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ラピスラズリの恋  作者: 佐倉硯
彼女が生まれた日 side.縁
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ここから親世代の小説では書いていない続編か改訂版が書けたら書こうと思っていた独自設定が出てきます。

あれ?と思われるかもしれませんが、そのまま、え?え?と思いながら読んでください。ごめんなさい(-.-)

私は生まれた時から(・・・・・・・)特別だった。


特殊な家庭に生まれたため、ただの一般市民として育てられるはずだった母は、紆余曲折がありヤクザの祖父に育てられた。

一方、その家庭の複雑さカモフラージュするための隠れ蓑として利用された父の一族は黒澤家を名乗っていたが、実際にその血筋に黒澤の血は一滴も流れていない。


互いにそれとは知らぬまま出会い、愛を育み苦難を乗り越えて結ばれた。


それは巷で言うシンデレラストーリーで、母は望まぬまま瞬く間にシンデレラへと押し上げられた。


同時にそれは羨望だけではなく必然的に嫉妬の対象ともなった。


――血では争えないと言うけれど、本当、ご当主様も思い切った事をなさった


――市井で育った女が財閥のトップなど


――ヤクザに育てられた女とは何たる野蛮。黒澤財閥の名に泥を塗る気か


――まぁ一般的に見れば可愛らしい方かもしれませんが、ふふっ、とてもね


――若すぎる。今まで苦労して黒澤財閥を大きくしてきた総帥に何たる仕打ち


――血筋などどうでもいいではありませんか。優秀な遺伝子を残す方を選べば黒澤財閥の未来は間違いない


幼い自分でもわかる母への評価。もちろん賛美もあるがその裏に隠れた人の心は、なんと醜いことか。



血の滲むような努力をして黒澤財閥のトップとして君臨した母が好きだった。


その隣でただ静かに母を好きでいるだけ(・・)の父が嫌いだった。


努力して苦労している母に、父はなんの手助けもせずただそこにいるだけで。


完璧になっていく母親に辱める言葉が思い浮かばなくなってきた大人たちは、やがてその子供たちへと標的を変える。


――第一子が女とは、黒澤財閥はいつから女系になったやら


――あの女に似て面白味のない子だこと


――成績が良くても愛想が悪ければ、ねぇ


――育て方が悪いんじゃないかしら。あの女は仕事が出来ても子育てはできないみたいね


どんなに幼くても人の悪意というのは理解できる。子供だから理解していないだろう、と理解していない大人が多すぎる。もしかしたらわざとそうしているのかもしれないが、子供の自分達から見てもそれはあまりに幼稚な考え方だ。


だからこそ自分が母の欠点になってはいけないと努力した。


成績は常にトップ、自分に続く兄弟たちが多少出来が悪くても自分がフォローできるくらいにはと努力した。努力の手本として母がいたのでさほど苦ではなかった。成績が良ければいいだけ父も母もちゃんと褒めてくれる人だったから。

黒澤財閥を継ぐつもりはない。弟がいるし、自分は財閥に有益な人と結婚して子供を授かればいい。母のために家族のために自分の使い方を学んでいく。

そう告げると、両親は悲しそうに「そんなことをしなくていい。貴方は好きな人と結婚しなさい」と言ってくれたけれど、こんな欲と嫉妬にまみれた世界で育った私が、愛だの恋だのを見つけられるわけがない。信じるだけ馬鹿を見る。

一応、そういう人が出来ればね、と伝えてあるけれど、そんな気がないのはきっと両親も薄々気が付いているだろう。


そして何より私を後押ししてくれたのが生まれた時から持っていた能力のようなもの――“才能”を持つ人が自分の瞳には宝石のように映るのだ。

幼いころはなぜ人のなかにキラキラと輝く宝石が混じっているのかわからなかった。でもそれは私の瞳だけが映すもので、誰も共感してくれなかったから自分の目が変なのだと理解するのは結構早かった。何より周囲の大人が子供の戯言として処理せず、真摯に向かい合ってくれたのが大きいのだろう。

それが人が持つ才能を見抜くものだと気づくのには少々時間を要したが、人材を発掘するのに大いに役立つこととなる。


私だって女だ。キラキラとした宝石は好きだし、それを見つけるのは宝探しみたいで楽しい。


大人になっていくにつれて、ソレは“見ようとしなければ見えない”ように訓練したため、日常的に人間がキラキラ輝くことはなかったが、才能というのは本当に多種多様で面白い。


大きいものもあれば小さいものもあるし、輝きが異なるものもある。磨きがかかって美しく輝いているものもあれば、原石のまま奥底で控えめに輝くものもある。同じ宝石に見えても秘めたる才能は違う。なんとなく大分類的なものはあるのだが、細分化すると異なる才能なので表現が難しい。


この能力の欠点は才能がある人が宝石に見えるが、その才能がどういうものなのかまではわからないという事だ。


才能を見極めるのは大人の仕事だ、ということで才能がある人を見つけるのが私の仕事になって、ごくごく身内にその辺をよく相談されるようになった。

親しい人は何となくのニュアンスで伝えているけれど、この感覚(・・)を共有できる人は少ない。稀に存在するけれど、だからといって同じ能力が身につくわけではなく、同じく才能を見分ける力がある、程度の分別ができる程度だ。


能力を磨くと共に本音と建て前の使い分けを覚え、色々と学んでいく中で黒澤財閥の名前が及ばぬ自分自身の力がどれだけ通用するか知りたくて、名を変えて黒澤財閥に縁のない企業へと就職した。


そこに来てようやく自分の大きな欠点がある事に気が付いた。


――貴方ねぇ、ロクに敬語も使えないの?


今まで自分に敬語で話しかけてくる大人は沢山いた。そして自分がそれに敬語で返さなくても許される立場だった事を無意識に自覚していた。だからこそ、社会に出て初めて知ったのだ。


自分がまともに敬語が使えない事を。


特に私の直属の女上司は厳しかった。


――敬語使えないなんて恥ずかしいわ。いくら優秀でも社会人としては失格よ


――ああ嫌だ、そんな取って付けたような“です、ます”で話さないで頂戴


――貴方、国籍を海外に移した方がいんじゃない? それくらいでようやく貴方の言葉遣い納得できるもの


女上司が私に辛く当たるのを見て、当初こそ一緒に憤慨してくれる同僚がいた。先輩だっていた。けれど、敬語を学んでもぎこちない話し方をする私を目の当たりにして、周囲は少しずつ女上司の()に行く。

私が話す度、何かを伝えようとする度に周囲は私に軽蔑の視線を向け、ヒソヒソクスクスと笑いだす。


――気持ち悪い喋り方しないでくれる?


――謙譲語と尊敬語? 今更勉強したって無駄でしょう。そういうのは育ちがでるのよ


――貴方の親御さんは一体どういう育て方をしたのかしら。こんな敬語も使えない失礼な子を育てるなんて、親の顔を見てみたいわね


――その年で敬語使えないって本当致命傷よ。よく恥ずかしげもなく生きていられるわね


――もうやめて、喋らないで。不愉快よ。





――本当、気持ち悪い






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