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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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体育祭は本気です

 そして今に至る。気づかれないように蜘蛛は籠に入れて見学する紫のバッグに入れた。


「さて。開会式も終わったことだし競技ね。えーと最初は」

「大玉リレー」


 ルールを知らない紫の為――雛子は何故か知っていた――暗黙(あんもく)の了解的に説明する。


「三人一組で先に五組大玉を転がした方の勝ち。全学年別々で三試合行いまーす」

「大玉はどこでも共通なんですね」


 最初のピストルが鳴ってスタートした。


「ところで私達何でこんな離れた所でたむろってるんですか?」

「楽だから」


 まあ離れているおかげで応援の大声はそんなに届かないので傷に響かないが。


「それに蜘蛛にとってもうるさいと体がキツイでしょ」


 呼ばれたのかと思ったのか蜘蛛が籠から出てきた。その姿が可愛らしくて紫は人差し指で頭――と思われる部分を()でる。因みに元が異能者である為、意思の疎通はできるらしい。


「この後が障害物、玉入れ、棒引き、借り物」

「皆さんはどれに出るんですか」

「僕とやまは騎馬戦、しんは借り物、あやとあさは棒引きで」

「昨年は同点だったけど今年こそは勝つ」

「へえ、そう。やってみなさいよ。どうせできないでしょうけど」

「だから二人とも同じチームでしょ」


 味方同士で火花を散らす二人に呆れながらまさは話を続ける。


「そういえばひなは何?」

「借り物」

「ひなみ、まだメロンパン食べるの?」


 開会式が始まる前も終わった後もメロンパンを食べてて味に飽きないのだろうか。


「大丈夫。今食べてるのイカスミのメロンパンだから」

「何そ……ああそれ!!」


 ずっと忘れ去っていたが今思い出すと気になって仕方が無いのだ。ちなみに紫に名前を変えられるのを雛子が嫌がった為、ひなみと呼んでいる。


「これシリーズ化されてる」

「え、そうなの?」


 雛子がビニール袋に入っているメロンパンを全て取り出す。


「苺、桃、レモン、オレンジ、胡瓜、ゴーヤ、納豆、それとイカスミ」

「色鉛筆みたい」


 紫が不思議を通り越して感動している。その傍で。


「もう途中から食う気失せる」

「まあ買ったからには食べるんだと思うよひなも」

「とりあえずゆかに被害が来なければいいけど」


 と、先輩組が密かに思案していたりもする。そんなこんなしてる内に玉入れの番まで来ていた。


「そろそろ招集だ。あさ行こう」

「はいはい」

「行ってらっしゃい」

「行ってき……袋開けてるけどそれお昼じゃないの」


 とにかく出番がない紫は退屈なのである。


「あいつら何コースだ?」

「最後だから三コース目じゃないかな」


 棒引きのルール。赤白の真ん中に九本の棒が置いてあり、より多くの棒を陣地に置いた方の勝ちである。


「力比べ?」

「それといかに早く棒を陣地に置いて戻ってくるかだな。まああいつらなら何の心配も無いだろ」


 今のところ二試合どちらも赤が勝っている。


「このまま最後もこっちが取れば」

「それは無理。あやとあさがいる時点で負ける気しかしないよ」

「え?」


 と言ってる間に三試合目。紫は一方向からただならぬ殺気を感じた。


「掃除が始まるな」

「へ?」


 ピストルが鳴り、紫が瞬きした直後、棒は全て白の方へ置いてあった。


「……」


 紫の順応力でも追いつけなくて首を大きく傾げる。自己再生が効かず、恵子が縫合(ほうごう)した首の傷跡が開きそうになったのでやまが頭を戻した。


『え、えー結果を発表します。赤零本。白九本の為、白組の勝ち』


 放送部が慌てて発表するもついていけない者達は反射的に拍手するだけだった。


「負けたんですか?」

「一応ね」


 帰ってきたあやとあさは喧嘩中だった。


「だから私の方が一本多く取ったんだって」

「馬鹿言うんじゃないわよ。あんたみたいな非力が二本も三本も取れるわけ」

「え、異能使ったの?」

「んなわけあるかぁ!!」

「もうどっちでもいいでしょうが。結局勝ってんだから」


 いつ来たのか里奈が紫の隣に立っていた。教師用のジャージを着ているにも関わらず、その面立ちのせいで来賓(らいひん)からは高一と間違われている。


「あれ、しんとひなは?」

「次が借り物だから招集しに行った」


 不意に里奈の携帯が鳴り出した。


「はいもしもし城ヶ崎で……ああ真由美。来たの? わかったそっち行く」


 里奈の言葉で大体内容は掴めた為、別に質問はしなかった。バッグの中から蜘蛛がひょっこり顔を出す。


「どうしたのくーちゃん?」

「くーちゃん」


 これで異能者が男だとしたら大分気まずい気がする。呼びやすいが。


「ゆか。くーちゃん何か大きくなってない?」

「え? でも触れてな……あれ本当だ」


 大量の魔力を受けたおかげなのだろうか。そんなことを思っている内に次の競技が始まった。

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