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ラピスラズリの恋  作者: 佐倉硯
変わりゆく未来へ
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「ハンバーグドリア作ってみたんだけど」

「お、うまそう。いただきます」


スプーンをもちながら両手を合わせて早速ひとくすいする。スプーンを差し込んだ隙間から熱々な湯気が立ち、表面を覆っていたチーズがトロリと溶けて伸びる。

二、三回息を吹きかけ軽く冷まして口に頬張っても、ハフハフとする程度には熱さが残っていて。


「うまい。ホワイトソースなのがいいね」

「ホワイトソースは作れたんだけど、ちょっと時間なくてハンバーグは既製品なの」


そう言って空になったパッケージを恥ずかしそうに見せてくる彼女に、二口目を頬張りながら笑う。


「いいね、そのハンバーグを選ぶセンス最高」

「……葉クン、何が何でも褒めてくれるの凄いよね。無理に褒める要素探さなくてもいいよ」

「思った事を言ったまでだよ。俺の妻は料理上手で総菜選びのセンスもいい。という事は俺の妻が最高」

「も、もうっ!」


顔を真っ赤にしながら怒る彼女が可愛すぎて笑顔しか浮かべられない。俺も相当浮かれているなと思いながら、冷めないうちにと料理を口に運んでいると、彼女は二人分の珈琲をカウンターに置いてから俺の隣に座ったのを見計らって、今日の出来事を話始めた。


「親父に会ってきた。縁に会いたいって言ってたけど、時間作れそう?」

「うん、いつにしようか? 必然的に休日にはなるけれど、来週は――」

「結婚指輪取りに行く話になってたよな。その後にする?」

「そうね、それがいいかもしれない」


入籍してすぐの事だ。彼女が婚約指輪を作った店に結婚指輪を注文したのは。婚約指輪を見に行った際、今度はいつ来られるかわからないからということで、結婚指輪も一緒に見せてもらっていた。いくつか候補を絞っていたのと、互いの指のサイズも測っていたので注文を彼女に任せることにした。


彼女がつける指輪はセンターの石がブルーダイヤ、その両脇にダイヤが埋め込まれたもので、これも緩やかにウェーブを描いている。俺がつけるものは石のないデザインで、内側にはそれぞれ入籍した日付と二人の名前を掘る事になっている。その仕上がりが来週だというので取りに行った後、親父に会いに行くのもいいかもしれない。ただ、その店に来店した旨を見られて噂を広げられたため、どちらかが取りに行くのが妥当かもしれないという話も出たのだが、すでに入籍を済ませているのでバレた時はバレた時だろうと言っている。


ただ、そうも言っていられないのは俺側だ。


彼女は仕方がないにしても、俺が上司に言わないのは何かと不便だ。会社としての手続きもあるし、早い段階で知らせたいのだが相手が彼女であるから慎重にもなっている。そこで新たな朗報を彼女に告げた。


「あと、茂住さんが企画してくれている快気祝いの席だけど、課長と部長が来てくれる事になったみたい。そこで伝えるのが一番よさそうかなと」

「じゃあ私もそこで参加させてもらって発表しようか?」

「そうだな。いつまでも茂住さんに黙っているのも心苦しいし」


流星君は身内だから情報が洩れる心配もないので、なんだかんだと告げているがやはり俺は茂住さんに世話になっているので茂住さんにも自分の口から直接言いたい。が、何度も言うが相手が彼女なので、俺の口から言ったところで信じてもらえる可能性が低い。

まだ自分が婚約相手だと言い張っている御仁と同じ立場になるのだけは避けたいので、彼女本人の口から言ってもらえれば信じてもらえるだろうということで、結婚発表をする事を伏せた上で彼女から直接、茂住さんへ飛び入り参加の意思を伝えたのだが。


そこで話は冒頭へと戻る。



 ◇◆◇



結婚指輪が無事に手元に届き、俺はまだ結婚した事実を周囲に伝えていないためにネックレスチェーンに通して首にぶら下げている。ワイシャツの下になるため目立つことはないし、見られたとしても彼女のデザインとは異なるため、よほど察しのいい人でない限りはバレないだろう。

彼女に至っては「もう隠す必要なし!」と俺が送った婚約指輪と重ね付けして堂々と出社し話題を搔っ攫っていたが、未だにそれをファッションリングだと思っている人が多くいる。

彼女がつける(・・・・・・)指輪にしては(・・・・・・)少し安価ではないかと捉えられてしまったためだ。


調べる人は調べる。怖い。


決して安いものではないが、大財閥のご令嬢が身に着けるとなると、周囲の視線からは物足りなさがあったのだろう。流石にちょっとその評価は凹むけれど、堂々とそれを身に着けている彼女の姿に値段なんかじゃないと自分に言い聞かせる。


「か、片山君」

「はい。……え?」


オフィスで仕事している最中に茂住さんから声をかけられ振り返って驚いた。


「も、茂住さん? どうしたんですか? なんか顔色悪くないですか?」


体調が悪くなったのなら医務室へ連れて行かねばと焦って立ち上がると、茂住さんは乾いた笑いを浮かべながら「いやいや」と力なく首を横に振る。それから盛大なため息を吐くと涙目になりながら両手を顔を前で合わせて拝みだした。


「た、頼む。ちょっと報告しなきゃいけないことができたからついてきて欲しい。あと……できれば骨を拾ってくれ」

「……な、なにやらかしたんですか?」


仕事で大きなミスでもしてしまったのだろうかと不安になるが、茂住さんは「片山君は何も悪くない」だとか「むしろ片山君にも謝らなければいけないかも……」など曖昧な事ばかりを繰り返して、本題を話すことはない。理解しきれないままついてきて欲しいという先輩の気持ちを汲むしかなく、俺はわけもわからないまま頷けば、茂住さんは少しだけホッとした表情を浮かべながらオフィスを出て。


「は、え? 黒澤本部長に用事なんですか?」


連れてこられた先は人事部の本部長室だ。


何も聞かされていないままついてきたが、部長を飛ばしてここに来るとは相当な事である。


ドアの前で深呼吸をした茂住さんがノックをすると、数秒遅れて「どうぞ」とくぐもった返事があったのを聞いてからドアを開けると、茂住さんは足早に入り流れるようにデスクの前で大げさなほど振りかぶって頭を下げた。


「申し訳ございませんでしたあぁぁっ!!!」

「……は?」


ノートパソコンに向かっていた彼女の視線が茂住さんの下げた頭頂部を見つめる。俺も後ろでドアを締めながらも慌てて茂住さんの隣に並べば、頭を上げないままの茂住さんと俺を交互に見て「何?」と視線を向けてくるものの、俺も何も聞かされていない事を焦りの表情と首を小さく横に振る事で答えて。


と、頭を下げ続ける茂住さんはそこでようやく自分が犯した失態を話したのだが、あまりのアホさ加減に彼女は口の端をヒクつかせながら、茂住さんの罪状を繰り返した。


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