思っても繋がらない。

 よくよく画面を見ると、電波が1本も経っていないのに気づく。


「そうか、地下だからか……」


 隅から隅まで歩き電波を拾えないか探してみたが一向に入らない。

 だが幸い時間だけは確認できる。時間は二十三時あれから一時間ぐらい経っていた。

 脱出も不可能、このままどうにもできず監禁されっぱなしで終わるのか……。

 俺は諦めるように寝転がった。


「しかし、どうしてこうなったんだ。ヤバい事に手を出したとは思えんが……。だけどもしそうなら一つしか思い浮かばんな」


 お憑き様。その一つしか考えられなかった。

 なら一緒に調べてた他の皆も連れてこられる?

 場所からして俺が一番近かったからという理由で連れてこられた可能性があるわけだ。

 だけど一番不明なのが、漏れた理由だ。これを調べて第三者に話したりして、不利益になるようなものなのか?


「あー頭が混乱するっ! もう寝よう」


 時間が時間だからか、頭が働かない。今は休息が必要。

 そう判断し俺はごつごつする硬い地面に背中を預け寝た。

 しばらくし、誰かがドアを開け複数の足音が聞こえ始めたのに気づき、目を覚ます。

 顔を上げ呆けていると聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 どうやら、向かいの牢屋に入れられたらしい。

 誰かと思い目を凝らしてみるとそこに居たのは見知った顔であった。


「杉田さん!」

「え、箕原さんですか!?」

「はい、杉田さんも捕まったんですね」

「ええ、ここら周辺を調べていたら突然」

「ここらって、もしかして場所わかったんですか?」

「はい、この場所は」


 言いかけた矢先、ドアが再び開かれ誰かが牢屋に入れられた音が聞こえた。

 どうやら俺の隣に入れられたようだ。


「開けろ! ここを開けろ!」

「この声、確か端山さん! 俺です箕原です。杉田さんもいます」

「え? 箕原さんに杉田さん。貴方達もここに連れてこられたんですか?」

「ええ、俺は家にいるときに、杉田さんはこの周辺を探っていたときらしいです」

「僕は叔父の話を聞き終え、箕原さんに電話しても繋がらなかったので、先に富加さんの家に行こうと裏路地入った所で。ちなみに他の人達は?」

「わからないです。俺が一番最初に連れてこられたっぽいのですが、次に杉田さん、そして端山さんと」

「そうか。彼女らはまだ連れられてないのか、良かった」

「ええ、彼女達は流石にまだ幼いのでショックが強いでしょうし。俺は色々慣れてしまってあれですが、端山さんは仕事柄って感じでしょうしね。それにしても杉田さんが一番すごいと思います」

「いえ、私も箕原さんがいなかったら取り乱していたと思います」


 まあ確かに知らない場所でも顔見知りが一人いれば安心するってのはあるな。


「それに、多分彼女達は連れてこられないと思いますよ」

「どうしてですか?」

「先ほど箕原さんに話そうと思っていたのが。私が周辺を調べていた時に連れ去られた場所、それはここが御堂峰家の敷地内だからです」


 俺は聞き間違いかと思った。

 仮にそれが本当だとしたら、あの場所で話していた者。

 つまり俺らがピンポイントに拉致られここに連れてこられたのは納得はいくが……。

 隣で膝から崩れたであろう音が聞こえた。


「もしかして、彼女達もグルなのか?」


 声の震えからしてショックを受けているのがはっきりとわかる。

 グルと云った。叔父さんの話を聞いて関連づいたのだろうか。冷静さを失ってそう思ってしまったのだろうか。だが、俺は違うと否定する。


「端山さんちょっと待って下さい。確かに杉田さんの言っていることが本当だとしても、彼女達はこんな事はしません」

「どうしてだい」

「俺が彼女を信用信頼しているからです。それに特に端山治正の熱烈なファンであるだろうし、あの話を聞いてその本人を拉致するのはどうも腑に落ちないからです」

「……そうだね。確かに彼女達が僕達を監禁する意味がないか。そうするとやっぱり僕達を拉致したのは」


 再びドアが開かれ、誰かが牢屋に入れられた音が聞こえた。

 誰が入れられたかは明白であった。


「富加さん!」

「そこにいるのは端山くんに箕原くん。君達二人がいると云う事は杉田くんも」

「はい、居ます」

「やはりか……、君達の状況は車の中で話は聞いたよ」

「なら教授も無理やり」

「いや、私の場合は箕原くんと同じようにいたが。そうせざるを得ない状況だったので自らここにきたのだよ」

「なら奥さんは」

「家内なら心配いらない。私が出張ということにしている。手を出さない事を条件にしてここにきた」

「そうですか。それなら安心ですね」


 手を鳴らす音が何度か聞こえると俺達は話を止めそちら注目した。


「話は終えたようじゃな」


 ドア近くの出入口に立っているせいか鉄格子から覗こうとしても見えにくい。

 声から察するに高齢者であるのは間違いないが。

 スマホを取り出すと、ビデオモードへと切り替え覗き込むように映す。

 画面内には杖をついた老人一人にその周囲四人の巨漢なスーツ姿の男達が守るように立っていた。


「あなたがここの、御堂峰家の当主なんですか?」

「そうじゃ。ワシが御堂峰家当主、御堂峰茂(みどうみねしげる)じゃ」


 隠す気もさらさらないのかあっさりと答えた。

 

「あの、俺達をどうするつもりですか?」

「君らは七月になるまでここにいてもらうだけじゃ。調べはついているのじゃろ?」

「お憑き様」

「その通り。なあにあと数日で七月に入る」

「その時俺らを殺すんですか。端山家夫妻みたいに」

「ほお、良く知っているのう。この村の秘密を知られ世間に公表されるは非常にまずいものだったのでな。丁度七月にも入ったわけじゃし、お憑き様に捧げる貢物としては良かったぞ」


 そう云いながらケタケタと笑い始めた。

 割り込むように端山がいった。


「やはり父や母、そして兄を殺したのは貴方達なのか!」

「そういえば孫娘から聞いていたわい。お前さんがあの鬱陶しい蠅の息子だと。今年は決まった(・・・・・・・)のだから戻って来なければこんな事にはならなかったのにのう」

「くそっ! 殺してやる! 殺してやる!」


 掴みかかろうとするが、鉄格子に遮られ手は幾度と空を切る。

 あの端山治正とは思えないほどに冷静さを失わせ、怒りや憎しみが上回り相手を罵倒した。


「こんな事をしているのは孫娘である千奈さんは知っているんですか」

「今はまだ知らん。もし知ったならわしは嫌われてしまうからのう。それはわしにとって唯一辛い事じゃが。まあそれに比べてわしの息子はダメダメじゃから継がす事はせず。孫娘にはいつかは教え、跡取りとして継いで貰わないといけないが、それまではまだ可愛い可愛い純粋な孫娘でいてほしいからのう」

「となると実質の隠岐村の実権を担ってるのは全てあなたとなるわけですか。あなたの息子さんも同意見なのですか」

「息子は考えが浅い。孫娘が成人したあかつきに息子をお憑き様の貢物として祝わせてもらおうかのう」

「なっ! あなたは自分の息子を大切だと思わないんですか!」

「思わんな。あんなバカ息子なぞ。ワシはこの隠岐村に対して愛着があり、隠岐村の未来を信じて今もこうしている。本来なら合併なぞしとうなかったのじゃが、話が勝手に進み渋々了承せざるを得なかったのでな」


 自分の息子でさえ思い通りにならなかったら処分するとか胸糞悪い。


「私も一人息子はいるが、私のような研究ばかと違って息子は自分の道は自分で切り開いている者だ! 私自身、息子は跡を継いで研究何てしなくていいと考えている。だがそんな息子を私は愛しているし、自分の進む道に口は出さない。親なら自分の子供を信じているんじゃないのかっ!」


 教授は声を荒げるように怒鳴った。

 同じ親心でもあり、考え方の違いに激怒したのだろう。

 そんな教授を見て茂は杖先を地面に叩きつけた。

「おい」そんな言葉を茂は放つと、護衛の男達は従うように牢屋の扉を開け富加さんを無理やり茂の前に立たせた。


「なんじゃその口の利き方は。きさまよりもワシのほうが偉いんじゃぞっ!」


 手に持っていた杖で何度も富加さんの顔を叩きつける。


「それ以上やめろっ、死んでしまう!」

「黙れ小僧っ! こいつはワシの信条を否定したのじゃ。その制裁じゃ!」

「ならその信条を自ら捻じ曲げるのか」

「なに?」

「仮に今、富加さんを殺したとする。なら富加さんの云ってる事が正しくて、あんたが今まで信じてきた七月にやってきた事を自ら全否定するってことだろ」


 俺の言葉で振るっていた杖を収めた。

 そのまま、護衛の男達に支持するように富加さんを牢屋内へと戻した。


「小僧の言葉に免じて今は許してやる。じゃがそれもあと数日。全員あの世いきじゃわい。わーはっはっはっはっはっ!」


 そう言い残すと扉を閉め出ていく。

 ビデオモードを停止させた。証拠にはなるだろうが、これを警察にいや世間に広める事ができるかどうか。

 俺はため息をついた。


「教授大丈夫ですか?」

「ああ、箕原くんありがとう。あのまま私は殴られ続けていたらどうなっていたか」

「いえ、流石にあれはまずかったので止められてよかったです」

「僕からもお礼を言いたい。富加さんを助けてくれてありがとう」

「運がよかっただけですよ端山さん。問題を先延ばしにしただけです」

「あと数日で七月入りますしね」

「ええ、杉田さんの云う通り。それまでにどうにかできればいいけど、連絡すら絶たれてる現状お手上げ状態。このまま日にちが過ぎれば俺達は殺されるかも」


 残り日数を見た。七月まで残り二日。


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