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ラピスラズリの恋  作者: 佐倉硯
受難は続くよどこまでも
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「それって――」


と一瞬間が空いて流星君は考える仕草をする。


「……語学堪能で日本語の他に、英語、中国語、ヒンドゥー語、韓国語、スペイン語、フランス語ができて、高身長でイケメンで優しくて包容力があって、嫌味ないし悪口言わないし愛想がよく人受けのいい性格をしていて、女性からはもちろん、男性からの支持も非常に厚い。父親が菱伊総合中央病院の院長で将来有望な転職組って、どこぞの営業部エースよりハイスペックじゃないですか?」

「……ほんとだ。負けてないじゃん」

「むしろ葉さんが葉さんの時点で勝ってます」

「ホントだ、勝ってるわ。負ける要素ないわ」


あ、そこなんだ。そして縁も納得しちゃうんだ。

ってか、なんで流星君がそこまで知ってんの?


「ちなみに、ここにいる彼のお母様の結子さん、元ミス・ユニバース日本代表だよ」


と、茅さんが勝手に情報をつけ足す。言われた母親は少し顔を赤くして「昔の話です」と言いながらも満更ではなさそうだ。彼女はものすごく納得した顔をして「道理で!」と言っていたのだが、その意味が“母親を綺麗だと思っていた”というのはもちろんのこと、大半の意味として“俺が美人に免疫がありすぎる”という事に納得したための言葉であったらしい。

流星君にさえ後々「ゆか姉やアレクサンドラさん、錚々たる(そうそうたる)美人を目の前にしても平然としている理由もわかりましたし、葉さんがイケメンに変貌したのも遺伝子だったんですね」と何度も頷いて納得されたのが解せぬ。


「葉さん、ロイヤルストレートフラッシュです」

「ますますファミレスで働いていた理由がわからなくなってきたんだけど」


流星君が最早アホらしいと言わんばかりの表情を浮かべ、続けて彼女が本気で困惑している。


「いや、でも凄いのは両親であって俺ではないから……」


俺が本心をもってオロオロとしながら口にすると、二人は顔を見合わせて頷きあって。


「なるほど、周りが凄すぎて自分の凄さわかってないんですね」

「自己肯定感の低さの原因はここに()あったのね」

「医療従事者でなければ凄くない、なんてことないんですよ? 葉さん、一般的に見ても滅茶苦茶ハイスペックです」

「伯母様に否定され続けて価値観おかしくなってるけど、弟さんよりもずぅーっと優秀だよ葉クンは」

「俺やゆか姉の言葉と伯母様の言葉、どちらを信じるんですか?」


そう言われると、アレ? アレ? ってなってきた。


今までずっと言われ続けていたから、医療関係に進まなかった自分はポンコツで駄目だと思っていたけれど、流星君のどちらを信じるかという言葉に目が覚める思いだ。そりゃあ嫌な事ばかり言ってきた人より二人を信じる、となれば、もしかして俺の価値観は本当におかしかったんだろうかと。


激しく動揺し始める俺に対し、母が酷く驚いた表情を浮かべていたのには気がつかなかった。


とりあえず俺の身内情報を開示したところで、いつまでもここに陣取っては迷惑がかかるという茅さんの一言で彼女が所有するマンションの一室に一同で移動することになったのだが。



 ◇◆◇



伯母と父の襲来対策として、彼女の所有するセキュリティのしっかりとしたマンションの一室を借りる事になった。母はひとしきり恐縮していたのだが、改めて俺と彼女が並んで結婚する旨を伝え、だからこそ彼女を頼っていいと伝えたところ、自分の事はそっちのけで結婚の二文字に大いに喜んでくれた。


彼女の正体を伝えても「あらまぁ!」と少しだけ驚いた様子だったが、ニッコリと微笑んで。


「姿勢が美しいし、使っている言葉も綺麗だったから、育ちのよさそうな方だなぁとは思っていたけれど、道理で!」


と言うと、彼女は大きく目を見開き驚き絶句して。けれど次の瞬間、瞳を潤ませ泣きそうになりながらふにゃりと微笑んで母の手を取って。


「彼は――葉クンはお義母様に似たの、ですね。初対面でそんな風に言ってくれた人は初めて……嬉しい、です」


できるだけ敬語を使いながらも嬉しさを伝えると、母も彼女の手を握り返してふふふっと微笑む。嫁姑の第一印象はお互いよかったようだ。彼女に至っては「今更ですけれどお義母様とお呼びしても?」とちゃっかり許可取りしているし、それに対して母も「まぁ、嬉しい。私も縁さんとお呼びしていいのかしら? それとも縁ちゃん?」と楽しそうに話し始めたのでホッとして。


けれど二人の仲を深めるのは後にしてもらいたい。問題は山積みなので割って入ったのは俺で。


「それで、母さんは今後どうするつもり?」


俺が尋ねれば母は浮かれた表情から一変し、少しだけ落ち込みながらもふぅっと深く息を吐いて。


「色々と我慢してきたけれど、限界かもしれないわね。弥生さんと晃大君がいなければと何度も思ってきたけれど」

「……え? 晃大も?」


俺が思わず聞き返せば、母は落としていた視線を徐々に上にあげて、それからまっすぐ俺を見て。


「葉、貴方は誤解しているようだから言っておくけれど。私にとって貴方は一人息子(・・・・)で、兄弟はいないわ」

『……え?』


衝撃の告白をした母親の言葉に、声をそろえたのは俺と彼女と流星君だ。茅さんに至っては不思議そうな顔をして俺達を見て。


「ああ、さっき診療所で聞いていた時、不思議だったんだよな。確か片山さんのところは一人息子だって聞いていたのに、皆当たり前のように弟がいる話を進めているから」

「え? いや、でも……それじゃあ晃大は?」


ずっとこの年まで弟だと思っていた人物が弟ではないと否定された事に動揺が隠せない。俺からそう聞いていた縁も同様らしい。


母は更に大きくため息を漏らして本当に困ったように眉間に皺を寄せて。


「何度か私は葉に伝えたけれど、弥生さんが言い続けていたから誤解してしまったのね。まさかその年まで誤解したままだと思ってなかったわ」

「いや、だって晃大も俺の事を兄貴って」

「晃大君は自分の出生を知っているわ。それでいて葉の事を兄と呼び続けていたの」

「じゃあ晃大は……?」

「弥生さんが産んだ子よ。育てたのはほとんど私だけれど」

「はぁっ!?」


開いた口が塞がらない。


だってあの人は独身で――。


「独身……?」


思わず呟いた言葉に母は小さく頷いた。


「お相手が誰だか一切口を開かなかったけれど、あまり褒められた相手ではなかったのかもしれないわね。産めば相手が自分に振り向くと思っていたらしいけれど、振り向いてくれなかったから育児を放棄したの」


私生児になったとしても親族の子供が施設に行くとなると噂になる。それだけは避けたい父に拝み倒され、仕方なく母が育てる事になったらしいが、絶対に養子に入れないという条件下での育児だったらしい。伯母さんは我が子を託児し、大変な育児を母に押し付けておきながら、母が叱るような事があれば我が子を庇い、母に偉そうに口を出していたのかと思うと眩暈がする。そりゃあ叱る母よりも甘やかす伯母に懐くわけだし、伯母が実の母親であるならなおのこと晃大が母を見下していたのは理解できる。


第一、晃大はよく孫の顔を見せに実家に向かっていたはずだ。結局のとろ伯母さんが正しい祖母であり、母に孫がいなかったという事実も驚きだ。


どこまでも自分勝手で迷惑をかけている存在に吐き気がしてきた。


晃大自身も自分の出生を知っておきながら俺を兄と呼び続けたのは、俺に劣等感を与えるためだろうという。一緒に住んでいて母に育てられて、なおかつ自分を兄と呼ぶ相手を実弟と思ってしまっても仕方がない。片山家は至って普通の家庭だと思っていたのに、そんな事実があったなんて。


「家族同伴のパーティーに、一度だって晃大君は連れて行かなかったでしょう?」


確かに幼い頃に晃大が暴れて行きたがっていた事もあるのに、晃大に甘い父が頑なにそれを拒んだのは本当の息子ではないからだと今なら理解できる。

母は昔から晃大を“君”付けで呼んでいるのも、母にとって晃大が特別だったからだとずっと思っていたが、それは実の息子と他人の子との母なりの線引きだったのだ。


母は何度か俺に正しい家族関係を伝えたと言うが、記憶が改変しているのか全く覚えていない。劣等感に苛まれる方が優先されて、無意識に改変してしまっていたのかもしれない。母に至っては何度も説明していたため、理解しているものだと大人になってからは言わなくなっていたので、互いに互いがまずい勘違いをしていたようだ。

葉クンがハイスペックなのは両親がハイスペックで、その遺伝子をガッツリ受け継いでる人だからです。

ちょい無茶な設定でしたが、ご都合主義ということで。

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