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第6話 接敵

遅くなりました。申し訳ありません。

しかも、短いです。



side:ユキ




「では……」


「勇者様方もご健闘を」




 はい、と答え馬に跨がるカケル君。先程まで不安そうな顔つきだったが今は大丈夫そうだ。



 今から向かうのはあの司教が持ってきた地図に示された数ある地点の内のひとつだ。他の地点も手分けして、司教殿率いる教会勢や領主軍によって向かわれる手筈となっている。



 そして、私達が向かう予想された地点は今までの人生で敵が居た場所である。勇者様が最初に好きに選んでいいと言うので、カケル君に言ってその場所にしてもらったのだ。



 今回の人生が今までと少し……いや、結構違うとは言え、流石に敵の拠点は変わらないだろうと思う。わざわざ変える理由が無いとも言う。



 ちなみに、今までだとアイルミの街は襲撃されていないため、時間に余裕があったので勇者PTで敵拠点と予想される地点をひとつひとつ潰していった。教会は情報を持ってきただけで、司教も出てこなかった。領主軍も防衛対象の街が健在であったため、動けなかった。


 まぁ、それは今も変わらないはずだが、原因を早く潰すことで解決しようとしてるらしい。


 確かにじっとして待ってるよりは不安が少ないと思う。



 果たしてこの相違をどうみるか……。



 


 ただ、今回は何が起きるか分からない。これだけは確実に言えることだ。



 



 



 


「……もうそろそろか?」



 


あれから馬で今回の襲撃で荒れ果てた草原を抜け、森の中の細い道を抜けて、そんな道すら無いところでは馬を降りて歩いて進む。そんなこんなで敵拠点と予想される地点に近付いてきたはずだ。



 


「そのはずだよ」



 


 小さな声で聞いてきたカケル君に同じような小さな声で返す。




「ハズレなのかしら……近付いてるのに敵の姿が見えないわね」




 同様にアリスも聞いてくる。確かに敵の姿が一切見えないのはおかしい。守備兵位居てもいいはずだが……。今まででは居たのに。



 ……疑問は持つがそれでも進むしかない。



 


「とりあえず進んで確認しよう」



 


 同じことを思ったのか、顔に不信感を露にしながらもカケル君はそう言った。



 


 その言葉にアリスはコクッと軽く頷き、再び先へと進み始めた。



 木々の隙間を縫うようにカケル君、アリス、ソウタ君、自分と縦になって歩いていく。この森は言うほど木々が生い茂ってるわけではない。木々で敵兵が見えないなんてことはないはずなのだが。


 それに段々と見えてきた敵拠点と予想される地点。そこは小さな湖のほとり。開けた場所だ。一応、仮設の建物らしきものが見えてきている。しかし、人影は見当たらない。



 とうとう辿り着いてしまった。




「ハズレ……か」




 カケル君は心底残念だというように溜息をつきながら言葉を吐き出す。



 


「居ませんね……けれども、この建物自体は新しいですね。使われていた痕跡もあります。……移動した後でしょうか」



 


 ソウタ君は確認しに行った建物の中から出てきて言った。




「それじゃあ何処に行ったって言うのよ?」



 


 アリスはそれに対して一番の問題を突きつける。そこで私はひとつ思ったことを口に出した。



 


「本当に移動したのかな」


「……それはどういうことだ?」




 カケル君が説明しろといった表情で顔を向けてくる。


 他の二人も口に出さないだけで表情から同様の事を思っているようだ。



 


「まず、敵の目標はアイルミや王国の戦力を減らす、またはこの地方に釘付けにすることだと思う。それに、敵はいずれここに私達や討伐隊が来ることを予想してたはず」



 


 まぁ、思うじゃなくてそうなんだけどね。と心の中で付け足す。今まではそうだったし。今回もそういう根本的な部分は変わらないはずだ。



 もちろん、皆はその目標に疑問を思ったようでいまいちピンと来ないようだ。



 


「敵は多分帝国兵なんだ。近い未来、帝国は王国に戦争を仕掛けてくる。そのために王国の戦力を進軍地域から出来るだけ遠ざけたり、減らしたりしときたいんだよ。王国軍が来る前に占領、そして防衛線を構築して迎え撃つためにね。そのための布石なんだよ。今回の騒動は……予想だけど」



 


 最後に申し訳ない程度に付け足しとく。未来を知ってるのがバレたら一番不味い。それに不確定となり始めてる未来だ。頼られても困る。けど、このメンバーを操作するために言わないわけにもいかない。だから、予想といった形で伝える。



 


「じゃあ、敵は野良でも賊でもなくて帝国軍ってことなの?」



 


 アリスの疑問にそうだよと頷く。それを聞いたアリスは少し顔が青くなったように見えた。まぁ、精強な帝国兵を相手にすると思わなかったはずだしね。



 それに加えて帝国は連邦と現在戦争中だ。まぁ、正しくは停戦中なのだが。終戦宣言はされていない。

 ……そんな状態で王国にも戦争を仕掛けるなどということは正気ではない。だからこそ、戦力は余り割けないためにわざわざこんな騒動を起こすのだ。そして、王国は侵攻されるなど夢にも思わず備えをしなかったために簡単に国境を越えられる。



 にしても戦力割けないからとか、なら来るなって話だ。そしたら、もっと私は平和な人生になったじゃないだろうか。死ぬことには帝国は関わっていないはずだから死ぬのに変わりは無いのだろうけど。



 それに、現在五聖勇者が召喚されている。いわば世界の危機という状況で協力せずに勇者召喚国同士で誰が戦争すると予測出来るか。そんな理由も実はある。このための停戦だというのに。まったくもって意味が分からない。



 


「というわけで、敵はそんな目標を持った帝国兵のはずなんだけど……移動したというのは余りにも勿体無いことなんだ。ここは森の中。大軍での行動は出来ない。つまり、少数同士で戦いが必然となる。帝国はこの森に少数しか派遣出来ないがそれが問題にならない。ここで帝国が精鋭を使えばただでさえ、一般の帝国兵よりも弱いとされる王国兵は勝てるはずもなく消耗を強いられることになるんだ」


「けど、帝国兵だとバレたらいけないんじゃないのか?」



 


 ここでカケル君が鋭い意見を飛ばしてくる。



 そう、勿論帝国の仕業とバレたら流石に感づかれ防備を固められてしまう。下手したらまだ歴史の浅い王国軍より伝統があり、王国の中で帝国軍と唯一まともに戦えるとされる王国騎士団が侵攻予定地に派遣されてしまう。


 帝国と王国の間を軍を進められる場所は一ヶ所しかない。他は全て山脈とその地表を覆う森林によって軍を進めるルートとしては適さない。そのため簡単に侵攻予定地等予測出来てしまう。



 


「そうなんだ。けど、バレなければいいんだよ。討伐隊を全て……文字通り全滅させてしまえばいいんだ」



 


 死人に口なしだよ、と小さい声で付け加える。



 


「そんなことが可能なの? この森の中で? さすがに一人位は逃げれるんじゃない?」




 アリスが少し怯えたようなトーンで聞いてくる。そんな場面を想像でもしたのか。評価も先程より深刻化している。



 


「帝国の精鋭は舐めない方がいいよ。木々で隠れながら囲んでしまうこと自体はそこら辺の農民にも出来るさ。攻めるよりも待ち伏せ側の方がこういうのは有利だしね」



 農民で荒事を専門にする奴に勝てるとは言わないがな。



 そこでカケル君は苦虫を噛み潰したかのような表情で此方に問い掛けてくる。



 


「なぁ、それってつまり──」


「──そう、お前たちは包囲されているということだ」



 


 しかし、その言葉は途中で遮られカケル君が最後まで言うことはなかった。私達のやって来た方向の木々の陰から来知らない人物に答え合わせをされてしまったからだ。



 その人影の言ったその言葉が合図だったのか、同時に私達の周りに何人ものの兵士らしき姿が現れる。よく見ると最初の人物の服は他のと少し違う。隊長なのであろう。




「なっ……お前たちは帝国兵か!?」


「えっ……嘘……!?」



 


 カケル君はすぐさまアリスを守るように前へと躍り出る。後ろはソウタ君が守るようだ。



 初戦のくせして素晴らしい連携だ。それに啀み合ってた連中の行動とは思えない。だからこそ、勇者PTであるのだが。


 ちなみに私もアリスと一緒に守られる立場のようだ。外側に居たがすぐさま手を掴まれ、私もしっかりと二人の内側に入れられた。というより、私の方が優先されている気がするのは気のせいだろうか。まぁ、いい。



 その女を守ろうとする男らしい姿は非常に映える光景であろう。けど、私もアリスも弱いわけではない。実は守られなくても自力でこの包囲網を突破することは可能だろう。特にアリスはカケル君と一度闘ってる以上それはカケル君、ソウタ君同様に分かっているだろう。あ、だから私が優先されているような感じなのか。



 


「……それには答えられないな」


「そうか……じゃあ、そういうことだな?」



 


 敵の隊長らしき人物はその問い掛けに口を開かない。大方予想は的中しているのであろう。それを感じとったのか、カケル君は確信した目つきで隊長らしき人物に焦点を合わせる。



 嘘をつきたくは無いのか、その言葉からこの人物の人柄は充分に察せられる。


 これは厄介な予感がする。よい指揮官は兵に慕われるものだ。そもそもこの作戦に選抜される兵である以上最低限の質はあるはずだ。これでは例え此方が勇者達だと知っても逃げないだろう。



 まぁ、此方もカケル君が勇者とバレたら不味いので本当にそれは例えだが。周辺国に何の知らせもせずに、国境付近に勇者を派遣することなんて軍事的威圧の他ならない。勇者は一人で大量破壊兵器となるからだ。実際に過去ではとある国に召喚された勇者が戦争に出て、一回の攻撃で数万の軍勢を焼き払ったという記録がある。


 これに対抗するには同じ勇者か、原初持ちをぶつけるしかない。他には賢者や剣聖、魔王と呼ばれる到底国の下にはつかない奴らしかいない。



 勿論今のカケル君や他の勇者達にそんな力は無いのだけどね。それでも万が一である。まぁ、王はバレた時のことも考えて勇者を派遣したんだろうけど。



 それは勇者なら言い逃れが出来るからだ。カケル君は知らないようだが、勇者には個人で自由に動けるだけの権利がある。これが騎士団や軍だったらそうはいかない。どちらも国に属する組織である以上、上からの命令でしか動かないはずなのだから。



 その点、勇者は国に属することはなく、世界の大切な財産と考えられているから安心だ。それでも、再び言うが万が一のためバレることは極力避けなければならない。



 


「そういこともなにもない。お前らはここで死ぬだけだ」


「「っ!?」」



 


 そう言うや否や隊長だけでなく、周りの兵達も剣を鞘から抜き此方に走り出して来た。それらに国の紋章等は刻まれていない。やはり、裏の部隊だろう。




「『光の盾』!」


「『魔術強化』!」



 


 アリスが即座に防御魔法を唱え、私はそれに合わせて魔法の効果を高める強化魔法をかける。カケル君とソウタ君もいきなりの敵の行動に驚いて固まっていたが、アリスの声で魔法が唱えられ、戦闘が始まるということを理解し、我を取り戻す。そして、光の盾に添えるように剣を横に構える。



 


「魔法か……無駄だ」



 


 その敵の一言と同時に一斉に振られていた敵の剣が『光の盾』に当たり、ガラスが割れたかのような高く鋭い音が辺り一体に響き渡る。



 


「魔法が……!」


「破られた!?」



 


 アリス自慢の『光の盾』が破られたことによりアリスとソウタ君が驚きの声を上げる。魔法を破った剣はそのまま此方へと降ってくるが運良く構えていたカケル君の剣に防がれる。


 しかし、それは前方、隊長らしき男の分だけだ。



 


「『光の城壁』!」



 


 そのため直ぐ様『光の盾』より強力な魔法を唱え、防御する。


 そして聞こえてくる金属と金属が当たったような鈍い音。敵の攻撃を防げた……成功だ。


 カケル君と力比べをしていた隊長らしき男も魔法発動によって弾かれ此方は敵と一旦距離を取ることに成功した。とは言ってもほんの数メートルだが。



 


「……! お前ら気を付けろ! コイツらは想定されていた位の奴じゃない!」



 


 上級魔術『光の城壁』。それは下級魔術である『光の盾』と比べ効果は雲泥の差である。流石に魔導には劣るが。


 それでもそのレベルの魔法を無詠唱で行使したことを見てあの隊長は私達の認識を改めたのだろう。


 まぁ、誰もこんな辺境の問題に初っ端から上級魔術を無詠唱で行使出来る奴が来るとは思わないし、私も思わないからその気持ちは分かる。



 けど、私の人生が懸かってる以上手加減なんてことは出来ない。こんな序盤で死んでは元も子もない。既に今までと幾何違うのが気掛かりだが。



 


「……作戦変更だ。第一種戦闘用意」



 


 ここで隊長の言葉は終わった。しかし、此方を時々見つつ隊長の方を振り向く姿を確認するに何らかの手段で意思の疎通をしているということで間違いないだろう。



 ちなみに、何故敵にそんな余裕があるかと言うと『光の城壁』を展開している今此方側も相手を攻撃出来ないからだ。全方位これでカバーしており、相手の攻撃を通さずに自分達の攻撃だけを通すなどという都合のいい魔法は魔術には存在しない。有るとしたら魔導であろう。



 だから、相手には作戦を話す余裕があるし、此方にも考える時間がある。



 戦闘中のちょっとした作戦タイムである。



 さてさて、どうするか。



 



 

次回はさすがにこんな遅くはならないと思います。

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