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ラピスラズリの恋  作者: 佐倉硯
片山葉という男
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そんなことを思い返しながら、珈琲を飲みつつ茂住さんと今後の仕事について軽く会話をしていると、自分たちに歩み寄ってくる人物を見かけて軽く手をあげ挨拶をする。


「あ、茂住さん、葉さん。ここにいたんですね」

「流星君、どうした?」


無表情に二人の名前を呼んだのは今田さんこと流星君だ。


実は彼女と付き合う事になってから、待ち合わせに協力してくれたのと身内だということもあって、流星君だけには話そうと二人で決めていた。

彼女曰く、俺から言った方が喜ぶだろうからということで、週の頭の昼食にあえて外食に誘い出し、二人っきりの状況で報告したところ、今までに見たことがないほど満面な笑顔で喜んでくれたので思わずときめいた。その話のなかで彼女を何気なく名前で呼んだ事に触れ、自分も名前で呼んで欲しいし敬語を使わないでほしいと願われたのだ。

最初は躊躇したものの、よくよく考えると断る理由も特になかったため快諾したところ、付き合った報告をする以上にうっきうきな笑顔を見せてくれたので、眩しさで目が潰れるかと思った。

浦島太郎が竜宮城を“絵にも描けない美しさ”と表現していたが、その気持ちがよくわかる笑顔だったとだけ伝えておこう。

言われた通り彼を流星君と呼び始めたところ、彼は嬉しそうに、次の瞬間にはモジモジしながら恐る恐る尋ねてきたのは。


「あの、俺も葉さんって呼んでいいですか?」


なんだこの可愛い生き物。


早まるな俺。彼は男だ。男だ。惚れ――男だっ!!


……って、めっちゃ自分に言い聞かせたよね。


空想上の鼻血を抑えながら承諾すると、彼はハニカミながら「葉さん、葉さん」と繰り返し、えへへっと笑う。


流星君(ブルータス)、お前もか!


あ、もう、その反応は完璧に彼女の身内だわ。そしてある意味彼女より美人なもんだからその破壊力たるや。そういうきっかけもあって、彼がますます俺に懐いてくれるようになったのだが、歩み寄ってくる流星君に茂住さんが尋ねた。


「あれ? 二人ともいつの間に名前で呼び合うようになったの?」

「葉さんにお願いして、俺が呼んで欲しいとお願いしたんです」


そう言いながら茂住さんと俺の座る間に立って答えた流星君に対し、茂住さんは「ふーん」と言いながら次の瞬間には名案を思いついたようでパッと表情を明るくする。


「あ、じゃあ俺も茂住さんじゃなくて友介(ゆうすけ)さんって呼んでもいいよ! 俺も流星君って呼んでいい?!」

「いえ、茂住さんは結構です」

「え……け、けっこっ……えっ、え……」


こういうバッサリと断る当たり、本当に彼女の身内であると実感する。NOと言える日本人だが断り方に難ありなところも流石だ。

茂住さん呼んでもらう気満々だったのに、無表情で断られると思っていなかったのかショック受けすぎて灰になりつつある。


南無、と心の中で茂住さんの成仏を祈りながら俺は流星君に椅子をすすめながら尋ねた。


「そういえばどうしたの? なんか用事?」


俺に促されるがまま椅子に座りながら流星君が教えてくれた。


「ああ、大阪であるセミナー申し込み、今日締め切りなんですけど応募しました? 尾野(おの)さんが確認してきて欲しいって」

「あれって任意じゃなかった?」

「うちの部署に関しては必須ですよ」


認識の相違である。


「まずった……一泊だったよなアレ」


慌ててスケジュールを調べるためにスマホを取り出せば、流星君が申込み可能日を教えてくれる。何とか予定が合いそうな事を確認して「ありがとう、申し込んどくわ」と伝えると、流星君はホッとした表情を浮かべて。


「あ、そういえば」


と、唐突に復活した茂住さんが机に身を乗り出して話を切り出した。


「近々呑みに行かない? OJTも終わったし、その打ち上げってことで。りゅ、今田君も」


さりげなく流星君を名前で呼ぼうとしたが、彼の視線から放たれる絶対零度に殺されそうになったためすぐに軌道修正するあたり茂住さんらしい。彼のモットーは“長いものには巻かれに行け”である。巻かれろではないらしい。レッツゴー簀巻き。

茂住さんの提案に「うーん」と少しだけ難色を示せば、彼はすかさず「お疲れ様ってことで奢るよ!」と付け加えてくれたので。


「え、じゃあ行きたい店あります!」


そう言って手に持っていたスマホを操作すると、ブックマークからその店のSNSを表示させて画面を茂住さんに向ける。彼は俺の手にあるスマホを指先で操作しながら「ちゃっかりしてるねぇ」と笑って。


「創作居酒屋なんですけど、この忙しいの終わったら絶対行こうと思ってたんです。ここの焼き鳥がうまいらしくて。予約したら希少部位もいただけるらしいので」


ゴリゴリと押しの強い猛アピールをすると、茂住さんは俺の熱弁に苦笑しながらOKをくれる。


「そのページ、あとで送っといてくれる? 予約しとくよ」

「っし!」


思わず脇を締めてガッツポーズすると、茂住さんがゲラゲラと笑う。


「食べ歩きが趣味なんだっけ?」

「忙しくて全然いけてなかったんですけど、再開するつもりでいたのが今の店で」


スマホをポケットにしまいながら流星君に向き直って「一緒に行く?」と尋ねると、彼は無表情のまま「葉さんが行くなら行きます」と頷いてくれる。その流れを見ていた茂住さんが「OK、三人ね」と了承しながら俺に視線を向けて。


「でもいいの? せっかく痩せたのに。というか、また痩せたでしょ?」


そうなのだ、あれから俺はまた痩せた。というのも、今までは忙しさがあってあまり健全的な痩せ方とは言えず、きっとすぐにリバウンドも来るだろうと危惧していた部分もあった。彼女との付き合いをきっかけにこのままではいけないと、生活習慣を少しだけ見直すことにしたのだ。


「実は最近、筋トレ始めたんですよ。簡単なやつばかりでしたけど、動画見ながらとか仕事しながらとか継続的にやってるので」

「仕事中もやってんの?」


怪訝な表情で茂住さんが尋ねたのを見て、流星君が思い当たったのか「あ」と小さく声を上げて。


「もしかして座りながらたまに足あげてるのって筋トレですか?」

「あ、そうそう、それも。あと座ってるとき、意識的に腹をへこませて力入れてる時もある」


見られていた恥ずかしさもあったが、やっていないよりは効果があることを自分の体が立証してくれているし、未だ仕事中に何をしているんだと怒られた事がないので継続する意向だ。


「おかげ様で最近、ようやく腹が割れてきました」

「マジでっ!?」


食いついたのは茂住さんだ。


一応、仕事中だけではなく家でスクワットや腕立てなど基本的な筋トレもしていることをつけ足すと、最近気になってきているのか茂住さんが自分の腹を撫で始めたのだが。


「えー、片山さん腹筋割れてるんですか?」


急に第三者の声が話題の中に入ってきたことに驚いて振り返ると、どこかで見たことはあるが名前が分からない女性が三人、いつの間にか背後に立っていて。


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