09
翌日、店長が来る前に桐島と情報共有を行った。
それから、彼女の名前も一応出したが、彼女が行ったとは到底信じられないという、個人的感情を付け加えてしまったのは無意識だ。
しかし桐島も同意見だったらしく、彼女は敬語もろくに使えず、ゆっくりとした働きしかしないものの、決して評価が低いわけではないというのが共通認識だ。
公私混同するわけではないが、就職が決まった矢先に去る職場から金を盗むという事を彼女がするだろうか? という気持ちもある。
ごちゃごちゃと会話しているうちに店長がやってきて、とりあえず状況と気づいた点や、まだ未確認の情報もある旨を伝えたのだが、店長は早々に彼女を犯人扱いしだした。
案の定、調査が半端だったことにも文句を言われたが、店長はこれ幸いにと言いたげなほど憎々しく彼女を犯人呼ばわりして罵倒する。
本人が居ても居なくてもここまで他人を悪く言える人は、なかなかいないのではないかというくらい酷い言いようだ。
まだ彼女が犯人と決め付けるには早いと俺と桐島で伝えるも、店長はさっさと彼女をクビにしろと言うばかりで。
「だったらもう警察介入してもらいましょう。金銭関わっているし、店長的には証拠揃っているというのなら、その方が手っ取り早いでしょう」
急な方向転換でそう発言した霧島の言葉に、ギョッとしたのは俺と店長だった。
あんなに威勢よく彼女を犯人扱いしていた店長がしどろもどろになったのだ。
どうやら警察が介入するという不祥事を避けたいらしい。
そりゃそうだ。彼はどんな態度を取っていようが、肩書は店長であり、店内で起こった事はすべて彼に責任が被さってくる。
俺としては警察は最終手段だと思っていたが、こういう使い方もあるのかとちょっと感心してしまったのは内緒だ。
無責任な店長の性格を理解しての桐島の発言に、心の中で拍手喝采し、どうにか警察不介入で事を済ませたいらしい店長に、もう少し内部で調査を行ってからそれ以降の行動を決めましょうと言い切ったところで、しぶしぶ納得していたが。
「結論出るまで黙っててくれんのかな、あのクソジジィ」
店長がイライラしながら自分のシフトを無視して帰ったのをフォローしつつ、事務所で防犯カメラの映像を一緒に確認していた桐島がポツリとつぶやくもんだから、俺も思わずため息が漏れる。
「それよりエリアマネージャーにちゃんと話しますかね? そっちのが心配ですよ」
「いやぁ……言わないっしょ。あのオッサンの事だから。西條辞めさせれば済むと思ってんじゃない?」
「責任の所在は俺の所に回ってきそうで怖いッス……」
バイトの教育できていないお前が悪い! とかね。
「うわぁ……ありえそうで怖い。フォローします」
「その時はよろしくお願いします……」
そんなどうでもいい会話を繰り広げながら過去の防犯カメラ映像――とは言っても、遡れるのは一週間前後であるが、を確認したところ、お金を抜いたところまでは明確ではないが、フロア担当の西條は当然のようにレジを触っている。
更に二週間ほどかけて、パートやバイトに個人面談と称して確認を行ったところ、複数人が補てんしていたことに名乗りを上げ、それから確認した日付のほとんどに西條がシフトで入っていることがわかって。
「……決定だな」
桐島と自分の二人で調査した結果を店長に報告すると、店長は当然だと言わんばかりに鼻を鳴らしてテーブルにまとめた資料を放り投げる。
彼女の身の潔白を証明できなかった自分と桐島は、悔しさを表情に出してしまったものの、残るは本人への事実確認だ。
週末は珍しく店自体が休みということで、その日に店長と自分、桐島の三人で彼女に事実確認をすることが決定して。
態度に出てしまうであろう店長は早々に帰宅してもらい、現在シフトに入っている彼女を自分が事務所に呼び出すことにした。
「西條、ちょっといいか」
「ん? なぁに?」
店の状況をみて彼女を事務所に呼び、何も知らずにひょこひょことやってきた彼女を見下ろす。
彼女は不思議そうに俺を見上げ、それから珍しいくらい神妙な面持ちになっていたらしい俺の様子に気づいて、眉を潜めて。
「何かあったの?」
「……週末、店が休みの日に店に来てもらいたいんだ」
「……? うん? いいけど。何?」
「……今は言えないんだが、来てほしい」
必死に頼み込む自分の様子に、彼女はただ事ではないと気が付いたのか、いつものふざけた態度を出さずに俺を見つめて。
「うん。わかった。何時ごろ?」
店長たち三人ですり合わせた時間帯で可能ということで、時間帯を指定すると、彼女は軽く頷いてくれたのだが。
「……片山さんさぁ」
「ん?」
「……んーん。なんでもない」
「ん……それじゃあよろしくな。あと、今日はもうあがっていいぞ」
それ以上、顔を合わせるのがなんだか辛くて。
目をそむけながらそう告げれば、彼女は「わかった」と、相変わらず敬語が使えないままの回答をして去っていく。
彼女にかかった疑惑を拭いきれなかった自分の力不足に嘆いたのか、それとも本当に彼女が犯人で裏切られたという事に嘆いたのか――自分でも気づかないうちに酷い顔をしていたらしい。
「クソッ」
思わず事務所の椅子を蹴り飛ばす。
そんな俺の背中を、先ほど出て行ったはずの彼女が見ていることも知らないで。
「……時間切れね」
そう呟いて、どこかに電話を掛けながら去っていく彼女の姿なんて、俺は知らない。




