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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
87/164

誰にも止めることはできないのか

「ひな!」

「っ! 不俱(ふぐ)戴天(たいてん)!」


 爆風の衝撃で吹き飛ばされたが雛子は異能で打撃を食らうことはなかった。


「紫……じゃない破壊神か」


 所々に自らの者では無い血が付着している紫を恐れることなく戸惑うことなく雛子は真っ直ぐに(たい)()する。


「俊。紫の動きを鈍らせて」

「ああ」


 紫が反応する前に異能を発動させる。


「影踏み」


 月で僅かに現れている紫の影を雛子が踏む。すると影が変幻自在にゆらゆらと動き、雛子の手中に入った。


「影人形」


 雛子がそう唱えると紫の体が硬直して動かなくなった。


「ごめんね紫。少しだけ我慢してて」


 治癒を使える紫ならばと雛子は更に影の拘束を強める。


「俊。社長に連絡して」


 紫の体が(きし)み、雛子の元へと近づく。


「ひ、なみ」


 紅く染まった目が黒くなり生気を取り戻した。紫は苦しそうに呻く。


「紫?」


 拘束を解くと体制を立て直すことなく紫は倒れ込み大きく()せる。


「あなた操られてたんじゃ」


 噎せ終わった時、雛子は急いで紫の力を無効化しようとした。


「……あいちゃん」


 紫は雛子の首を両手で掴み、馬乗りになって締めつけた。


「っゆ、かり」

「殺さなきゃ。あいちゃん、殺さなきゃ」


 異能を使うよりも早く紫の目が紅く染まる。


「ゆかり……離し、て」


 片手を離し、大鎌を振り下ろした。


「――っ!」


 痛みは無かった。薄らと目を開けるとやまが紫の腕に木の破片を刺して食い止めていた。


「ひな!」

「っ影憑き!!」


 『影人形』よりも拘束力が強く思考を失わせる『影憑き』。意識が戻ってももう解かない。だが。


「あい、ちゃん」


 元々思考を操られている紫にこの力は無用だった。紫の両手から炎が現れて地面に触れた瞬間大爆発を起こした。


「なっ!」


 やまと雛子は爆発に巻き込まれた。大爆発はすぐに収まり、木の燃える音と全身に火傷を負った二つの肢体が残った。


「後三人」


 霊感を持つ雛子の目には紫に少しだけ似た藍の姿が映った。


(紫の姉。破壊神の姉)


 雛子はそのまま闇に落ちていった。




「……」


 里奈は懐中時計を手にしたまま村の方を見た。


(まだ二十分しか経っていないのに誰とも連絡がつかないなんて)


 千里眼を持っているわけではないが、今までの様子を見れば破壊神と対峙したことは明確だ。負けたことも。


(気絶だけならまだいい。でも破壊神なら平気で人を)


 里奈は考えを追っ払うように頭を大きく振った。


(そんなわけないわ。あの子達はまだ死んでいい子達じゃないの。それにゆかがそんなことできるはず)


 紫が残っているなら森も民家もこんな風にはならなかった。紫が異能者を傷つけるはずがない。それでも現状は無情すぎて――。


「社長。ねえ社長」


 一緒に行動していたあやが呼ぶ。


「あさ達死んでないよね? ゆかはちゃんと戻ってくるよね?」

「っ」


 あやも同じことを思っていた。ここで里奈が大丈夫だと言えれば良かった。


「……最悪のことも考えなさい」


 里奈の口から出たのはその言葉だけだった。言ったことは後悔したがそれを訂正することは里奈にはできないのだ。


「重傷を負っていることは確かよ。ゆかがどこにいるかはわからないけど治癒ができるまさを探して」

「里奈」


 進み出ようとする里奈の肩が掴まれる。


「真由美?」


 遠くの方まで探しに行っていたから瞬間移動してきたのだろう。その体には数多の傷があり、息もあがっている。


「何が」

「逃げて里奈。あれはゆかでも破壊神でも無い。霊……」


 真由美が全て言い切る前に里奈の視界から消えた。否、吹き飛ばされて木に叩きつけられたのだ。


「から姉!」


 あやが急いで駆け寄る。腹に手をやると腸が飛び出してしまうのではないのかと言う程に大きく肉が抉られて大量出血を起こしている。


(今の一瞬で!?)


 真由美の身体能力でこんな傷を残すのは()(なん)だと言うのに。


「どうしよう。あ、止血! から姉ごめんね。我慢してて」


 あやが炎を出して傷口を焼こうとする。


「あや……逃げて」

「え?」


 あやの体が空中に浮き、そのまま地面に叩き落とされた。骨が何本も折れる音がしてあやは大量の血を吐き出す。


「あや!!」

「が、はっ!」


 気を失うことはなく、体をくの字にして痛みに悶えるあやの方へ行こうとして急に里奈は立ち止まった。


「後一人。殺さなきゃ」

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