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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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絶望の袋小路

 神憑きでは無いひよの治癒力は格段に遅かった。


「正一」

「ん……あ、母さん? ひよなら昨日と同じだよ」


 異能を体力限界まで使い、ひよを治療しているまさの体もそろそろ働かなくなってきた。


「少し寝なさい。こんなに血の気が引いて」

「大丈夫。小さい頃より……マシ」


 それは恵子がわざと倒れるように仕向けただけなのだ。実際は変わっていないかもしれない。


「でも学校だって」

「寝て……る」

「余計駄目でしょ!」


 今日は休日。ひよの容態も恵子で対処できない訳ではない。


(本当はやりたくないけど)

「寝ないと言うのなら」

「ん?」


 恵子は間髪(かんぱつ)入れずにまさの腕に注射する。その後すぐにまさは崩れ落ちるように寝た。


「ふう」

「何したの母さん」


 恵子の体がこれでもかと飛び上がる。


(母さんって意外とビビり?)

「注射?」

「あ、ああこれ? 正一があまりにも寝ないから強い睡眠薬を打ったの。明日も休みだってわかったし一日寝ないと回復しないと思って」


 愛する息子に精神を削りながら毒を入れた恵子にとっては苦痛だったかもしれない。それでも仕方がないと自分に言い聞かせるのだろう。


「ご苦労様」

「……ありがとう」


 しんの携帯が震える。


「ん? ごめん母さんちょっと待ってて」


 携帯から聞こえてきたのは――。


「母さん。二人を見張ってて」

「どうしたの?」

「マフィアと戦うって社長から」




 (さかのぼ)ること数時間前。

 大人達にとって休みは最悪午後まで寝ていたいものだが子どもにはそんな理屈通用しない。


「九時半集合ってどんだけ遊び盛りなんだよ」

「探偵社のおかげで早起きには慣れたけどやっぱり寝たいよね。ゆかは元気だけど」

「中学の頃は毎日五時起きで一時間ランニングしてましたから」

「「……」」


 早起きが得意だとは言っていたがよく寝起きで走れるものだと二人は思う。というか雛子曰く紫は低血圧で朝は苦手なはずなのだが。


「ウォーミングアップついでに公園まで走りましょうよ。一直線だし」

「「やだ」」

「えー。じゃあ一人で走ります」


 あのスピードなら一緒に走っても紫の独走(どくそう)だろう。と思ってる間に紫は走って行ってしまう。


「あれも破壊神ならではなのか?」

「いや。身体の強さならともかく運動神経とか頭の良さとかは変わらないらしいよ」

「まじか。すげえなあいつ」


 小走りに紫を追いかける。

 着いてしまった紫は公園の入口を抜けようとして急に止まった。


「ゆか?」


 目を見開き硬直している紫を二人は(いぶか)しんだ。


「どうしたのゆか。何かあっ……た」


 公園には紫達を待っている――否、待っていたたけし達がいた。

 五つの屍となって。


「……た、けし?」


 紫がやっとのことで口を開くが誰も何も答えない。やまが急いでそちらへ向かう。


「やま」

「……駄目だ。ゆか、この子達はもう死んでる」


 そのままにしておけば紫は気絶していただろう。後ろから襲撃が来なければ。


「ゆか、危ない!」


 あやが体を掴み、後ろへ飛ぶ。


「奴隷狩りなんて嘘ばっかり。奴隷どころか玩具にだってなりやしない」

「……アイラ」


 (へい)ブロックの上に立っていたアイラは紫を見下ろした。


「久しぶりね紫。死んでなくて良かったわ。あんたを殺そうとしてたから」


 口角を上げて笑うアイラは、しかしフェリスの時のように余裕を(たた)えた笑みは無かった。


「アイラが……殺したの?」

「殺した? バカ言わないでよ。私は奴隷としてこいつらを間引(まび)いたの。殺したと言うならあんたの方じゃないの」


 紫の目の前に紅い珠が現れる。


「フェリスもこいつらも……あんたと関わった人間全員死ぬのよ!」


 いつかのように二人揃って異能を繰り出そうとした。


「ゆか! 駄目!!」


 あやの静止も聞かずに大鎌をアイラに振りかざす。


「喧嘩しに来たんじゃないぞアイラ」


 紫は何者かに吹き飛ばされ、あやに抱きとめられた。


「誰?」

「……邪魔するな(しゅう)

「破壊神は生け捕りっつったろ」

「知らない」

「お前なあ。そんなにストレス溜まってんなら帰って発散しろよ」

「ふん」


 秀と呼ばれた男は仕方なさそうに笑い紫達の方を見る。


「あの人もマフィアでしょうか?」

「でしょうね。やま、社長に連絡……やま?」

「へえ。お前探偵社にいたのか。道理で見つからなわけだ」

「なんで……ここにいるんだ」


 珍しく酷く狼狽(ろうばい)したようにやまが口を開く。


「ここにいちゃ悪いか? それにもっと喜べよ。これでも俺はお前のことを探してたんだぜ俊? なあ」


 俺の弟。

 あやと紫はアイラのこともマフィアのことも忘れてやまと秀を交互に見た。


「なんだよその信じられないって顔は。なあアイラ、俺ら似てるよな?」

「知るわけないでしょ」

「だから笑えって。宝の持ち腐れって言葉知ってるか?」

「……」


 秀の(しゃく)(さわ)る喋り方にアイラはキレないように耐えた。


「や、やま。どういうこと? だってあんたの家族って確か……」

「おい言ってねえのかよ俊。兄がいることくらいは伝えろよ。初めまして探偵社さん。俺の名前は大山秀。俊とは四つ離れた兄弟だ」

「ああそう。ご丁寧にどうも。秦彩乃よ。やまと同い年」

「へえ。お前やまって言われてんのか。良かったな名前じゃなくて。嫌って……」

「……黙れ」


 やまは吐き捨てるように呟く。


「敵の分際で兄弟なんて見てられるか」

「……探偵社は光。マフィアは闇。なら俊はマフィアだろ。なあ? 親殺し」

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