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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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あやの首

 連休が終わり、学校が始まった。


「何故治る」

「あんた程じゃないけど頑丈にできてんだよ異能者は」


 あやと一緒に朝食を取っているが、見たところ背中を庇っている様子もなく、他に目立った傷もない。


「でもひよちゃんとか」

「いやがっつり完治してるわけじゃないから。歩けるくらい。今すぐ戦えって言われたら無理があるよ」

「そりゃあまあ」


 神憑きである紫だってまともに動けるまで一週間かかったのだ。傷の違いはあるが。


「やっぱ異能者の治癒とか元々特性で……うぐっ! げほげほ!」


 味噌汁が気管に入ったのかあやが苦しそうに噎せた。その拍子に上半身が汚れてしまう。


「ありゃ」

「ああどうしましょう。制服なのに」

「クリーニングに出しゃ大丈夫よ。私の部屋にあさのお下がりあるから取ってきてもらえる?」

「はい、ってなんでお下がり」


 紫は隣の部屋に行って予備の制服を持ってきた。


「持ってき……寒くないんですか」


 せめて持って来るまで着てればいいものをわざわざ寒い中、シャツを身に(まと)っているだけでこちらが身震いする。


「別にすぐのことだし、びしょびしょのまま待ってたくないし」


 あやは汚れた制服を畳む。紫は手渡そうとしてあやの首元に目が行った。


「いつもつけてますよねそれ」

「え?」

「そのチョーカー。お風呂の時も寝る時もずっと付けてますよね」

「なんで知ってるの? エッチぃ」

「あんたが一緒に入ろうって無理矢理来たんでしょうが」


 肌色に同化するような色だからパッと見ではわからないが後ろ首にある丸い小さな金具が紫の疑問心を立たせた。それは首にぴったりと密着しているためかぶれないのか心配だ。


(かゆ)くないんですか」

「うん。特殊なゴムでできてるから。それに外したくても外せないし」

「え?」

「何でもない。それより着ていい? 凍え死ぬ」

「あ、すみません」


 衣服を着る時、少しチョーカーの位置がずれた。


(あざ?)


 小さな黒いあざが紫の目に映った。




「ダサ」

「黙れ」


 登校中、紫から話を聞いたあさは早々に吐き捨てた。


「仕方ないでしょ詰まっちゃったんだから。替えがあって良かったよ」

「高二になってご飯で服汚すとか」

「黙れ」


 同じようなやり取りを学校に着くまで繰り返していた。


「ゆかは体調平気?」

「問題なく。羽は意思で動かせますし紋は変わりませんし」

「それならいいけど。でも油断はできないね」

「すみません」


 この頃は狂気も収まってきて、紫も扱いやすくなっていた。しかし破壊神が何時復活するかわからない。気は抜けない状態だ。というかそれより。


「しん達こそ平気なんですか」

「あやが平気なら俺達も平気だよ」

「何ですかその原理は」

「あやが最後に探偵社に入ったからな。耐性とかそういうもんだろ」

「へえ……え!?」


 探偵社の部長だからてっきり古株だと思っていた。


「違うんだ」

「ああそれ? じゃんけん」

「適当過ぎる」

「えっと。あやが入って来たのは二年前。高校生になる少し前だね。そういえば一昨年のこれくらいだったかな」

「俺が四年前だからな」

(えーっと社長とから姉は最初からいるから置いといて一番の古株が十一年前に入ったあさ。翌年にしんとまさで四年前にひよちゃんとやま)


 こう考えると紫がどれだけ新入りなのかがよくわかる。


「ひなみはいつからだっけ」

「さあ。探偵社に入社したのは六歳だけど物心つく前からお邪魔してたよ」

「ふーん」


 皆本当に小さな内から働いてるんだなと紫は思った。


(あれ?)


 雛子が生まれた時から創立されているなら里奈と真由美もいるはずだ。


(二人共今二十五歳でしょ。でもひなみが言うには十六年前から姿が変わらなくって)


 そうすると彼女達は九歳で探偵社を創立させた? そんなこといくらなんでも無理だが事実は事実で。


「ゆか、着いたよ」

「え? あ、はい」


 紫が考え込んでいる間に校庭まで来ていたらしい。


(そういえば異能が二つ使えるのも不思議なんだよね。あやって外見も内面も不思議ちゃん?)


 軽くディスっているが置いておこう。


「あ、ねえ紫。社長から聞いたんだけどさ」

「うん?」

「今日抜き打ちで漢字テストあるって……」

「なんで早く言ってくれないのぉ!!」


 雛子の襟を掴んで校門から校舎まで数秒とかからずに紫は走り抜けた。


「はっや」

「というかもう間に合わないと思うけど」

「そっとしておこう」

「まず抜き打ちの意味……」


 因みに予想は的中していた。

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