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ラピスラズリの恋  作者: 佐倉硯
片山葉という男
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二話同時更新です

彼女が泣き止むのを待ってから改めて片づけを終え、本来であれば後は解散する予定だったのだが、気持ちを通わせたばかりの為に気分が高まってなかなか離れがたい状況になった。しかし、この場はレンタルスペースで契約は今日中である。


とにかく彼女が離れるのを嫌がってくれた(・・・)のだが、今日はどう転ぶにしろ(・・・・・・・)彼女と一夜を明かすつもりはなかった。彼女と初めて肌を重ねた日は俺にとって充分な失態だったし、同じ轍を踏むつもりはないというのが本音だ。両想いになったのだから無論、彼女を抱けるのであれば抱きたいが、それは今日じゃない。

何とか理解してもらい残りの時間をそのままリビングで過ごすことにしたのだが、二人並んでソファに座ったタイミングで、彼女の方から提案があった。


「あの、葉クンが勢いでプロポーズしてくれたのはわかってるんだけど」

「勢いというか、本気ですけど」

「……まだ敬語使う?」

「あ、悪い」


ついつい癖で使ってしまったのだが、両想いになってからは不要だと彼女がバッサリ切り捨てる。ファミレス時代は俺の方が先輩だったし、彼女はもともと敬語を使う人ではないので、あの頃の身近な感じが戻ってきた感覚が少しむず痒い。そんな心情は置いといても、話は戻って結婚の話になった。


「勢いなのは確かだけど、結婚する意志はちゃんとあるよ」

「うん、わかってる。ただ、ちょっと待って欲しい」

「それは、どういう意味で?」


俺が尋ねると、彼女は困ったような顔をして理由を教えてくれた。


「家族とか親族のほとんどは反対しないと思う。ただ私の立場上、外野(部外者)が煩くて」


彼女曰く、親族のほとんどが恋愛結婚のため、俺と結婚することに反対されることはほぼないだろうと。ただ、政略的な部分で口を出してくる人達が少しならずか存在しているらしい。すぐにでも結婚できるのであればしたいのが本音ではあるが、ある程度の根回しが必要だという。

その根回しも彼女がどう――というより、俺に被害が来ないための根回しだという。確かに彼女とお付き合いするという話が出回れば、彼女ではなく俺に立場をわきまえろと言ってくる人がいるだろう。そういった状況を阻止するためできる限り安全を確保するという意味合いもあって、時間が欲しいと彼女が願い出たのだ。

まぁ、彼女の誕生日に求婚者がこぞって会社にやってきたのを考えると推して知るべしだろう。


自分には未知の世界ではあるが、未だに彼女のような人達には政略結婚という概念が存在し、それを彼女に強要しようとする存在がいるということだけは理解した。


「だからね、結婚を前提としたお付き合いということで……もう少しだけ待ってもらっていいかな?」

「もちろん。俺の為にありがとう」


恥ずかしがりながらも提案してくる彼女の言葉に即答すると、嬉しそうに照れたように笑う。


「なので、社内でもお付き合いしているのは内緒で、ね?」

「あー……そうだな」


何しろ彼女はモテるし立場も上だ。俺も中途採用されて一年経っていないし、公言するとなれば結婚をするギリギリがいいだろう。場合によっては彼氏・彼女がいると公言してもいいとは思うが素性を隠したいというのが本音だ。バレた時の周囲の反応を想像して身震いするものの、しばらく内緒の社内恋愛が楽しめると思うとちょっとドキドキする。


「どうしよ……内緒の社内恋愛とか緊張する。恋人がいる事自体、初めてだからドキドキしちゃうよ」


同じ気持ちだったらしい彼女が自分の頬を両手で包んで照れていたが、聞き捨てならない内容に反射的に聞き返した。


「え? 今まで付き合ったことなかったの? 恋人いたこと()?」

「う、うん。葉クンが初めて。初恋だし」


何それ。初耳。


道理でいちいち反応が初々しいと思っていた。


やけに俺に対してオーバーリアクションだし、はしゃぎっぷりも学生みたいだとは感じていたけれど、この年になって初恋がまだだったというなら今までの行動が理解できる。グイグイと押しの強さもあったから、肉食系女子だなと思っていたのだが、単純に恋愛の仕方が分からないため自分の感情に任せて素直に動いていた純粋な子だったらしい。


ますます何で俺? と思ったが、今更恥ずかしくて理由なんて聞けない。


難しい顔をしていたらしく、彼女の指が俺の眉間をグリグリしたのを機に我に返る。少しだけ不安げに俺を見つめる彼女に、それならばと伝えておくことにした。


「一つ約束してほしいことがある」

「……? うん」

「今後付き合っていくと、今日みたいに楽しいことばかりじゃないと思う。きっと喧嘩もするだろうし、すれ違いも起こる。縁はモテるから相手の男性に嫉妬もする」

「そ、それはきっと私もする! 葉クンが他の女性と仲良くしてるのヤキモチやいちゃうと思う」

「うん。きっと色々お互い様だし、まだ互いに知らないことも沢山あるから。どんな些細な事でもいいから話し合おう。怒りをぶつけてもいい、自分で理不尽だと思ってもいい。縁が考えて思って感じている事、ちゃんと俺に教えて?」


恋愛初心者な彼女だからこそ言っておくべきことなのか、多分彼女が恋愛経験豊富であっても俺は同じ提案をするだろう。俺だって経験が豊富なタイプではないしアドバイスできるような存在ではなかったけれど、なぜか(・・・)色んな人から恋愛話をよく聞かされていたので、何が大切かというのはわかっている。それを実行しようとするとなかなか難しいかもしれないが、やる(・・)やらないか(・・・・・)では結構差が出るのだ。


「俺ももしかしたら理不尽に怒るかもしれないし、誤解するかもしれなければ誤解を与えるかもしれない。そのたびに話し合いたい。話し合いが喧嘩になるかもしれないけど、ちゃんと伝えて最後には仲直りをしたい。“言わなくても理解してほしい”っていうのは絶対無理だ。言っても理解できないかもしれない。喧嘩が長引くかもしれない。けれど、ちゃんと言葉にしよう。縁の気持ちを大切にしたい。しっかり考えたいから」


こんなにまっすぐ彼女の目を見るのは初めてかもしれない。

俺が真面目に話をしている最中、彼女は鏡のように真面目な表情で俺を見返す。これで茶化すような相手だったらこんな提案はしないだろう。彼女だったらしっかり受け止めてくれる、そんな気がしたからこそ話題にした。

俺が話し終えると、彼女はウンッと力強く頷いて俺の両手をしっかりと握りしめると、目を合わせて嬉しそうに答えてくれた。


「私、こんな気持ち生まれて初めてなの。こんなに誰かを好きになった事ないし、感情ってこんなに制御できないんだ、って自分で驚いてるくらい」


自分の変化に驚きながら戸惑いながら、けれどゆっくりとそれを受け入れるように語りながら俺の手を何度も確かめるように握りしめて。


「私、頭で考えて答えの出せないものなんてないって思って生きてきた。葉クンと出会ってから毎日が新鮮で、苦しかったり、楽しかったり、ふわふわしたり……感情がこれほど揺れ動く意味が考えてもわからなくて。この先何度も葉クンを困らせちゃうんだろうなって思う。でも、葉クンはもうちゃんと私の気持ち大切にしてくれてる。ちゃんと考えてくれる人だって知ってる」


そういうと、急にチュッとリップ音を鳴らしてキスされたので驚いて。


「好きになった分だけ、不安になることもあると思う。だからこそ一緒に考えていこう。一緒に悩んだり、一緒に喧嘩して仲直りして。嫌いって思われたらどうしよう、ってなるかもしれないけど、葉クンがそう言ってくれるなら頑張って伝えるようにする。だから葉クンも聞かせて欲しい」


俺の提案に彼女は彼女なりに応えてくれようとする、その姿勢だけでも充分嬉しくて、俺が笑って頷けば。


「……ちなみに、感情的に喧嘩して仲直りできそうになかったら、一旦持ち帰って検討するっていうのは有りかな?」

「ん? どういう?」

「私、恋愛初心者だけど頭は良いの。仕事が出来るタイプだし」

「それは知ってる」

「だからね『先日、喧嘩した内容につきまして、互いの主張をまとめ解決案をいくつか提案させていただきます』みたいな感じで、A4サイズ一枚の資料にまとめるとかなら得意なんだけど」


そういうの有りかな? と真面目な顔で提案してくる彼女に思わず爆笑してしまう。


「確かに得意そうだな。けど、縁は恋愛になると猪突猛進だし感情が先走るタイプだろ。そんなで公平な(・・・)資料作りできるのか?」

「うっ、それは……ぐぬっ」


心当たりがあるらしく、言葉を詰まらせた彼女の態度にまた笑いがこみ上げる。多少それもありだとは思うが、恋愛は頭で考えるのが難しい。どんな自己啓発本だってどんな恋愛マニュアルだって、当てはまらないときは結局使えない。ようは何事も自分の心がけ次第なのだ。


「まぁ、あまり難しく考えないでいいよ。約束してほしいのは『ちゃんと言葉にしましょう』って事だから」

「うん。わかった。……じゃあ資料は自分の感情を言葉に出来なかった時に作る事にするね!」

「結局作るのかよっ!」


彼女らしいって言えば彼女らしいが、懲りない奴だなとまた笑えてきて。

とうとう我慢できなくなったんか、彼女はおもむろに俺の膝の上に向かい合って座り、首の後ろに両腕を回した状態で彼女が俺を見下ろしながら笑うから、俺も笑いながら彼女の髪を撫でれば嬉しそうに頬擦りして。


「えへへ、これからよろしくね」


色々考えてたの吹っ飛んで、可愛すぎて抱きしめたよね。マジで。

自動投稿予約時間変更して朝の七時にします

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