プロローグ2 三度目までの異世界人生
三度目までの異世界人生を振り返る。
生れて、異世界に転生したということを理解して、順風満帆だと思っていた人生、死ぬまで何も分からなかった一度目。
前世が恋しくて使い魔君や勇者君に私的に接触してしまった私。二人が少し戸惑ってたのもあるかも知れない。異世界での先輩だから助けてあげようとも思ったのもある。
それにより起きる影響も考えずに。
この時、接触しなければ一度目も何も死なないでループなんて無かったかも知れない。例え、死んでも変わった、別の人生に……ループになっていたであろう。
一度目の死因、それは世界の最初の脅威となった魔王の討伐後。王城で行われた勇者君率いる私ら魔王討伐隊の祝勝会。トネミスア王国の王族、貴族達に加え、各国の他の五聖勇者、王族、重鎮達も招かれた大規模な集まりだった。
そこを魔族の新魔王派、つまり敵対した魔族の過激派の残党に襲われたのだ。
奴らの狙いのメインは私達魔王討伐隊。そこにオマケの各国の重鎮達。この時を狙えば絶対にこちら側、魔王討伐連合に何かしらの被害を与えることが出来たのだ。
例え、私達の殺害を失敗したとしても戦闘能力が無いのがほとんどの各国の重鎮達は必ず殺害することが出来た。
私達は何とか攻撃を防いでいたが敵は残党と言っても大勢で四天王と呼ばれる強力な個体の生き残りも居た。
隙を突かれ、貴族達を殺害された。その時に私達も一緒に囲まれたがそこは流石は勇者パーティと言うべきか、全員で巧みな連携技で攻撃し何とか包囲網を崩し、撃退に成功した。
しかし、私にとっては失敗だった。
何故ならそこで私は死んだのだから。
この襲撃から生還出来たのは剣の勇者パーティの中で私以外のメンバーである。私が敵の最後の一撃というやつから仲間達を己の身を顧みず守り抜いたのだ。その頃の……世界の、勇者のためなら何でもという精神のある私にとっては本望であった気がするが。
しかしだ、私はそこで死んだ……このことに変わりはない。この事が全ての始まりなのだ。
二度目の異世界人生。
体が焼かれるような、切り裂かれるような感覚。それを感じた私は永遠の眠りについた……はずだった。
体感的にはすぐだったと思う。そこは真っ暗だった……しかし、何故か無くなったはずの意識が、感覚がそこにはあった。でも、思うように体が動く訳でもない。
助かったのだろうか、ならば大きな怪我のせいで余り動けないのであろう。でも、目なら開けられそうだ。目を閉じてるから真っ暗なのだろう。
実際に目を閉じていたようで目を開けてみると幼い頃の記憶にある若々しい両親の顔とまだ幼い、放浪してない兄の姿があった。
何故かパニックにならず、冷静に考える事が出来た。家族の姿を見て、安心感を感じたのかも知れない。
どうも自分は母親に抱き抱えられてるようだった。そう、まるで産まれた直後のように。……異世界での人生の一度目の時のように。
そのことを理解したとたん、まさに赤ん坊のように泣き叫んだ。さっきまであった冷静さは一瞬にて弾けとんだ。
そして、泣きながら誓った。今度は死なずに、この世界から勇者という存在が必要無くなるまで、勇者達に最後まで着いて行こう、と。あの血塗れの祝勝会を変えてやろう、と。
そしてまた同じような人生を歩んで行き……
また死んだ。
一度目の死因となった残党の襲撃からは自分の次期宰相という地位をフル活用して騎士団、王国軍等を動員し、警備を強化して完全に防いだ。
しかし、死んだ。
何故かと言うとあの後に国同士の戦争が起きた。そして、一度目よりも文官なのに単独の判断で騎士団とか軍を動かせる位には政治的に活躍してたから要注意人物として最優先に暗殺されてしまった。何故返り討ちに出来なかったというと裏切られたのだ。まさか裏切られるとは思わず完全に油断してしまっていた。
刃物による刺し傷……痛い、熱いと感じると同時に私は、死ぬ運命しか無いのだろうかとか思いながら意識を手放した。一体あの戦争は何だったのか、原因は分からないまま早めの退場となった。
そして、また意識が、感覚が戻った。まさかと思い目を開けてみると若々しい両親、幼い兄の姿。
完璧にパニックった。冷静になんてなれなかった。三度目の異世界人生が始まった。
このことを理解したとたん今までで一番泣き叫んだ。
そしてまた、私は殺されるのか、と思った。もう嫌なんだ、と。
さすがにもう死にたくない、勇者達なんてもういいよ、とマジで思った。あんなに努力した二度目で殺されたのだ。三度目で回避なんて出来るか、と本気で思った。二回、三回で諦めんなと思うかも知れないが人生を必死に生きて殺されているんだぞ?
逆によく心が壊れてないものだ。果たして精神年齢は何歳だろうか。もう充分老人な気がする。それはさておき……。
だから、今度の人生はとにかく自分の事を最優先に考えて行動した。余り目立たないように、死ぬ原因であろう勇者達と余り関わらないように……ハッキリ言って逃げた。
そしたら、やっぱり死んだ。一番長く生きた……かも知れない程度の今までとの差。しっかりと殺されて死んだ。粛正された。
国、勇者達に非協力的な態度。こそこそと重要な時に隠れていたりしてたのが仇となった。権力が大きくなった勇者にいろいろと怪しまれ、裏で怪しい所と繋がってるんじゃないか、国家転覆を企んでるじゃないか等と勘違いされ秘密裏に殺されたのだ。
秘密裏に殺されたのは、交流を少なくした私でも仲良くしていた人達に知られないためである。
この三度目は殆ど勇者カケル君との交流をしてなかったためか、カケル君に信頼されてなかったらしい。カケル君も旅の途中に騙されたりしていて心の傷が深かったようだ。だからだろう、性格も一度目と二度目より少しキツくなったように感じた。
殺された瞬間に見た光景。親の仇でも見るかのように憎悪に満ちたカケル君の目。まさかの本人直々に手を下された。少しどころじゃないなこれ。
どうして私はここまで殺されなければならないのか、そう思った。
そして、また暗転。しかし、意識と感覚はある。
さすがにもう分かった。四度目の異世界人生が始まるのか……。そう思い目を開けると予想通り若々しい両親、幼い兄の姿が……居なかった。
よく見ると周りの景色が違う、どこを見ても白い不思議な空間だった。その中にポツンと六畳の畳の間と掘炬燵がある。後は少しの和風家具。そこに自分は居た。達磨がとても気になる。
そして、気付く、体が自由に動くのだ。自分の体を確認すると赤ん坊の姿ではなく、成長したユキ・トア・ミケルトの姿であった。
「やぁ、調子はどうだい?」
「なっ!?」
あり得ない他人の声に思わず驚きの声が出てしまった。その時、パッと自分の体から前に戻した目に映ったのは大きな白いフードを被り、顔が見えない人だった。
私が何者かを聞くと、そいつは……白フードは少し悩んだ素振りを見せた後に
「神、かな?」
と言った。神だと? ふざけるな、本当に神様なら今の私の状況位分かるだろう。それなのに調子はどう? と聞いてくるか?
そのことを私の表情から察したのか白フードは口を開く。
「あはは……ごめんごめん、無神経だったね……例え神でも万能では無いんだよ。そんなに人個人のことは殆ど分からないんだ、特に初対面」
「……では一体何の用だ、その個人に」
申し訳なさそうな、しょんぼりした神と名乗るやつの姿に本題を突き付ける。
「あぁ、そうだね。それは次はどうするの? ってことだよ」
「次?」
そう、白フードが聞いてきたことは次の人生の事。
「四度目の異世界人生のことだよ」
「──」
────四度目の異世界人生。
やはり、あった四度目。それをどうとはどういうことだろうか。それを尋ねると
「あぁ、どのように生きて死ぬのかってこどたよ。一度目は勇者についていって死んで、二度目は努力して死んで、三度目は逃げても死んで……。どの人生もろくなこと無いよね? だから、四度目はどうやって足掻くのか、それを聞きに来たんだよ。何して死ぬのかなって?」
何して死ぬか、それをこの白フードは聞きに来たと言うのか……。
「ん? 勘違いしないで欲しいな、君は必ずしも死ぬわけでも無いんだよ? 君が頑張れば可能なのさ、ただ君は諦めてるようだからそう聞いたのさ」
「それは本当か!?」
思わず強く炬燵を叩き、立ち上がる。
なんだと……? 生きれるのか? 本当に死なないのか? 私は強くそう思った。出来ればみんなと一緒に生きて行きたい。
「だから君が頑張ればさ。君の行動で君の運命は変わる。その手で『世界の宿命』を壊すんだ」
そう言って白フードは私の手を取り、両手でギュッと包み込んだ。フード越しに目線が合った気がする……、何か願いを込めるような言い方だった。
「本当に可能なんだな? ではどうすれば良いんだ?」
私は白フードの手を払いのけながら確認をとった。
二度目、三度目は生きようとしたのに生きれ無かった。生きることはとても不可能なように見える。
「そうだね、二度目と三度目で君が生き残れなかったのは一度目と大して変わってないからだよ」
「どういうことだ……」
白フードは今、私の努力、1つの人生を否定したというのか……。その事実に怒りが込み上げてくる、がそんなことで怒っても今は意味が無いので耐える。
「君が少し変わっただけで周りの状況は変わっていないだろう? 他の人も変えれば良いんだ。君が殺されるのを防ぐ、逃げるじゃなく、君を殺すという意思を無くせば良いということさ。こうすれば世界の修正力も防げるさ。元がないのだから」
なるほど、そう言うことか。原因を潰せば良いんだな? 確かに今思えばその方法は試していない。
しかし、全ての原因を私は知ってる訳では無い。まさか、何回もループするのだからいろいろと試せばいいということだろうか。
「私は全ての原因を知ってる訳では無いのだが……一回の人生を足りてない情報集めに使えということか? そして、次の人生で頑張れと?」
そう言い返すと白フードは肩をすくめ返答する。
「いや、それは無理だよ。君は今回の人生でループは最後になると思うよ。魂が限界なのさ、例え君の精神が平気でも死ぬたびに魂というのは磨り減っていく。そもそも今までで分からなかった情報が集められるならその人生は最期まで生きれると思うよ?」
まぁ、確かにその情報を集められるなら何だかんだで生きれるかもな。でも死ぬ可能性の方が高いだろう。しかし、四度目で最後なのか……。
「なかなかハードだな」
「それだけで済ます君は凄いね……」
「もう4回は殺されてるしな、それに半分諦め始めてる」
話を聞いているうちに怒りも込み上げなくなってきた。
白フードは呆れながらも話を続ける。
「えっと、そろそろ君は四度目の異世界人生が始まるのだけどその前に少しだけ君の言う、その足りてない情報を与えるよ。これと君の経験を元に君が周りを変えて行けば良いよ。ちなみに君のこの状況についての情報も込めとくからね」
そう言うと白フードは私の頭の上に手を置き何かを唱える。すると凄まじい頭痛が起きた。
「っ!……」
一体どのぐらいの時間だったのだろうか、短いような長いようなその頭痛が治まった頃合いを見計らって白フードは言った。
「行ってらっしゃい、四度目の異世界人生へ」
その言葉を聞くと同時に私は意識を手放した。