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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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凧揚げする時の凧はどんな気持ちなんだろうね

「ひよちゃん苦しくない?」

「大丈夫です。あ、巻き終わりました?」


 ひよはシャツを下ろして包帯が巻かれた腹を隠した。応急処置と言ってもまさの異能じゃどうにもならない程の重傷を負っていた為、お馴染み白川総合病院に行かせて欲しいということを恵子に伝えた。

 血にも内臓にも慣れている恵子でさえ絶句する程の傷を負ってまで動けているということで紫はようやく事態が並外れていると理解した。無傷の紫も恵子の手助けで包帯を巻く係をしていた。自らが付けたひよの傷を見る。


(痛かったよね。まだ前の傷も治ってないし)

「ゆかー?」


 一点を見つめて落ち込んでいる紫をひよは下から覗き込む。


「むー」

「……」


 ひよはベッドから降りて椅子に座っている紫の(もも)に尻を乗せて首に抱きついた。


「わっ! ひよちゃん安静に」

「いーやーでーすー」


 ひよは紫の首筋に顔を押し付けて強く抱きしめた。


「一人でそんな顔するからいけないんですよ。笑顔が戻るまでこうしています」


 ひよは内緒で紫の心を見た。ひよに対する罪悪感。辛いと言う気持ち。純粋な気持ちが溢れていた。


(私達よりあなたの方が何倍も辛い思いをしているのに気づいてないなんて)


 だが気づかなくてもいい。自分がこうやって抱きしめればいいのだ。真由美にしてもらったように。


「……っありがとうひよちゃん」

「ふふ」


 紫が(まなじり)に微かに滲んでいた涙を拭った途端、ひよが急に動かなくなっていた。


「寝てるの?」

「スー」


 徹夜で働いては一日で回復しないのだろう。軽く揺すっても起きない。


「おやすみひよちゃん」


 傷が開かないようにそっとベッドに戻した。


(そうだよね。私ももうあいちゃんに守られたままでも後を追い続けてるわけでもないんだから)


 他の部屋に行こうとした紫の前に真由美がドアを開けて入ってきた。


「ひよは?」

「今寝た。多分当分起きないと思う」

「そう」


 完全ではないものの鬼の力で治療した真由美の腹は元通りだ。腸が軽く飛んでいた気がするがそれは紫も同じなので敢えて何も言わない。


「何かあったのから姉?」

「あったにはあったんだけどいつも通りだから置いといて。許可もらったから屋上に行きましょう」

「どうして?」

「特訓」


 紫は首を傾げながらついていった。




 数時間後。


「もう治ったよねこれ」

「治ってないから」


 人体の(かなめ)の一つである骨を全身折られているというのにあやとあさは喧嘩を始めて――理由は割愛――恵子に怒られていた。

 しかも痛みを感じないのか何の支えもなく歩き回っているので恵子は逆に二人を実験したくなっていた。息子達に止められていたが。


「お前達には安静という言葉がないのか?」

「暇なんだもん」

「同意」


 背中を支えているギプスが気持ち悪いのかあやが何回か()(じろ)ぎする。


「入るわよ。あなた達真由美とゆか見てない?」


 警察に連絡して早々里奈が言った。


「禍乱さんならさっき屋上へ行く許可を取りに来ましたよ」

「禍乱……」

「から姉さんのことよ」

「から姉さんって母さん」


 真由美さんと言わない所が恵子の不思議な部分である。


「屋上? 何かあるんですか恵子さん」

「特には。多分柊さんも一緒だと思うけれど」

「ちょっと見てきましょうか」

「社長私もー」

「はいはい」


 あやの状態をもう無視することに決めた里奈は(さと)すことなくあやを連れていった。ちゃっかり雛子もついていく。


「屋上って普段は立ち入り禁止なの?」

「らしいね。開放してたら精神を病んでる人とか自殺しちゃうんじゃないの?」

「なるほど」


 骨が砕けている者と大火傷を負っている者だと言うのに軽々と階段を上る二人を見て里奈はこいつら本当に人間か? と思ったりもした。


 屋上に着くとしっかり閉まっていなかったドアが半開きになっていた。


「あ、真由美」


 両手でロープを掴み――ロープ?


「いやぁぁぁぁぁ!!」


 頭上から悲鳴が上がり、見ると腹にロープを括られた紫が飛んでいた。真っ黒な羽を背中につけて。


「でっかい羽だねー」

「二つ合わせたらこの病院くらい余裕じゃない?」


 呑気に眺めているあやと雛子。


「もう無理だよから姉、落ちちゃうぅぅ〜!!」

「落ちない落ちない。ほら凧揚げの凧の気持ちを思い出して」

「わかんないよ!」


 両腕を振り上げて必死に羽を動かそうとしているが風にさらわれて――落ちた。

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