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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第一幕
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城探偵事務所

異能とは何なんでしょう?

後、紫は順応力が高い子です。

 翌々日。日曜日にも関わらず紫は六時三十分に起きた。明後日まで待ってくれと言われ、もどかしい思いはしていたが一日中悩み続けていたせいか、ぐっすりと眠り込んでいた。なので一応全快だ。


「社長……解雇……異能者」


 意味も無く呟いてみた。学生には聞きなれない単語ばかりだ。

 二度寝はせず、私服に着替え里奈に渡されたメモを取った。


『東京都板橋区・(じょう)探偵事務所・山手線目白駅から徒歩十分』


 紫の自宅からだと四十分程度の場所だ。


(早く行ったら迷惑だろうしもうちょっと待とうかな)


 異能というと確実に怪しまれるため親には友達と遊びに行くと言っておいた。


「帰りは遅くなるかもしれないから連絡するね」


 紫はおかしくないように努めて普通に過ごし、時間になったので家を出た。




 城探偵事務所は普通の目立たない質素な四階建てのビルだった。特徴と言ったらわかりやすいように窓に大きく探偵事務所と書かれているくらいだ。そもそも探偵事務所に来るのが初めてな紫は緊張する。だがそこで立ち止まっていても仕方がない。


「ご、ごめんくださーい。柊紫という者ですが」


 一階は本当にただの入口らしく、二階に続く階段だけが目に映る。


「あの……誰かいませんかー?」


 古びているのかギシギシ言っている木の床の上で迷っていると耳に木材が折れるような音が入ってきた。


「……え? え!? ご、ごめんなさい! どうしたら元に……ってあれ?」


 自分が踏み潰したと思っていた紫だが、足下を見ても穴は空いてなかった。では今の不吉な音は一体何だったのか……と、前を向いた時だった。


「死ねぇぇぇ!」


 上に行くための階段から少女に続いて机が降ってきた。


「……」


 今起こったことを理解しようと紫は頭をフル回転させた。まず階段から飛び降りてきた少女の正体はすぐにわかった。


「せ、先輩! 秦先輩!」

「ん? あ、紫ちゃん。おはよう」


 紫は自分の存在をわからせるために声を大きくした。あやはすぐに気づき紫の元へ駆け寄ってきた。そんなあやに更なる打撃が上から飛んできた。


「ちょ……あさ! 顔面蹴んないでよ。首ちぎれるわ!」

「ちぎれてしまえこの放火娘! 私の髪燃やしやがって!」


 あさはおおよそ成人男性でも持ち上げるのが難しそうな先程落ちてきた頑丈な机を軽々と片手で持ち上げ振り回した。


「……うぇ?」

「ちょ……それは絶対死ぬから! ねえ危ないって……あ」


 飛んできた机をあやはギリギリのところで弾き飛ばす。だがそちらの方は玄関──紫の方だ。


「え、ちょ……え?」


 紫は目をつぶって頭を腕で覆う。


「……あれ?」


 覚悟していた痛みは……いや、それどころか何かが当たったような感触も無い。恐る恐る目を開けてみると目の前にはバラバラに砕け散った机の残骸がある。


「え? 何で? 先輩今何が起こっ……」

「……破壊神」


 目を見開いていたあやが小さく独り言のように呟いた。


「破壊の力って凄いわね。で、これは今どういう状況かな~?」


 階段から里奈が――目だけが笑っていない里奈があやとあさの首根っこを掴んだ。


「どうして机がこんなにボロボロになってるのかな~二人とも?」

「し、社長。こ、これはですねその~ちょっと事故っちゃって~……」


 里奈は手を拳固にして二人の頭に大きく振りかぶせた。音が痛い。


「公共の物を壊すんじゃない!! 何で毎日毎日物を壊すのよあんたらは!」


 里奈の怒声に紫も怯んだ。学校の中でもここまで怒っている里奈は見たことがない。


(ていうか先生ってもっと大人しかったはずじゃないの!? こっちが素ってこと?)

「あ、そうだ柊さん!」


 そのまま説教に入ろうといた里奈は思い出したように紫の方へ向き直った。


「放ってたわねごめんなさい。事務所は二階だから行きましょうか」

「あ、はい」


 急な里奈の手招きに紫は慌てて続いた。


「とりあえず私達は破片を拾いますか」

「ですな」




「いらっしゃい柊さん。ここが城探偵事務所の本部よ」


 そこには呪い道具の人形や悪魔を呼び出すような魔法陣……のような紫が思っていた物は一つも無く、いかにも普通の事務所だった。


「異能者とか言う割に普通」


 里奈に図星をつかれたように紫はギクリとした。


「だ、だって昨日のことを思ったらそうもなるんです! さっきの先輩方と言い……てか何で浅葱先輩は机振り回せてたんですか?」

「あああれね。後であの子達にはたっぷり絞られてもらうわ。それよりこっちに来て説明しちゃいましょうか」


 里奈に促されて紫は隣の部屋に移った。 そこも簡易的な普通の室内だ。


「……さて。じゃあ心の準備はいいかしら」

「は、はい!」


 里奈は真面目な話をするようにすっと笑顔を消した。




 まず異能とは読んで字の如く異なる能力――全員が持ってる訳ではない特殊能力のことだ。


 数百年以上前。異能者とそれを持たない人間──非異能者は共存していた。ある者は火を。またある者は水を操り、他にも天災を操り被害を食い止めたりもした。

 異能者と言っても人間。それは誰しもがわかっていたことだ。


 だが良く思う者がいれば勿論悪く思う者だっている。後者の者は異能者を戦争に連れ出して無理矢理戦わせた。戦死する者や奴隷にされた者もいた。役立たずな異能者は魔女狩りのように火炙りや水責めで殺されもした。


 それでも生き残った者が子孫を残し今も数こそ少なくなってきているものの異能者は存在している。マフィアという存在はそんな貴重な異能者を高値で売り払い奴隷としている集団のことだ。

 その脅威に対抗するものこそが異能探偵社――城探偵事務所だ。




「そしてここが建てられた」

「奴隷や戦争……先輩達が私をマフィアだと勘違いしたのは」

「学校にスパイがいるという噂があったの。特にあなたの能力は」


 里奈は一度紫から目を逸らした。


「わ、私の能力は?」

「あなたは破壊の能力を持つ。破壊神という異能よ」

「破壊神?」

「異能者は数少ない。その中でも神と呼ばれる異能を持つのはほんの一握り。神は他の異能を消すことだってできる」

「……」


 他の異能を消す。


『記憶は貰ってくわね』

「あの時」


 紫はまだ理解しきれていない頭で記憶を思い出す。


「先輩は記憶を奪った。それなのに私は効いてない……いや効いてはいたけど私は……破壊した?」

「正解よ」


 弱々しい笑みを里奈は浮かべた。里奈にとって異能は脅威でなくとも負担のかかる辛いものなのだろう。


「でもね柊さん。あなたが今まで気づかなかったように、普通は誰も気づかないものなの。だから明日からはこのことを忘れて……容易では無いけれど……ただの女子高生に戻れるの。ここも探偵部ももう詮索なんてしないから」


 里奈の言葉に紫は頷けなかった。異能を隠しておけばこれまで通り過ごせる。 それは喜ばしいはずなのに胸騒ぎがする。


「あの……先生……私は」

「社長大変です!」


 勢いよくドアが開かれ、あやが入ってきた。


「本部に人質を連れた爆弾魔が飛び込んで来ました! 社長を呼ばなければ爆破するって……」

「爆弾!?」


 驚く紫の正面で里奈は軽く舌打ちをした。


「探偵事務所はよくそういう喧嘩を売られることが多いのよ。いつもは受け流しても何ともなく終えることができるわ。だけど人質もいるとなると話は別ね。柊さん、ちょっとついてきて」


 本部の方へ行くと三十秒で止まっている爆弾と社長机に座って貧乏ゆすりをしている男。そして手首を縛られ口を布で封じられている恐怖で震えている女の子がいた。


「あの人……また来たのね」

「また?」


 隣にいたあやはこくりと頷いた。


「あの男は肥前(ひぜん)(けい)。前も社長を殺そうとしたのよ。その時は異能で何とか食い止められたのだけれど今日はひよ……和田(わだ)日和(ひより)が捕まっているから迂闊には手を出せないわね」

「か、彼女も異能者なんですか?」

「ええ。彼女は人の心を読むことができる“悟り”の能力よ。肥前はそこを狙ったのね」

「肥前!!」


 里奈は前に出て肥前に睨みを効かせた。


「おとなしく来てやったんだからひよを離しなさいよ」


 肥前ははっと乾いた声で笑った。


「お前の能力はもう知っている。時を操れる能力で俺が離した瞬間俺は負ける。城ヶ崎を殺すまではこいつを離さないし、異能を使うもんなら爆弾を起動させるしこの女もナイフで血まみれにしてやる」


 ナイフを走らせ日和の首に切れ筋ができた。


「ゔっ!」

「止めろ!」

「くっくっ。さあどうする? 自分の命を捨てて事務所を守るかこの女の命を捨てて俺を倒すか」


 里奈は拳を握りしめた。自分を殺して満足するなら爆弾なんて用意しない。結局全員を殺すつもりだ。

 だが。


「だからと言って異能を使えばすぐひよは死ぬ。人間はどうしても社長の能力じゃ動かせないから。せいぜい爆弾を破壊するしか……」


 いつの間にか隣にいたあさが悔しげに呟いた。


「私たちも異能は使えるけどあいつはそれも知ってんでしょ」


 二人が思案している中で紫は思いついた。


『あなたは破壊の能力である破壊神』

「あの爆弾を壊すことはできるでしょうか」


 紫の言葉に二人は顔を見合わせて瞠目(どうもく)した。


「私の破壊の力なら爆弾を壊せるし、先生も異能を使えるでしょう」

「た、確かに壊すことは可能だし一番手っ取り早いけどさ。コントロールが効いてない能力は危険過ぎるよ」


 暴走してしまうというより標的(ターゲット)に的中できるのかと言っているのだろう。正直成功する可能性はずっと低い。


「それでもゼロパーセントでは無いと信じたいんです。教えてください」

「「……」」


 二人は顔をしかめて試案した後望みをかけて紫に教えた。

破壊神。どうしても入れたかった。

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