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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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くーちゃん探しでここにはいない声が

「くーちゃぁん? どこ行ったのー?」


 普通の三倍は大きくなっていた蜘蛛を見つけられないはずはないのだが、バッグを見ても周りの地面を見てもどこにもいない。


「くーちゃんは他の蜘蛛とは違うから踏まれる心配はないと思うけど」


 今は昼休憩で校庭には人が殆どいない。人の波に飲まれてしまったのだろうか。


「ちゃんと戻ってくると思うよ。くーちゃんはゆかと疎通できてたんだから」


 しょげる紫をあやが励ます。


「はい」


 『お前のせいで関わった人間が不幸になる』


 アイラの声が(よみがえ)る。彼女の言葉が間違っていると紫は断言できないのだ。


(くーちゃん)


 どうか見つかりますようにと願うしかなかった。




「……紫」


 部室は立ち入り禁止の為、教室で雛子と食べているがあまりにも溜息が多すぎて(いさ)められた。


「あ、ごめん」

「溜息吐くと幸せ逃げるよ」

「そんな迷信のことをひなみが言うなんて」


 紫はパンを手にしたまま固まった。


「……まあいいや。早く食べてまたくーちゃん探ししよう」

「うん」


 真由美と里奈に言ったら探してくれるそうだ。と言っても里奈は蜘蛛が苦手な為、追いかけるしかできないが。すぐに連絡ができるようにイヤホンとマイクをセットした。


「校庭をもう一回探し出していなかったら部室も見てみよう」

「立ち入り禁止だよ?」

「そんなの蜘蛛には関係なし」


 たまにあるこの大胆行動も紫は慣れている。


『ごめんねゆか。見つからない』


 食べ終わって探している最中に里奈から連絡が来た。


『あや達は?』

『校庭探してるけど気配なし』

『校外に出たのかしら』


 そうしたら危険度は増すし、学校にいなければならない為探しにいけない。最悪の想像を紫がした時だった。


『別にくーちゃんは外に出ておりませんよ』


 ここには居ないはずの声がした。


『全く観察力が足りませんわ。大体小さなくーちゃんが障害ありの状態で外に出られるなんて奇跡です。それに意思の疎通ができて勝手な所へ行くわけが』

「ひよちゃん!?」

『なんですか?』


 なんですかではない。

 重症を負って意識不明だったと言うのにイヤホンとマイクで上から目線に説教を始められたせいで最初口がきけなかった。


『ひ、ひよ? あなた起きたの?」

『ええ。から姉がわたくしを置いてけぼりにしている間に。今校門にいますよ』


 爆弾発言。紫以上の大怪我を負った少女が意識を戻した直後に外出なんて院長の恵子が許すわけが。


『大丈夫です。直談判(じかだんぱん)で許可を得ましたから』


 人はそれを強要と呼ぶ。


『もういいわ。今から迎えに行くからちょっとそこで待ってなさい』

『はーい』


 里奈がひよのタフさに呆れながら仕方がないので校門に向かう。


『でもまあひよがいるのならくーちゃんもすぐ見つかるだろうね』


 今の会話からすればひよには蜘蛛の位置が特定できているのだろう。安全とわかって紫は安心した。とりあえず部室へ全員集合された。


「おひさしですゆかぁ!」

「ひよちゃ……めっちゃ重症じゃん!!」


 軽快な声とは裏腹に顔の半分以上は包帯に覆われ、足も引きずっている。厚着をしているが真っ赤に染まっていたセーラー服を見ればミイラ状態だろう。紫のような治癒力もない。


「あら大丈夫ですわ。こんな傷なんとも」


 くるりと一周した時、頭の包帯がめくれて血が流れ出した。


「あ……」

「ひよ。安静にしていなさい」


 真由美に命じられてひよはぶつくさ言いながら座った。


「そういえば校内にいるってひよは見えたの?」

「ええ見えましたよ。どこかはわかりませんが空き教室にいます。教卓に乗っていました」


 昼休憩の時の空き教室なら場所を絞ることができる。


「それなら片っ端から教室を見て回ればわいわね。ひよ、そのまま蜘蛛を見てて。動いたら教えてね。それじゃあ」


『午後の部を始めます。生徒は校庭へ集まってください』


 空気の読めないアナウンスが校内に響いた。


「競技が始まったら全部出入り禁止よね」

「生徒だけね」


 来賓は元より生徒より行ける場所は限られている。


「仕方ない。ひよと真由美で教室を見てくれる? 隙を見て私達も行くから」

「わかった」


 真由美は異能で姿を隠せるし、ひよもどこに人がいるのか見ることができる。体調的に長く異能は使えないが仕方ない。紫は一抹の不安を覚えながら外に出た。

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