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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
96/164

研究所

 時は遡る。


「ハッ、ハァ」


 真由美は首にある魔道具を何とかしてはずそうとしていた。


「凄いね。流石鬼と言ったところかな。魔力を三十分も吸い取られてたら立ってなんていられないのに。そこの小さい女の子みたいに」


 研究員の一人――(らい)と言う男が倒れ込んでいるひよを指した。


「しっかりしなさいひよ! 日和! 気を失ったら死ぬわよ!」

「おね、ちゃん。も、やだよ……」


 元々その体に入っていた魔力が探偵社内で一番少ないひよは真由美のように平静を保つことはおろか意識を保つことも苦痛なのだ。ひよの虚ろな目からは涙が溢れ、それを拭う気力さえない。


「っ。もういいでしょ! このままじゃ本当にこの子死んじゃうわ」

「それが何か?」

「なっ!」


 ここで異能を使えることができれば雷を斬り殺していただろうがその魔力も全て持っていかれてしまう。


「お前の仲間は元より全員殺すつもりさ。お前らみたいに(かく)()して魔力を放出させてんだ」


 この飛行船の中央は大きく吹き抜けの状態になっており、その地下が魔力で作動する機関室となっている。横幅が限りなく広い為、空でも飛べない限り向かいの部屋まで辿り着かないのだ。


「にしてもお前ら庇い合いが好きだな。さっきもブロンドの女が泣きながら隣の男の名前呼んで。その男なんつったっけ。まさ? とか言うのが女の魔道具取ろうとしてさ。普通自分優先だろうがってさ」


 何が面白いのか雷は真由美が奥歯をギリギリ噛み締めているのも気にせず笑い転げている。


下衆(げす)が」

「その下衆に何もできない悔しさはどうだ鬼? ああでも他の奴らよりは楽に死なせてやるよ。あんたと喋んの楽しいし」

「里奈は」

「は?」

「里奈はどうしたの。銀髪の女性よ」

「ああ。そういやあの女あんたと同い年なんだってな。若いし身長も低いから高校生くらいだと」

「答えろ!!」


 いい加減怒りでどうにかなってしまいそうな体を必死に抑える。里奈の持っている懐中時計も実は魔道具であり、普段は彼女の体内に埋め込んである。あれは魔力が無くても里奈の意思だけで取り出せるし、その位置を警察に送ることもできる。


(里奈さえ無事でいれば外に伝えられる)

「そいつならこことは違う部屋にいるよ」

「ここ?」

「神殺しを作る為の部屋だよ」


 真由美の驚愕(きょうがく)な目を見て雷は首を傾げた。


「何故そんな顔をする? まさか神殺しが自然と産まれてくるなんて思ってないだろうな」


 真由美だって異能者として長く生きている。神殺しのことだって知っている。


「なんで里奈が」

「梅香が選んだんだよ。だってその女の体は」

「やめろ!」


 自由になっている足で雷を蹴りあげようとするが軽々とかわされる。


「怖い怖い。もっと話したいけどこれ以上言ったら殺されそうだな。あ、そうだ。そろそろ破壊神(狂気のお姫様)が来るかな? 迎えに行ってみようかな」

「待ちなさい!」


 違う部屋へ行こうとする雷を阻止(そし)しようとするが首輪についているチューブがそれを許さずに真由美は室内に引き戻されてしまう。


「っこの!」

「……ちゃん。おね、ちゃん」

「ひよ、死んじゃ駄目!」


 命の灯火が消えかけているひよを真由美は抱きしめる。


(お願い。誰一人死なないで)




 雷の楽しみは異能者を苦しめることだった。

 数年前にこの研究所の長が孤児だった雷を引き取ったことが始まりだ。雷の体内には神の異能者によってできた水晶が埋められており、日に日に自らの命を奪われていく感覚に襲われていたのだ。

 両親は異能者に殺され、自分も同じ末路になることを知った雷は異能者を恨んだ。神を恨んだ。

 そんなある日、神を殺すために作られた研究所があることを耳にした。その時偶然目にした所長――(ひょう)()に出会った。氷河は雷が神を恨んでいると知ると神殺しのことを伝え、仲間になるかと聞いてきた。

 雷は一も二もなく頷いた。散々恨みに恨んだ挙句、雷は狂人と化してしまった。


『探偵社に破壊神がいる』


 そのことを聞いて以来、雷の頭には神を殺すこと以外残らなかった。正直他の異能者が生きようが死のうが雷にとってはどうでもいいのである。

 破壊神さえ殺せればいい。それが終わったら後は氷河の命令を待つのみだ。先程真由美がひよを殺すなと言っていたが今はまだ(・・・・)殺す気はない。

 もし死んで破壊神が悲しみに暮れてしまえば面白味が無くなってしまう。神殺しと言えど一対一で勝てるかどうか雷も定かでは無かったがその娘は異能者になって日が浅く人を殺すこともままならないそう。


(それなら首を捻ることなんて簡単過ぎる。沢山絶望を与えてから殺した方が楽しい)


 そう考えて雷は一人ほくそ笑んだ。

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