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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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大山俊

 もう誰にも愛されはしない。きっと池内だってもう俺を見てはくれないだろう。

 こんな親殺しを。こんなバケモノを。

 なんでこんな目に逢わなきゃなんないんだ。俺はただ愛されたかっただけなのに。いや、蔑みでもバケモノを見る目でも良かった。とにかく誰かに自分を見て欲しかった。


「池内……俺、どうしたらいいの?」


 どこにも俺の味方はいない。人殺しが行くところ――。


「警察に行けば……楽にしてもらえるかな?」


 死刑という言葉があるのを知ってる。これだけ大罪を犯したのならきっと警察は俺を死刑にしてくれる。死にたい。地獄に落ちて二度とこの世界に生まれ変わらないように死にたい。

 どれくらいか歩いていた所に警察が見えた。

 死ねる。ようやく死ねる。


「さよなら池内」


 警察の入口に立った俺はそのまま意識を飛ばした。




「そう。ありがとう武田警部。最初に見つけてくれたのがあなたでこの子、運が良かったわね」

「大分衰弱してるところを考えると虐待か孤児か。異能者である可能性が高いと思ってな」


 知らない声が頭上から聞こえてくる。死んだのかな俺。


「あら起きた?」


 確認する為に目を開けただけなのに銀が混じった白髪の女性が顔を覗き込んで来た。


「城ヶ崎。顔が近いぞ」

「あらそう? 顔色を見たかっただけなんだけど」


 誰だろう。それになんだか体が重い。


「……っ」

「ああ動いちゃ駄目よ。全身の筋肉が痙攣(けいれん)を起こしてるから痛いわ」


 死んだら感覚ってなくなるんじゃないのか。俺はまだ死んでないのか?


「おれ」

「警察の前で倒れてたのよ。血塗れの状態でね。でも傷が無かったから返り血だったのかしら」

「ここは?」

「警察の中にある医務室よ」


 ああ。やっぱりまだ死んでないのか。この人も警察の人なのかな。


「……して」

「ん?」

「殺して。俺を死刑にして」


 女の人は静かに目を伏せて小さく何かを呟いた。今「この子も」って聞こえた気がしたんだけどどういう意味なんだろう。


「武田警部。ちょっと二人きりにさせてくれない?」

「ああ。話が終わったら呼んでくれ」


 女の人は武田警部と呼ばれた男の人が出ていくとその顔に表情を何一つ浮かべなくなった。


「遅ればせながらはじめまして。私は城ヶ崎里奈。ここからあまり歩かない場所で探偵をやっているわ。ここは警察だけど普通とは少し違うの」

「違う?」

「特務課。異能特務課とも呼ばれているわ」

「っ!?」


 異能? 今この人は異能と言ったのか?


「その顔を見るとどうやらあなたは異能のことを知っているのね」


 知ってるどころじゃない。俺はその異能で人を。


「君の名を知りたいけどそう簡単に教えてくれるわけはないわよね。だからちょっとお喋りしましょうか」


 俺は殺して欲しいって言ったのになんでわざわざ?


「うーんでも私これくらいの男の子とは初対面で話したことないのよね。真一達はもっと小さい時にだったし私は高校教師だし」


 俺の存在を無視してる気がするのは気のせいなのか?


「ねえ」

「ん、なあに?」

「どうして殺してくれないの。俺は人を殺したんだよ。さっきの返り血だって親のだ。親殺しは死刑でしょ」

「……」


 里奈さんはもう一つ溜息を吐いた。


「ねえ」

「大山俊」

「!?」


 なんで? お、俺名前言ってない気が。


「聞いたことくらいはあるわ。だってあなたよく警察にお世話になってたんでしょう? 私も警察に世話になってるから。仕事でね?」

「……っ」


 責められるのだろうか。それでもいいから早く殺してほしい。


「俊君。あなたが異能のことをどれだけ知っているかはわからないわ。だけどね、親殺しでも何にしてもこちらは自白しても死刑にはできないの。異能者なら特に」

「わかった。なら証拠も渡す。研究所に行けばすぐにわかるから。それと俺の自白があれば殺してくれ」

「そうね。そしたら殺してあげるわ」


 良かった。研究所には血塗れの人達が沢山いるし俺は包み隠さずに全部話す。


「ならそれまで探偵社にいてくれないかしら?」

「探偵社?」

「さっき言ったでしょう? 私は探偵として働いているって。ここの医務室は本来警官の為にあるようなものだから。あなたは探偵社の人達に危害を加える気はある?」

「あ、あるわけない」


 本当は人なんて殺したくないんだ。それを知ってたのか里奈さんは笑っただけだ。


「じゃあ明日連れてくから。そしたら医務室の場所に直行して寝てるのよ。良いわね?」


 囚人としての自覚を持てってことだろうか。そんなのなくても俺は死ぬ準備くらいできてるのに。

 翌日。


「これは?」

「服よ。血塗れの状態で寝かすわけにはいかないから昨日武田警部にシャツを貸してもらってたの。女物だけどうちにいる男とは身長的にあれだしティーシャツジーパンだから我慢してね」

「……」


 我慢も何もこれ多分男物だと思うのは俺だけなのか?


「あ、それと」


 里奈さんは俺に赤のリストバンドを渡す。


「?」

「その鎖を隠したらいいわ。昨日ずっと気にしてたわよ。禍乱真由美っていう女性には事情を説明しているから他の子に言われたらそっちに逃げなさい」


 わざわざ買ったのだろうか。どうせ死刑になる奴なんかに。


「さて俊。死刑が決まるまでは探偵社にいることを誓いなさい。良いわね」

「はい」


 里奈さんがこの時不敵に笑ったけどその理由がわかったのはもっと先のことだった。




「社長」

「あらやま。傷は?」

「まさがいいって言ったのにしんと恵子さんに引きずられるまで治療してくれたから。もう殆ど治ってる」

「ふふ、そう。それならいいわ」

「社長」

「んー?」


 どうしてこの人はこんなにとぼけた顔をするんだ。


「俺はいつ死刑に」

「さて仕事仕事」

「……」


 四年も経っていて俺がそのボケに騙されると思ってんのかなこの人。


「ねえやま」

「はい?」

「もう少し探偵社にいない? 新人(ゆか)もいるんだし」

「……わかりました」


 四年も経ってしまったのにその質問は(ずる)すぎる。


「……ごめん」


 秀ごめん。やっぱり俺はまだ死ねそうにないから。だからまた会うことになりそうだよ、兄さん。

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