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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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兄と弟

「親……」

「殺し?」

「やめろ!」


 やまは悲痛に叫ぶ。秀は笑いを(こら)えるような声を出す。


「本当に何も話してねえんだな。逆に何を話したんだ? 親に干渉されず、何人もの同級生を暴力で病院に送らせて挙句の果てに親への罪を俺に着せてのこのこと生きて」

「やめろ。秀、やめてくれ」

「ああ、まだあったか? とにかく親に振り向いて欲しくて何でもやってたな。生き物の虐殺に力の弱い者を容赦なく血塗れにして……っ!」

「異能・燎原(りょうげん)の火!!」


 秀がいた場所に火の渦が巻き起こる。同時に紫がやまの背中に抱きついて引き離した。


「ゆか?」

「あちち。急になんだよ。言っておくが今のは事実。そいつは立派な犯罪者だ」

「関係ない!」


 紫がやまの隣に立って叫ぶ。


「どれだけ非道なことをしようと今償ってるんです。それがやまなら私達に受け入れる以外何の選択肢があるんですか」


 約束したのだ。どんな過去であろうと受け入れると。


「……hypocrite(ギゼンシャ)


 アイラが口を開く。


「あんたのせいで人が死んでいくのに受け入れるなんてバカじゃないの。どうせそいつらもあんたの目の前で死……」

「死なないわよ」


 アイラに上乗せしてあやが言う。


「私達は死なない。ゆかを守ると約束したもの。あんた達をぶっ潰すまでは死なないよ」

「……探偵社ごときが」


 アイラが(ののし)る。秀は可笑しそうに笑った。


「殺し合いで死なない宣言か。探偵社はしぶとい奴ばっかなのか? 面白いし試してみるか」

「来るよゆか」

「はい!」


 大鎌を構え直す。


「……アイラ。お前は俊と彩乃をやれ」

「は……はあぁ!?」


 一人で二人を相手するのが嫌というよりも紫を取られたことへの不満を秀にぶつけた。


「お前ならあいつらなんて楽勝だろ? それとも破壊神以外には勝てないとか」

「ちっ。私があいつを殺すんだからね」

「殺すなって」


 アイラは不機嫌そうに溜息を吐いて一度だけ紫を睨む。


「絶対殺してやる。ネクロクラック」


 アイラの目の前で地面が真っ二つに割れ、切り離された。


「っゆか!」

「あや……危ない!」


 あやの後ろにアイラが攻撃を仕掛ける。


「く……っ! 燎原(りょうげん)の火!」


 火の渦をアイラに放つがことごとくかわされる。


「やま!」

「ああ。異能・隔世(かくせい)の感」


 アイラの体が崩れる。着地した時の体の振動を強くしたのだ。そこの隙をついてあやがアイラに近づいた。


「……ネクロソウル」

「うぐ!?」


 あやが心臓を押さえて苦しそうに息をする。


(これ、前の)

「く……っそ」

「一人」


 アイラがあやの頭を思い切り殴って気絶させた。


「あや!」

「仕事が早いなアイラ。流石神殺し」

「さっさと済ませろ」


 はいはい。と秀は肩を竦め、紫と向き合う。


「悪いね。アイラは元から短気なんだ。理不尽なことも言う。だけど」


 警戒している紫の方へ秀は近づく。


「お前を奴隷とすればアイラも幾分か落ち着くだろうな」


 (おとがい)を上げられても紫は身動きができなかった。


(鎖!?)


 地中から足に巻きついている鎖のせいで身動きができないのである。


「鎖の異能じゃない。これは魔道具の一つだよ」

「魔道具?」


 魔道具とは非異能者が使えばただの物。異能を込めれば自在に操れることのできる特殊道具である。


「闇市とかしか売られねえけどな。後でアイラにやるから受けてみると良いさ」


 紫は首を絞められる。


「うぅ……」

「こいつは異能力も封じる。便利な代物さ。さてと、アイラが完璧にキレる前に済ますか」


 両手を紫のこめかみに添える。


「い、いや」

「すぐ終わるって。まあ戻ったら大分痛いだろうがな。異能・悪虐非道(あくぎゃくひどう)


 紫の視界が真っ暗になった。それどころか五感が一切効かない。

 口は動くのに声は出ない――いや、聞こえていないだけなのだ。


(戻る方法……舌を噛む? 痛みはないし)


 不意に肩を掴まれる――触覚は無いはずなのに。


「――戻れ」


 目を覚ますとアイラと目が合った。驚いてのけぞろうとするが胸倉を掴まれて戻される。


(座ってる? 公園じゃないの?)

「……秀の異能じゃもっと百目みたいにズタボロになるはずなのにどうしてあんたは軽傷なのよ」


 肩をギリギリと潰すように掴まれる。


「うっ。こ、ここどこよ」

「奴隷に言うことを聞かせる調教部屋。秀は拷問部屋とか言ってるけど」


 短時間で――それとも異能のせいで時の間隔がおかしいのか――マフィアの拠点まで来てしまったのか。


「あや達は?」

「あや? ああ女の方か。女なら他の部屋で気を失ってるよ。後で定めをする。男の方は秀にやったから知らない。けどあんたは自分の心配が先じゃない?」


 アイラは不気味に笑って紫の上半身の服をビリビリ破いた。


「ちょ、何すんのよ!」

「見事なまでに幼児体型ね」

「う、うるさい! 辱めを受けさせたいの!?」

「違うわよ。なんで私が楽しんでもいないのに男どもに渡さなきゃならないの。あんたにはこれで楽しんでもらうから」


 アイラはノコギリやペンチ、棍棒――。

 本来であれば拷問の為では無い鋭利で危険な道具を紫にちらつけた。


「さぁてと。どこから痛めつけて欲しい?」


 にやりとアイラは笑って()びた彫刻刀の刃を紫の目下スレスレに刺した。


「……っ」


 慣れていない紫はそれだけで反射的に体を震わせてしまった。それがアイラを煽ると知っていても。


「あはは、そう。あんたならフェリスより誰より楽しめそうだわ。私の可愛い玩具になってね、紫!!」


 アイラは紫の目に彫刻刀を振り下ろした。

怖い怖い。

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