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ラピスラズリの恋  作者: 佐倉硯
西城縁という女
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02

2話同時更新です

自分でも把握できていない部分はあるが、理解できている部分だけで説明しよう。

それは視界に飛び込んできた情報のみをお伝えするに至るのだが。


――朝起きたら、見知らぬ部屋で自分と彼女が下着姿で寝ていたんだが。


……よし、誰か理解できただろうか?


何を言っているのかわからないと思うが、俺も何を言っているのかが本当にわからない。


本当に。


自分に至っては上半身裸で、下半身はトランクス一枚しか身に付けていないという痴態である。そんな自分の足の間に、自分が嫌っているはずの女性が、自分の腹を枕にうつぶせ状態ですぅすぅと寝息を立てている。


いくら嫌いだとはいえ、相手は女性で異性だ。


そしてなにより自分はブ男で、彼女はそこそこ美人である。


ここで自分の容姿を伝えるならば、百キロを目前に控えたデブであるということだ。身長が平均男性より少し高めなだけまだマシではあるが、そんじょそこらにイケメンが簡単に落ちていると思ったら大間違いである。

見た目はそれほど悪くはないと言われたが、太っている事で残念になっていると言われたことはある。太っているというより大柄だとフォローしてくれる人もいれば、アメフト選手のようだと言ってくれる人もいる。残念ながら、俺はアメフトではなくラガーマンだ。飲み会目的の同好会程度ではあるが。


ではイケメンかと問えば即答で「図に乗るな」と言われる次第だ。


一度も染めたことはないボサボサの鬱陶しい髪型とも呼べない髪型で、放っておけば髭も生える。彼女が居座る足にもちゃんとスネ毛だって生えている。

胸は女性から羨ましがられた事があるくらいはそこそこ垂れているし、腹は胸に負けず劣らず球体である。信楽焼きのタヌキを思い浮かべることが出来たならば、おおよそ同じ体型だとわかっていただけると思う。運動を忘れた成人男性の体型なんざそんなものだ。


そんな丸い腹の上で、ト●ロとメイちゃんよろしく、スピスピと寝息を立てた女性が存在するのだ。

腹に乗る彼女の頬は柔らかく、かかる寝息は温かい。向こう側に投げ出された白く伸びた足も、腹に添えられた掌も女性のしなやかさを携えて。艶めかしい下着から少しだけ零れる胸のふくらみは、うつぶせになっていることによって――。


――まて。まてまてまてまて! ちょっとまて! どうしてこうなってる?!


目の前にある性に支配されそうな煩悩を拭うべく、自分の状況を再度見直そうと思考を無理矢理遡らせていく。


昨日、俺は何をした。


というか、彼女に無体を働いてしまったのか。


本当に思い出せない。


自分の高鳴る心音なのか、早まる呼吸のせいなのか、腹の上で寝ていた彼女が身じろぎした事に思わず息を止めた。

目を覚ました彼女の動作は、彼女のしゃべり方同様、ゆっくりとしたものだった。

静かに顔を上げると同時に長い睫毛がパタパタと小刻みに動く。寝ぼけ眼に視線がかち合ったかと思えば、彼女は見たこともないほどふにゃりと笑って。


一瞬、その瞳の美しさに言葉を失った。


光の当たり具合なのか何なのか、間近で彼女を見たのが初めてだったから気づいただけなのかもしれないが。


キラリ、キラリとまばゆいオパールのような虹色のきらめきが瞬いて。


「――うはぁ……きれぇ……らぴすらずりぃ……」

「は?」


……らぴ? なんだそれ?


とにかく寝ぼけているとは理解できたために、思わず声をあげると、彼女はまたシパシパと瞬いてからトランポリンかのように俺の腹にもう一度顔を埋めて。


「きもちぃ~……」

「腹の上でしゃべんな! くすぐったいわっ!!」


人の腹を何だと思ってんだ、このアマァ!

女であるとかそんな事も考える間もなく、思わず彼女の脳天をスパーンッと勢いよく叩いたのは許されてもいいと思うんだ。


男として、下半身が反応しそうになった事を誤魔化すためなのだから……仕方ない。



 ◇◆◇



「うぅ……おなかぁ……」

「お前のその、俺の腹に対する執着心なんなの?」

「……あれみたいなの……ストレス解消の……ムニムニするやつ」

「俺はストレスリリーサーかよ」


あれだ、ムニムニと手のひらで握ってストレス解消するグッズ。

分からん奴はあれだ。ググれ。


「雑貨店で買ってこい!」

「片山さんのお腹が売ってないぃ~……」


丁度いい柔らかさなのに……と叩かれた頭をさすりながら、涙目になっている彼女。


「俺は非売品だ」

「うぅ……まさかの展示用……」

「展示もしてねぇわ!」


俺が展示してある雑貨屋あったらコエェわ!


ようやく眠気から覚醒した彼女から聞いた、今までのいきさつを頭のなかで整理する。


昨日は確かに彼女が言った通り、店長の機嫌がすこぶる悪く、自分はもちろんの事、珍しく彼女も口をはさめないほど周囲に当たり散らしていた。俺としては昨日が十連勤最後の日で、次の日から久々の二連休。

へとへとになりながらも店長の機嫌を伺っていた。


それから、十連勤および店長からの解放感でコンビニで酒を買ったのも忘れていない。道々歩きながら飲んでいたのも覚えているが、何しろ無茶なシフトを自分で組み込んでいたこともあって、寝不足だったのも否めない。疲労+寝不足+酒ともなれば当然自分は唐突な睡魔に襲われたらしい。

しかも自分の記憶がないうちだったため、防ぎようがない――というより酒を飲まないという選択肢を先に選択できればよかったのだが、どうしても口にしたかったのだからご愛嬌とさせてもらいたい。


とにかく、自分は道端で寝ていたらしく、寝入った直後に彼女がたまたま通りかかって声かけてくれたのだが。


「ひどいぃ……ゲロまみれになりながら介抱したのにぃ……」

「……あー……それに関しては、すまん……じゃない。ごめん、なさい……」


お互いが下着だったのはそういう理由だったらしい。

ちなみに俺のゲロまみれの服は、俺のゲロで汚れた彼女の服と一緒に洗濯機の中で踊っているらしい。


俺の家がわからないから彼女の家に連れてこられたらしいのだが、よく百キロ間近の男を連れてこられたな、と思っていたら彼女は膨れた顔を作ったまま俺の思考を読んだかのように呟いた。


「フラフラだけれど自分の足でちゃんと歩いてたよぅ……呂律は回ってなかったけど……」

「……すまん」


ところで、そろそろ下着姿やめてほしいんだが。

視界に入る彼女の姿は目に毒だ。

彼女の家なのになぜ彼女は服を着ていないのだと苛立ってしまう。第一、俺の前で下着姿でいるということは、俺に襲われる心配なんてこれっぽっちもしていないというわけで。

むしろ、異性として扱われていないからこそその姿でいられるんだろうな、と考えてしまうと苛立ちよりも落ち込む気持ちも膨らんでくる。

嫌いな女からさえ異性対象としてみられていないんだから、彼女なんて当然できるはずもない。

学生時代に付き合った女性は何人かいたが、それも周囲の雰囲気に流されて、周囲が恋人だらけだったから、という自分の気持ちにそぐわない付き合いだったため、すぐに別れてしまったのだが。


「というわけで、お腹ぷりぃず」

「どういうわけでそっちにいったんだ。腹を求めるな、腹を」

「片山さんのお腹、気持ちいッスぅ」

「ごめん、ほんっと意味わかんない」


会話しよう? ね? お願いだから。


しばらく意味の分からん押し問答が続いたが、彼女は急にピタリと動きを止めて、自分のお腹をさすると、またふにゃっと力なく顔をだらけさせて。


「おなかすいたぁ」

「……お前、ほんと自由だね」


彼女の中で、優先事項が入れ替わり、とりあえず飯になったらしい。

3~5話(第一章分)まで予約済。

3話 6/1(木)7:00

4話 6/2(金)7:00

5話 6/3(土)7:00

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