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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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鬼の怒りを

 数十分前。秀の話を聞き終わったあやは何をするでも無くじっとしていた。


「お前らの思っている俊は全てあいつの過去と正反対なんだよ。異能だって本当は俺のものだったんだ。殺人を犯して嘘をつき続けたクズさ」

「……」


 あやは静かに秀を見上げる。睨むでもなく暴言を吐くでもなくただただその大きな目で見据えていた。


「俊さえいなければ俺も親もこんなにならなくてすんだ。神殺しになりたいと願わなければあいつだけ愛されずに全てが上手く行ったんだ」

「……そうだね」


 同意されるとは思っていなかった秀が絶句する。


「やまだけじゃないよ。皆人の死を経験して生きてる。自分で傷つけた人だっているよ」


 私だって例外じゃない。とあやは言う。


「異能者なんて化け物呼ばわりされるもの。それに逆らうことは一切できない。子ども? 非異能者にとっては間引(まび)くいい材料。そうじゃなきゃ共存できなかった過去は無かったはずだもの」


 前向きに生きることができず、自殺をしてしまった過去の異能者も少なくなかった。異能者には生まれながらにして持っているはずの光を非異能者に取り上げられたようなものだ。


「何が言いたい」

「人を蹴落として光を得るな。私達が光を得るためにはそれだけの代償を払え」


 言い終えた後、あやは不意にニコリと笑った。


「と、社長が申しております」


 あやが左耳にかかっていた髪を払う。耳の穴には透明で小さなイヤホンが――。


「内通か!」

「ピンポーン」


 あやが指差す先には懐中時計と小型ナイフを手にした里奈の姿があった。


「初めまして大山秀さん。まんまと引っかかってくれて助かったわ」


 里奈が一本ナイフを投げてあやの手錠を壊した。


「ゆかは?」

「大丈夫。雛子と真由美に向かわせたから」


 あの二人なら確実に紫を助けに行けるだろう。


「それなら急がなくてもいいや。こいつぶっ倒してからでも」

「間に合うわ」


 拘束を解かれたあやの炎と里奈のナイフに囲まれた秀は二人を交互に見た。


「神殺しじゃないと言うのにな」




「……こっち」


 マフィアの大まかな地図を頭に入れている雛子が真由美を連れて拷問部屋へ急ぐ。


「奴隷部屋なのにやけに静かね」

「アイラが煩いのを嫌いで異能を使って黙らせてるの。自分の気に入った人形(・・)だけを拷問部屋に閉じ込める」


 自分勝手な奴隷売買人だ。真由美がそう思っていると雛子が急に立ち止まった。


「ひな?」

「アイラの異能が暴走してる」


 先程から見ている白い霧のようなもの。湿度が高すぎるせいなのかと思ったが――。


「まさかこれ全部霊魂!?」


 言われてみれば一つ一つ奇妙な動き方をしているが奥まで全体にかかっている程力は漏れるものだろうか。


「真由美」

「何」

「紫を見かけたら真っ先に阿修羅を呼んで紫を抱き締めて」


 紫の()が霊を恐れている。


「……わかったわ」


 めいっぱいの力を込めて走る。拷問部屋は更に深く立ち込めていた。


「阿修羅。異能を消せ」


 霧が晴れて扉を壊す。


「ゆか!!」


 紫は治癒もままならない状態で魂に体を食われていた。真由美は急いで紫の元へ行き、服を破かれた上半身の体に上着を羽織らせて顔を見る。


「――っ。ゆか、その目」


 片方の目玉は抉られて、その穴からは血液が垂れ流れている。あまりにも傷が深すぎるのか全く治る気配が無い。


「か、らね……?」


 気を取り戻した紫が枯れた声で真由美を呼んだ。


「ゆか!」

「からね……いたい……こわいよ」

「……大丈夫よ。お姉ちゃん達が付いてるからね。寝なさい。ずっと抱きしめててあげるから」


 昔、ひよが悪夢を見て真由美の部屋に来た時にこうして抱きしめて一緒に寝て落ち着かせたのだ。背中を規則的に叩いてやると紫はまた眠りに落ちた。

 その隙を狙って魂が襲いかかろうとした――が。


「真由美?」

「……日和もこの子も。なんの罪もないのに」


 雛子は寒気を感じて体を震わせた。


「ひな。探偵社全員を影で守りなさい」

「え?」

「ここを全て破壊するわ」


 雛子の目には映った。

 真由美の瞳が鬼のように燃え上がっていたのを。




「自信満々に乗り込んできたくせに大したことないじゃない」


 あさに大打撃を食らわされてもアイラの体に傷はなく、逆にあさの息が上がることになった。


「神殺しに勝とうなんて思わないことね。神の力を得ていないあんたが私を倒すなんて」

「お人形遊びにしか興味のないお子様に神の力なんて操れないんじゃないの?」


 見栄を張っているがリミッターを解除している分体の反動も大きいのだ。疲労も激しい。


「……っ。あさ、やっぱり俺も」

「異能使うとかほざいたら鉄骨ぶん投げるからね」

「……」


 あさが負けず嫌いなのも仲間を傷つけたくないのもしんはわかっている。けれどもう戦力は目に見えて押し負けているのだ。今のだって十分強がっている。


「しん。俺が戦う」

「は!?」

「俺も神殺しだ。秀と大半は力を交換してるがもしかしたり操れるかもしれない。だから」

「そんな重傷で反動の大きな行動するな! それなら俺が力を使った方がいい」

「駄目だ。俺はどうせ生きる価値なんて無いんだから」

「やまらしくないこと言うなよ。お前がネガティブ思考になってどうする」

「俺らしくってなんだよ。そもそもこれを招いたのはお……」

「うっさいんだよお前らぁ!!」


 短気なあさが言い合っている二人に制裁(せいさい)(くだ)した――鉄骨を投げつけただけだが。


「もう後で喧嘩すればいいでしょ! 今はとりあえず出口を目指して」


 あさの体が傾いた――違う。地面が傾いているのだ。


「は?」


 地面どころか建物全体が崩れ始めているのだ。


「はあぁぁぁぁ!?」


 自爆したのかと考えたがアイラも呆然としているところを見ると違うのだろう。


「え、ど、どうすんのこれ!?」

「とりあえず逃げよう。救出が最優先だ」

「う、うん!」


 三人は出口へ急いだ。


 


 同時刻。里奈とあやもこの惨劇(さんげき)に行動できずにいた。


「社長何これ!」

「さ、さあ。でもこの気は鬼の」


 今までにない程の怒りの気を里奈は肌で感じた。


(確かに最近真由美の力が()(ちょう)してたけど。ちゃんと制御できてたはずなのに)


 雛子に連絡しようとしたが電波が届かない。


「っああもうイライラする! 仕方ないわ。あや、こっちに来なさい。時を止めるわ」

「え、あ、はい!」


 里奈が異能を発動させて時空間の中を走っていく。


「……次は必ず殺す」


 その直前、あやの耳元で秀がそう呟いた気がした。

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