かんちがいさんと、しらんぷりさん??
「ししw」
うにうに と、ソフィアが手を絡めようとしてくるので、
爪を立てて阻止。私の人差し指を手を広げて
優しく掴んで来ようとするので、ソフィアの
人差し指の脇腹を撫で、1対1の意思を伝える。
「う、く」
わたしはもう、このお姉さんみたいな
[ ふつうのにんげん ]には戻れ
ないのを感じさせる。
だから、わたしはソフィアさんと一緒に
居ると辛い。これなら、人形になって
いつも通りレイプされてる
方がいくらかマシだ。
「にゃはは?」
「う…」
こんな優しい痛み、知りたくなかった。
私がホントに望んでる他人との距離なんて、
私が生きてるうちに探り当てて欲しくなかった。
頬を熱いのが伝う感覚。
……ああ、私また泣いちゃった。
この人に会ってから、もう何回目だろ?
いーや。ただ泣いてるだけだし、
泣いてないってことで押し通そう!
「リン、泣いて……」
「泣いてない」
「いやどー見ても……」
「泣いてない」
私はあともう、1ヶ月も生きないんだから、
どうしてこんな時に、よりにもよって
こんな人と、出会ってしまったんだろう。
「泣いてない」(ソフィア)
「泣いてない」(わたし)
ちゃんと私のワガママ受け入れて
くれる遣り取りが嬉しくて。
嬉しさが痛い、優しさが痛い。
胸が痛くて、張り裂けそう。
……これは、何かの呪いなんだろうか??
―――いつになったら、この私の呪い
は、一生晴れるんだろうか??
お前のせいだ、お前のせいだ!
ああ、ちょっと落ち着いた。
======
「ああ、私が美味しくなったら
食べる予定なんでしたっけ……?」
ああ、ちょうどいい。
ちゃんと殺してくれる約束。
これに縋ろう。
あれはトラの時の予定だったと思うけれど、
人間に戻っても続行してるんだろうか?
実は私と同じ種類の人間ってこと?
「あー、もちろんそのうち年頃になったら
美味しく頂くつもりだったけれどーぉ」
なぜか顔を赤くしてる。
そうか、まだ私はお肉が足りなかったのか!
「やっぱりお肉はたっぷりあった方が
たくさん食べれますよね??」
「……まあ、色々楽しめる、よね??」
ソフィアさんは私の胸に釘付けだ!
そっか…、好物はここか…!
「おっぱいとか美味しいんですか?」
「え!! 私は大好きだけど……?」
そっか、既に成人女性を味わってるとか
とっても上級者だ! 世の中は広い!
「味がいいんですか?
お腹ふくれますか?」
「味は……まあ甘いよね。
胸だけで満足は……、
場合によるかな??」
おおー!!
「私も妹食べたんですけど、
やっぱり一度には全部を食べられないですよね」
干し肉にするならともかく、
人の体は意外と食べるには大きい。
「あれ……?
妹さんその時いくつ?」
「9つですかね」
「……イヤがってなかった?」
「泣いて喜んでましたよ?
『おねーちゃんに食べられたら
おねーちゃんと一つに成れる』~って。
まあ、半分も食べれなかったんですけどね??」
「小さい時は、無理は しない
のが一番だからね……」
パチンッ、炎の中で木が弾ける。
減ってきたので、焚き火に木を追加する。
持ち石がカバカバカバ激しく瞬いていた。
まるで、何かを主張したいみたいに……?
そうだ! 確認しなきゃ
いけないことがある。
======
「ソフィアさんに食べられるのって
私が成長してからって ことですよね?」
「あ、イヤだったら断ってもいいんだよ??
私はリンちゃんに幸せになって
欲しいだけなんだからっ!!」
出た! しあわせ主義!
私はそれが大ッ嫌いっていうのに!!
なんだかとっても慌ててる。
……なんでだろ?
でも、今以上の幸せなんて、
よくわかんない。分かりたくない。
絶対にこれ以上知りたくない。
「そしたら、妹と一緒に山の向こう見れたら、
……できるだけ早く私を食べて欲しいです」
夜の痛いのも無くなった。
お腹もいっぱい食べれてる。
―――これ以上の幸せはない。
だったら、この幸せが崩れてしまわないうちに
……しっかりと終わらせなきゃいけない。
でないと全部ブチ壊しになってしまう。
「まあ……食べる食べないは
着いた後に置いといて。
……妹さんは、家?」
「いえ、もう居ないです
私が食べて、鳥葬にしました
ずっと私と一緒です」
「そうか……
? リンが食べた時は
もう元気じゃなかった??」
「ええ、もう最後だったので」
「そっか……つらかったね」
私の旅の最後、お姉さんにできるだけ
美味しく食べてもらう目標が出来た!
さすがに何年も待ってもらうのは悪いし、
そもそもその間どうやって食べて生き
てけばいいか分からないから。
山の向こうに付く時、少しは「おいしい」
と、この優しいソフィアさんに言って
もらえるよう、明日からできる
たけ太るようにしよう!
血は、やっと止まった。
鳥になって、自由に
飛び回る夢を見た。
======
「お! リン、
起きたか!」
う……?
白い女魔法使い?
そうだ、わたしは家出して、
今は山の向こうへ この人
と旅してるんだった。
「これに着替える
といいぞい」
「わー、ありがとー!!」
綺麗にたたまれた服を着て、
クマ鍋の残りを食べる。
破けてあんま役に立たなくなった服を全部脱ぐと、
ソフィアさんは息を呑んで 言葉無く私の体を見つめる。
「そんなに見つめられ
ると恥ずかしいよー!」
なんとなく誤魔化したほうがいい気がして、
夜 村オトコの視線、ジットリ受けた
時とおんなじ対応してみる。
なんだろ、
違うんだよな。
「それ、痛くない??」
ソフィアさんは心配そうに尋ねてくる。
どれがだろ? 自分の体の数え切れない
アザと切り傷と古傷を見比べる。
昔からいつも痛くて、痛みは
よく分からなくなってる。
「痛くないよ?
それより、行こ?」
早く山の向こうに辿り着きたい。
それで早くお姉さんに食べられたい。
「ここ、血が出てるじゃない!」
「昨日ソフィアさんにきつく抱き締められたから、
傷口が開いちゃったんだよ。大したことないよ」
バレてしまった!
======
一晩経ったのに、動いたせいでまた開いて
しまったみたいだ。すぐに死んじゃうワケ
じゃないから、無視しても問題ない。
さすがに最新の傷はすぐには治らない。
父親がナイフで肉をゴッソリ抉ッて
取って行ったのは1週間前だから、
塞がるのに1ヶ月位は掛かるだろうか。
「ごめんなさい!!」
「!」
突然頭を下げられてビックリ! 心が震える。
初めての経験なので、ひどく動揺して
どうしたらいいのか分からない。
「……分かった、行こ?」
そしたら、魔術? で傷の治りを
早くしてくれた。助かる。
「パッとすぐには直せ
ないものなんだね?」
流れの商人が語ってくれた伝承では、偉大な魔法
使いは大怪我でも手をかざすだけで治していた。
「自然の流れに逆らうと、それだけ
本来必要でない力が、増えていくの。
その分多くの代償を出さないといけない」
だから、ちゃんと魔術は使いどこ
を見極める必要があるらしい。
「でも、昨日の3人組、
簡単そうに使ってたよ?」
「ああ、あれ?
あいつら一発で半年か
1年寿命縮まってたから。」
―――どうやらあのまま私が手を下さ
なくても、5年くらいの寿命だったらしい。
「よっぽど不自然に乱発して きたん
だろうね。魂が歪みまくってたよ。」
「それは魔術のせいというよりかは、
あの人たちの性格が歪んでたからじゃ?」
「言うね。まあ、犯されそうになったんだから、
よく思うはず無いよね。……でも、寿命が
短くなって種の本能が手段を選ばず
子供を残そうとしたのはホント」
「そうなんだー」
山へクネクネ続く一本道をソフィアさんと
一緒に歩き、てくてく目的地を目指す。