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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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因みに紫さんは力の半分も使ってないらしい

「ひいちゃーん!」


 クラスメイトが飛びついてくる。


「大丈夫? 交通事故に()ったって聞いたよ?」

「あ、う、うん大丈夫。ほ、本当は一週間前に治ってたんだけどもっと安静にしてろって」

「当たり前だよ! でも良かった無事で。あ、今日漢字テスト」

「ねえねえなんか宿題ある?!」


 里奈は昨日そんなこと言っていなかった。だから紫は気にしなくていい――はずだ。


「柊さん」

「委員長」


 クラスメイトの一人、麻生(あそう)がプリントの束を持ってくる。彼は委員長ではない。空気がそんな感じだからあだ名が委員長なのだ。


「これ休んでた時のプリント。説明しなきゃいけないところもあるんだけど今大丈夫?」

「あ、うん。多いね」

「授業でも沢山配られたからね」


 ご丁寧に教科ごとで分けられている。流石委員長。


「……体育祭のお知らせ?」

「うん。来週だから」


 紫の目が輝く。


「わ、私の競技は?」

「柊さんは出ないよ?」

「……え?」


 麻生が首を傾げる。


「完治してても過激な運動は危険だよ。皆賛成してたし。ね?」

「……」




 ――というわけで。


「ああなった」


 放課後の部室で紫は椅子に体育座りしてしょげていた。以前のように。

 体育会系の紫にとっては体育祭に出られないことは苦痛なのだ。


「あれどうやって戻したっけ」

「社長に驚いていつの間にか戻ってた」


 つまりどうしようも無い。


「困ったなあ。後十分で来ちゃうんだけど」


 しかも紫には紫なりの作戦があるらしいので彼女に任せてしまっている。


「何とかなんない旧友(ひな)?」

「……」


 雛子はこくりと頷く。それがどういう意味の頷きかはわからないが。


「とりあえずあさとしんは校庭に行っといて」


 少しでも疲れさせるための時間差攻撃だ。ちなみに今の所効き目なしだ。


「紫」

「んー……」

「体育祭の代わりに今走っとけば?」

「……」


 紫は無言で立ち上がりジャージをスカートの上から()いた。


「……ゆか?」

「行こう彩乃」


 戸惑う声を振り切って雛子と紫は外へ出た。

  探偵部が捕まえられない理由はすばしっこいだけでは無かった。


「三、四……五人?」

「そう五人」


 運動部もいないグラウンドに私服姿の小学生が男女合わせて五人いたのだ。


「一人捕まえりゃ全員が救出しに来るのループで終わらないの」

「姉ちゃん達もう終わりかよ〜!」


 恐らくリーダーの男の子が挑発してくる。身長的に小三か四だろう。

 初めて見た紫に人見知りをしていたのはどこへやら。


「終わりじゃないよ。今日はこのジャージお姉ちゃんが相手だよ!」

「ジャージお姉ちゃん……」

「あや。お前楽しんでるだろ」

「何かやってる内に楽しくなった」

「子どもか」


 子どもだよ何が悪い。とあやが恥じらいなく言うためやまは反応に困った。


「もうそんなことどうでもいいから。さっさとやっちゃいましょうよ」


 あさが痺れを切らしたように()かす。五人……五人?


「全員で一遍(いっぺん)に捕まえればそれで事足りるんじゃ?」

「一対五」

「なるほど」


 それは捕まらないわけだ。


「大変ですね」

「それをあんたがやるのよ」

「余裕です」


 うーんと伸びをしてから紫は準備運動を始めた。


「ゆか。無理だったら無理って言うんだよ。子ども達にからかわれるより体調の方が大事だからね」

「昨日のうちに回復したので平気です」

「そう? えーと十秒数えたら鬼ごっこスタートっていう決まりらしいよ」

「わかりました」


 念入りに体操した紫を見届けてからあや達は参加しない為、校舎の方へ離れていった。


「本当に大丈夫かな? 神の力ってそこまで強いのかな? 普通の人と変わらないらしいけど」

「あいつらの体力まじでやばいからな」


 五人が連続して勝負しても息すら上がっていないのである。ひよには年の差と言われたが。


「じゃあ十数えるよー」

「逃げろー!!」


 キャッキャッと子ども達は楽しそうに散り散りに逃げていく。その光景だけを見ているとやはり子どもが遊んでいるだけだ。


「いーち、にーい……」


 紫は眼球だけを動かしながら数を口で唱える。


「きゅーう、じゅう」

「……うん?」


 数え終わったはずなのに紫は一向に動かない。というよりやはり体力が戻ってなかったのかすぐにでも寝てしまいそうな目をしている。


「ゆ、ゆか? ルールわかってるよね?」

「ひな」

「平気だよ。小さい頃に鬼ごっこしてた形式と一緒だし。メロンパン食べる?」

「いらない」


 呑気に購買(こうばい)で買ってきたメロンパンの袋を開けて雛子は()(しゃく)する。その袋の中身の多さにあさは仰天した。何せ一目見ただけで十は超えているのである。


「な、なんだよ。勝負する気ねえのかよ」


 子ども達も戸惑っているようだ。リーダーの男の子が挑発して近づいてくる。


「あーあ。罠にはまっちゃった」

「へ?」


 男の子が雛子の言葉で止まったのと紫がクラウチングの構えをしたのはほぼ同じだった。

 そして次の瞬間。


「うぐ!」


 男の子の腹に思い切り紫がタックルしてそのまま子ども達をごぼう抜きのように捕まえていった。


「ひな! 説明して!」

「ちょっと待って。今タイム測ってるから」

「なんの!?」


 紫が全員を捕まえたと同時に雛子はストップウォッチを止めた。


「一分。やっぱりまだ復活してないね。いつもなら三十秒で片付くのに」

「だから何あれ!」

「だって元陸上部だし」

「知ってる」

「元日本代表だし。あ、でもやっぱり体型的に勝てなかったけど」

「……は?」


 それは初耳だ。


「終わりましたよ」


 後ろを見ると屍になっている五人を紫がずるずる引きずって来ていた。


「紫。タイム伸びてる」

「最近全然走ってないもん」


 その後は紫と雛子の世界に入ってしまった為割愛であった。

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