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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
72/164

親に愛されたかった少年

短めです

 非異能者でも無い、れっきとした異能者でも無い。

 そんな人間は生きている価値など無い。


『次はお前だ』


 体が大きく震えた。秀の異能で気を失ってしまっていたらしい。気づいたら自室のベッドで寝ていた。


「次は……俺?」


 今のところ実験は成功していない。

 俊だって激痛に耐えて力を得られる可能性も無くはないが、万に一つどころか一パーセントにも満たないだろう。


「死にたくない」


 だけど実験体になれば――成功すれば両親は見てくれるだろう。

 研究よりも。秀よりも。


「珠?」


 目の前に秀の異能の色ではない珠が現れる。


「俺の……異能?」


 どうせこの先も見向きされないのだ。それなら――。


「母さん」


 俺を実験体にして。

 母は驚くでも喜ぶでも悲しむでもなく、無表情で無人の部屋に俊を連れて行き椅子に座らせた。


「力を抜きなさい」


 何年ぶりかに聞いた俊への母の言葉。


「母さん」

「……」


 実験に成功したら


「俺のことも見て」


 首に針が刺さって血が流れてくる。


「……っ」


 異物を受け入れまいと体が拒否するがそれを押し止める。


「……ま、て」


 激痛が体の奥底から襲ってきた。内臓を掴まれて引き裂かれているように。


「あが……ああああああ!!」


 異物が(いく)()にも虫のように身体を(むしば)んでくる。


「や、やめろ! 食うな!!」


 奥に侵入してくる血の虫を()(むし)る。


「ゔ……お、おええ」


 血を吐き出して俊は倒れたまま動かなくなった。母は息子の姿を静観(せいかん)し、その後傍にいた研究員に死体処理の準備をさせた。


「はあ……また血が無駄になったわ。神の異能者は多くないのに」


 母は再度溜息を吐いて部屋を出ていこうとした。背後で物音がする。


「え?」

悪虐非道(あくぎゃくひどう)


 母の身体が石化されたように動かなくなった。ついで虫が(さなぎ)から(かえ)るように皮膚が破れていき全身から血が吹き出し、俊の体に飛び散った。

 俊の体は神の力に耐えたのだ。異能が暴走する程に。研究所全ての機械が壊れ、人は死に、一気に静けさで覆われた。


「母さん……父さん」


 外に出ると忙しく行き来していた研究員が虚ろな目を開いたまま死んでいた。


「秀」


 ぼやける目に映ったのは唯一立っていた兄の秀だけだった。


「何をしたんだ俊」


 怒りを込めて静かに低く秀は言う。未だ刺さっている注射器を見つけた。


「……神?」

「皆は」


 俊は聞こえるかどうかの声で言った。


「死んだよ。俺が研究所に入ろうとしたら急に全てが消え去った。何なんだよ。お前の異能は」


 そう言われても答えは見つからない。今初めて使ったのだ。


「親殺し! 殺してやる!!」


 秀が珠を繰り出し殴りかかってくる。その時に偶然二人の珠がぶつかって――。

  心臓が大きく波打ち、手首に鎖型の紋が二人に浮かび上がった。


「?」

「な!」


 秀が飛びずさる。


「何で鎖が出るんだ! あいつに魔力を受け渡した覚えは!」


 そこまで言って秀ははっと珠を見つめた。色が違っているのだ。


「ま、まさかあの時ぶつかっただけで」


 その時に魔力の融合が始まってしまったのだ。同じ血が流れ、同じ魔力が流れ、一人が異能を失えばもう一人も異能を失くす。

 一人の首を切れば――どちらも絶命する。


「俊!!」


 最悪の結末を想像した俊は逃げるように秀の静止も聞かずに研究所を飛び出した。


(池内! あいつなら助けてくれる! あいつなら……助けて)


 くれるか? 親を殺し、神の力を得た異能者。(はた)から見れば化物だ。


「池内。助けて」


 涙と血のせいで何も見えなくなって転ぶ。


(俺は……俺はただ)

「愛され……たかった」


 それだけだったんだよ。

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