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第7話 脱出

遅くなりました。申し訳ありません。



 side:カケル



 


 作戦は決まった。後数秒で『光の城壁』の効果が切れる。それに合わせて行動を起こすのみだ。



 どういうものかと言うと、現在此方と敵では圧倒的に人数の多い敵の方が有利だ。その人数差を無くす為に一旦敵の拠点へと籠るのだ。


 現在すぐ後ろにあるそれは先程ソウタ君が確かめたので中は安全だと確認出来ている。それに加えて、元々敵の拠点なのだから仮設とはいえ耐久力はそれなりにあるはずだ。よって壁はそう簡単には破壊されない。



 そして、出入口の限られた空間で対等な人数を相手にして少しずつ減らしていくということだ。


 失敗すれば突撃と包囲をされ終わりだが、倒せなくても最悪時間を稼げればいいとのこと。


 アリスの転移魔法で此処から脱出するという最終手段があるからだ。その為にも詠唱する時間を稼ぐ必要がある。勿論、倒せたらそれが一番なのだが。



 


「もうすぐだ……3」



 


 ユキがカウントを始める。一度ひいていた緊張が再び甦ってくる。自分はまず敵兵を抑える役割がある。よって壁が解除された瞬間に前へ出て皆を守らなければならない。




「2」



 


 剣を握る手にさらに力を込める。勿論一人で敵兵は抑えられない。ユキも自分と同じように敵を抑えるためまたすぐに魔法を使う。自分はその間の瞬間を守るのだ。



 


「1」



 


 ふとして視線をほんの少し動かすと、ユキの展開した『光の城壁』越しに敵……帝国兵とされる兵達、その隊長と目が合った気がした。



 


 「───今だ!」



 


 ソウタとアリスがすぐに後ろの拠点に籠るべく走り出す。


 それを尻目に確認しつつ、直ぐ様目線を前へと移し、早くも視界に入った鈍く輝く物体を止めるため剣を横に構える。



 するとすぐに手へと伝わる金属同士のぶつかった重い衝撃と響いてくる耳障りな金属音。



 その手応えを確認し、また次への行動へと移る。



 ユキの発動する魔法の壁の範囲に入るため、一歩、二歩と後ろへとステップをしながらまたも襲いかかってくる剣を捌く。



 そして、自分を無視しユキへと襲いかかろうとする剣を見て、自分の目の前の敵兵を思いきり前へと突き飛ばし、さらに後ろへと自分は跳ぶ。



 ユキに剣が触れようかと言う瞬間。



 


「『光の壁』!!」



 


 ユキの発動した魔法によってその剣は届かず、隙だらけとなった自分へと振られていた剣も目の前で防がれた。



 


「……予想以上にお前さんはやってくれるな」



 


 それを見て敵の隊長らしき人物が困ったように呟く。この間にも敵兵らは剣を『光の壁』へと叩きつけている。



 


「まさか『光の壁』で防がれ、尚且つ同時に多数展開か……これでもこの剣は特別製でね。本来中級魔術まで破れるはずなんだけどなぁ」


「それは残念だったね、私のこの『光の壁』は特別製でね。上級魔術位までは防げるんだ」


「なるほどなぁ、完全に想定外だ。けど、こんなのはどうだ?」



 


 そんなことを言うが、隊長らしき人物は特に何もしようとはしてこない。どちらにしろユキの『光の壁』があるから大丈夫なはずだが。


 しかし、ユキは何かに気付いたようだ。ユキは焦った表情で後ろに、正確にはアリス達の方へと顔を向ける。自分もそれに習い慌てて後ろに向く。



「ーーーーーっ!?」


「うぐっ!?」



 


 すると後ろから声にならないアリスの悲鳴が、真っ赤に染まる脇腹を手で抑え、崩れ落ちるソウタの姿が目に入った。



 そして、その奥に居る存在に気付いた瞬間俺は駆け出す。奴がソウタをこのようにした下手人だと理解したから。



 


「このやろう!」



 


 ソウタを刺して、次はアリスだと言った目つきでナイフを構え直すその人影。よく見れば今俺達を包囲してる奴らと同じ格好だ。それに向かって俺は剣を振るう。


 何故、ソウタを刺せたのか、居ないと確認されたはずの建物内に居たのか。何故ユキの魔法を突破しているのか。



 疑問は尽きないが、今更此方の存在に気付いたそいつはなすすべもなく俺に斬られた。



  アイルミの街の中で魔物を斬ったときのように返り血を浴びる。幸いアリスには自分が盾の役割を果たしたのか、余り掛かっていなさそうだ。



 


「い、『癒しの光』!!」


「大丈夫!?」



 


 アリスが慌てて回復魔法を唱え、少しでもソウタの深い刺し傷を治そうとする。ユキは魔法を維持しつつ、ソウタを凝視している。その顔はとても青ざめている。


 そんな心配をよそに、あの時の兵士同様、アリスの効果の低い回復魔法では焼け石に水程度の効果しかない。



 俺はそれ横目に見つつ、二人目が居ないか確認しに敵の拠点の中を探ろうとする。




「安心しろ。二人も中には居ない。それにしてもよい反応だったな? 剣士さんよ」



 


 後ろから掛けられた声に思わず足を止める。




「お前……よくもやってくれたな」


「なに、作戦と呼んでくれ。決して卑怯なことではない。……そもそも俺達の拠点のはずなのだがな。何故安全と思ったのか」



 


 その呆れたような元凶の声に怒鳴りそうな気持ちを抑えて疑問点を聞く。



 


「俺達は先程確認した。よって安全と判断した。どうしてお前らの仲間が居る? いつ中に入ったんだ?」


「いや、だからそれは俺達の拠点だ。最初から居るに決まっているだろう? まさか拠点を空にして活動するわけないだろうに」


「……だったら確認したとき何故」


「それは機密だ……お話しは終わりにしよう!!」



 


 俺の疑問は解けないまま、隊長らしき人物は走りだし、此方へと剣を振るった。



 無効化されるかと思われたその一撃は、ユキの展開した『光の壁』のに罅を入れた。それは小さな罅だったが、もう一振り、もう一振りと周りの兵士達も攻撃を始めると決して無視出来ない大きさとなっていく。




「『光の壁』!! アリス、治療はそこそこにして詠唱を始めて!」




 ユキは隊長らしき人物が言ったとは言え、二人目がいるかもしれないという敵拠点の不安要素から直ぐ様作戦を放棄し、臨機応変に対応すべく指示をだし始める。



 新たなに展開し直した『光の壁』もいつまでもつか……。



 


「……えぇ、分かったわ」



 


 ユキの言葉に従い、ソウタの治療は最低限にして転移魔法の詠唱を始める。ソウタの容態は良くない。しかし、止血程度までは治療されたようだ。効果が低いと言っても回復魔法、回数を重ねれば確実に良くなる。それを見てとりあえずは安心だと自分に思い込ませる。



 そうやって意識を切り替えたのはいいものの、今自分は何をすれば良いのだろうか。何の役に立つというのか。



 ユキは魔法で敵の攻撃に耐えている。アリスは転移魔法の詠唱をしている。ソウタは重傷だ。


 俺はユキのような魔法を使えない。アリスのような魔法も使えない。ソウタに対して回復魔法も使えない。



 自分の本来の役割はユキの隙を埋める事だ。しかし、今それをやっても実態は敵の前に『光の壁』越しに突っ立ってるだけの奴となる。それに何の意味があるというのか。



 


 そこで気付いた。最初にアリスが『光の盾』を唱えた時、ユキは何を唱えたか。そう、『魔術強化』と言った強化魔法だ。これを使えればいいだろう。


 しかし、どうすればそれが発動かするかが問題だ。魔法はイメージという言葉を城で教わってた時に聞いたことがある。果たして誰の言葉だったか。そして、その後に基礎知識が必要とも教わった。なんとも矛盾している教えである。



 しかし、諦めない。



 だって俺は勇者だから。



 皆の希望となる勇者だから。



 絶望から希望を生み出す勇者……だから。



 


 そんな、不思議な気持ち、強迫観念のようなものが頭を通りすぎっていった後には一つの言葉が頭の中に浮かんできた。それを指でなぞるかのようにゆっくりと口の中から外へと出す。



 


「『希望の光』」



 


 そんな何気無しに呟いた言葉は、この世界の法則に従い、勇者の力を利用して、その真価を発揮させる。



 身体の中心から、肩、腕、手、そして剣へと流れる魔力は剣を薄く発光させながら周囲へとその魔法を伝えているようだ。



 自分でもこの魔法がどのような効果を齎すのか分からない。しかし、発動した感触から悪いものではないだろうと考える。この、皆を包み込むような優しい光を感じて。



 


「これは……固有魔法?」




 その光から力を感じたユキが真っ先に反応する。


 『固有魔法』。確かにそう呼ばれる類いのものなのかもしれない。勇者という一つの像をイメージして出来た魔法なのだから。



 


「『希望の光』だと? そんな馬鹿な……」



 


 敵の隊長らしき人物もそう呟いている。その声色からは少しの 動揺が感じられる気がする。予想外を突いたなら好都合だ。



 この魔法が発動してからというもの、ユキの『光の壁』は割れるどころか、罅一つ入る気配がしなくなった。それに、アリスの詠唱にも少し好影響を与えた感じだ。さらにはソウタの顔色も少しマシになったような……。


 どうも目的に当てはまる魔法を発動出来たらしい。




「みんな待たせたわね。転移するわよ!」



 


 そこに吉報が舞い降りる。アリスの詠唱が完了したようだ。少しの詠唱省略に先程の魔法が貢献出来たらしい。



 


「『空間移動』!!」



 


 そんなアリスの言葉が聞こえたと思った瞬間、目の前が真っ暗と思ったら、真っ白、その次には……いろんな色の絵の具をかき混ぜたかのような柄が視界いっぱいに広がった。


 同時に少しの浮遊感を感じたような気もする。そして、気付いたときには森の外に居た。



 


「成功ね……みんな大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だよ」


「……俺もだ」



 


 成功しなかったらどうなるのかと、とても聞いてみたいと思ったがそれは一旦置いておこう。なんか怖いしな。



 ……それにしてもここはどこなんだ? 周りの安全は確保されているのか、ここにも奴らの部隊が居たら転移した意味がない。


 まぁ、アリスもそこのところをしっかり考えて転移したのだと思うが。



 ちらっと周りを確認しつつ、ソウタの方へと向き直る。未だに目覚めないが、呼吸は安定しているようだ。



 早く本格的な治療を受けさせなければ……。



 そう思いながら俺は次の行動について頭を振り絞るのだった。 



 



 



 



 



 



 side:out



 


 カケルやアリス、ユキ、ソウタ達四人が脱出した後、残された者達である“隊長らしき人物”率いる部隊は逃げられたこと、この部隊初の任務失敗に動揺をするもなんとか表には出さないように抑えていた。



 


「……」



 


 隊長らしき人物もそれは同じだった。今まで失敗等一回もなかった。その様なものは訓練生時代に皆置いてきていた。しかし、目の前に映る現実としては任務失敗である。しかも、対魔武器という新兵器を優先的に配備してもらいながらこの様である。


 これより、この部隊の存在は知られたと言っても過言ではない。帝国が長年かけて育て上げたせっかくの隠密部隊が水の泡である。



 しかし、そんな現実を突き付けられても隊長らしき人物には一つ気になることがあった。この部隊は決して弱くないし、馬鹿でもない。今までの成績にはそれなりの理由があるのだ。



 


「結界は作動していたんだよな?」


 


 隊長らしき人物は傍に居た一人の兵に確認をとる。


 

「はい、勿論でございます」



 


 指命された兵は突然のことに慌てながらも、担当の兵に確認をして答える。



 この結界というのは空間を隔離する魔道具の事である。簡単に説明すると今回アリスが用いた転移魔法等の空間干渉系魔法を防ぐ物だ。しかし、それでは防げなかった事に隊長らしき人物は驚いていたのだ。



 


(……あの結界を突破するほどの転移魔法の使い手。何故こんなところに来たのか。考える必要がありそうだが、先に本国への連絡だな。……それに本来考えるのは参謀本部の役目だよな?)



 


 隊長らしき人物はそう考えて、また別の魔道具を懐から取り出す。それを口元にあて、口を開く。



 


「此方中隊長。全部隊に通告する。今回の任務は失敗だ。直ちに本国への撤退を命ずる。各隊任務書に従い行動を起こせ。以上だ」



 


 取り出した魔道具は短距離通信を可能とする魔道具だ。それにより、この森各地に散らばっていた部下に撤退命令を下す。


 伝え終わり、再び魔道具を懐に仕舞うと後ろに向き直る。




「……準備はいいな? 撤退だ」



 後ろに居る、自分の直属の隊の兵にそう伝え、隊長らしき人物は森の中を北へと歩みを進め始めた。それに続く十数人の兵士達。



 彼らは途中、他の部隊と合流し、無事本国へと辿り着き、事態のあらましを上へと伝えるのだった。



 




次回はここまで遅くならないように頑張りたいです。えぇ、はい。

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