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第1話 役者は揃う 

ミスが無いといいですが。




 さて、過去を振り返っている内に使い魔召喚の授業は終わったようだ。アリスので最後だったしな……他の生徒や教師達は落ち着きを取り戻し、この部屋から徐々に出て行っている。


 人が召喚されてもその時に驚くだけで大して気にしないというのはなかなか凄いと思うが。まぁ、使い魔としては凄いと見られてないということだろう。どう見てもただの人だからな。



「あのー、ここはどこなんですか?」



 落ち着きを取り戻したのか、平和な日常から拉致られた……使い魔として召喚された蒼太君が私達三人におずおずといった様子で話しかけてくる。

 それにハッとした様子で答えるアリス。



「トネミスア王国の魔法学園よ、一応聞くけど貴方は……何者?」



 アリスは一生のパートナーとも言える使い魔を覚悟を決めて召喚したら使い魔とはとても思えないこんな弱そうな人間が出てきた、そのような事実を認めたく無い。だから僅かな希望に掛けて聞いたのだろう。使い魔は基本一人に対して一体なのだ。

 しかし、現実は非情である。



「と、とねみすあ? ……あっ、白崎蒼太です。高一です」


「人間?」


「えっ! あ、はい。人間です」



 アリスは聞いたこと無い国名に戸惑っている蒼太君を睨み名前を言わせる。そして、間髪を入れずに人間かを訊ねる。

 そんな当たり前なことを聞かれてさらに戸惑う蒼太君。


 相手の気持ちそっちのけでこっちが聞いてお気の毒だがここまの流れは一度目、二度目、三度目の異世界人生と変わらない。


 蒼太君も何だかんだでいずれ活躍するし、結構重要なポジションだったりするので今まで以上に仲良くなっといた方が良い気がする人物。

 なので今は優しく接したら良いかな? 第一印象は大切ですし。ちなみに一度目はいろいろと混乱し、頭が真っ白になってこの場では大して話していなかったり……。まさか同郷の者が召喚されるとは思わないだろう?


 確かもう一人の幼馴染、ステイル侯爵家のエレナ・トア・ステイルがこの後に蒼太君へ声をかけたはず。



「ソウタ君って言ったね。自分が今どういう状況か分かる?」



 アリスが不機嫌になったのを合図にエレナが今まで通りの対応する。 



「わっ、分かりません!」


「「だよね~」」



 慌てながら言ったソウタ君に対しつい自分もエレナと一緒に声を出してしまった。まぁ、別に良いか。ついでに自己紹介でもしとくべきかな? 

 ちなみにアリスはツーンって感じの態度を貫いてます。こんな弱そうなヤツ嫌だっていうね。


 さて、エレナが話し始める前にっと。



「えっと私はユキ・トア・ミケルト。そしてこちらのオレンジ色のがエレナ、赤いのがアリスだよ。よろしくね。君はその赤いの、アリスの使い魔として召喚されたんだ」


「……使い魔ですか? 赤い……人の?」



 ソウタ君がポカンって感じで口をだらしなく開けている。まぁ、普通そうなるよね。 



「あっ赤いのって何よ、赤い髪のでしょ!? ちゃんと説明してよ、エレナも嫌よね?」


「うん、ちょっと何か嫌……かな? ……というよりは名前でしっかりと呼ばせた方が良いんじゃない?」



 さすがエレナ、アリスの注意する所がずれてるのをしっかり注釈している。


 まぁ、そんなことはほっといてっと。



「そう、赤い人の使い魔としてソウタ君は召喚されたの。これは解除してあげたいのだけど、そう簡単には出来ないし、ソウタ君のためにも解除はしない方が良いと思うんだ。君は見たところ……この世界の人間では無いよね」



 そこまで言い蒼太君に確認の意志を込めて顔を向ける。まぁ、答えは分かりきっているが。蒼太君が頷くのを確認したところで話を再開する。



「だから例え解除したとしても君には帰る場所がない。だから当分はこのままの方が良いと思うよ。使い魔なら基本衣食住には困らないしね」



 そこでアリスの方を向き、いきなり見られて戸惑うアリスを見れたところで蒼太君の方に向き直す。



「なんてたってご主人様がいるんだから」


「……ご主人様ですか、……はぁ」



 そこで蒼太君ぽかんとするが、すぐに目を閉じ、思考に集中する。少しの間唸っていたが内容を整理、理解出来たのか目を開く。



「確認させて下さい……ここは別の世界、異世界なんですね。そして自分はこの世界に赤い人の……アリスさんの使い魔として召喚された、と」



 ソウタ君はこれからの事を思ったのだろうか、とても悲しげな顔をした。


 それを見て思わず口にしてしまう。



「うん、その通り。そして、もしかしたら君は帰れないかもしれない。……やはり帰りたいかい? 元の世界へ」


「それは……もちろんです。この状況にわくわくしている自分も居ますが、やはり……」



 こちらを気にして、少し迷いながら言うソウタ君。こちらの事も気にするその姿、やはり心優しい性格だと感じられる。今までのループと変化はなしだね。



「そう……よね、帰りたいのよね。嫌なのよね、私の使い魔なんて……私のせいで……」



 しかし、その言葉を聞いたアリスがさっきのツーンとした態度は何処にいったのか、急に悲しげな顔をする。まぁ、いじけてたとも言えるから心が弱まってるのかなと思うよね。


 ……というわけではなく、いやあるかも知れないが実はこれも本来の姿である。優しい心も持っているというわけ。いい子でしょ?



「いや! そ、そんなわけじゃないんです! だからそんな悲しそうな顔をしないで下さい!」



 とても慌てるソウタ君。まぁさっきまで強気な奴が泣きそうになったら慌てるよね。いや、怖がる方があり得るかな?


 ソウタ君は「この世界に来れたの嬉しいですよ」と付け加えて、アリスを慰めようとする。そこにエレナも混じる。

 果たして私も一言かけた方が良いのだろうか。



「ほら、アリス。ソウタ君もそう言ってくれてるし、そんなに気に病まないの、ね?」



 エレナさんマジおかん。アリスのうつ向きがちな顔を横から覗き込みにっこりと微笑みながら 優しく言葉かけている。誰にも真似は出来ませんわー。

 そんな疚しい考えを感じとったのかエレナがチラッとこちらを見て冷たい視線を向けてくる。はて、なんの事やら。



「……何か?」



 ちょっと惚けた感じの顔でエレナに視線を合わせ、呟く。

 すると、エレナは諦めたような顔を一瞬見せ、何でもないかのように取り繕う。



「いえ、なんにも」



 そして、エレナはにっこりと笑うと、アリスの方へ向き直り引き続きアリスを慰め始めた。



 さて、どうしようかね。エレナもそうだけどこっちもたいへんである。


 確か王国の五聖勇者が召還されるのがだいたい一週間前で明日にはその召喚された剣の勇者であるカケル君がこの学園に来るはずだ。

 ある程度動きを考えとかなければ……。




 決して今までのような人生にしてはならない。そう強く誓う。


 


  












 そんなわけで翌日である。

 ここは寮のエントランス。教室へ行くのは何故か一緒と決まっているため待ち合わせをしてるところだ。


 今日、この日に剣の勇者であるカケル君がこのトネミスア魔法学園に来るはずである。使い魔召喚の翌日。1日早ければカケル君も使い魔が手に入ったというのに。



「「おはようユキ」」 


「あぁ、おはようアリス、エレナ。あれ、使い魔君はどうしたの?」


「……そんなの知らないわよ」


 少し怒気を含みながら放たれる言葉。一体何をやらかしたんだろうね。



「どうしたの? あ、エレナが答えてね」


「え「えぇ、分かったわ。そうね……」……むぅ」



 アリスに聞いても偏った事しか聞けないだろうから公平な目線、話ということでエレナの口から聞くことにする。まぁ、多分自分の知っている通りだとおもうけどね。


 まぁ、そんなに剥むくれないで頂きたいアリス。


 そんなこんなでエレナの方へ顔を向ける。さぁ、話して下さいな。



「彼は今干されてるわ」



 ハッキリと言って意味分からないよね。四度目でも分からないよ。とりあえず今まで通りの返事を。



「それは社会的に?」


「んなわけないでしょう……社会的に干されるには早すぎるわ。物理的によ」


「人間を? 物理的にって洗濯物と並んでるの?」


「えぇ、そうよ」



 ご想像下さい、生乾きの人が洗濯物と並んで竿に掛かっている姿を。

 これが毎回起こる謎の現象である。


 果たしてどうやったら人が物理的に干される条件が揃うのか。原因はなんだっけなぁ。えっと確か……。


「彼、水浸しになっちゃったから。確か……紅茶を溢したのよねアリス?」


「うん、そうよ。使い魔なんだからそれぐらい出来るでしょうって言ってやらせたわ。ティーポットごとよ……まったく。ちなみに正確には紅茶浸しね」



 それは使い魔がやることではなく、使用人のやることなんだけどね。決して一緒にしてはいけないはず。



「……茶葉が勿体ないよ」


「……茶葉よりもっと気にする所があると思うのだけれども」



  はて、他に気にすることなんてあるのでしょうか。紅茶の茶葉はそこらの安物ではないのですけれどもね。アリスが使ってる葉である以上。

 まぁ、私はそこまで凝るつもりはないけどね。不味いのはお断りだけど。


 まさかソウタ君を心配しろと? あんな主人公ほっといてもへっちゃらですよ。私より全然しぶとく生きれるので。



 にしてもソウタ君を干す理由がまだ見当たないね。



「だからこっちに来た零れかけのティーポットを掴んで投げ返してやったわ。そしたら見事に中身全部があいつに当たったの。で、服を替えようにも無いじゃない? だから、あいつを干したわ」



 あー、そうそう。これだこれだ。なんで忘れていたのかが不思議なほどの鬼畜な所業。 ……さすがにそれはやり過ぎだと思うんだよねぇ。確かにソウタ君が悪いけれども被害者を増やさなくてもね。


 

「あんたねぇ……物を投げるなんてやめなさい? 仮にも貴女は侯爵令嬢なのよ。はしたないわ」



 なんか怒る論点が違いますよーエレナさん。なんでかな……仕方がない、ここは私が。



「あのね、二人ともそういうことじゃなくてそもそも投げ返すということがいけないと思うんだけど。ソウタ君を悪気があったわけじゃないんだから」



 どよ、当たり前でしょ。


 でも、なんでそこの人は不思議そうな顔をするんですかね。


 

「何言ってるのユキ、やられたらやり返すって普通でしょ?」


「確かに……じゃないよ!」



 それは場合によっては理不尽だと思うよ。一体誰に習ったのやら。侯爵家ではそのような教育してないはずなんだけど。








 さて、そうして教室にやって来て、始まるわけですが……。あ、ソウタ君はしっかり回収しましたよ? この学園の使用人から服を借りて着替えさせ、教室までつれてこさせてます。にしても、着替えさせる時に慌ててたのはなんでだろう。


 

「はい、今日は皆さんにお知らせがありまーす」


 

 この水色の髪をした教師。ひたすらかるい。今までの全てのループでもかるい。なんでこんな奴が教師に。学園長もしっかりとしてほしいものだ。ちなみに男だね。


 まぁ、そんなことより、このお知らせというのはいわいるアレである。


 

「じゃあ、入って来て」



 水色教師が教室の外、廊下で待っているであろう新入生に声をかける。



「はい」


 

 そう言ってドアを開け、入ってくる一人の生徒。


 

「みんなに自己紹介してね」 



 そう言われて黒板の前に立つ黒髪の、ソウタ君とはまた違ったイケメン系統の一人の生徒。 


 そう、こいつこそが全ての元凶……な気がする奴。


 

「今日から皆さんと一緒にこの場所で学ぶことになった翔・榊原(カケル・サカキバラ)です。よろしく」


 

 五聖勇者の一人、剣の勇者 榊原(さかきばら) (かける)


 

 この世界のもう一人の主人公だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side:out

 

 

 

 


 時は遡り、多分1週間前……。







 side:???





「「「我ら運命の変革を求める者」」」



 この部屋の中央にある魔法陣の周りに立ち並ぶ魔導師のおじいちゃん達が力を込めて詠唱をする。



「「「望むは平和、願うは力」」」



 ひとつひとつの言葉に合わせて魔法陣の輝きは変わっていく。



「「「異界の門が開く時」」」



 その輝きが最高潮に達した時、鍵となる言葉を言い放つ。 



「「「来たれ────











   ───希望の勇者よ‼」」」




 視界が白い光によって埋め尽くされていく。静かな部屋の中、視界が回復する頃に声は響き渡る。



「ここは……?」



 目に映ったのは一人の青年。黒い髪、東洋人の顔立、今の日本語……うん、確実に日本人だ。


 その返答に対して魔導師のおじいちゃん達の中から一際豪華な衣装を身に纏い、立派な髭を蓄えた人が集団から一歩前へと進み出て口開く。



「早速ですが、その力を貸してくれないでしょうか。世界のために、貴方の力を」



 そう言い切ると悲痛な顔を浮かべながら頭を垂れ、膝を地につける豪華な服装の人……この国の王だ。



「なっ、……貴方は? 世界? それに……ここはどこなんですか……?」



 周りの状況を確認し驚くのをよそに話を進める。本当に嫌だよね、そういうところ。結構黒いよ、この国の王は。見た目とは裏腹にですます口調というところも怖い。


 相手に考える暇も与えないというところがね。僕のところは随分と恵まれてるらしい。



「はい、ここはトネミスア王国。私はこの国の王でこざいます。どうか、この世界の危機を救ってはくれないでしょうか!」



 説明は早口で済ませ、主張は強い口調で言う。こうして相手の心に強く響かせるのだ。そして、相手はそれを素直に受け入れる。混乱してる時に言われたらね?



「トネミスア……王国? 世界の危機?」


「はい、そうです剣の勇者様。どうかこの世界の救世主となって下さい!」


「剣の勇者? 世界を救う? 俺が?」


「そうです、貴方様の手で、力で、この世界を救うのです!」



 王が勇者に歩み寄りその手を手に取りながら言う。



「俺の力で……救う。……はい、分かりました。救います、この世界を!」



 そして、勇者はこの無理ゲーにのせられる。そんな風に手を握り締めても恥ずかしいだけだ、すぐに現実を知るよ。つくづく誘拐とか、ドッキリとかの発想が出てこないのも不思議だよね。この時にさ。話術ってこわい。


 にしても、今王様がやってる動作って普通は姫様とかがやるんじゃないかなと思うけどね。


 でも、これで世界を救うための最初の用意が整ったんだ。


 本当に……救えるといいけどね、この世界を。別に諦めたわけじゃない。本当にそうなるといいとは思っているよ。出来るものなら、ね。けれど、悲観はやめられないんだ。


 僕は彼に歩み寄る。僕と一緒に今の光景を眺めていた他の三人も同様だ。彼もこちらに気付いたようだ。喉の調子を確認する、大丈夫そうだ。僕が一番最初に口を開く。

 人に与える第一印象というのはとても大切だから細心の注意を払わなければ。



「やぁ、僕の名前は三条 久遠(さんじょう くおん)、よろしくね。君の名前は?」


「お、おう。俺の名前は榊原 翔(さかきばら かける)、剣の勇者だ……多分。よろしく」



 この人が剣の勇者ね、やっぱりか。この世界はやはりそうなんだ……あの世界に違いない……。

 駄目なのか、このままだと……いや、まだだ。断定はよくない、そのまま行動して間違っていたら目も当てられない事態になる。



「カケルくんか、僕は弓の勇者。君と同じ勇者だよ」



 カケルくんの答えに頭を抱えたくなるが今はその時ではない。表面上何事もないように。

 いや、新しい仲間に喜ぶように装いながらそれだけを言い、僕は一歩下がる。彼を他の三人に譲る。勇者が一人しか居ないと思ったら大間違い。彼の驚く顔をよそに自己紹介をしようとする三人を視界に納めながら考える。



 

 槍の勇者 仙崎 文康(ふみやす)

 盾の勇者 朝比奈 恵人(けいと)

 杖の勇者 東雲 (さとる)

 剣の勇者 榊原 (かける)


 そこに僕、弓の勇者を加えて五人。確か五聖勇者と言ったはずだ。






 果たして僕たちは世界を救えるのだろうか。




 ここが僕の知ってる世界ならば、それは難しいかもしれない。







 ……にしても、なんで勇者っていうのは全員日本人なんだろうね。


 















 side:剣の勇者 カケル














「おはよう、調子はどうだね? 剣の勇者カケルよ」



 ここは謁見の間、お分かりだろうがトネミスア王城の一室である。当たり前だが目の前の玉座に座っているのはトネミスア王である。

 昨日、この世界に召喚されて今日の朝。若干浮かれていた気分はいつも通りに、思考はクリアになっている……はずだ。



「はっ、おはようございます陛下。お気遣いありがとうございます。して、要件は」



 部屋の扉の前で数十分かかって叩き込まれた作法にならい答える。王様を待たせたのかな……いや、もしかしたらこれを見越して早く呼ばれているかもしれない。


 さて、昨日の態度とは一変して今日はまさに王といった堂々たる立ち振舞い、口調で目の前の中年は存在してる。


 なんか悪い詐欺に引っ掛かったかな。



「あぁ、それはな。「陛下、ここは私が」……ふむぅ」



 王様が説明しようとしてくれると、その言葉を遮って王様の横に居た一人のちょび髭を着けた文官が数歩前に進み手出てきた。


 不敬罪にならないのかな。王様の言葉を遮っておいて。 

 まぁ、この考えてる間に王様は小声でなんか伝えてたから許可は降りたということかな。



「私は国王補佐官ベルマン・オズマと申します。剣の勇者様。どうぞよろしくお願いいたします」


「はい、剣の勇者のカケル・サカキバラです。よろしくお願いします」



 このちょび髭のおっさんが相手なら少しは楽にしていいかな、王様は変わらず玉座に座っているけど。


 コホン、と喉を鳴らすとベルマンさんは口を開き始める。



「して、今回の剣の勇者様へのご用件ですが……。勇者様は昨日この世界に来たばかり、まずは騎士団に混じって剣の稽古に励んで頂きたいと思います」



 ちょっと待て、このちょび髭なんつった? こちとら一般人だぞ。



「待って下さい! 俺は生まれて此の方剣なんて一度も使ったことがありませんよ!? もっとこう、何て言うか……いちからしっかりと教えてくれる方がいいんですけど。騎士団って絶対プロの方々ですよね? いきなりハードな感じは……」


「安心してください、騎士団総長を務める第一騎士団団長ルースト殿が懇切丁寧に教えて下さるようです。それに加えてあなた様は剣の勇者、神のご加護によりある程度剣は使えるようになっているずです。……それとも剣聖に頼んだ方が良かったですかな? 丁度、我が国に滞在してるはずです。お呼び致しましょう」


「いや、いいです」



 マジでいいです。即お断り。字面からしてもっとヤバいはず。


 ……仕方がない、そのルーストとやらに教えて貰うしかないのか。剣聖じゃなくても充分ヤバい気がする。


 にしても、この世界救えと言われてる俺からすれば稽古なんかよりすぐに旅に出て冒険しながら成長とかでいい気がするんだけど。決して稽古が嫌なわけじゃないよ。


 急がなくていいの? 世界の危機なんじゃないの?



「ご安心下さい、勇者様には最低限の状態で旅に出て頂く必要があるだけで御座います。稽古も短く終わらせ、すぐに世界を救って頂く旅に出て頂くことになるでしょう」



 ベルマンさんは俺の表情から察したのか、すらすらと答えてくれた。文官にはこういう能力も必要なんですかね。


 まぁ、つまりすぐに死なれちゃ困るからある程度戦えるようにしてからと。それにしても、世界を救うって具体的に何をすればいいのだろうか。


 後、気になるのは他の勇者達が何をしてるかだよね。昨日の召還された時以外見ていない。他の国々で先に召還されていたらしいし、その国に帰ったのかな?



「あのー、他の勇者達はどうしたんですか?」


「はい、他の勇者様方は召還された国へそれぞれ帰国しました。何か気になる点がありましたか?」


「いや、そんなことないのですが……」


「では、これにて今回の謁見を終います」



そうベルマンさんが言い終わると王が皆に向かって解散と、号令を出す。そして、自分は一人で皆より一足早く謁見の間を出ていく。


 普通は勇者って複数人いるなら一緒に旅するんじゃないかなって思っただけ。まぁ、確かに集まって行動するよりバラけた方が効率はよいのかもしれない。一人ひとりが強大な力を持つように勇者はなるらしいし。 


 そう思い、歩きながら自分の腰に装備している剣を見る。この剣しか自分は使えないそうだ。剣の勇者である以上、そのようだし、他の種類の武器も駄目だそう。試したことないので分からないが実際外そうとしたらびくともしなかったので本当なんだろう。ちなみに防具は大丈夫らしい。まぁ、駄目だったらなんなんだろうかと思うが。


 いつかこの武器では敵わなくなるのではと思ったのだが。なんでも勇者の装備は強化することにより強くなるらしい。それと勇者自身が強くなる……レベルとステータスを上げることにより勇者は強大な力を手にするのだとか。それとは別に凄い力もあるらしいけど。確か原初と言ったかな? 勇者全員が持っている──。



「剣の勇者様」



 さて、そんなことを考えていると声をかけられた。この人は騎士っぽいな。



「騎士団長がお呼びです」



 あ、死刑宣告ってやつですね。あはは、早かったね。


 そんなこんなで俺は数日間みっちり騎士団長と稽古した。

 思い出したくない位にはキツかったです。剣聖の方がもしかして楽だったかな? お若い人らしいし。


 ちなみに俺の実力は一般の兵士3人同時に相手出来るぐらいにはなったらしい。全然実感湧かないけどね。まぁ、勇者としては弱いけど、日数と元を考えれば充分だって言ってた。さすがは勇者らしい。





 そして、今日の朝また王様に呼び出された。



「剣の勇者カケルよ、其方には魔法学園に入学することを命ずる」


 この一言である。


 あれ、王様。旅するんじゃないの?


 ちょび髭が答える。



「ご安心下さい勇者様、現在のところ勇者様を必要とする規模の被害を確認出来ておりません。勇者様にはじっくりと力をつけて貰い、この危機に対抗して頂きたいと思います。それに加え、信頼出来る仲間にも出会えるかと」



 つまり、知識と仲間集めと。後剣振れと。



「魔法の習得も出来ることを願っております」



 よし、行こうか学園。



 魔法ね、魔法。使いたかったんだけど使い方が分からない。この世界来て1日目に試したんだけど全然駄目だった。魔力なんて感じられませんよ。……少し違和感はあったけど。もしかしたらそれだったんですかね。







 というわけでやってきたトネミスア魔法学園。ちなみに騎士学校もあるらしい。そっちは国立で完全に武術ばかりらしい。

 滅茶苦茶ルーストさんにそちらを推されたが、他の人達が魔法学園の方が良いと言ったのだ。個人的にも魔法学園の方がよく、助かった。



 しかしである。



「そこの貴方、コイツと勝負しなさい!」



 いきなりなんなんだろうか。


 王様の使いの人と校長の所へ行き、話し、一人クラスへ行き自己紹介。そして、解散。いわいる今のは朝のホームルームというやつである。なんでこんなに時間は調度いいんだ?

 ちなみにみんなに勇者という事は隠している。勇者と知っていたら何かと特別扱いされそうだからということだ。



 でだ。ここまでは良い。問題は解散後である。


 黒い髪の毛の少年を連れた、長い赤い髪の美少女が突っ掛かって来たのだ。


 ちょっと意味が分からないだろう。安心しろ、俺も分からないし、その二人の後ろに立っている二人、きっとこの二人の友達であろうオレンジ色をした髪のこれまた美少女と白色を髪のこれもまた美少女もなんとも言えない顔をしている。


 果たしてどうすればいいのだろうか。



「もう一度言ってくれますか?」



 もっと強く言ってやりたいところだが、勇者という立場を隠している以上貴族様には逆らえない。特に高い立場だったら厄介極まりない。まぁ、それでも偽装用の立場が一応与えられていてある程度の貴族よりは上だが。でも、如何にも偉い感出してるからなぁ。



「コイツと勝負しないさい!」


「いや、どうかしているでしょ!」 

 


 これは俺じゃない。隣に居た、コイツと呼ばれた黒髪の少年……日本人っぽいやつである。

 俺の気持ちを代弁してくれていてとても助かること。


 それにしても、そもそも勝負したら一瞬でつくだろうからやる意味ないと思うんだよね。


 自分、兵士三人相手出来るらしいですから。もちろん、その事以外にも勝てる自信の根拠はあるんだけどね。



「別にいいけど、勝っちゃうよ? こんな大勢の前でいいの?」



 今思ったがここで戦った方が学園での何年間だかの立場を決めれるかもしれない。

 勝てばあの偉そうな赤い髪の美少女より上ということが示せるのでは? 人ひとりに学園で命令するぐらいなんだから結構立場は高いのではないかと思う。


 ということは良いかもしれない。



「くっ……何なのコイツ!! 無駄に偉そうにしちゃって!」



 あ、やばそうです。結構ヒステリックですね。



「まぁまぁ、落ち着いて。イライラしても意味ないって」


「あんたは黙ってて! ていうかあんたがさっさとやれば済む話でしょ!! 元を言えばあんたが原因なんだからね!!」



 美少女なのにね……ここまで口が悪いとは。天はなんと勿体ないことをしたのだろうか。


 黒髪のお前もお気の毒に。まさに典型的理不尽貴族だな。



 




ストックが無くなっていく……。


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