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ラピスラズリの恋  作者: 佐倉硯
ラピスラズリの恋
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どう頑張ったって俺はただの一般市民かつ一般社員なので、稼ぎを考えれば彼女の財力には敵わない。以前、ポロッと教えてくれたのは仕事以外にも彼女は不労所得が多くあるらしいということ。生前分与とまではいかないが、いくつかのオフィスビルやホテル、マンションや月極駐車場なんかを譲り受けて所有していると聞いている。あくまでオーナーという立場で管理は会社に任せているという事だが、不動産を所有しているというのは大きい。あとは黒澤財閥の関係者として彼女名義での関連企業の株を複数所有していると聞いているので、まごうことなき彼女は大金持ちだ。


多少の打算はあって然るべきではあるものの、彼女に養ってもらおうとか、金持ちだラッキーと思う気持ちはほとんどない。けれど使えるお金があるにも関わらず、彼女に節約して慎ましい生活を送れというのも酷な話だ。

俺が仕事を辞めるどころか、ぶっちゃけ彼女が仕事を辞めて二人で無職になったところで一生遊んでいける程度の金は余裕であるだろうが、俺も彼女も仕事を辞める気は今のところないので。


「本来であれば、私の財産であれやこれや贅沢したいって普通なら言うんだよ。そう言わない時点で私の中の葉クンへの好感度は更に爆上がりだよ」

「俺がそう言えばきっと縁は叶えてくれるだろうけれど、そんな男を選んだって縁が後ろ指さされるのは嫌だ。病気で働けなくなるとか、そういった不測の事態にならない限りは仕事続けるつもりだし」


実際、今の仕事をようやく楽しいと思えるようになってきたところなので。


だから彼女の好意に甘えると同時に、どこか男としての矜持を保てる程度には何か負担させてもらいたいというのが本音だ。それがたとえ光熱費だけでも食費だけでもいい。対等である事は到底無理なので、何か一つでも自分にできる事があるならさせて欲しいと言うのはすでに伝えている話だけれど。


俺は指輪が光るであろう彼女の手を拾い上げるように握りしめ、自分の口元にまで持ち上げると、薬指の付け根に小さくキスをして。


「贈ったらここにつけてくれる?」

「もちろんだよっ! どうしよう、楽しみ過ぎるっ!」

「好きなブランドとかある?」

「実はあまり興味なくて……外商呼ぶ? あ、でもやっぱりお外で一緒にデートしながら、色んなブランドの店を見て選ぶのもいいなぁ」

「外商……」


その発想はなかった。流石にお嬢様過ぎる彼女の発想は斜め上を行く。俺の発想を褒めてくれる(?)彼女だが、彼女もなかなか世間的にはぶっ飛んでいる。


「でも、あからさまかな? 指輪って今までつけたことないんだよな?」

「ファッションリングもつけたことないなぁ。多分、目立つと思う」


私だし、と付け加えたところで彼女も自分が目立つ存在だと言うのは自覚はあるようだ。まぁ自覚がないのは困るが。


「んー、でも私は葉クンのですってアピールしたいからつけちゃう!」

「相手が俺ってことも言う?」

「葉クンがOKなら! って言いたいところだけれど、ギリギリか入籍後の方がいいかもしれない。生憎、私の上司は社長くらいで事前報告する必要はほぼないし」


確かに一般社員であれば自分の直属の上司や部長あたりに先に報告するのが筋だが、彼女はその上の役職についているため報告する必要性があるのは社長くらいなのかもしれない。社長に至ってはすでに自分達の関係を知っているようだし、俺側の報告をどうするかという問題になってくるだろう。


「そう言えば、根回し? は、どうなってる?」

「ほとんど終わってるから大丈夫だよ!」


聞いててなんだけれど、結局根回しって何だったんだろう? 疑問が顔に出ていたのか、彼女は一瞬考えたものの意を決したように俺に伝えてくれた。


「葉クンが色々考えて言ってくれるから、こっちも明け透けなく言っちゃうけどね。葉クンと結婚を決めた時点で、葉クンの身辺調査入ってるの。これは私の意志とは関係なく、黒澤財閥としては仕方がないって思ってもらえると助かるんだけど」

「まぁ、しない方がおかしいと思うよ。される覚悟はあったけれど、やっぱりされていたか」


身辺調査という言葉に、やはりという気持ちと動揺の気持ちが複雑に絡み合う。日本経済の中枢を担う黒澤財閥だから、関わってくる人間の調査というのは必須事項だろう。政界への影響力もあり、下手をすると皇族とも関わりもあるくらいなのだから念には念を入れるべきだ。

もしかしたら俺が顔も存在も知らない親戚まで調べ上げられているかもしれないが。

むしろ結構身近な身内に厄介な人物がいるし、そっちの方が個人的には問題だ。身辺調査が入っている時点で知られていると思うが、その結果、“あの人”が黒澤財閥にとって取るに足らない人だというのであればそれでいい。迷惑な存在になることだけは避けたいだけだ。


「両親や近しい親族には調査結果は行ってるはずだし、特に誰も何も言ってこない時点でOKだとは思っていて大丈夫だよ。駄目ならとっくに別れさせられていると思うし」

「縁は……その、俺の身辺調査の結果って」

「興味はあるけれど……やっぱり、できれば葉クンの事は葉クンの口から聞きたいから」

「そっか……」

「うん。葉クンのご両親に会うの楽しみ」

「あー……両親への挨拶な。……縁のご両親への挨拶、想像するだけで緊張するんだけど……でもできるかな?」


スケジュールとか。知らなかったにしろ、彼女の親は財閥トップなので誰よりも忙しいだろう。現役で総帥をしている人なので、ソシャゲーで言うなれば星十個くらいつく超超超レアキャラである。


「正直難しいかもしれない。私達、実子でさえ合うのは年に一度か二度で、しかも会えても三十分とかだし。兄弟すらまともに揃わないんだよ」

「六人姉弟となれば、そりゃあそれぞれの生活もあるから難しいよな」

「両親に関してはどちらか一人だけなら会える可能性もあるかな。二人揃ってなんて、仕事以外ではここ何年も見てないなぁ。あ、不仲じゃないよ? むしろ夫婦仲は凄く良い方。会えない理由は反対しているとかではなく単純に忙しいからって理由だからね?」

「あー……だよなぁ。それでも結婚前に一分でもいいから自己紹介と結婚の意思を伝えたいけど……」

「一応私からも直接、連絡してOKは貰っているの」


娘の結婚を連絡一本でOKしてしまうのは、ちょっと軽く感じてしまうがこれも仕方がないことなのかもしれない。


「俺が電話ででもいいから直接っていうのは可能かな?」

「オンライン通話なら画面越しだけれど顔合わせできるかも?」

「そっちの方も検討しようか」

「スケジュール調整してみるけれど、難しかったらごめんね」

「いいよ、それは本当に仕方がないことだし、結婚を了承してもらえるならそれで」

「最後に父と母がプライベートで揃ったのって、弟の結婚式だったからねぇ」

「じゃあ俺達の結婚式には揃ってもらえそうなのかな?」

「流石にスケジュール開けてくれると思う。葉クンのご両親は?」


急に振られたうちの話に、微妙な間が空いた。ちょっと誤魔化して考えないようにはしていたけれど、やっぱり彼女の両親に挨拶に行くともなれば、当然彼女も俺の両親に挨拶したいだろう。少しだけ考え込んだ挙句に、視線を漂わせながら渋々本当のことを伝えることにして。


「……正直言うと、ウチの両親はあまり仲が良いとは言えないんだ」

「そうなんだ」

「更に正直に言うと……俺も家族とは不仲で」

「あー……」


なんやかんやと言い訳してほとんど実家に帰らないでいる。節目節目で母親から連絡はあるものの、適当な言い訳をして帰るのを濁しているが、どうしても顔を出さなければいけないときはできるだけ家族がいないときを狙って帰る事さえあるのだ。嫌な人と顔を合わせる羽目になるし、罵詈雑言を浴びせられるだけで楽しくとも何ともない。以前、スーパーで弟夫婦と会った事を思い出しているのか、彼女はなんとなく察してくれたようだが。


「挨拶は、うん。ちゃんと縁を紹介したいから行こう。ただ、うちの家族が縁に対して不愉快な言動取ったらごめんな」

「大丈夫! 嫌味は“片山さん”の時で慣れてるから!」

「あー、今の縁はワシが育てた」

「こんなに大きくなりました! 特に態度が!」

「俺の責任が重大過ぎる」

「これは責任取って結婚してもらうしかないね!」

「ご褒美じゃん」


そういえば、こういうノリもファミレス時代でよくやっていたなと思い返す。周囲から見ても俺と彼女は仲が悪かったのに、こういうノリだけは結構合って言葉の応酬をしていたのが懐かしい。


……っというか、俺は確かにあの頃彼女の事を嫌いで空気が読めないし変な話し方をする奴だと思っていたが、考えるとあれは頭が悪そうな演技だったんだろうなと今さらながら理解できる。あの演技力で誰かに嫌われるならば女優でもやっていけるんじゃないかと思うが、逆を考えると俺自身も彼女に嫌われていた自覚ある。これは演技でもなんでもなく、素の彼女に嫌われているという自覚だ。


なんで急に好きになられたんだろう?



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