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すてきなよると、なべなべなべ!!

「あのっ! こまります!!」


 敵意がないのに肌の触れ合いして

 くるの、ちょっと止めて欲しい。

 なんだか泣きそうになってしまう。


「よいではないか!

 人肌に飢えておったのじゃ!!」

 

 頬をすりすりしてくるこのおねーさんは、

 私の姉と同じくらい若い。

 ……ああ、まだ泣くの

 我慢できてる!


「すまんな、ほんとに

 うれしくて………」


 私の異変に気づいて開放してくれた。

 悪気がないのは知ってるから、ジト

 目でコク頷いて勘弁してあげる。


 

「……というか、殺されちゃっ

 たんじゃないんですか――?」

 

 てっきり白いひとは殺されちゃったと

 思ったから、敵討カタキウちで仕返ししたのに。


 ……これじゃあの人

 たち、死に損だよ??


 まあでも、みすみす山越えの体力奪われるほど

 私はお人好しさんではないので、どっちにしても

 あの人たちは さよならさん になった気もします。

 


「おーそれな! ワシは

 トラになっていたのだ!」

「トラ……?」

 

 4足の白いケモノは、[ トラ ]

 という生き物だったらしい!


 

魔法マギアの使い過ぎで、

 戻れなくなってしまっていたのだ!」

「使いすぎだと、切れるんじゃなくて

 戻れなくなるんですか??」

 

 この人の言う[ 魔法マギア ]

 というのは、よく分からない。 



ヴァーラン・ナームを忘れ

 てしまうのだ!」

「わかんない」

「まー、そのうち

 おいおい、な??」


 とにかく私の人は無事

 だったみたいでよかった!!

(人に変わってしまったけれど)




======



 

「にしても、派手にやったのー」


 白い魔女は男たちの死体を観察してる。

 てっきり人殺しをとがめてくるかと思ったら、


「キズはないか??

 乱暴にサれなかったか?」


 私を優しく抱き締め確認してくる。

 もう安心していいんだと心が理解すると、 


 張ってた気持ちが緩んで、

 安心して泣いてしまう。


 ……あれ、いつもこの人に

 泣かされてる気がする??

 てか、こんなに私泣き虫だっけ。


 

 泣き止もうとしても

 自分の意志では泣き止めず、

 白い人に抱き抱えられながら2回目の夜を迎えた。

 

 私が少し落ち

 着いた所で、

 

「夕食作るからちょっと

 待っているのだぞ!」

 

 と言ってお姉さんは るんるん♪

 スキップして夜の森に消えていった。



 一人きりになって夜の静寂が私を包む。

 ひんやりと冷え込みが私の泣き後をなぞり、

 

 あの人に私の一番恥ずかしい弱いトコ

 知られたと気づき、一人で赤面し。けど

 秘密を知られた共犯みたいな心地よさに、

 ―――少し気持ちよくなって浸ってた。


「にへへ」


 いもうと、私は無事生きてるよ?

 今晩お仕事だから、上手く行けば

 また明日、夢に近づく旅が出来るよ?!


 今日のお客さんは

 優しそうだよ??



 

======


 


 グツグツ♪

 今夜は鍋だ、クマ鍋だー!

 

「そろそろ良い

 頃合いじゃろ」

「ありがと……ぅ」


 よそって渡してくれる。

 アツアツで美味しそう♪



「……おいしかった!」

 いきなりおねーさんがクマ担いできた時には

 思わず臨戦態勢になってしまったけれど。

「そっか そっか!」


 おねえさん、

 にこにこ嬉しそう。


 

「あの…、マチルダ

 =リンネ、です…」


 いい加減この白いきれいな魔法使い

 おねーさんの呼び方に困ってたので、

 自分から自己紹介する。


「おー! どっちの

 方がいいのかの?」

 

 どうやら名前を2つ

 持っているようだ?

 


「呼びやすい方

 で、いいです」


 長いと たぶん忘れてしまうだろうから。

 忘れた名前を聞き直すのは、気が乗らない。 


「ソフィア = リンドヴェルや!」

「ソフィアちゃん……」


 白っぽいとか きれい なのはソフィアちゃんのイメージに合うけど、

 さっきクマ担いできたのは、なんか違う気がするぅ……。 

 

 焚き火を囲んで、星空を見上げる。

 冬の大三角に、一角獣とドラゴン。

 ……はためいて またたいている。

 

「くしょん!」


 服は家出したままで、さっき破かれ

 てしまったので、よけいさむい。

 特に火に当たってない背中が!



「リン、こっち

 来るといい」


 ソフィアさんはマントをぱたぱたと振って誘う。

 リンネ家のリン。名前じゃなくて家名を縮め

 たのが、なんだかソフィアさんらしかった。



 ……さあ、お仕事だ!

 乱暴されないと、

 うれしいな?




======




「あったかーい♪」


 ソフィアさんのマントにすっぽり包まれる。

 人肌はやっぱり暖かくて気持いい。

 

「寝る時よく妹を抱き

 しめて温まってたの」

「そうか、リンはよく

 面倒を見ていたんだな」

 

 うん、最後の最後まで。

 ……だから今も、一緒だよ?


 

「……ッ!」


 ソフィアさんの息が少し

 荒くなった気がした。

 ……なんでだろ??

 こーふんしてんのかなー??

 

「約束したの。あの山の向こう

 まで、必ず一緒に行くって」

「……」


 返事がないので、少し不安になる。 

 ソフィアさんの胸が背中に当たってて、

 息の度に柔らかい感触が伝えられる。 

 


「家族の元へ、戻ら

 なくていいのか?」


 押し殺した声でソフィアさんは尋ねてくる。

 私を責めているのか感情を抑えているのか、

 判断が つきづらい。私を責めているなら、

 逃げ出す準備をしておかなくちゃいけない。



「家族のとこへ……?」


 聞き返して、時間稼ぎをして、

 できるたけ状況を見極める。


 幸い今は私を抱くソフィアさんの腕は緩くしか力が入って

 ないから、力がない私でも振りほどくことが出来る。



「そう、待っている人が居るなら、

 途中まで一緒に行こうか??」


 話の流れは、親切を装った風。ここから

 裏切られるか、無理やり話を まとめてくるか?


「んー……」


 言葉を伸ばしてとにかく時間を稼ぐ。

 このままムリヤリ連れ戻されそうだったり、

 親を見捨てるなんて酷いヤツだと精神攻撃が始まっ

 たら、速攻で安全なとこまで逃げ切らないといけない。


 ……じれったいのはキライだ。

 ―――危険な状況だけど、

 まっすぐ放り込んでみる。




======




「次は、私が

 殺されるから」


 来年の冬は、きっと

 私の番だったんだろう。

 それは両親の呪材カース作りに必要なこと。


 どんどん貧乏になっていくウチは、

 家に残っている材料すべてを使って

 準備をしなきゃいけない。


 父と母にとって、私たちはもう必要な

 材料にしか見えていなかったんだろう。



「だいじょう

 ぶか……?」


 ……どう答えればいいんだろう。

 はい大丈夫です、って何もないフリして

 笑顔で大人は あしらっておけばいいんだろうか?


 あの山を越えるまで私の体力が持てば、

 大人の手なんて借りる必要ない。

 辿り着けばその瞬間に野垂れ

 死んでも構わない。


 だから、くまさん鍋を ごちそうになった分だけ今晩仕事して、

 そんで この人からは離れることにしよう。

 ……このひとは、優しすぎて、

 一緒にいて つらい。



「だいじょうぶ

 ですよ……ぅ?」


 振り向き、にこっと きれい颯爽サッソウに笑う

 つもりが、涙がポロポロこぼれてしまった。


 ……あ、ほんとにキツイ時って

 営業スマイルも出来ないのか。

 いつもみたいに、心が麻痺して何も

 感じなければ完璧にできたのに……。

 


「全然平気そうに

 見えないんだが……」

 

 案の定速攻で

 ツッコまれてしまう。


「うう……」


 

 反論しようとしても、もう涙声に

 しかならないのでシブシブ諦める。

 

「約束……守るまでは……

 死なない……から、問題……ない」

 

 かすれ小声で

 ようやく主張できた!

 (ほめてほめて!♪)



「よくない! リンが

 幸せになれない!」


 ちょっと、斜め上の返事で、

 ちょっと、ぼうぜんとする。


 あー、この人 幸せとか曖昧なもの

 信じちゃうタイプかー、

 カモられちゃうよなー。



「ちょっと! リンちゃん! なんか可哀想な

 もの見る目で私を見ないでよ……!」


 うーん、動揺しすぎてる! アウトだ!

 それに、私がソフィアの瞳見つめると、

 頬に朱が差して ふいと視線を反らす。



 ……もしかして、脈あり?

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