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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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銀色の鎖

「いい反応だな俊。立つのもやっとだってくらい傷ついてんのに」

「ハッ……ハァ」


 ネクロフィリアで傷ついている体は少し動いただけでも激痛が走る。


「ゆかと、あやを……解放、しろ」

「彩乃の方はリストに入ってないからアイラに頼めるだろうが紫はどう考えたって無理さ。自分の玩具にしてるんだから」

「ゆかは……玩具じゃ」

「俺に言われてもなあ」


 鎖をやまに巻きつけて引き寄せる。


「ぐっ!」


 秀の腕の中にやまは入り込まされる。


「離せ!」

「酷いな。少しくらい生き別れた兄に対して何か思えよ」

「うるさい! あやとゆかを解放しなければ」

「俺を殺して助けに行くか? 無駄さ。お前もあいつの異能を見ただろう。あれが神殺しだ」


 『神殺し』と聞いた途端、やまの身体が強ばった。


「い、いるわけない。あんなものに耐えられるなんて」

「常人ならな。アイラを常人と見るのかお前は」


 物心つく前から奴隷として生きて、敗北と屈辱だけで生きてきたような娘だ。

 重症を負っても殺気を放っていた程に。


「それにしても過去のことを忘れたのかと思ったよ。最初の頃は表情を動かすのも辛かったんじゃないか?」

「……」

「……忘れてないとしたら俺が言いたいこともわかるだろう」


 秀は乱暴にやまの顎を掴み、無理矢理目線を上げさせて目を合わす。


「忘れたっつったら殺すところだったけどな」

「――っ」

「俊。何か言え。それか俺から言った方がいいのか? ん?」


 何とかして視線を外そうとするやまを(せい)す。


「……返せ。俺の異能を返せ。そう言えばいいのか?」

「し、秀。頼むからやめてく」

「やめる? 何をだ」


 秀はやまの首に手を回し地面から足を少し浮かして絞めあげる。


「う、うぐ、あ」


 後少しで窒息してしまいそうなところで手を離される。そのまま重力に逆らうことなくやまの体は冷たい牢屋の床に落とされる。


「が……ゲホッゲホッ!!」


 息が整っていないやまを秀は容赦なく暴力で黙らせた。

 長い間その行為が続き、やまの体も限界を超えた時に秀は中断させた。


「お前が返すと言うまで苦痛を与え続けてやる。じゃあな」


 やま以外いないその部屋には荒い息遣いしか聞こえなかった。


「……秀、俺は」


 そこまで呟いてやまは力尽きたように意識を闇へ持っていった。


 秀とアイラは奴隷部屋の一角で鉢合わせた。


「……拷問は?」

「そりゃこっちのセリフだ。あんだけ憎しみで溢れてたのに一時間足らずで飽きたのか?」

「飽きたわけじゃないわ。ただあいつ痛みで気が狂ったらしくてやめてとか痛いとかしか言わないんだもの。ワンパターンで楽しくなかったから一発殴って気絶させたわ」

「どんな拷問したんだ?」

「普通にバーナーで肌焼いたり爪を一枚ずつ剥いで指をそのまま切り落としたり。すぐに再生するから気持ち悪かったわ。あ、でも最初にやったのが彫刻刀で左目を(えぐ)ったやつなんだけどね。それは何故か再生がめっちゃ遅いからまだ治ってなかったわ。どういう意味かしら」

「……」


 秀は目を細めて目の前の女を見る。茜が嫌うわけだ。どんなに秀が仲介しようとも、茜は決してアイラと会おうとしない。その茜は今裏切り者の雛子に対しての怒りで仕事もままならない状態だが。


「で、品定めは?」

「今から。健康だし美形だから高値で売れそうだけど」


 アイラが目の前のドアを開ける――と、同時に片方の靴が頬を(かす)めた。


「ちっ。もう少し左だったか」


 頭を殴られた衝撃で鼻血を出したあやが舌打ちする。


「……」

「くっ……怖いもの知らずかよこいつ」


 秀が笑いを堪え切れないような声を出して言う。

 今のあやは片方が裸足で胡座(あぐら)をかいている敵地の人間という訳だ。


「……あんたどういう神経してんの? 魔道具で異能封じてマフィアに囚われているって言うのに。殺されるかもしれないのよ」

「さあね。こういうのに元から疎い方なんだよ私」


 冷たくてゴツゴツしている石の床に座っているのは痛いのかあやは身動ぎしている。


「いいなこいつ。奴隷にすんだったら俺にくれよアイラ」

「売れなかったらね。フェリスだって不良品だから私がもらったのよ」


 わかってるよ。と秀は言った。


「二人はどうしたのよ」

「俊も紫も拷問して意識を失わせてるさ。お前も場合によっては」

「ねえねえ秀さん()?」


 皮肉を込めたようにあやが言う。


「やまと何があったのよ。本人に聞きたいんだけど答えてくれなさそうだし何より会わせてくれないんでしょ?」

「本当に物好きだな。いいぜ、楽しそうだし。アイラ、二人にさせてくれ」

「勝手に話進めないで。私は仕事で……」

「ちょっとくらい余ってるだろ? 紫を拷問する分の」

「……さっさと終わらせなさいよ」


 アイラは吐き捨てるように言うと乱暴にドアを閉めて出ていった。


「ところで何で気になったんだ?」

「質問に質問返さないでよー。ゆかの手首にある鎖ね。どこかで見たことあるなと思ってたの。やまって手首にリストバンドしてるし外してくれないから忘れてたんだけど一度だけ。学校で身体検査してる時見たことあったんだよね」


 やまの手首に灰色の鎖が浮き出ているところを。


「……」

「異能の力。魔力を受けとった者にしかあの紋はつかないよね? 一応このこと知ってんのは社長とから姉と偶然見つけた私だけ。だから教えなさい」


 どうしてやまの体にあの紋があるのか。

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