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ラピスラズリの恋  作者: 佐倉硯
変わりゆく未来へ
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「……つまり、何? 茂住と片山の快気祝いの席に、私が出席することをポロリと話してしまったと」


彼女はいわばレアキャラだ。飲み会の席に現れること自体がかなり珍しい。それに今、彼女には噂になっている相手がいるし真偽を確かめたいと思っている人は少なくはないだろう。指輪も果たして本当にファッションリングなのかそれとも送った人物が居るのか、と普段は近寄りがたい相手であっても飲み会の席ともなれば聞きやすくなる。


茂住さんは彼女からの申し出に喜んで首を縦に振ったが、その後の対応がまずかった。


彼女が飲み会に出席することを自慢げに話してしまったため、その話した相手が自分も出席したいと言い出した。茂住さんは言ってしまった手前、一人くらい増えてもいいかと了承する返事をその場でしたらしいのだが、今度はその人物が自慢げに他の人に漏らしてしまった事により茂住さんに問い合わせが殺到したのだ。


自分達も参加させろ、と。


結果、現時点で五十人近くからの問い合わせと参加希望の社内メールが殺到した。ネズミ講であれば大成功だ。全員をOKするとなれば予定していた酒場を貸し切っても手狭になってしまう。予定外の人達が集まれば、最早本来の趣旨である茂住さんと俺の快気祝いではなくなるし、しかも一人OKしてしまっている手前、断りにくい状況を自ら作ってしまった事に頭を抱える羽目になったらしい。最初の一人を断ろうにも、そんなことはさせまいと茂住さんから逃げ回っているようで八方塞がりだ。

そして今後も同様の問い合わせは増えるであろうというのが茂住さんの直面した問題で。


……あれだね。茂住さん、フラグ回収するのうますぎない? 今度こそちゃんとしてほしいって言ってたのに、結局こうなるの馬鹿通り越して天才だよ。


俺も茂住さんの隣で呆れてしまったし、フォローするつもりは毛頭ない。むしろさっさと屍になってくれたら骨を拾うのも楽なのにとさえ思うほど薄情な事は考えている。事の次第を聞いた彼女も流石にアホすぎる茂住さんの言動に、冒頭のような嫌味の一つも言いたくなるだろう。


「……片山には謝ったの?」


彼女の言葉にようやく顔を上げた茂住さんは、俺に向き直って改めて頭を下げた。


「片山君、本当にすまんっ!」

「許しません」

「厳しいっ!!!」


無断で合コンに誘った時点で前科一犯だったんだ。執行猶予中だったのにも関わらず罪を重ねたのだから有罪である。


「で、私にどうしてほしいの?」


謝りに来たという事は、彼女の参加を取りやめてもらうよう願いに来たのかと思ってたが、そうなると参加希望の人達の目的は達成できない。どちらを断るにしても角が立つと考えた茂住さんは恐縮しながら彼女に願った。


「黒澤本部長の権限で、大きい会場ってどこか借りれませんか?」

「収容人数どれくらいの予定?」

「立食で百……もしくは二百人規模になるかもしれません」


それはもう快気祝いどころではない。パーティーである。


「あの、流石に今回の件は快気祝いとするには方向性が違ってしまっているので、快気祝いは別途行う事として。飲み会というか慰労会みたいな名目で会費制の立食パーティー形式に変えてしまうのが一番いいかと思っているんです」

「まぁ、それが一番おさまりがいいでしょうね」


解決策としては妥当であるが、忙しい茂住さんが一人で幹事をするとなると大変だ。


「いいわ。今からホテル会場を押さえられるか聞いてみる。日程は?」


彼女が是とした時点で、ずっと不気味な色をしていた茂住さんの顔色が少しだけ良くなって、自分のスマホを取り出すとスケジュールから日程を伝えていく。

そのやり取りを見ながら、俺はふと思い浮かんだ場所を聞いてみた。


「黒澤不動産グループで言うなら、KUROSAWAグランドホテルの会場って無理ですか?」

「なんで?」

「そこのビュッフェ食べてみたいだけです」


立食ならビュッフェスタイルでもいい。あそこは一流のホテルだから料理も美味しいらしいが、お値段も一流だ。こういう機会がなければいけないかもしれない。会費は高くなるかもしれないが、そこを高く設定することで参加人数を減らすこともできるのではないかというのが目論見でもあるが。


「……相変わらず食に貪欲だね、片山さん(・・・・)


呆れ表情に彼女が言えば、俺は思わず口の中で懐かしいという言葉を転がす。公私ともに久々に彼女から片山さんなんて呼ばれたなぁと考えていると、一瞬茂住さんはキョトンとしたものの「ああ」と納得したようで。


「そういえばお二人はファミレスで一緒に働いてましたね。今更ですけど、仲良かったんですか?」


本当に今更だなと思いながら顔を見合わせると、お互い考え浮かんだことは同じだったらしくクスリと笑みをこぼして。


「俺は西條(・・)の頃、めっちゃ嫌いだった」

「私も片山さん(・・・・)の時は、すっごぉく嫌いだったぁ~」

「え!? そうなの?」


俺が敬語を取ってファミレス時代を懐かしむように呟けば、彼女も同意するように西條を名乗っていた時の舌ったらずな話し方を再現する。茂住さんも何気なく敬語が取れているけれど、まぁあの頃を共有していた者同士ということで無礼講のような空気になって。


「敬語使わねぇんだもんコイツ」

「使わないんじゃなくて使えないって言ってるじゃん」

「最悪、敬語使わなくていいからせめて敬え」

「私は敬われる立場だったんですぅ~。敬う事なんてできませぇーん」

「よし、表出ろ」

「何? 褒めてくれるの? 場所は選ばないでいいよ?」

「そういうところが腹立つっつってんの」

「またまたぁ、片山さんだって満更じゃないくせにぃ」

「どこをどう切り取ったらそういう発想になんだよお前は」

「私が私ゆえ?」

「自画自賛挟んでくんな、気色悪い」

「うわ、乙女心傷ついた! 乙女に言っていい言葉じゃない! 謝って!」

「乙女が見当たらないから謝りません」

「最悪~! 片山さんサイテー」


あの時を懐かしむようにポンポンと掛け合う俺達の会話を見ていた茂住さんがポカンと口を開けている。

おや? と会話を止めて茂住さんを見ると、俺と彼女の視線に動揺した様子で。


「……え? 本当に仲悪かったの? ってか、黒澤本部長、そんな感じでバイトしてたんですか?」

「そぉーだよぉー?」

「やめてっ! 違和感が半端ないです本部長!」

「茂住さん、このバージョンの黒澤本部長知らなかったんですか?」

「知らないよっ! 冷静沈着・容姿端麗・華麗なる資産家“立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花”と言われた豪華絢爛な高嶺の花! “神様が作った最高傑作”とまで呼ばれた本部長だぞ!?」

「咲き誇ってんなぁ」

「ぱぁ」

「ぱぁじゃねぇよ。咲くな」


可愛いな。


「最高傑作だって」

「その呼ばれ方は知らなかったなぁ。私、恵まれすぎてない?」

「安心しろ、神は西條から運動神経を抜いておいた」

「一番欲しかったものを貰えなかったっ!」

「他にたくさんあるからいいじゃねぇか」

「運動神経はお金で解決できない!」

「なんでも金で解決しようとすな」

「持ってるものは金でも使うって決めてるので」

「そりゃ持ってたら使うわな」

「はっ、パーソナルトレーナーとか雇えば改善されるかな?」

「西條の運動音痴は病気だから必要なのは医者だぞ」

「神経科かな? 整形外科かな?」

「脳外科じゃね?」

「脳内の作りから変えなきゃいけないのか……」

「あ、悩むところなんだ?」

「ちょ、まっ! 黒澤本部長相手にそんな風に言い合える片山君に恐怖すら覚えるっ!! 怖い怖い怖いっ!! 無理無理無理無理っ!!!」


茂住さんはブツブツと「本部長のイメージと全然違う」と急に頭を抱えだしたので、俺と彼女は顔を見合わせて思わず笑ってしまったけれど。


やらかし上手な茂住さん

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