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第11話 交差する思惑

令和二年となりました。

明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いいたします!


本当は去年の内に投稿したかったけどね……まさかひとつの話に半年以上かかるとは。


 

 side:???

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 普段ならフードに隠されてる、視界の端に後方へと靡く金色の髪が見える。私の左足が、右足が地面に着地しては蹴り上げるのと同時に上下左右へ激しく揺れるそれは、今の状況を非常に分かりやすく示してるように思えた。

 

 

「はぁ……はぁっ! ……んっ」 

 

 

 少しの息苦しさを感じ、果てには胃の中のモノが込み上げてくるような感触が喉元の寸前まで来ては無理矢理抑え込む。折角頂いた命をそこらにぶちまけては罰当たりに違いない。そんな理由だけでは無いのは勿論だけど。

 

 まだ走る。

 

 再び喉の奥に不快感を感じようとも私の行動は変わらない。それを飲み込み、前へ前へと唯々足を進めるのみ。

 

 ひたすら走る。

 

 お店等無い、道の上には建物から向かいの建物へと渡された縄に洗濯物が干してあるような居住区の細い路地を駆け抜ける。物の、人の隙間を縫うように。

 

 勿論、そんなことをしてると危ないというのは子どもでも知ってる。そう、こんなことが起きてしまう可能性があるのは分かっていた。今はお昼時。昼食を食べに出歩く人も多い。

  

「きゃっ!」

「っ……ごめんなさいっ!」 

 

 肩から腰にかけてドンッという鈍い衝撃が走る。咄嗟に謝り、痛みと同時にそのまま走り抜けることへの罪悪感を感じるが、それでも構わず私は崩れかかっていた体勢を無理矢理整え、走り続けなければならない。そう考えると足が縺れ無かったのは不幸中の幸いなのだろうか。私は止まったら最後、生きて国へ帰れるかは分からないのだから。

 

 続く悲鳴と共に少し遅れてドスッという人が地に倒れた音が今走ってきた後ろから聞こえてくる。

 いつもなら、本来なら止まって、手を取ってあげる立場なのに。今ここで足を止めることは許されない。

 ……そもそもぶつからないように歩くのに。なのに私はこんな危険な可能性を孕む行動を選ぶ、下衆な人間に成り下がらなければならない。

 


「くそっ、こんなところに居やがったか! 逃がすな、追え!」

「待て犯罪者め!」

 

 

 更に後ろから幾人かの野太い声が聞こえる。

 

 私は犯罪者じゃない

 声を大にして言いたい。けれど、そんな事を言ったところで何も現状は変わりはしない。そんなのに使う力があるなら足をもっと早く動かすのに使った方がよっぽど賢い使い方だ。

 

 

「逃げ足の速い奴め! 止まれ!」

 

 止まれと言われて止まる馬鹿は居ない。これは何処に行っても共通だろう。

 まったく、折角撒いたと思ったのにこの様だ。なんでこんなに直ぐ見つかるのか。彼らは一直線に此方へと目掛けて追ってくる。さすがに彼らとぶつかる人は居ない。私の時でみんな端に避けてはなんだなんだといった目で私達を見てくる。

 

 

「はぁ……はぁ……なんでよっ……!」

 

 

 思わず口から吐息と共に愚痴が零れる。意外と大きかったらしくその声で私の存在に気付いた、先を歩いてた男性が後ろを振り返り、走る私を見て慌てて身を翻す。悪いことしちゃったなぁ……なんて思ってる暇もないようだ。

 

 男性が端に避けた事で視界が開けた私の目には十字路が飛び込んでくる。 

 

 真っ直ぐはあり得ない。真っ直ぐに逃げても私の体力では追い付かれるのが目に見えてる。

 なら視界の遮られる左右のどちらか。でも、人気の無い場所では意味がない。

 

 ……一見、左から右への人の流れが多いような気がする。

 

 なら……決めた。

 

 狭い路地の交差点に差し掛かった瞬間、後ろに目眩ましの魔法を発動する。巻き込んでしまう市民の人達には申し訳無いが、少しの間だ。念のため低威力に抑えるために詠唱も破棄。

 

 

「天を統べる光よ『極光』!」

 

 途端に、後ろから迫った多量の閃光が私を追い抜く。目の前を向いて走る私にはより強調された自身の影が確認出来た。


 

「ぐわっ」

「くっ」

「なっ!」

 


 私は後方を振り返るまでも無く、右へと走り込む。被害の程度は悲鳴が聞こえただけで充分なはず。

 

 見えてきたこの路地の先には大通り。よし、当たり。やはりこの時間での人の流れの先は目的の大通りへと繋がっているようだ。

 少しずつ速度を緩め、息を整え、違和感の無い呼吸と速度まで落ちたら、路地を抜けて大通りの人混みに紛れ込む。

 

 ホッとするも、やはり慌てて直ぐに後ろを確認しては再び一息。流石にここまで来たら大丈夫なようだ。まだ目眩ましから立ち直れて無いのか、完全に見失ったのかは知らないが視界に追っ手の姿は影も見えやしない。

 


 

 なんとか今回も追っ手を撒けたようでなにより。

 

 逃げ切れたという安心感が緊張感と引き換えにやってくるのを感じると、直ぐにぐぅぅという、なんだか情けない音が自分のお腹の中から聞こえて来た。

 

 別に見られてる訳でもないのに顔が真っ赤に染まるのを感じながら、そう言えば今はお昼だという事を思い出し、何か軽食屋は無いかと周りを見渡す。その時、今更だが走って来て浅くに、外れかけていたフードを深く被り直すのは忘れない。

 別に遅くなんか無いはず……。そう思い、もう一度今来た道を振り返るも、既にそこそこ歩いたのか大通りと人混みしか見えなかった。

 

 こんなことでまた連中の仲間にバレたら面倒臭い。だって、きっと街のそこら中に居るに違いないのだから。油断した私を捕らえるために。

 

 そう、分かりきってるのだから気が休まらない。誰か私をこの状況から救ってくれないものだろうか。朝から晩まで……、いいや就寝中もろくに気が休めないこの私を。

 

 なんて、悲劇のなんたらぶったって現実……今目の前の状況は変わりはしない。そんなことだって分かりきってる。

 でも、期待をせずにいられないのが今の自分の心境。

 だって今の私はたったひとりぼっちの女の子。お供はとっくに捕まってどこかへ連れて行かれてしまった。そうして一人になった私はよく知らないこの異国の地で逃亡生活。直ぐに脱出したいけれど、お供を助けなければならないし、助けなくても一人ではそもそも母国に帰れない。やはりお供を助けて一緒に帰るのが一番の近道だろう。

 

 

「なんなのまったく……私が何をしたって言うのよ」

 

 思わず呟いてしまった言葉。先ほどから愚痴が止まらない。誰かに聞かれてたらと思うものの、精々家出した子だと思われるに違いないと考え直し、余り気にしないことにする。

 

 そこで再びなるお腹からの大きな音。

 

 ……そうだ、今はそんなことより、私の食事が大切なのだ。先程から大なり小なりお腹から響く音が止まらない。正直言って此方の方が周りに聞かれてないか気になるものだ。

 早いところこの空腹を満たしてやろうと、再び周りを見渡しては食事にありつけないかと視線を細かく巡らす。

 

「あっ」

 

 漂ってきた空腹を刺激する香りに釣られて顔を向けた先には、赤地に黒い太字で焼き鳥と大きく書かれた看板を掲げる一つの屋台。


 むむ……焼き鳥。それは確か……過去に召喚された勇者が伝えた料理だった筈。私も勇者様の故郷の味と聞いて気になっては居たが、私の国には扱ってる店が無かったため、食べたことは無い。

 この国に、過去より勇者を召喚しているこの帝国にあるとは聞いて居たが、まさかこんなときに出会うことになろうとは。本当はゆっくり味わって食べてみたいが、贅沢は言わない。とても美味しいそうな鼻腔擽る香りが周り一辺に漂っているが……えぇ。ゆっくり食べられはしない。でも、今食べる事自体は出来る筈。

 それに串なら奴等に見つかっても直ぐにそのまま逃げられそうだ。

 

 よし、ならばこの焼き鳥をもってこの空腹を満たす。

 

 

「あの「すいません、焼き鳥一本下さい!」」

 

「「――!?」」

 

 ……時が時で思わず必要以上に驚いてしまったが、なんてことはない。

 私が屋台のおじさんに声かけると同時に、また別の一人が同様に声をかけたようだ。それに、私の叫び声で相手も大いに驚かせてしまった。

 あんまり目立つような事はしたくないのだけれど、……まぁこのくらいは大丈夫かな。後は相手次第……。

 

 身体を隠すように出来ている大きめのローブで余りはっきりとは分からないけど、見た感じ中肉中背で黒目黒髪の少年。顔も中々良いかもしれない。それと、もう一人は羨ましく感じるぐらい鮮やかな赤色の直毛を持つ少女。容姿端麗という言葉が似合いそうな子だ。しかし、少女の方もローブで体格など……余り他の事は分からない。

 

 一体何処の方々だろうか。……一番可能性がありそうなのは貴族の御令嬢とその護衛。地味な柄のローブなんて着てるからにはお忍びですといった感じなのも頷けるもの。

 正直に言って僅かに見える髪の状態から少なくとも少女の方は庶民ではないだろう事は確実ね。少々数日間念入りに手入れ出来てませんといったところで、明らかに庶民よりは状態が良い。私の国を出てから碌に些細な手入れすらも出来ていない髪とは比べ物にもならない。

 

 

「あ、すいません。先にどうぞ」

 

 

 そんなことを考えていると、何てことも無いように先を譲られた。随分と人の良い教育を受けていると考えるか、主人への配慮が無いと見るかは困るものだけど……まぁ、先を急ぐ自分には都合良いことだと、礼を言い相手の好意に甘えることにする。

 早速おじさんに注文をし、金額を聞いてはなけなしの小銭を懐から取り出し、料金を払う。……そろそろお金も都合をつけなくては不味い。ほとんどお供のアイツが持っていたから私はこれっぽっちしかない。


 

「毎度あり! そっちの坊主はどうすんだい?」

「あっ、そうですね。じゃあこれとこれで。……それで良いよね?」

 

 

 そう微笑んで隣の少女に確認をとる少年を尻目にこの場を後にする。

 私にもあんなのが居たらなぁって思っても少しぐらいは……いいよね。

 まぁ、少女が少年の頭をべしっと叩いてたのは見なかったことにしよう。きっと貴族にしか理解出来ないような意味があるのでしょう。

 

 そうして、彼らを忘れて、次の足取りに悩もうかと思われた瞬間―――

 


「あぁ、こんなところに居たんだね。探したよ」

 

 

 ―――途端に、悪寒が走った。不味い、この声はまずい。逃げなきゃって。

 

 

「ずっとずっと、君を探していたんだ。追われている可哀想な君を」

 

 

 離れた所で聞こえた声が、耳の直ぐ傍から感じられた。

 

 

 

 

 


 side:out

 

 

 

 

 目の前を、一陣の風が駆け抜ける。

 

 今、白崎蒼太(ソウタ)は自らの目が信じられなかった。

 

 偶々同じ時に声かけてしまったから、なんとなく譲ってみれば、礼を言って焼き鳥を買っては歩きだしたフードを被った少女。

 

 焼き鳥を手に心無しか嬉しそうに歩んでいた少女の動きがいきなり固まったかと思った瞬間、少女の目の前にはある一人の男が現れたのだ。銀色に輝く鎧を身に付けた男が口を開く。

 途端、少女は走り出した。脇目も振らずに、只その人影から一刻も早く離れるように。しかし、再びかの人影の姿がブレては少女の目の前に、進路を阻もうとする形で現れる。

 

 そのだらりと下げられた手には先程まで存在しなかった一振りの細剣。細かな装飾が施されたその刀身に、模様に沿って淡く光が灯っては、次の瞬間自己を激しく主張する輝きが一気に放たれ周囲を照らす。

 いつの間にか目線の高さに合わせて水平構えられていたその切っ先はまたもや動きを停止してしまっていたフードを被った少女に向けられていた。

 

「――動かないで。君を傷付けるのは私の本意ではないからね」

「……よく言うわ」

 

 いつの間にか周囲の人々は散ってしまったようだ。この道幅から溢れるほど居た群衆は今や遠くから見守るのみ。先程まで繁盛していた屋台は全て閑古鳥が鳴く有り様。どうもここの住民の危機察知能力は高いらしい。

 

「散々私を殺そうとしてきたくせに。どういうつもりかしら」

「決してそんなことはしようとして無いよ。只、一途に私は君を探していた。そんな私から君は非情にも逃げていった。よって、少々私も必死にならざる負えなかった」

 

 ふぅ、と男の口から漏れる吐息。

 やれやれといった風にもとれるその仕草を見て、少女はギリッと奥歯を噛み締める。

 

「けれどもそれも今日で終わり」


 少女が手を横に出す。

 されど、気にした様子は無く男は語る。

 

「君はここで私と一緒に()く運命にあるのだから」

「ふざけないでっ!」

 

 少女が叫ぶ。激しい怒気を露にしながら一歩前へと跳び込む。滑り落ちるフードに、舞い広がる絹のようになめらかな金の長髪。

 

「『神の鉄槌』!」

 

 黄金に輝く光を腕に纏わせ、男の懐に入り込み頬へと右の拳を繰り出す。対して男は一歩下がっては光を宿す長剣を自らの体と少女の拳の間に滑り込ませ軽々と対処する。

 しかし、その顔には苦い表情。何故軽い衝撃だったのか、少女の考えに辿り着くも遅く。


「かかったわね」

 

 もうひとつの拳が男の胴体に間も無く襲いかかり、鎧をへこませながら鈍い音ととも男を吹き飛ばす。

 横に飛ばされた男は咄嗟に剣を地面へと腕力のみで突き立てそれ以上の不本意な飛行を防いでは、それを起点に身体を足を振り下ろす反動で立て直す。次いで左腕を突き出した姿勢から戻ろうとしていた少女へと駆ける。

 

「炎よ、我が剣に纏え『炎の剣』!」

「――させません。 『水の盾』!」

 

 剣に燃え盛る焔を宿した男の剣撃が少女に襲いかかる瞬間、二人の間に出現する宙に浮く水の塊。光を乱反射し、キラキラと輝くその盾は、それを突き破った剣が携えた炎を打ち消し、振るう威力を減衰させる。

 子どもでも往なせるくらいのものとなった剣筋を当然とばかりに軽々避けては背を見せ逃げ出す少女。

 

「ありがとう、この恩は必ず返すわ!」

「――君、どいうつもりだい?」

 

 声音に笑みを含ませながら駆けていく少女とは対称的に、一声で辺りを恐怖が包み込む。今しがた後からやって来た部下であろう者達に少女の跡を追わせる姿から、何らかの組織に属し、上位に位置するであろう男がソウタへと歩みを寄せる。

 

「あんた何て事をしてくれるのよ……何の為にこのクレンハルグへ来たか忘れたの? 馬鹿使い魔」

「い、いえ。そんなことは決してないです。けれどもあんなの……」

 

 小声で呆れたように話しかけて来た主人に向かって、健気な使い魔は放っておける訳ないじゃないですか、と続けようとして口を噤む。それほどに、いつの間にか目の前まで近付いて来てた男からの眼光は鋭く此方を貫いていた。

 

「君たち、私を無視するとはなかなかいい度胸じゃないか。この私がクルト・ルウ・ハスク・チャフラムと知っての行いかい?」


 ふざけた口調とは裏腹、底冷えするように棘の含む声。言われたその名が耳に伝わり、脳へと達したソウタとアリスの二名。少し頭を捻ってみるも、該当する知識にそのような人名は無く、首を捻るのみである。

 

「いえ、知らないわね。誰なのかしら? まぁ、きっと昼間からこんな大通りで幼気な少女を暴行するのですから大した悪名が轟いてるのでしょうけれど……どうかしたかしら」

「いや、それは不味いでしょう!」

 

 思わずソウタは叫んでしまう。つい先程自分で目立つな的な事を言っていた主人がまさかの自ら挑発するこの出来具合。クルトと名乗った男もその端正な顔立ちを見事に歪めている。

 

「ちっ、寸劇なんぞ見る暇は私に無い。おい、クルーマンこの二人を捕まえとけ。私は聖女を追い掛ける」

「はっ、ではお二方。ご同行願い致します」

 

 クルトが聖女と呼ばれた少女が駆けていった方へと駆け足で去っていく一方、丁寧な口調とは相反し、ソウタ達を数人で囲うように男の部下らがじわじわと迫る。鑑みるにソウタの魔法を警戒しているのだろう。彼らの顔に緊張はあれど油断は無い。

 

「騒ぎになるのは不味いけど、私達が捕まるのはもっと不味いわ。脱出するわよ」

「どうやってですか……転移魔法もこんな短時間では出来ないですよね?」

「あの時の私と一緒にしないでちょうだい。『風遷(ふうせん)』!」

 

 その瞬間、ソウタとアリスの二人を冷たいつむじ風が包み込み、彼らの目の前から姿を掻き消した。

 

「逃げられたか……」

「クルーマン様、追いますか?」

「いや、良いでしょう。本当に捕らえねばならなかったのならチャフラム様もご自身で対応したでしょう。せいぜい彼らは公務執行妨害、チャフラム様も体裁の為に捕まえろと言っただけで実際はその程度気にしませんよ。それに……」

 

 そこで一旦、クルーマンと呼ばれた男は自らの整った顎髭を撫でながら考える素振りをする。部下の男はその続きを待っていた。

 

「それに……?」

「彼らは今の戦力では少し割りに合いません。捕まえられないことは無いでしょう。しかし、少々犠牲が伴い過ぎます。チャフラム様なら問題ないでしょうけども……ともかく、引き揚げますよ。チャフラム様も何れ諦めてお戻りなるでしょうし」

「はっ、畏まりました。……全隊撤収! 後は警邏隊に引き継ぐぞ」

 

 こうして彼らはクレンハルグの一街路を後にする。彼らの歩む先には鋼鉄の門で隔てられた城塞が聳え建っていた。

 

 

 

 

 


 

  

 

「いっ、一体何が……?」

 

 ソウタは多少痛む頭を抱えながら辺りを見渡す。

 それを少し申し訳なさそうに、しかし情けなさそうに見ながら疑問に答えるアリスが居た。

 

「短距離間における移動。と言っても今回のは無属性の転移魔法では無く、風の属性魔法。異空間を経由したのではなく、実際にこの……って分からないわよね」

「えぇ? ……まぁはい。そうですね」

「そうよね、取り合えず屋根の上に移動したって考えてくれたら問題無いわ」

「へっ?」

 

 と、声出すも自らの周りを見渡して顔を青く染めるソウタ。どうやらクレンハルグ市街の中の数多く建ち並ぶ民家らしき建物の屋根に居るようである。先程まで一部しか見えなかった、この町の中央に構える巨大な城塞が視界一杯に確認出来た。

 自らではどうしようも無いことを悟ったソウタとは対称的に次なる企てを持つアリスは特に表情を変えずに佇む。

 

「……これからどうするんですか?」

「決まっているでしょう? 聖女サマを追い掛けるわ。折角こんなに早く接触出来たんだから、逃がす手は無いわ」

「ならなるべく早く行きましょう! さぁ、今すぐに!」

「いや、そんなに慌てなくてもいいわよ? 彼女、そんなに遠くには逃げられないでしょうし、万全な状態で行きたいから今は魔力を回復させるためにも少しゆっくりしてましょう。それに今行くとあのいけ好かない男にまた遭遇するわ」

「でも、いくら遠くには行かないからといって分からなくなっちゃうのではないですか?」

 

 ふっーと、吐息を漏らすアリス。その姿はまるで出来の悪い教え子に物を教える教師のようでもある。

 

「そこは心配ないわ。私の魔力をあの聖女サマに飛ばしといたからある程度の方向は分かるわ。じゃなきゃ流石にゆっくりしようなんて言わないわよ……あんた妙に追い掛けたがるわね。あっ、もしかして……!」

「うぇ!? な、なんですか?」

 

 心中を見抜かれたと思い焦るソウタ。しかしながらも、一筋縄の希望に賭け、問い掛ける。

  

「あの()に惚れた?」

「なわけないでしょう! フードでろくに顔も見れてないのになんでそうなるんですか!」

 

 これぞ幸いとばかりに叫ぶ。しかしながら、なかなかの勘違いをしているためこれ以上は控えようと諦観することを決意するソウタ。


 ふむ、確かにそうねと呟くアリスを尻目にソウタは嘆く。眼下数メートルを歩く人々をこっそりと眺めながら。

 

(高い所が苦手なだけなんですよねぇ僕は……)

 

 アリスにバレたらどれだけ弄られるか、想像に難しくないのだから。

 

 

 

 


 

次回、はっきりと言っときましょう未定です。

春までに数話投稿したいですけどねぇ。


それにしても登場人物がどんどん増えていきますな。

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