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茂住さんに合コンを依頼した女性陣から見ても、あまりに悲惨な状況だったためか場を和ませようと女性の一人が「ご一緒にどうですか?」と二人を誘った。
それに答えたのは怜子さんではなく彼女で、普段仕事では見せない穏やかな笑みを浮かべながら「プライベートだから遠慮するね」と優しく断り、続けて「それに、上司がいると楽しくなくなっちゃうよ」と冗談交じりに言う。それには誘った女性も何となくホッとしたのが見て取れる。社交辞令で誘ったのだろうし、彼女もそれを理解して断ったのだろうという事はわかったが、茂住さんは涙目になりながら俺達に謝り始めたので、雰囲気的に解散の流れとなった。
彼女と怜子さんが店員に案内されて奥の個室へ向かったのを見送ってから「ビックリしたね」等と場を繋ぐようにどうでもいい会話をしながら、残りの料理を少し慌てた状態で腹におさめていき、最後は慌ただしいながらも満足するものとなった。
茂住さんは俺と流星君に奢ってくれるという宣言はちゃんと守ってくれるらしく、俺達には財布を出さないでいいと明言してくれた。鍋田さんと砂田さんも最初からそれを聞いていたようで、ごねることもなく自分たちの分の支払いをする。女性陣は女性陣で会計を集めて茂住さんに渡したところで、それぞれ席を立って俺は流星君と共に何気ない会話をしながら店の外に出たたところで、鍋田さんが俺に話しかけてきた。
「あ、片山さん」
「はい?」
「連絡先交換してくれない? 今度、普通に一緒に呑みに行こうよ」
合コンという形じゃなくて、と言いながらスマホを片手に差し出す鍋田さんに、俺は笑って「いいですよ」と答える。鍋田さんとは初対面だったが、酒の席で話をしていて何となく食の好みと話が合いそうだと思っていたので、そう言ってもらえるととても嬉しい。最初こそ嫌だった合コンだったが、新しい知り合いが出来た点で言えば茂住さんに感謝だ。
俺もスマホを出して連絡先を交換していると、砂田さんが「俺も俺も」と混じってきたので、素直に交換する。俺と連絡先を交換し終わった鍋田さんが顔を上げて、俺の隣にいた流星君にもと言ったが彼は「すみません、あまり交換しない主義なので」と断って。続けて教えてくれた理由に鍋田さんと俺は思わず納得した。
彼は容姿の事もあって非常にモテる。それはストーカーが年に数人出没するくらいモテるらしいという事も何となく聞いていた。故に、簡単に連絡先を教えてしまうといつの間にか拡散され、知らない人から連絡が山のように来るので困るらしい。学生時代には月に一度は電話番号を変えていたというのだからよほどだ。
信用していないわけではないが、一度しか会った事がない人には平等に教えていないという。彼の中で連絡先を教えるには複数の条件があるようで、詳しくは聞かなかったが鍋田さんは納得し「モテるって大変だなぁ」とのんびりと答え、申し訳なさそうにしている流星君に笑って言った。
「じゃあ、片山さんを使うようで申し訳ないけど、片山さんと一緒に誘ってもいいかな? 今日あんまり話できなかったけど、今田君って思っていたより話やすいし面白いよね」
あんまり表情変わらないけど、と冗談交じりに付け加えて鍋田さんが言う。その言葉が嬉しかったのか、流星君は無表情ながらも嬉しそうに頷いたので変な誤解もなく解決できたことにホッとしていたのだが。
「私も片山さんと連絡先交換したいですぅ」
そう言って話しかけてきたのは伊藤さんだ。後ろから「私もっ!」と芝崎さんがやってくる。スマホを片手に交換する準備万全だったが、俺は困った表情を浮かべながら小さく頭を下げた。
「すみません、今日は俺、合コンと知らずに来たので、女性と連絡先を交換するつもりはありません」
てっきり交換してくれるものだとばかり思っていたらしい女性二人は面食らったようだったが、それでもと食い下がる。
「えっ、でもこれも何かの縁だし! 鍋田さんばっかりずるぅい!」
伊藤さんがごねるのをみて、鍋田さんが名案だとばかりに割り込んできて。
「え、じゃあ俺と交換する?」
「鍋田さんの? ……一応貰っとくけど、やっぱり片山さんの連絡先も欲しいですぅ」
一応扱いされた鍋田さんが苦笑しながらもスマホを操作していると、伊藤さんの代わりに芝崎さんが俺の前に寄ってきて。
「私も鍋田さんと一緒で飲み友達でいいので連絡先ください!」
絶対にその立場に甘んずるつもりはない、という事は流石に俺でもわかる。最初は飲み友達でいいと言っていても多分、少しでも気を許せばガンガン攻めてくるだろう。
最近の女性は押しが強いなと悩んでいると、手に持っていたスマホがブルブルと震えてメッセージを受診する。
目の前にいる芝崎さんに少しだけ待ったをかけてメッセージを確認すると、そこに表示されたのは彼女からのもので。
《不自然にならないよう女性との連絡交換可! 葉クンの交友関係に口煩い彼女じゃありません。ただし、メッセージのやり取りは社会人としての範疇を超えないようにね!》
俺の彼女、凄すぎない?
タイミングの良さといい、心の広さといい、こんなこと言われたら絶対よそ見しないでおこうって思う。理解力が半端ないし、彼女として完璧すぎるので絶対大切にしよう。
それでも彼女の言葉に甘えていいものか悩ましく、俺は考えた挙句に芝崎さんに向き直って。
「すみません。やはりやめておきます。呑みたいとき、鍋田さんと一緒に誘ってください」
「俺ぇ!?」
突然の名指しに鍋田さんが驚く。
秘儀、鍋田さんのパクリ。鍋田さんも俺を通して流星君を誘うのだから、俺も鍋田さんを通して貰ってもいいだろう。申し訳ないながらもチラリと鍋田さんを見ると、彼はすぐに俺の思惑を理解してくれたらしく、芝崎さんに歩み寄って。
「じゃあ、なんか今度は俺が幹事やるみたいな流れなんで、連絡先交換します?」
「……お願いします」
不満ながらもその場の雰囲気から芝崎さんは渋々といった様子で鍋田さんと連絡先を交換する。その背後で俺が両手を合わせながら「ごめんなさい」と口パクで謝ると、彼は苦笑しながらも次の瞬間にはニンマリ笑ってくれたので多分通じたのだろう。




