第3話 この世界の授業
side:ユキ・トア・ミケルト
あの決闘で引き分けとなった後。授業が始まるというのになかなか来ない私達+野次馬等の生徒達を探しに来た先生に見つかり、少し怒られてしまった。そう言えばHRと授業の間の時間だったっけ。
決闘のために外に、演習場に出ていたため、直ぐ様教室に戻った。勿論、気絶した三人は叩き起こして。
というわけで今、本日最初の授業を受けているわけだが。ソウタ君とカケル君にとって人生初めての授業であろう。とってもわくわくしているんじゃないだろうか。
なんと言っても、魔法の授業なのだから。
「皆さん、この授業は皆さんが第三学年になってから最初の授業です。あ、特別なのは除いてです。しっかりと最高学年としての意識を持ちながらこれからの学校生活を謳歌してください。では、気を付け、礼。お願いします」
「「「「「「お願いします!!」」」」」」
第三学年。それはトネミスア魔法学園においての最高学年である。つまり、3年間で教育課程が組まれているのだ。ちなみに騎士学校の方は5年間である。
第一学年は魔法学の基礎を、貴族としての教育を。
第二学年は魔法学の応用を、魔術士としての教育を。
第三学年は魔法学の発展を、人としての教育を。
といった風に教育課程はなっている。勿論、他にも色々と行うが。
まぁ、第三学年のやることと言えばはっきりと言って自由だ。発展というのは使い魔に加えて魔術道具の上位である魔導道具。ちなみに魔法の下位を魔術、上位を魔導と言う。
その他にも面白いのがいくつかあるが、この一年間で求められるのは研究なのである。
つまり、論文を書けと言う話だ。勿論、授業も受ける必要があるのだが一年間でひとつの事象を研究する事が求められるため授業は少なめ。
「さて、本日やっていくことは皆さんも色々と忘れていると思うので復習をして行きたいと思います。この一年間で卒業論文を書いて貰いますが、それにとても役に立つのでは無いかと思います。まずは魔法の基本です」
まぁ、そんなわけで魔法の基本である。カケル君とソウタ君にぴったりの授業だ。
ちなみにこの基礎魔法学の先生は緑色の長い髪を腰の辺りで結んでいる女性の教師である。美人さんですね。
「魔法というのは魔術と魔導の二つに別れます。まぁ、単純に言うと下位魔法を魔術、上位魔法を魔導と言いましたね。さらに、そこから下級、中級、上級と別れますがそこはいいでしょう。この分け方についてはまさに三年の内容なのでまた今度です。次に魔法を発動する方法についてですが……二つ有りましたね。覚えていますか?」
「ではそこの君」と一人の生徒を指名し発言を求める。指名された生徒は突然の事に驚きながらも口を開く。まぁ、こんな基礎をわざわざ聞かれるとは思わないよね。
「はい、一つ目がマナを使う方法、二つ目がエーテルを使う方法です」
「正解です! 良く出来ました。皆さんが基本的に使う方法は一つ目のマナを使う方法でしたね。これは体内で生成される魔力であるマナを、魔力の吸収や放出する器官であるゲートを通して外部に放出して使う方法ですね。二つ目は一般的に精霊魔法と呼ばれる場合に使用される、大気中にある魔力であるエーテルを直接使用する方法ですね。これは難易度が高く、精霊等の魔法生物の協力が基本的には必要でしたね」
いきなり言われた情報量に今まで真剣に聴いてただけだったソウタ君とカケル君の二人が慌ててノートを開き、メモをしていく。確かにいきなり覚えるにはきつい量である。これだけじゃないし。
「しかし、魔法を発動させるには魔力があれば良いわけではありません。次に何が必要でしたか?」
そう続けた先生は再度一人の生徒を指名し、同じように発言を求める。
「はい、術式を構築し、そこに魔力を通す必要があります」
「正解です! 魔法は術式を構築し、そこに魔力を通すことで発動条件が揃いましたね。また、術式は基本、魔法陣と呼ばれるものの形をしており、詠唱で構築するのでしたね。では、その魔法はどうすれば発動できたのでしょうか」
今までと同様一人の生徒を指名し、その生徒が立ち上り、
答える。
「はい、術式構築の詠唱後、発動呪文を唱えることで発動します。また、全て無詠唱も可能です」
「正解です! 素晴らしいです。先生が言うつもりだった事まで説明してくれましたね。また、精霊魔法ならば精霊が全て肩代わりしてくれるのでしたね。ですが、一人でエーテルを使用する魔法を使うには一旦エーテルをゲートを通して体内に取り込む必要がありましたね」
まぁ、この後もこんな感じで続いていくわけだが魔法に関しては取り合えずはいいだろう。
さて、ここで気になる事があると思うのだが……。
『魔法』と『原初の力』は同じではないのかということだ。まぁ、結論から言うと分からないのだが。
原初の力も魔法と同じく魔力と呼ばれるものをつかって、はいるらしいのだが、術式を必要とはしない。つまり、詠唱等はいらず、発動呪文を唱えるだけ。しかし、ここは無詠唱では出来ない。そのため半無詠唱と言ったところか。
まぁ、今の所の研究ではハッキリと分かっていないのが現状だ。いつか分かる時が来るとは思うが……。もしかしたら、トネミスア王国が分かってないだけで他国は分かってるかも知れないが。
え、私が知ってないだけで上層部は知っている? それこそまさかだよ。三大侯爵家のひとつであるミケルト家の後継ぎが知らない? 今回で四度目の異世界人生である私が?
冗談キツいなぁ、ははは……。あ、魔導院の連中だけ知ってる可能性はあるかもねぇ。
あぁ、魔導院というのは正式にはトネミスア王国国立魔導研究院と言って、魔法を深く研究しているところ。いや、探究と言った方がいいかな。完全に学者の巣窟だね。いや、悪いって訳じゃないんだけど……。ある意味この世の悪意も混じってるかな。
気にしたら負けかな。変人ばっかなんてね?
さて、授業授業!
side:カケル
マズイ、非常に不味い事態になってしまったと思う。あの理不尽決闘が終わって、楽しみだった魔法について授業を受けれたのはいい。けれどもだ。
授業は幸いと言っていいのか、何故かは知らないが午前中で終わり、いざ、魔法を発動してみようと思ったら問題が発生した。何故、今まで考えなかったのか、忘れていたのかと思うほどのことだ。
それはというと……魔力が分からないのだ。
「は?」って思うかもしれない。けれども、魔力がどのようなものなのかが分からないのだ。いや、城に居たときに魔力らしきものは把握した。けれども、本当にそれが魔力なのかが分からない。まぁ、ものは試しとそれを使ってみようとは思った。しかし、動かし方が分からない。
そして、もうひとつ。
術式……詠唱知らない。
そもそも試せないことに気付くっていうね。
あぁ、もう。どうしようかな。あの詐欺使い魔は理不尽貴族含む美少女三人組に教えて貰ってるし……。てか、あの時の使い方分かりますってなんだよ! 意味分かんねえよ……。
誰かに教えて貰うって言っても知り合い居ないしなぁ。というか、目合った瞬間逸らされるしなぁ。さっきの決闘で言い過ぎたというか、なんというか。やり過ぎたのかなぁ。引き分けとは言え。まぁ、理不尽貴族は目合った瞬間睨まれるのだけど。
でも、やっぱアイツらしか居ないんだよな。少しでも関わりがあるのが。
仕方がない。アイツらに聞きに行くか。急がないと寮に帰るだろうからすぐにだ。
「おーい、少しいいか?」
「あ? 何よ?」
こわっ、やっぱ止めようかな。凄い嫌オーラ出してる……。とっても睨まれてるなぁ。
「まぁまぁ、アリス落ち着いて」
「そうよ、話位聞いてあげてもいいじゃない。そもそも、アンタが原因なのだし」
本当にそれ。
というわけで、白とオレンジの二人のおかげで話をさせて、教えて貰うことが出来ました。
助かったぜ。
……まぁ、結局魔法は使えなかったんだけどね。いや、下位魔法下級魔術って言う位の簡単な魔法なら使えるんだけど、期待してた凄い魔法は使えなかった。
何故かと言うと、マナが少ないらしい。つまり、 魔力が少ないから発動出来ない、と。他にも属性との相性も関係するらしいが。
「……なんと言うか、残念だったね」
「でも、貴方『魔装』は出来るのだからいいじゃない」
白髪の……ユキが憐れみの目を向けてくる中、理不尽貴族ではなく、赤髪の……アリスが慰めるかのような口調で言ってくる。
あれ、お前そんなにいい奴だっけ? ちなみに名前はしっかりと教えて貰った。しかし、オレンジの髪の人は教えて貰う前に用事があると言って先に帰ってしまった。なんでも王都に向かう必要があるらしい。
「まそう……ですか。それは一体……」
「あぁ、それか」
使い魔のソウタとか言う奴が疑問を投げ掛けてくる。知らないとは意外な。普通に知ってるかと思っていた。
まぁ、よい。良い機会だと思って、さっきの悪い印象を無くそうと思い、それに答える。
「『魔装』って言うのはな、武器や防具に魔法を施すことだ。これはきし……とある人に教えて貰ってな。さっきの『光の剣』のことだよ」
「あぁ、あれですか。わざわざご主人様が言うってことは凄いことなんですか」
危ない危ない。勇者という立場を隠してるのに、騎士団長の事を言うところだった。ただの貴族が騎士団長に剣を教えて貰ってるなんて言ったら怪しまれる……と思う。
……確かにそんな凄いことなのだろうか。わざわざ魔法が使えない事に対する慰めの言葉に使う位だ。
「そうね。『魔装』が出来るっていうのはとても凄いことよ。ね、ユキ」
「う、うん。確かにそうだね。武具に魔法を纏わすには緻密な操作、維持するには高い集中力が必要だからね。只でさえ出来る人が限られるのに戦闘中にそれが出来るのは騎士団の各団長や軍の将官、精鋭部隊位かな」
緻密な操作、高い集中力……そんなの意識してないんだけどなぁ。そう言えばルーストさんもこんなこと言ってた気がする。これには高い技能が必要。けれど、勇者は大丈夫だ! って。確か……勇者の武器に念じればいいって。
あー、俺はズルしているのかな? この武器になんかしら仕掛けがあるのだろう。
まぁ、気にしない方針で。
side:out
天窓から射し込む大陽の光で照された部屋の中、細やかな美しい装飾の施された椅子に腰掛ける壮年の男性。その目の前には、たった今この部屋に駆け込んで来た一人の人影があった。
「して、連絡とはなにかね」
「はっ、北部のアイルミより急報です。領主であるジーラント伯爵からの手紙に寄りますと、ノールト大森林にて魔物の異常発生とのことです」
「ふむ、それがどうしたのかね。数年に一度あることではないか」
「いえ、それが……」
報せを持ってきた男がそこで深刻な表情をし、言葉を濁す。
「どうしたのだ。はっきりと言え……お前が珍しいな」
「しかし王よ……不確かな情報な上、有り得ないことなのでございます」
「ほほう……それはアストロス帝国のことかね」
「なっ!……どうしてそれを」
「なに、王にだって目や耳位しっかりとあるわ」
壮年の男性……王は愉快そうな表情で報せを持ってきた男……宰相の驚いた表情に対して笑う。
「まぁ、確かに。それに、いつものことでもありますね」
「そうだろう。今更だ」
「毎回こちらの言わんとしていることを正確知ってるから驚くのですよ。……で、内容についてですが」
「魔物の異常発生に帝国が関わっていると言いたいのだろう? そんなの確かに有り得んと考えるわ。この世界情勢なら尚更だ。勇者が召喚される程の何かが起こると言うのに、他の国にちょっかいをするなど」
「そうです、有り得ないんです」
そこで宰相は王の言うことに同意する。しかし、自らの考えを続けて否定する。
「しかし、例年より魔物の発生数が多い上に、アイルミの街までやってくる魔物も多いとのことです。帝国の軍が確認出来たわけでは有りませんが、彼の帝国はここ数年で領土を広げています。何らかの作戦だった場合、早急に手を打たねば不味いことになります」
「その魔物は帝国軍に飼われた魔物だとでも? それに加えてあの大森林は森林である上に山脈も走っている。あそこから帝国の大軍が来るなら地形に守られてるこの王国はとっくに終わっとるよ。だから、わざわざあんな所で魔物を使って前哨戦をさせる意味は無いだろう。占領する本隊が来れないのだから」
王は一旦口を閉じる。しかし、その表情は自分の言った言葉とは反対に優れない。それを見て宰相は言う。
「その様子ですとご理解してるようで。ええ、そうです。これが陽動……時間稼ぎならば意味は大有りです。このままアイルミを魔物を使い襲い続ける。すると、王国はその魔物の討伐と街の復興、森の調査に騎士団や軍を割くことになる。騎士団の数はどこの国も少ない……そもそも無い国も有りますが、列強諸国と比べ兵の絶対数が少ない王国には致命的な一手となります」
「……可能性としてはそうだろうな。早めに気付けて良かったと思わずにはいられない。これだけで連絡してきたとは……やはり、あの街にジーラント伯爵を置いといたのは正解だったな」
王は山脈を挟んでいるとはいえ、帝国との国境線である地域に頭の切れるジーラント伯爵を置いといて助かったと考える。例え考えすぎだとしても、実際に起きてからでは遅いのだ。
「しかし……あの軍事国家である帝国からすればそもそもこんな小細工必要無いはずですが……ただ単に念入りにやっているだけならいいのですが」
「まさか我が国の騎士団を恐れているわけでもあるまい。何かしらの理由があるんだろうな……少ない戦力で勝つ理由が」
「王国に寡兵で攻める理由……いや置いときましょう」
宰相の呟きから考えられる王国の未来の姿を想像し、嫌なものを見たと頭を振る王。しかし、王である以上それを防ぐ手立てを考えねばならない。
「早くこの問題に対処せねばならん。かと言って騎士団や軍をアイルミに送るのならば帝国を喜ばせる。帝国が攻めて来るならばバーダンに派遣する必要があるしな」
バーダンは王国北東部の、アイルミ北部から続く山脈が南にくぼんだところの北側にあり、王国領の軍が展開出来る平地の中で唯一帝国領と接している広大な平原にある街である。
「それにまだ確実に帝国が関わっていると決まったわけでも無い。逆に刺激しては馬鹿らしい」
ここで王は再び口を閉じる。しかし、その顔に深刻な表情は無く、答えは分かりきっているようだ。それは宰相も同様だ。
「……学園に使いを出せ」
重々しく口を動かし宰相に伝える王。
「はっ、それは剣の勇者様にですね?」
「あぁ、非常事態だと。勇者様の力が必要だとな」
確認をとる宰相に少しおどけたような言い方で伝える王。余り硬い雰囲気は好きでは無いのだこの王様は。
「まぁ、各国を刺激しないで動けるという点では正しいですね。まだまだ戦力としては低いですが」
そんな王の意思を汲み取り、ちょっとした軽口を言う宰相。
「……成長するための旅をプレゼントしてやるんだよ。これからに期待するんだ」
「最初にしては難易度が高い気がしますね……では失礼します」
宰相が部屋を出ていくのを確認するとそこで一息と言った様子で王は力を抜く。そして、やれやれと言ったように呟く。
「まさかこんな早く勇者を呼び戻すとはな……」
そして、王は続けて思う。
あの若者にはもっとゆっくりとしていて欲しかった、と。
勇者が必要になる世界なぞ碌なもんじゃない。その上、そこに人の意思が混じる。悪意だけでなく、好意もだ。しかし、そんなの関係無い。どんなに面倒臭い世界になることやら、と。
表は勇者を立てて協力を。
裏は自国の目的を貫こうと。
世界の危機なんていう混乱は、討ち果たすべき敵であると共に、利用すべき道具に過ぎないのだ。
段々文字数が少なくなってる気がします。(事実
まぁ、説明回であり繋ぎ回ですし?(震え
にしても、毎回誤字脱字が心配です。