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第8話 勇者とは

お久しぶりです。ユムノです。

覚えていらしていた方ありがとうございます。まだまだよろしくお願いします。


 

 side:ユキ


 

 アリスの魔法の発動に合わせて瞑っていた目を開けて、見渡してみれば、視界に映るのは緑色ばかり。

 先程の戦闘が嘘のように静かなこの平原では青々と生い茂る草木が風に靡く音だけが聞こえてくる。



「成功ね……みんな大丈夫?」

 

 

 アリスのほっとしたような感情が籠った問いが耳に届く。

 

「あぁ、大丈夫だよ」

「……俺もだ」

 

 

 私とカケル君が返事をする。当然、ソウタ君の返事は無い。ソウタ君に早く高度な治療を受けさせなければならないが……。果たしてこの場が何処なのか、安全なのかが気になるところだ。アイルミの街に近ければいいのだが。

 

 ……にしても、ここまで今までと結果が変わってくると全くもって先が見通せない。なんのための今までの人生だったのか、なんのための白ローブの知識だったのか。なんかいろいろと呆れる位ではあるが、それらは同時に未来の変革が可能な事を表している。そう考えると厄介なものも可愛く見えてくる……気がする。

 

  

「これで大丈夫なのか?」

 

 

 カケル君がぽつりと呟いた言葉が私の耳に届き、急速に自分の意識が現実に戻らせられる気がした。

 

 果たしてその問いは何に対する問いなのか、この何処に転移したか分からない現状に対するものなのか、先程から大した効果が出てないが必死にソウタ君の治療を続けるアリスに対するものなのか。

 ましては、自分自身の行動に対するものなのか。

 


 

 

 

 ───それとも、私の思考に対することなのか。

 



 ……まぁ、そんなわけないよね。

 

 

 でも、なんとなく返しとこうか。さすがに誰も返事しないのも悲しいだろうし。

 

 

「……さぁ、分からないね」

 

 

 なんとなくも、偽りなき本心だ。

 本当に何も分からないから。

 

 この現状も。

 これからの未来も。

 知ってる筈の私でも分からない。

 



「そうか……」


 カケル君は私の言葉に只それだけを返して、口を閉じた。

 それから、暫くの間誰も言葉を発しなかった。

 


 

 

 

 

 

 

 

 再び口を開いたのはやはりというべきか、勇者のカケル君だった。

 

 

「……ん? あれは一体なんだ?」

「……なんだろう」

 

 

 カケル君が何かに気付いたようで、同じようにその方向の空を見上げてみる。

 限らなく黒に近い灰色の雲が勢いよく過ぎていくなか、ひとつの小さな影が此方へと並みならぬ速度で向かってくる様子が確認出来た。その影は鳥の如く羽ばたいてるように見える。確か……これは安心してよさそうかな。

 

 

「んー、鳥かな?」

 

 

 疑問に思った中、ひとつの答えを告げてみるが、カケル君の期待には沿えなかったらしい。

 そのようでカケル君は自分の中でひとつの答えを既に出していたようだ。実際、腰に帯びていた剣の勇者の証である剣を鞘から抜き、切っ先を斜め前に出しつつ、目線の高さに合わせる構えを取っていた。なんでだろう。

 

 

「それは、そうだろな。しかし、ただの鳥にしては可笑しいと思わないか?」

「確かに、速度とかね。あれはどのくらい出ているんだったかな。確かこの国の王都と皇国の皇都を三、四時間くらいで行けるんだったかな?」

 

 そんな口振りで相槌を打つと、カケル君から「ん?」という声が聞こえて来た。

 

 

「……お前、あれを知っているのか?」

 

 カケル君が怪訝な表情で此方へ尋ねてくる。何をそんなに悩んでるのかと思ったけど……。


 あぁ、そうか。カケル君はあの鳥が何なのか知らないから敵だと思って戦う用意をしたのか。確かにあんな速度を出して此方に向かってくる鳥を知らないで見たら敵かと思うのも頷けるものだ。実力があるかは別として。

 


「あぁ、ごめん。カケル君は知らないんだったね。うん、私は知ってるよ? あれはエフェリアと言う鳥で、『神の遣い』とも呼ばれる鳥なんだ。まぁ、基本的には神官の使い魔だね」

 

 

 こう私が答えたところでアリスが急に顔をぐるりと此方へ向けてきた。開ききったその瞳、青ざめた表情、そのような顔でやられたその様子はまさにホラーである。

 

「───神官が来てくれたの!?」

「……いきなりだな、アリス。そんでソウタは大丈夫なのか?」

 

 

 私の神官という言葉に反応したのだろう、ソウタ君を治癒していたアリスは不安を感じさせる表情のまま此方の会話へと入ってくる。

 それを見てカケル君は良い機会だと感じたのか、ソウタ君の怪我の具合を問う。

 

 

「……いえ、分からないわ。だって、私に出来る事はやり尽くした。けれども、目覚めない。だから……、もう後は本職の神官に頼るしかないわ。……で、神官は?」

「いや、来てないよ。けど、エフェリアが見えたから来るんじゃないかと」

「……そう言うことね」

 

 

 そう、暗い表情でアリスは答えると再び顔をソウタ君の方へと向き直り微弱な『回復魔法』を何回も繰り返し唱え始める。

 


「……神官が来たら呼んで」

 

 

 そう言って後は全く此方に反応しなくなってしまった。その様子に少し違和感を覚えるが、仕方がない。

 アリスにとって初めてだろう、身近な人が死にそうなことは。それも自分の力でその微弱な生命を維持してることなんて。更には自分の使い魔だというのも。

 

 

 そうこうしてる内に高速で飛翔する『神の遣い』が此方へと舞い降りてくる。正確に言うとカケル君の所にだ。私では駄目なのだろうか。

 あの、モフモフとした羽に少し触れてみたかったのだが……。まぁ、こんな時に考えることではないか。

 

 

「……コイツ首になんか着けているな」

 

 

 剣を鞘に仕舞い、腕を横に掲げそこにエフェリアを着地させるたカケル君は何かに気付いたようだ。固定していた紐を丁寧に解き、首から慎重に外すと此方へと見せてくる。

 

 

「筒状の容れ物かな。中に何か入ってない?」

「確かにそうだな。……おっ……これは手紙?」

 

 

 私に言われ、試しにと筒の端を引っ張ってみると蓋のような物が取れた。中を覗いてみると手紙が入っていたようで、それを取り出しては広げて確認するカケル君。

 

 すると、それを見届けたぞとでもいうようにエフェリアは「クァ」と鳴き声をひとつあげると、再び空高く舞い上がり、私達の上空を円を描くようにゆっくりと旋回し始めた。

 

 

「で、その手紙はどうだい。何が書いてあった?」


 

 私がそう言うと、カケル君はふむふむと頷きながら読み進めた。そして、すぐに読み終えるたのか、幾分か表情に明るさを取り戻したかのように印象を受ける顔を此方へと向ける。

 


「お前の予想通りというか、神官が此方へと来るそうだ。確か……キールと言ったか? あの司教が直々にな。あの鳥を目印にして」

 


 そうか、それは良かったね。

 そんなような事を言ってうんうんと私は頷いとく。

 

 あの司教が来ることはソウタ君を助けられるということにおいて非常に安心出来る点である。よって、私は良いとは思うが、喜ばしとはとても思えない。

 何故かと言うとあの司教は今回で初めて知った人物だ。只でさえ元の型から外れているというのに、今また会えばさらに元の形から遠くなること間違いなしだと私の勘が訴える。

 

 しかしながら、会わないという選択肢は既に捨てられている。会わなければソウタ君は助かるか不明な上、何故エフェリアが連絡したのに司教達から逃げたのか不信感を持たれる事間違いなしである。

 

 不信感。

 持たれたら最後、自分を死に追いやる感情である。私の中で三度目の人生ほど恐怖を感じたことはないだろう。

 

 

 そんなような事を考えていると、随分と時間が進んでいたようだ。

 気が付けば此方へと向かってくる一つの集団があった。この緑溢れる平原で、白色に染まったその集団は目立つこと目立つこと。十中八九、キール司教率いる教会直属の騎士団だろう。

 

 

「おい、あれは……」

「あぁ、うん。カケル君の予想通りキール司教達だと思うよ。あんな白い格好をする集団なんてパール教会以外私は知らないかな。ね、アリス」


 

 私達の会話で気付いたのか、此方へと寄ってきていたアリスに確認を込めて話題を渡す。

 

 

「……えぇ、そうね。まったく……遅かったじゃない」

「うぉっ、お前いつの間に……!」


 

 

 そんな近くまで来ていたアリスに気付かなかったカケル君。驚いたのかカケルが変な声を上げるも、その先程よりも更に疲労の見える表情に先に続ける言葉を失う。

 そのアリスは私達の顔、そして白い集団を一瞥した後、ソウタ君の治療に戻る。ソウタ君の容態に余り余裕は無いようだ。でも、此方へと来たのは本当に司教が来ているか確認したかったのかもしれない。

 

 

「剣の勇者様方! 御無事でしたか!」

  

 

 そこへ少しして響き渡る切羽詰まった声。

 キール司教ご本人の登場である。率いる聖騎士や退魔師の数は中々のものなのではないだろうか。

 

 

「あぁ、特に俺らは問題無い。しかしだな……」


 

 カケル君は司教の問いに直ぐ様答える。そのまま続け、言わんとしたことを飲み込み、アリスの方へと顔を向ける。


 つられて顔向けたキール司教はソウタ君へ『回復魔法』をかけ続けるアリスの真剣な表情を見て不味い事にでもなったのかと表情を強張らせる。

 

 直ぐにアリスの所へと駆け寄り、横たわった状態で何の反応もしないソウタ君を一目見て一言アリスへと伝える。

 


「代わりなさい」

 

 

 そう声をかけられたアリスはキール司教と入れ替わるために、その場から立ち上がりふらふらとした足取りで此方へとやって来る。

 

 

「お疲れ様」

 

 

 私はアリスを抱き止め、一言そう声をかけた。

 

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから、キール司教がソウタ君に高い効果を誇る『回復魔法』による治療を施し、急ぎソウタ君を安静にさせるためにも私達は教会の聖騎士や退魔師に護衛されながらあのアイルミの街へと帰ってきた。


 もう既に日は沈み、今来た道を振り返ればそこに広がるのはどこまでも変わらない深い闇である。対照的に街には数多くの松明や魔導具の照明による明かりが、先日の魔物による被害の爪痕を明確に照らし出す。

 この非常事態の為、普段以上に用意された様々な光に照らされてる街の明るさとは反対に道行く人達の表情は暗い。


 それがこの街中の通りを過ぎる途中、とても印象的だった。街はいつも以上に明るいと言うのに。

 

 

「勇者様」

 

 

 それは報告の為に向かっていたジーラント伯爵の館の中へと入り、教会の騎士や退魔師達とも別れた時だった。

 二人だけのお供を連れたキール司教は唐突にカケル君へと声をかけた。

 ちなみにアリスもソウタ君を休ませるためにソウタ君を背負った教会の騎士を連れて私達に与えられてる部屋へと行ったため、この館に着いた途端に私達とは別れた。


 そのため、今この場に居るのはキール司教とお供の二人、カケル君と私の五人だけだ。

 

 

「彼らの表情を見たでしょうか。まるでこの世の全ての不幸を我が身に受けたとでも言わんばかりに暗い表情を」

「……あぁ」

 

 

 カケル君はそれにか細い声で応える。

 

 

「貴方様は勇者であります。彼らの希望となる剣の勇者様なのです。それに貴方は応える事が出来るでしょうか。彼らの期待に応えるでしょうか」

「……」

 

 

 なんて事のない事の確認。

 しかし、それに対してカケル君は何も答えない。

 

 

「彼らの表情を変えてやることは出来るでしょうか」

 


 住むところを無くした人が居た。

 居場所を無くした人が居た。

 家族を無くした人が居た。

 

 大事なものを無くした人が居た。

 子どもを無くした人が居た。

 両親を無くした人が居た。

 

 大切なものを無くした人が居た。

 幼馴染を無くした人が居た。

 恋人を無くした人が居た。

 

 妻を、夫を、兄を、妹を、姉を、弟を、友を、無くした人が居た。無くしたものは数え切れないだろう。戻って来ないだろう。補えやしないだろう。

 

 

「……ぁ」

 

 

 カケル君は小さな呻き声を上げ、膝を着く。そして、両腕で自分の体を抱こうとする。その震えている体を抱き締めようとしては、震える手がそれをさせない。

 それでも、何度も何度も繰り返す。幼子が身を守るように。

 

 

「……勇者様、まだ貴方は若い。そして、疎い。……未熟者だ」

 

 

 キール司教はそれを見ながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

 

「まだ、それを背負えとは言わないです。けれども、いつの日か……覚悟が必要でしょう。貴方様はそういう存在として選ばれたのだから」

 

 

 ……これは報告は無理そうだ。

 カケル君はとても正常な状態とは言い難いだろう。


 

「充分にとは言えません。しかし、時間はまだまだあります。それまでに、様々な経験をしとくよいでしょう。……それに、貴方には仲間が居るでしょう。きっと、貴方の事を支えてくれるはずです」

 

 

 そう言いながら、キール司教は此方を見る。

 確かに、私は、私達はカケル君のことをこの先支えるだろう。

 特に私なんて伊達に四回死んでいない。このような経験はカケル君よりもある。貴族である以上、アリスもそこそこあるだろう。覚悟もしているはず。

 

 

 想像以上に人の上に立つというのは難しい。

 

 

「では、これで……私は先に伯爵に報告してきます。貴方達は後で来ると伯爵に伝えときましょう」

 

 

 そう言ってキール司教は二人のお供と一緒に行ってしまった。この場に居るのは、私とカケル君の二人だけ。


 アリスは戻ってくると言っていたが、戻って来ない。あの様子では、疲れ果ててソウタ君と一緒に寝てしまっててもおかしくない。

 

 カケル君もこの様子では早く休ませた方がいいだろう。

 

 

「カケル君」

 

 

 カケル君は私の声に少し反応したものの、余り様子は変わらず床で震えたままだ。仕方ない。


 私は傍に座り込み、カケル君を抱き寄せる。

 安心させるように背中を擦りながら、耳もとで優しい声色を意識してゆっくりと伝える。

 

 


「カケル君。報告は私がやっておくから、先に部屋へと戻ってソウタ君と一緒に休んでいて。ついでにアリスの様子も確認お願いね」

「……ん」

 

 

 どうにか届いたようだ。震えも少し治まってくれた感じがする。

 


「じゃあ、頼んだよ」

 

 

 そう言ってカケル君から手を離し、私は伯爵の執務室へと歩き出した。

 


「……あ」

 

 

 カケル君の不安にさせる声が聞こえた気がするが、無視である。余り甘やかしてはいけない。しっかりと、一人前の勇者になって貰わねば困るのだから。

 

 


 

 

 ……にしても、カケル君はこんなに弱かっただろうか。

 

 

 

 

 まぁ、少し疑問に残るが別におかしい事ではないだろう。人としては此方の方が正しいと思う。勇者としては、あの司教の言うように問題ではあるが。

 今までが単純に深く考えてなかっただけでは無いだろうかとも思う。

 ……もしくは、あの若い司教がなんかしたのか。

 

 

 ……分からない。本当にイレギュラーとやら困るものだ。

 

 

 

 

 

 

 


次回はやはり未定。早く投稿出来るといいですが。

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