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エッセイ

趣味としての貯金

作者: 中川大存

 

 貯金が楽しい。

 もはや、小説執筆や読書、映画鑑賞、ドライブなどに次ぐ僕の趣味の一つと言ってもいい。

 「貯金が趣味」と言うと実に四角四面な、つまらない人間のように思われてしまいそうなのだが、逆に四角四面な人間は貯金を趣味と捉えてはいないだろうと思う。人生設計の一部として真面目に取り組んでいるはずだ。その行為自体から快感を得ようとしている時点で、僕は十分に不真面目である。

 

 なぜ貯金が趣味として成立しうるか、という点についてだが、単純に僕が何かを積み上げることに喜びを感じる人間だからである。言ってみれば小説も、日々ちまちまと書いて「こんなに沢山書いた」というところに達成感を得ている部分があることは否めない。読書や映画鑑賞も、もちろんそれが楽しいからやっているわけだが、読んだ本、観た映画の一覧リストをつけるのも楽しみだったりする。受験勉強の際なども、参考書の目次部分に一つずつ丸をつけていくことに執心していた。僕は往々にして、自分がやったことを形に残して振り返ることが好きな性質なのだ。

 

 ここまで読んで、趣味としての貯金に興味を持った方の為に僕のやり方を紹介する。

 まず前提条件として二つ挙げる。「貯金専用口座を作ること」、そして「貯金専用口座から引き出しを絶対に行わない覚悟をすること」である。

 一点目は、より意識的に貯金を行うためである。給料の振り込みがなされる普段使いの口座で貯金しようと思っても、引き落としや引き出しが頻繁に行われている中で額を増やしていこうとするとなかなか難しかったりするのだ。また、純然たる趣味として楽しむという意味でも、これだけ貯めたという実績がわかりやすいよう別口座を作るべきである。確かに別口座を作り、入金のために通うというのは手間ではあるが、趣味なのだから多少手間をかけるくらいが楽しいのだ。自動的に金を積み上げていくだけでは何の楽しみもない。

 二点目は、一点目の延長でもあるのだが、「積み上げた」ということを実感しやすくするためである。もう、貯金専用口座からは引き出しという選択肢が端からないと思うくらいが良い。もちろん絶対に使えないのでは貯金する意味がないが、使えないと思うくらいでないと「ちょっとくらい引き出してもいいや」という欲望に負けてしまうのだ。それを繰り返していくと、わざわざ口座を分けた意味がなくなる。

 準備が完了したら、いよいよ実践編だ。僕は、三種類の貯金法を並行して実践している。

 

 

【月例貯金】

 貯金額増加に最も寄与しているのがこの月例貯金だろう。

 毎月給料日に一定額を貯金専用口座に移す、というだけのオーソドックスな貯金方法である。額としては、無理なく毎月出せる金額を設定すればいいと思う。例えば独身かつ実家住みの会社員(僕だ)なら、3万~5万くらいだろうか。気長に楽しめる自信がある人なら1万円とか5000円でもいいとは思うが、やはりある程度のスピードでたまっていく様が目に見えた方が楽しみやすいような気がする。ただし、くれぐれも無理は禁物である。

 実践の際のポイントとしては、給料日、給料が振り込まれたらすぐに行う、というところだろうか。やはりどうしても、あると使ってしまうのだ。逆に早々と貯金してしまい、その分は初めからないものだと思っていれば残った金額でひと月過ごすことはそう難しくはない。

 

 

【小銭貯金】

 一番日常的かつ継続的に行っている貯金法である。

 財布を軽くするという目的も兼ねて、財布の中の小銭を貯金箱に入れ、定期的に口座に入金する。入金のタイミングは期間で区切っても良いし、貯金箱がいっぱいになったら、という取り決めでも良い。小銭の入金はATMだと制限がある銀行が多いので、会社員の方は平日に窓口に行けるお盆や年末年始にまとめて入金するのが良いと思う。僕はそうしている。

 ただ漫然とやっているだけでは面白くなく、また額もたまりにくいので、僕の場合はさらに三つのルールを設定している。

 

 ルール①「毎週日曜日の夜、強制貯金タイムが発動する」

 ルール②「500円までは、財布に残すことができる」

      小銭を使う場面は何かと多いので、すべて貯金してしまうと

      不便なのだ。

 ルール③「財布に残せる硬貨は、500円玉、あるいは100円玉のみとする」

      50円玉、10円玉、5円玉、一円玉が含まれる形で合計500円

      残すことはできない、ということである。

 

 三つ目のルールが特に重要である。これをやると、貯金対象に500円玉や100円玉がかなり混ざる。特に500円玉のあるなしは最終的に溜まる額が大きく変動する要因になるため、口座入金の際、予想以上の額に幸福感を感じることができるだろう。

 

 

【通りすがり貯金】

 すべて定期的入金のみだとつまらないので導入している方法である。

 主に使用する支店の前を通った際、最低千円を貯金しなければならない、と決める。

 積極的に貯金するつもりであればその口座を置いている銀行の支店、あるいはATM出張所をすべてターゲットに設定してもいいとは思うが、用事があって移動中だったりした時に不意に出くわしたりするといちいち寄って入金しなければならなくなり、煩雑だと思うのであまりおすすめしない。趣味でやっている以上、義務感に囚われてしまっては終わりなのだ。

 しかし逆に、支店一つだけでは緩すぎるのではないかという意見もあるだろう。確かに、貯金したくない場合にはルートを変えれば容易く回避できてしまうのは事実である。しかし、三つの貯金方法のうちの一つくらい、したくないときにはしなくて良いくらいの緩さでちょうどいいと思うのだ。それに、案外せっせとやってしまったりするのである。でなければ趣味とは言えない。

 僕など、何か嫌なことがあったり無意義な一日を過ごしてしまったと思った時など、わざわざターゲットの支店まで貯金をしに行く。奇妙だが、財布の金をほんの少し口座に移すだけでストレス解消になっているようだ。もちろんこれは僕以外の人にも一様に同じ効果があると保証できはしないが。

 

 

 僕の貯金講座は以上である。

 書いてみて改めて思ったが、無理をしないよう心がけることが一番重要である。いろいろなものを我慢して全力で貯金することも素晴らしいと思うし、その方が早くたまっていくだろうとも思うが、やはりギリギリの生活費でやっていると急な出費に対応できなくなり、貯金専用口座に手を付けなければならなくなったりするかもしれない。それはある意味敗北だ。そして何より、そういう生活はあまり楽しくなさそうである。目標を持たず、趣味として貯金を行う場合はほどほどに緩くやるのが一番である。

 

 じわじわと、しかし確実に金額が増えていく通帳を見ながら煙草でもふかしていると実に心が安らぐ。貯金というのは安全かつ高尚な趣味である。


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