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第10話 心中

ありがとう平成! よろしく令和!

なんとか平成最後に間に合いました。本当に遅くなって申し訳ないです。

にしてもまだ私のは令和の変換が出ませんねぇ。



 

 

 side:ユキ

 

 

 

 視界に捉えられる長い人の列。その背景と化す薄い灰色の煉瓦で造られた城壁。見慣れてき始めたその光景に軽い目眩を覚えつつ、気分転換にと別の方へ顔を向ける。上を見ればどこまでも透き通るかのような鮮やかさを持つ薄い青色に、爛々と私達を照らし続ける太陽の光が眼球を刺激する。

 直ぐ様、その痛みから逃れるように後ろに向くと、またもやの人列。しかしながら、その後ろには先ほどの灰を被ったかのような色の城壁ではなく、優しい風にゆったりと草木が靡く黄緑色の草原が広がっていた。

 その向こう、大気の壁を通して薄っすらと見える遠い山脈。それを越えた先にある祖国をついつい思い浮かべてしまう。そうすると、もう思わずには居られない。

 そう、ここに来るまで本当に長かったなぁ、と……。

 

 思い返すと本当に色々なことがあった。

 国王様からの呼び出しがあったかと思えば、勇者君達と共にアイルミの町へと向かわされ、道中も騒がしかったと思えば、着いてからの騒動も中々のモノ。終わって復興かと思えば伯爵からの呼び出し。裏には国王様。

 そうして、聖女様求め北の国アストロス帝国まで遠路遥々。

 

 

「というわけでここまでやって来た訳だけど……」

 

 うん。

 鬱になること間違いなし。

 


「なーにがというわけよ」


 

 アリスが呆れたような、怒気も少し含まれてるかのような声音で反応する。

 あーあー何も聞こえない。理解もしたくない。

 私だってこんなところに来たくなかったよ。

 


「本当、なんでこんなところまで来たんですかね……」

「あぁ、ここ王国じゃあないんだろ?」

 

 

 ソウタ君、カケル君までがアリスに続いて似たようなことを言う。きっとその言葉の裏にある真意は私に対するものに違いない。

 そっと横に居る彼らの方へと顔を向けて見るが、私の方には誰一人と注意を向けておらず、その目線は私達の前方に聳え立つ高い城壁に向いていた。

 

 それを見て、案外私がこの依頼を持って来たことはあまり気にされてないのかもと思いつつ、私も彼らが視線を向けている方向へと顔を向ける。内心で『そうです。ここは我らが王国の北の国、アストロス帝国でございます』なんて、カケル君の問いに答えながら思う。本当になんでこんなところに来たのだろうなと。


 ……まぁ、別に王国と帝国が戦争中というわけではないし、このように帝国に来たことをそんなに気にしなくてもいいと思うんだけどね。それに槍の勇者を召喚した国でもあるのでこれから敵対する可能性も限りなく低いはず。そう、勇者が勇者たる内は。

 ただ、そんな思いが各国……王国側にはあったからとある問題が起きた時、迅速な対応が出来なかったらしい……白ローブ知識によるとだが。やけに曖昧な情報しか無いけどそんなに大きな事でもないのかな?

 

 まぁ、それは置いといて。

 

 勇者とは武器である。


 突然だか、今回の依頼において把握しておかないとなければならない大切な事実なのだ。

 それもとんでもないシロモノ具合いの。今はまだ、召喚されたばかりのひよっこなのでそんなことは無いが、成長した勇者が如何に強力かは歴史が証明している。

 つまり、勇者を派遣することはその地域に対する示威行為に他ならないと解釈される。例え、ひよっこ勇者だとしても。それは偽装にすぎないと考え、その事をネチネチと責めてくる国もあるからだ。また、真にひよっこであっても派遣期間中に成長してしまう。そんなこともある。それだけの可能性を秘めているのが勇者であるのだ。自国の勇者を平和的に運用するには国内か、事前に話を通した場所でないと気軽に運用することは出来ないのだ。

 よって、そんなこの世界の、核兵器も真っ青なレベルの戦略兵器である勇者が何も言わずにこの国に来たというのは不味いからバレないように行動しなければならないのだけども。まぁ、核兵器が訪問するとかどこの国も協議してからでも嫌な気がするけどね。

 

 

「まったく……ユキがジーラント伯爵の依頼を断っとけばこんなことにはならなかったのに」

 

 

 アリスはそんなことを平気でこの人が幾人も居る環境で吐く。ユキ、ジーラント伯爵……分かる人はすぐにこれらの固有名詞を理解出来てしまう。この国には潜入してるようなものだからもう少し声量を控えてくれないかなぁと思う。

 

 いや……あんまり気にしなくてもいいのかな。

 

 にしても、やっぱり許されてないのかな。依頼受けたこと。……いや、アリスだけだと信じとこう。

 でも、断ったらこうなったのだけどね……アリス。それに伯爵の後ろの人物が問題でして。簡単には断れないというか。勇者であるカケル君自身が対応すれば断れるかもしれないけど、一国に仕える貴族の身である私ではそもそも完全には断れないかなぁ。


 嗚呼、嘆かわしい。どんどん今までから乖離していくよ。

 これじゃあ白ローブの知識も余り役に立たなくなってくるかなぁ……。

 そんな風に思考が段々と負の方向へと傾いてた頃。どの位たっただろうか。いつの間にか城壁は間近に見え、私達の前に待つ人も片手で足りる程の数になっていた。

 

 

「はい、次の方どうぞー!」

「あ、はい! お願いします!」

 


 そうしてやっと呼ばれた声にソウタ君が元気良く反応する。真っ先にそちらに向かうソウタ君にぞろぞろと三人で続いていく。


 やっと私達の番かと思わずにはいられない。町に入るための検査もこれだけの人が居ると長いものである。行商や旅人などの長蛇の列が門前の道続く傍ら、その横をこの町の住民がすいすいと歩いていくのが目立つ。

 


「身分を表すものはお持ちですか?」

「これでお願いします」

 

 

 そう言いながら私達は今回の為に用意された偽の身分証明書を出す。偽と言っても造りは本物だ。国が関わっているだけあって当然だが。つまり、証明書からバレるなんてことはまず無い。

 因みに私達の偽の身分は冒険者だったりする。今時寂れた職業である。昔、魔物や未到達地域が溢れていた時代は人気があり、活気があったが今では一部の地域に限られた話である。現在は基本的に便利屋という認識で構わない。

 しかし、国家に属さないギルドに所属し、国に縛れない数少ない職業なのである。

 


「はい、分かりました。少しお待ち下さい……犯罪歴も無いですね。通って大丈夫ですよ……ようこそ、クレンハルグへ!」

 

 

 そんな歓迎の声を背にしながら巨大な石造の門を潜る。

 

 

 そう、ここが帝国の誇る城塞都市クレンハルグ。

 そして今、ラーディルティ教の聖女が居るとされる町だ。

 

 

 

 

 

 

「さて、改めて今回の目的を説明するよ」

 

 

 クレンハルグに滞在する間の拠点となる宿に着き、部屋に入ったところで一息。

 直ぐ様、皆に今回の目的を再確認することにする。一人ひとりの顔を一気になめるかの様にぐるりと見渡し、訊ねる。

 

 

「私達はこの町に情報収集をしにやって来たわけだけど……何についてか分かる人は居る? いや、全員が既に理解してくれてなきゃ不味いんだけどね?」

「それは勿論、聖女についてだろ」


 

 私の問い掛けにカケル君が即座に答える。その内容は正しいが、完全な丸はあげられない答えである。カケル君から目線を離し、ソウタ君へと合わせる。

 私の対象になったことを受けて、ソウタ君は慌てながらも返す。

 

 

「えぇ、そのはずです」

 

 

 これは不味いかな。

 いや、この段階でそこまで求めるのも苦かね。与えられてる情報も少ない気がするし。

 

 

「あれじゃない? 聖女についてもそうだけど、アイルミの襲撃についても調べなさいってことでしょ? あれは帝国の攻撃だと予想出来るって前にユキが言っていたわよね。それを平行して調べておきなさいっていうのがこの依頼の真意じゃないかしら」

「さすがアリス、完璧だよ」

 

 

 嘘偽り無き賞賛の気持ちである。やはり根っからの貴族だけあってこういうのには慣れてるからかな。

 

 

「そう、つまりはアリスの言った通りで私達は聖女様についての調査とアイルミの襲撃犯を捜査しなければならないんだ。それが伯爵ないし国王様からの指示とみて間違いないはずだよ」

「なるほどな……」

「考えが足りなかったですね……もう少し頑張ってみます」

 

 

 そんなことを言うソウタ君にアリスが反応し、厳しめに言う。まぁ、その表情は笑っているが。

 

 

「そうね、私の使い魔なんだからこの位はしっかりと出来て貰わないとね。……勇者様もこの位はねぇ?」

 

 

 そんな言葉にソウタ君は元気よく「はい!」と答え、カケル君はバツの悪そうな表情をしていたのが対象的で印象に残った。

 

 

「よし、じゃあ目的が分かったところで早速行動開始としよう! ソウタ君はアリスと一緒に──」

 

 

 アリスがソウタ君に声かけ、部屋から早速出ていくのを尻目に確認する。

 

 

「──カケル君は私と一緒に頑張ろう。ほら行くよ」

 

 

 私は勇者様の手を取り引っ張る。少し、確かめたいことがあるから。

 

 

 

 手を繋ぎながら部屋から出て、宿の受付の前を通って玄関を抜けて行けば、当然というか必然的にというか宿の方に声をかけられるはめになる。 

 

 

「おっ、彼氏さんかい? 強引な彼女さんは嫌われるかもよ」

 

 

 なんていう言葉はよく聞く。やはり強引に見られるようで目立つらしい。

 

 

「いえいえ、そんな関係じゃあありませんので」

「じゃあお兄さんかい?」

「だとしても私が上ですよ」

 

 

 こんな風に対応してる間もカケル君はあんまり表情を変えない。先程だって必要最低限の事しか話さないような感じだった。アイルミから出発してからずっとそんな感じだ。答えられなかったその表情と同様のものをずっと見てた気がする。

 

 

 宿から出て直ぐの通りは人々とその喧騒でごったがえしていた。今は丁度昼時でこの道を行く人は皆その目線の先に食事を求めてる。

 

 

「ねぇ、カケル君。先に腹ごしらえでもしとこうか。空腹じゃあ、調べてる最中に倒れちゃうよ」

「あぁ……そうだな」

 

 

 そう反応するカケル君の目線の先には何も捉えておらず、その黒々と濁った瞳は只虚空を見詰めているように感じた。

 

 

 落ち着いて食べられそうな店と条件を課すと、中々良さそうな店は見つからない。どこもかしこも雑多な大衆食堂や昼食には向かなそうな軽食を扱う喫茶店のような雰囲気を持つ店。

 宿の食堂を利用すれば良かったのではと後悔を感じ、何も考えずに宿から飛び出した自分が恨めしい。

 かと言っても、戻るには程遠い道のりを歩いて来てしまった。

 

 その間で分かったことは予想以上にカケル君が重症だったという事だ。一切話さず、何にも興味を示さない。只管私にされるがままである。

 やはり、あの司教から言われた言葉はカケル君に多大な影響を与えたようだ。それも最悪な形で。これには調査を開始するよりも前に対処しなければならないと強く感じた。

 

 てっきりもう大丈夫かと思っていたが、そんなことは無かったようだ。カケル君の被っていた仮面は薄く、強度も低かった様でクレンハルグに着いた頃には割れていた。

 やはりアイルミでの私からの抱擁だけでは意味が無かったらしい。……なんて冗談を考えても馬鹿馬鹿しく思うだけである。

 

 表面上は只物静かな青年と感じるだけだろうが、少し前のカケル君を知ってる者なら心の中に在った強いモノが何も感じられなくなっている事に気付くだろう。

 

 

「ここにしようか」

「いいんじゃないか……」

 

 

 私が見つけたのは少し路地に入った所に在った小さな隠れ家の様なお店。此処なら落ち着いて食べられる……いや、話せそうな場所であると思う。

 

 

 カランコロンと来店を知らせる音が入り口を開けると同時に店内へと響き渡る。予想通り騒がしさは感じられない、幾人かの人が食事をしてる位の店内だった。

 

 

「いらっしゃい……お二人かい?」


 

 頭髪に白色が混じり始めた壮年の店主が小さな丸眼鏡越しに此方を捉えては私達を迎えてくれた。

 

 

「えぇ、そうです」

「そうかい、席はご自由に。注文が決まったら呼んでくれ」

「そうですね、店主のおすすめの品目を二人分お願いします」

「ほう、言ってくれるね。腕にかけて奮うよ……待っときな」

 

 

 食事は勿論楽しみではあるが、正直今回はカケル君の問題が優先である。店主には申し訳ないが、味を楽しめるかは分からない。

 

 手入れされた庭が見える窓際の席を取り、カケル君を座らせる。私も対面に座り、余裕も余り無いので早速訊いていくことにする。

 

 

「ねぇ、カケル君。君は今どんな気持ちなんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side:カケル

 

 

 

 

「ねぇ、カケル君。君は今どんな気持ちなんだい?」

 

 

 正面から発せられた声が自分の心を深く抉っていく様が深く感じられた。

 

 単刀直入。まさしくその様に表すのが相応しいであろう目の前の人物のこの言葉に俺は直ぐに答えられなかった。

 

 何も考えたく無かった。

 

 自分がどんな気持ちだなんて考えなくとも理解は出来る。只ひたすら最悪だという感情が胸の中を駆け巡っていた。

 そんな今一番触れられたくない事に触れられて俺は少し考えが甘過ぎた事を今更ながらに悟った。

 

 目の前の人物に連れられてこのレストランのような場所に来たわけだけど、道中のことは余り思い出せない。気が付いたら此処に居た。もう逃げることは出来やしない。

 

 この辛い感情から目を背けることは出来ないのだ。

 

 ユキという幻想を抱いていた人物に甘え過ぎてたようだ。あの時自分を抱き締めてくれて、優しくしてくれて、それから何も訊かずに傍に居てくれて無意識に安心していたらしい。

 

 それは間違いだったと遅まきながらこの回らない頭でも理解出来た。


 この人は剃刀のように鋭い刃を向けてくる人物だと。

 

 無言を貫くも、それは許さないとでも言うように前から突き刺さる視線。

 


「……最悪だよ」

 

 

 思わず漏れてしまった言葉。これは不味いと頭の中で警報が鳴り響く。

 

 

「最悪? ……何がどう最悪なんだい?」

 

 

 ほら見ろ。逃しやしないんだ。

 ……いいよ、この際だ。全部言ってやろう。

 

 

「それは……!!」

「それは?」


 

 そう止まるな。言え、言うんだ。俺の口。

 

 

「辛いんだよ……重すぎなんだよ──」

「……」

 

 

 そうなんだ。俺には重い。希望をこの背には背負えない。

 

 

「──勇者っていうのは!!」

「……!!」

 

 

 言ってしまった。もう止められない。

 

 

「勇者は希望なんだろう? この世界の、人々の、未来への! 俺のこの手には、自分以外の! 誰かの! 命運が握られている!! 自分だけじゃいなんだ! 何人もの人達の未来が懸かっている! それをいきなり背負わされてどうしろっていうんだ……そんなの背負えやしない!! 俺には無理なんだよ……そんなの重すぎるんだ……」

 

 

 心の奥底から、ドロドロと粘着質で黒く濁った感情が溢れだすかのように感じる。

 

 

「なんで俺なんだよ!? もっと他に適任者が居たはずだろ! こんな直ぐに逃げる弱い奴じゃなくて、どんな苦境にも挫けない、負けない、諦めない! 強い奴が!!」


 

 

 まだ止まらない。心に蓋をしようにもその蓋は一緒になって溢れてしまったかのようだ。

 

 

「俺は所詮ただの学生に過ぎないんだよ。それがいきなりどうした? こんな世界に呼び出されて勇者だとか言われて、嬉しくなかったと言えば嘘になるよ。こんな俺でも世界の役に立つって言うんだから」

 

 

 誰だって向こうの世界の人間ならこんなシチュエーションを喜ばないはずがない。だから──

 

  

「……けれど、アイルミで現実を知ったさ。それまで考えていたことなんて一瞬で吹き飛ばされたよ。俺は甘かったって。ここは──」

 

 

 ──そう俺は甘かった。浮かれていたんだ。

 

 

 

「──現実なんだって」

 

 

 現実を現実だと認識していなかったんだろう。

 だからキール司教の言葉が辛かった。

 甘い考えをしていた俺が間違っていると言った。あの言葉が。

 叱られた子どもみたいに、その事実を認めたくなかった。けれど、自分の中の理性がそれを認めていた。

 

 苦しかった。とてもとても……。

 

 

「そう、だから……」

 

 

 ……少し思考に霞がかかったかのように感じる。

 まだ言うんだって、思ってたのに。

 

 何故か、そこで言葉が止まってしまった。

 まるで無理矢理新たな蓋をされたかのような。

 

 

「……うん、なるほどね」

 

 

 ハッとなっていつの間にか項垂れていた頭をあげようとするも、ユキの顔を見るのが怖くてあげられなかった。

 

 こんな自分に失望しただろう。

 

 こんなのが勇者で絶望しただろう。

 

 そんな負の感情が表に出ているであろうユキの顔を見るのが怖くて仕方がなかった。

 もう二度とあの優しく見守ってくれるような、暖かい視線を感じることはないんだろう。

 

 ユキの蔑んだ瞳が脳裏に過り、これはもう駄目だと感じた。見捨てられるのだろう。そう、思った。

 

 こうなるともう、自分に期待の目は向けられない。そう思うと少し気が楽になるように感じた。もう背負わなくていいんだろうから。

 

 反面、寂しさは多く感じるだろうなと思いながら。

 

 

「ごめんね、カケル君」

 

 ……え。

 

 耳を疑う。何故か謝罪の言葉が聞こえた気がする。

 

 

「本当にごめんね。その苦しみに早く気が付いてあげれなくて」

 


 謝罪だ。


 こんな自分に向けて。

 

 あぁ、俺はまだ見捨てられてないのだろうか。今度こそ明確に聞き取れた気がする。

 

 

「いいんだよ。そんなことを思っても」

 

 

 こんな俺を認めてくれるのだろうか。


 

「思って当然な事に過ぎないよ。だから、いいんだ。辛いなら、苦しいなら、一人で無理なら……こんな自分でもいいなら、幾らでも頼ってくれて構わない」

 

 

 優しく気持ちの良い言葉が耳から心の奥へと入り込んでいく。


 

「私にもその苦しみを背負わせてくれないかな」

 

 

 あぁ、これは参った。別の意味で顔をあげられない。

 

 

「そっちがそのつもりでなくとも、私は全力でカケル君の事を支えるよ?」 

 

 

 ポツポツと雨の中にいるわけでもないのに自分の膝元が濡れていくのを感じる。

 

 

「ね、だから一緒に頑張っていこう?」

 

 

 視界がもうぐちゃぐちゃだ。

 その言葉に答えたくとも口からはまともに声が出せず、言葉にならないモノしか吐き出せない。

 

 

 なんとか首を縦に振る。

 

 

「ふふ、分かったならほら……下向いてないでこっちを見てよ」

 

 

 なに、……分かっているだろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 あぁ、久しぶりに心が軽く感じる。果たしてこんな感覚何時以来だろうか……。

 

 これからは辛いことがあってもなんとか頑張ってやっていけそうだ。

 

 

 けれども、今は只……もう少し目の前の優しさに浸ってたい。

 

 

 

 

 


 

令和でもよろしくお願いいたします。

それでは良いGWを。

出来れば連休中にもう一話投稿したいけれど、出来ないだろうなという諦め。

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