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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集 ファンタジー

赤い血

作者: 燈夜

冴えない文章ですが宜しくお願いします。

 身に着けた鎧が金属質な音を立てる。ガチャガチャと五月蝿い事この上ない。しかも重い。追跡にはあまりにも似合わない装備だった。女戦士は路地裏に消えた勇者と盗賊の影を追っていたのだ。


「全くアイツら、目を離すとすぐこれなんだから」


 理由は些細な事だった。夏の太陽照りつける海の街。そこに着いた途端、海岸には女の子! 海だ、水着だ、女の子だとバカ丸出しで勇者と盗賊が浜へと駆けて向かったのだ。男って単純すぎる。……こんなに近くに良い女が三人もいるのに。

 とはいえ。付き合うのもバカらしい。海にも魔物は居るのだ。油断もいいところ。アイツは勇者としての自覚が無さ過ぎる。それに、宿も決めなくてはならないと言うのに。


 とはいえ追跡は諦めた。海沿いの大通りで赤い鎧の女戦士は嘆息する。彼女は長い髪を左手で掻き揚げる。燦燦と照りつける太陽。それはこの海辺の町を白く照らし出している。


「また面倒な事に首を突っこまなきゃいいけれど」


 そして深い息を吐く。溜息。そう。溜息しか出なかった。

 海鳥の鳴き声が聞こえる。潮の香りを運ぶ海風が、彼女の紫色の髪を弄っていた。

 確かにこの暑さだ。浜は浜で盛況かもしれない。


「どう。彼ら、見つかった?」


 三角帽を目深に被った魔道師が尋ねてくる。彼ら、とはもちろん勇者と盗賊の二人の事だ。いま彼女に聞いているのは赤い髪を持つ目つきの鋭い美女。そんな彼女纏うローブの下からは、激しく自己主張する胸がある。そんな大胆さを包み隠した姿態を持つ彼女は女戦士と違い、やけに冷静だった。ホント彼らはバカなのではないだろうか。こんな良い女を放っておいて、自分たちだけで浜にナンパとは。


「全然だめね。宿を決めておきましょう。バカバカしいわ」

「その前に店を冷やかす。魔硝石を買いたい」


 魔硝石とは魔法の呪文を唱えるときに使う触媒の事だ。魔法を使うときに消費する。いわゆる魔導師の必需品だといっても良い。女戦士は渋々と承諾する。熱血漢……いや、いささか頼りない勇者とお調子者の盗賊。彼らに付き合っていてはきりが無い。それに、自分の剣もそろそろ砥ぎに出したが良いだろう。と、そこまで思いもう一人の連れの姿がそこに無い事に彼女は気付いた。辺りを伺う彼女を様子から察したのだろう。魔導師は女戦士の誰何の声よりも先に口を開いた。


「彼女は神殿。神に祈って来ると言っていた」

「また、そんな勝手な……」


 女戦士は僧侶の事を口にする。とことんマイペース、しかもスピリチュアルな彼女にも困ったものだ。これまた勝手な行動を取りたがる。「神の恩寵が有れば世界は安泰ですわ!」と常々言って憚らない彼女の事だ。今もその大切な「神さん」とやらに祈りを捧げているのだろう。ちなみに彼女も清楚な美人。頭の中も清楚過ぎてお花畑だけれども。


 女戦士はまたも溜息。祈るだけで魔王の脅威が無くなれば何の心配もしないのだ。もっとも、そんな平和な世が来れば戦士を生業としている自分も廃業がも知れないが。

 だが、今のところそんな心配はどこにも無い。魔王軍はどこまでも強大で、女戦士ら人類の領域を今この瞬間にもその恐るべき闇の力で脅かしているのだ。女僧侶が言うような「神の恩寵」なの欠片も見えないのが今の世界の惨状だ。だが、そんな中でも浜で遊ぼうとするバカは居る。そしてあまつさえそんなバカをナンパしようとする度過ぎたバカどもも。


 彼女達が生まれる遥か以前から魔王軍と人類は対立していた。所詮は解り合えない間柄なのだ。現に、人里近くまで魔物は姿を見せる。女戦士が魔物と人類との対立の歴史に思いをはせようとしたその時──。


 そんな時だ。市場の方へ足を向けようとする二人の耳に、切り裂く女の悲鳴が聞こえたのは。


「魔物よ!」

「魔物が街の中に!」


 悲鳴に混じってそんな声が漏れ聞こえる。

 今まで晴れていた空に黒雲が立ち込めていた。間髪居れずとどろく雷鳴、そして稲光。そして大粒の雨だ。


「行くぞ!」

「……買い物……」


 女戦士は悲鳴のした方へ駆け出す。魔導師は不服そうだったが、それきり黙って女戦士に従った。

逃げ惑う人々に逆行する、濡れ鼠の二人。だがその二人を止めるものは居ない。


 雨音と雷鳴、そして悲鳴に混じり、複数の剣戟の音が聞こえた。勇者だ。盗賊も居る。それに女僧侶も。そして無数の小悪魔達。

 叫ぶ。

 女戦士は勇者の名を呼んだ。


「人間、マダ手向カウカ」

「も前こそ、まだやるのか、魔物め!」

「黙レ人間、コレシキノコトデ」


 一際大きい魔物。悪魔と呼んだ方が良いのだろう。蝙蝠めいた皮膜を持つ翼に二本の螺子くれた角を持つ濃紺の魔物。明らかに生粋の魔族の特徴だった。


「気をつけろ、あれは厄介だ」


 魔導師が女戦士に助言する。判っている。おそらくアレは幹部級の魔族だ。相当に強いはず。それに幹部級ともなれば、かなりの数の手下を連れているはずだった。


「手を貸せ! これ以上の手下を呼ばれる前に倒すぞ!」

「判ってるわよ!」


 勇者の指示はもっともだ。こんなときだけ偉そうだ。だが女戦士はなぜか素直に勇者の指示に従えない。判っている。子供めいたただの嫉妬だ。

 何を偉そうに。そう思う自分を押し殺し、女戦士は腰の剣を抜く。


「ガハハ、遅イ遅イ、もっと出デヨ闇ノ眷属タチヨ!」


 虚空に闇が染み出す。現れたのは有翼の小悪魔たち。それが現れるや、次々と雷の呪文を乱れ打つ。


「拙いって大将!」


 イの一番に悲鳴を上げたのは盗賊だ。


「そんなのわかってる!」


 盗賊はナイフをけん制とばかりに投擲すると、そっと物陰に隠れた。


「クケー!」


 奇声を上げて盗賊へ殺到する小悪魔達。勇者は彼を庇う様に勇者は必死に応戦する。勇者の剣はその銘を「正義の剣」という。こちらの名はまだわかる。人類の正義を背負う勇者が剣を振るうたび、中空に浮く小悪魔が墜落してゆく。続く僧侶もまた手にした星型の鉄球で敵を討つ。僧侶の「平和の一撃」と名づけられたモーニングスターだ。名前が実態とかけ離れる事は良くある事。僧侶は着実に小悪の頭を容赦なく潰していった。平和とは何かを問いかけたくなる光景だった。

 それでもまだ、数の優位は魔物の側にある。魔物との争いが無くならない理由。それがこの数にあった。魔物は次から次へとどこからとも無く湧いてくるのだ。


「コノ悪魔メ! ヨクモ我ガ同胞ヲ!」


 最初の魔物、魔族は怒っているようだった。魔族に悪魔と呼ばれてしまう。まぁ、理由は問うまい。彼らにも彼らなりの正義があるのだろう。電光が、雷光が、そして鉤爪が乱れ飛び、剣と鉄球が空を切る。じりじりと、じりじりと押される勇者たち。


「コレデ終ワリニシテヤロウ!」


 バリバリと轟く紫色の電光と共に、空気を焼く悪臭がその場を支配する。

 そして怒りの雷が勇者を……撃たなかった。

 魔族が高笑いをあげる。だが、その高笑いはやがて驚愕へと変わっていたのだ。


「バカナ」


 勇者たちは無傷。女戦士が魔力を帯びた大盾で防いでいた。大盾に大穴が開いている。ああ、これも修理だな。女戦士はそう思うのだ。


「油断しないで。このバカ」

「……っ!」


 女戦士が勇者に視線を寄せると、あからさまに目を逸らされた。もうクタクタで、肩で息をしているくせに。この意地っ張り。勇者には勇者なりの矜持があるのかもしれない。女に守られたくないとか。おそらくそんなどうしようもなく、実にくだらないものだろう。勇者なら勇者らしく、根性を出しなさいよ!


「本当にバカ」


 女戦士の愚痴だ。女戦士は思うのだ。勇者には仲間を信頼して欲しい。そして自分を見て欲しいと。一人ではないのだと、わかって欲しい。


 そんな時。魔導師の術が完成する。次元の門を開いたのだ。小悪魔が次々とその門の中に吸い込まれ消えてゆく。強制送還の呪文だった。街の人の悲鳴が消える。後に続くのは嗚咽だけ。


「グアァアアアアアア!」


 悪魔の親玉は耐える。彼女の呪文に抵抗したのだ。ほら、勇者をこうして仲間が支援している!


「親玉は任せた」


 あっさりと諦め、無機質に言葉を紡ぐ赤髪の魔導師。その姿は時ならぬ大雨でずぶ濡れだ。水も滴る良い女。それが今の彼女だ。しかしいつもながらに愛想の無い。いや、もしかしたら自分を浜に誘ってくれなかった勇者たちに拗ねているのかもしれなかった。……これは女戦士の勝手な想像ではあるが。彼女も確かに不機嫌だった。だからこれは女戦士の勝手な推測だ。


「オノレ人間ドモ! 調子に乗りおって!」


 魔族の鋭い鉤爪が女戦士を襲う。だが、女戦士は傷ついた盾で払って切りつける。ただ一撃。それだけだ。女戦士の剣が魔族の翼を引き裂いてゆく。間髪居れず道路に落ちた魔族の胴を勇者の剣が串刺しにする。そして止めとばかりに僧侶の星球が頭を砕く。ゴリッと。実に見事な連携だった。


 ◇


 雨は相変わらず降っている。


「血が……赤い」


 勇者が呻く。何かが彼の中で壊れたのかも知れない。

魔族の血の色も赤かった。同じ赤い色の血を持つ生き物。それが魔族。そして今、街には魔族の死骸だけが転ぶ。

 悪魔とはなんだろう。魔族とはなんなのだろう。女戦士も思った。


 魔族とは魔王に付き従うもの達。人間に仇なすもの。勇者はそれを討つ側だ。考えてはいけない。考えてはいけないが……時々女戦士は思うのだ。彼らも人間と同じく赤い血を持つものならば、その相手といつまで戦えば良いのかと。

 ただ、戦わなければいけない時がある。戦うべきときに戦わねば死が待つのみ。それだけは確かな理だった。無力な人が居る。この街にも多く居る。そしてあの盗賊のように牙の脆い者も。だから女戦士は先頭に立ち戦う。守る。盾となる。戦う力を持ったものは少ない。だからこそ、その力を持っている自分たちこそが率先して戦わねばならないのだ。例え罪悪感にさいなまれようと、世の真実がどうであれ、立ち上がるべき時に立ち上がれる者がその力を示すのだ。


 空を覆っていた黒雲が晴れる。あれだけ降っていた雨も上がっていた。闇は去ったのだ。


「いやぁ、大変だったな」


 時ならぬ物思いにのめり込んでいた女戦士の肩を馴れ馴れしく叩く者がいる。盗賊だ。


「アンタは何もしていないでしょうが」


 盗賊のボケに、女戦士は突っこんだ。


「俺っち、もう水着の姉ちゃんは良いや。早く宿を取って祝勝会といこうぜ」


 口の軽い盗賊だ。だが、彼のように気持ちを切り替えさせてくれる存在こそ貴重なときがある。彼も皆の仲間なのだ。


「勇者さんよ、構わないよな? ……残念だけど」


 今だ肩で息をしている勇者。その目はまだ何か考えているのか、虚空を見つめていた。彼にも葛藤はあったのだろう。彼の剣は魔族の血、赤い血で濡れていたのだ。それも赤い血。人間と同じ赤い血だ。それを見て普通でいられるはずもない。


「罪悪感を感じる事はありません。あの魔族は敵として現れました。彼もあなたもなすべき仕事をなしたのです。これはその結果。あなたは結果として街の人々、そして仲間たちの救える命を救われました。それが命の選別。……それで良しとしましょう、勇者様」


 お花畑な僧侶の口から流れる神の言葉。それで良いのだ。迷っていては踏み出せない。隙を見せてはそれこそそこを魔に突かれる。ならば、進むしかない。優しさは、時には仇となる。だから、今は彼女のお花畑な言葉が幸いだ。


「そう。今の魔族は敵だった」


 濡れそぼった魔導師も言葉少なく続ける。

 女戦士ははっとする。そう。敵だったのだ。戦いだったのだと。


 いつしか勇者が剣の血をぬぐっていた。そして剣を鞘にしまう音が聞こえる。


「もちろん。みんなで乾杯しよう。今日の勝利に乾杯だ」


 顔を上げて語った勇者の言葉。その言葉に淀みは無い。希望は希望であるべきだ。彼はそれを自分自身の言葉と行動で体現する。それが勇者たる彼の存在意義であり存在理由だった。


「気張りすぎよ」

「そうかな?」


 勇者が照れる。照れ隠しだろうか。かすかに口元が歪んでいた。


「当然酒の勺をしてくれるよな?」

「どうしてアンタなんかに!」


 盗賊の一言。そのやり取りに皆が笑う。本当に仲間思いの盗賊だ。勇者も笑っていた。だが、どこと無く陰のある笑い。女戦士と同じく、さすがの勇者にも赤い血が堪えたのかもしれない。


 今、勇者は作り笑いであろうと笑っている。


 仕方の無い事かもしれない。敵にも赤い血が流れていたのだ。

 だから、今はそれだけで満足しよう。女戦士はそう思うことにした。


説明をつけなければいけない文章というのもあれですが、アクションシーンが上手く書けるか否かを意識しました。……書けてませんね。

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