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ラピスラズリの恋  作者: 佐倉硯
誕生日デートなふたり
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「……あー……なるほど」


納得したような呆れたような声を零した俺に、小鹿のように足を震わせてる彼女は半泣きになりながら助けを求めてきた。


「見てないで助けてぇ~!」


――話は一時間ほど前に遡る。


会計を済ませて店を出た後、近くにある大きめの公園を目指して手を繋いで歩く。歩調はできるだけ彼女に合わせてゆったりと進めば、普通の街並みも特別に思えてくるから不思議だ。


公園に到着してしばらく手を繋いでブラブラと歩く。規模が大きいだけあって、芝生の上でレジャーシートを広げて寝転ぶ家族や、簡易テントの隣でバドミントンをして遊ぶ親子、ボールを投げてはキャッチする犬など色んな風に楽しんでいる人達がいる。

特に目的などなく、手を繋いで会話を楽しんで、時々どちらも話題がなくなり少し気まずい空気が流れれば空を見上げ、と誤魔化しながら歩いていた時だった。


自分と彼女に向ってインラインスケートを履いた子供が走ってきたかと思うと「すみませぇぇ~……」と間抜けな声を上げながら二人の間を縫うようにフラフラと突進してくる。

慌てて繋いでいた手を離せば子供は「……えぇん!」と謝罪のドップラー効果を利かせながら走り去っていったのを二人で見送り、顔を見合わせて思わず笑ってしまった。


「なんか可愛かったねぇ」


ほのぼのとした雰囲気で彼女が呟いて、俺も思わず同意する。


「練習中だったみたいですね。逆に進路を邪魔してしまったみたいで申し訳なかったです」


そう言いながら改めて手を繋ぐと、彼女は嬉しそうに微笑んで。


「葉クンはインラインスケート(ああいうの)やったことある?」

「普通のスケートはやった事ありますけど、インラインスケートはないですね」

「じゃあスケートは滑れるんだ?」

「人並みですが出来ますよ。縁は?」

「私? どちらもやったことないなぁ」


うーんと思い出すように上を見上げて考える彼女の仕草が可愛い。どんな仕草一つとっても愛らしく思えるのは結構重症だろう。自分の感情を誤魔化すように咳払いしながら尋ねてみる。


「近くにできる施設あったはずですが、やってみますか?」


実のところ、公園デートを提案した手前何か用意しておくべきだったかと今更ながら後悔していたところだ。歩き回るにしても彼女の足が心配だし、かといってベンチに座っておしゃべりに興じるほど話題が豊富なわけでもない。

そういう事情も含めて提案してみれば、彼女はちょっとだけ思案したものの小さく首傾げて。


「葉クン、教えてくれる?」

「尽力します」


元々運動するつもりがなかった手前、施設に行く直前に彼女はひょいっと近場にあった店で細身のジーンズを購入して着替えていた。確かにあのひらひらとしたスカートは運動向きではないので失念していた。

流石にジーンズは自分のものだからとお金は彼女が支払ったのだが、どちらでもよかったので今回は彼女のしたいようにさせた。


というわけで、着替えを済ませた彼女と大型のアミューズメント兼スポーツ施設にやってきたわけだが。


インラインスケートをレンタルし、慣れないスケート靴とプロテクターを身に着ける彼女に断りを入れ、自分が教えられるほど滑られるかわからなかったため先に滑ってみたが意外と大丈夫そうだった。ここ最近、運動らしい運動は通勤しかしていないものの、元々運動部だったこともあって、体格の割に運動神経は悪くないと自負している。


他の利用者の間を縫いながら何周かしたところで、話は冒頭に戻る。


「よよよよよぉクンッ!」


スケート靴とプロテクターを身に着け終えた彼女が、まるでへっぴり腰になって壁に捕まり立ちしていた。恐る恐る壁から手を放しながら両足が大きく交互に前後しているので、必死に前に出ようとしているのはわかるが段々後ろに進んでいるのに本人は気づいているだろうか。

転ぶか転ばないかギリギリの所でまた慌てて壁に手を付いているのを見て、思わず「あー、なるほど」と呟いてしまった。


「見てないで助けてぇ~!」


ゆっくり滑りながら近寄ると、これ幸いにと俺の服を掴んで抱きついてくる。けれど下心があって、というより本気で掴んでいる当たり、もしかしてとバランスの悪い彼女に尋ねた。


「……縁、もしかして運動得意ではないですか?」


顔を上げないままコクリと頷いた彼女の様子はわからなかったが、耳まで真っ赤になっているのを見ると自覚はあったらしい。


意外や意外。


どこをとっても完璧だと思っていた彼女はどうやら運動音痴だったらしい。


なんだそれ。めっちゃ可愛いな。そう思う時点で重症化が進んでいるのだろうが、彼女が自分を頼ってくれている事が嬉しい。力が入っている彼女の両手を掴み、姿勢を正すところから始めてみる。


「力抜いて俺と手を繋いでください。顔を上げて姿勢を正して」

「うー……それがむ、難しっ……」


あわあわとしながら何とか俺と両手を握り合うと、ようやく上半身が起き上がる。緊張しているのか、口を“へ”の字にしながら頑張る彼女を微笑ましく思いながらも、自分が覚えたやり方を伝授する。


「確かその場で足踏みしてみてください」

「こ、こうかな?」


赤ちゃんの捕まり歩きを指導するような感じで、彼女は真面目にその場で足踏みし始める。バランスが少しずつ安定してきたところで次の段階だ。


「手を放してやってみましょう」

「が、がんばるっ」


言いながらゆっくりと手を離せば、一応自立することはできたがまた姿勢が怪しくなってきた。


「縁、姿勢」

「あうっ」


普段は上司である彼女に自分が何かを教えるのは、ファミレスで働いていた時以来だ。あの時は物覚えが悪い奴だと思っていたが、多分わざと手を抜いていたんだろうなと今ならわかる。黒澤本部長としての彼女は優秀過ぎて怖いくらいだったが、人間誰でも不得手な事はあるものだ。


一人で立った状態で足踏みもできるようなので、飲み込みは早い。次に少しずつ前に歩き、そこから滑るに至るまで多少時間はかかったとだけ伝えておく。


「お? おおっ? なんか、滑ってる感じになってる!」

「ちゃんとできてますよ」


自分一人で滑ることができたことに感動しながら、前に進む彼女は最初の緊張から解放されたらしく、楽しそうに周回する。時々他の利用者とぶつかりそうになるのは見ていてハラハラするものの、わーいと喜びを表現し、見ている俺に手を振る程度にはうまくなっていて。


「葉クンも滑ろう!」

「はい」


一緒になってインラインスケートを滑ると同時に会話を楽しむ余裕もできてきた。


「こんなに滑れるようになると思っていなかったから嬉しい!」

「よかったです。運動音痴だって言ってた割には覚えがいいので、運動神経が悪いわけではないみたいですね」

「うにゃぁ、得意じゃないよぉ。野球でボールを投げれば暴投だし、バレーは顔面レシーブだし、卓球やテニスはラケットに球が当たらない、バスケのドリブルは足に当たってどっかいっちゃう、ボーリングは最高スコア29――などなど、数々の伝説を残してきた縁さんとは私の事で」

「球技が苦手なだけでは?」

「ダンスは一人だけ『宇宙で踊ってる?』って言われるくらいなぜか時差が発生し、50m走は12秒台、水泳はなぜか犬かきで後ろに進んでいくけど?」

「すみません、想像以上に運動音痴でした」


今、上手に滑ってるの奇跡じゃん。


滑れるようになったのがよほど嬉しいのか何周もしていたが、そろそろ終わりにすることを提案すると、彼女は物足りなそうにしていたが。


「最近、運動してますか?」

「え? ううん、してない」

「一応、これもスポーツですからね。意外と体力と気力を使っているはずです。早めに体を休めましょう。この他にも遊べるものが沢山あるので、無理しては明日に響きますよ」

「はぁい」


渋々ながらも俺の言った事に納得したのか、彼女は素直に頷いてくれた。

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