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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
番外編一
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お買い物デート? しましょう

「んー」


 紫は部屋で一人唸っていた。机の上には友達が貸してくれた雑誌が置いてある。


「誕生日プレゼント……何がいいかな?」


 明日は紫のクラスメイトであり友達の誕生日なのだ。

 高校生にもなり給料――あや達はお小遣いだと言っているが仕事なんだから給料じゃないのか――も入っているのだから文房具じゃないものでも良いとは思う。

 しかし、中学までスポーツ一直線で行っていた紫にとってはセンスのセの字もなくいつもはひなみが買い物に付き合ってくれるのだが。


(まあ無理だよね)


 折角今日は探偵社が休みなのだから電車で遠くまで行きたいが何を買えば良いかわからない。

 というかまだ入社して二ヶ月しか経っていないしマフィアの危険性もある為一人で行動するのは気が引ける。


(誰かいるかな?)


 紫は二階に降りて本部を覗いてみた。


「あ」

「ゆか?」


 やけに静かな――というかいつもが(うるさ)いだけだろうか――探偵社には紫以外に一人しかいなかった。


「お、おはようございますまさ……さん?」

「おはようゆか。さんはいらないよ」

「あ、はい」


 とりあえず紫はまさと向かい合わせになるようにソファに座る。

 てっきりあやかあさがいると思って雑誌を持ってきたがまだそんなに話したことのないまさがいるとは思わず誘えないまま雑誌を見るだけという行為を続ける。


(な、なんて言えばいいかな? まさはよく寝てるから学校でもそんなに話さないし)


 誘おうにももしまさに用事があったらどうする。

 そうしたら嫌な思いをさせてしまうに違いないし、だが言わないことには始まらないし。


「ゆかはどうしたの?」

「はひ!?」

「いや今日は休みだからここにいなくてもいいって意味なんだけど」

「あ、え、えーとま、まさはどうして?」


 質問に質問をかえしてしまったことに言ってから気づいた。


「僕? することが無いからここで本でも読もうと思って。部屋は参考書とかでいっぱいいっぱいだし」

「あ、そ、そうなんですか」


 確かにまさはブックカバーのかかった本を持っている。


「それでゆかは?」

「え、えーと明日お誕生日の友達がいるんですけどプレゼントが選べないので誰かに付いてきてもらおうかなぁ……なんて」

「プレゼント? それならいいところ知ってるよ」

「え!?」


 学校に行く電車とは反対になるが三十分で着く大きな複合商業施設(スーパー)があるらしい。


「そこに本屋があって凄くマイナーじゃないもの以外は必ずあるんだ。よくしんと行くんだよ」

「へえ。じゃあ教えてもらってもいいですか?」

「うん? いや、僕も行くよ」

「え?」

「だって一人で行かせたらマフィアに出くわす可能性もあるし」

「あ、はい。し、支度してきます」


 探偵社の鍵を閉めて二人は駅に向かう。


「……」


 速攻(そっこう)で話すネタが尽きた。


(あ、どうしよう。まさが話しかけてくれたから次は私が話すべき?)

「ゆか」

「ひゃぁぁい!?」

「僕に話しかけられるのそんなに驚く? 今日は人が多いからはぐれないようにね」


 と言ってる合間にも小さな紫はまさから離れそうになっている。


「ゆか」


 まさが巻き込まれないように手を握る。


「ご、ごめんなさいぃ」


 結局話す暇なく駅まで引きずるように連れていかれてしまった。




「終わりました」


 雑貨屋で可愛らしいネックレスがあった為それを買ってみた。友達も最近おしゃれに目覚めたらしいし丁度良いだろう。

 本屋で新しい単行本を見ていたまさが顔を上げる。


「そう……って他にも買ったんだね」

「あ、はい。紫は可愛い顔してるのにそんな服じゃ可哀想だと言われたのでメールしたら服も買えと」

「確かに休みがジャージはね」


 駄目ですか? とついこの間あやに言ったら問答無用で変えさせられた。


 すると急にまさが紫の荷物の半分以上を持って先に進む。


「あ、まさ? 自分で持ちます」

「いいよ。というかゆかみたいな小さい子が荷物一杯に持ってる方が見てられないから」


 注意力がなっていないということだろうか。まああながち間違いでもないのだが。




 二人は地下鉄に乗ってしばらくボーッとしてた。

 紫はボーッとしているがまさはそれが自然体なのだろうかと思う。


「そういえばゆか」

「はい?」

「異能は使えるようになった?」

「いえ……ってこんな公衆の面前で言っていいんですか?」

「まあ聞いてないでしょ」


 酷くマイペースだ。と、思ってる間にまさが紫の足を(ぎょう)()する。


「ま、まさ?」

「獣に食われたところも傷跡なく……か」

「へ?」


 魔姫の異能で足をもがれたこともその有様もまさは知っている。


(神は治癒能力も凄いって聞くけどここまでとは思わなかった。でもやっぱり重症過ぎると)



 キイィィィィィン!!!!



「!? わ、わ」

「ゆか!」


 急停車して倒れ込みそうになる紫を慌ててまさが抱きとめる。

 次いで爆発音が前から聞こえた。


「きゃあ!」


 慣れていない紫は驚いて腰を抜かした。


『あーあーテステス。聞こえてるかな皆さん? 今我々はこの電車を乗っ取りましたぁ』


 アナウンスが聞こえてきて全車両に響き渡る。


『今の爆発音は真ん中の車両に爆弾を設置してたからそれが爆発しただけ。まあ何人かは死んだけどそんなに価値があるような奴らじゃないし良いか』

「な……!」

「……」


 アナウンスは続く。


『今我々は先頭車両にいます。ここには爆弾があるからそれを止めればこれ以上被害は出ない。爆発させればそのままここから続く海へと電車ごとダーイブ。因みに銃とかも持ってるけどそれでも止めに来るって物好きはおいでー。じゃあねー』


 ブツっと言ってアナウンスが消えた。


「爆弾」


 固まっていた人が一斉に後ろへ逃げていく。


「ど、どうしましょうまさ。このままじゃ」

「選択肢は二つだけ」

「え?」

「全員で生き残るか死ぬか。どっちにする?」


 まさが紫と目線を合わせるようにしゃがみ込む。


「し、死ぬのは嫌です」

「戦えば少なからず痛いと思うよ?」

「皆が死ぬのを黙って見る方が嫌です!」


 まさは小さく口元を上げた。


「行こうか」

「はい!」


 震える足を叱咤(しった)して紫はまさに付いていき車両を進んでいった。


(あの車両に爆弾がある)


 里奈には「心臓と首が傷を負わず、又大量出血しなければ治癒能力が発動する」と言われている。

 いざという時はまさを庇う覚悟で行く。


「行くよゆか」

「はい」


 まさがスライドドアを開けて――急に紫を突き飛ばした。


「ま……」


 耳をつんざく音が目の前で聞こえて熱気にまた吹き飛ばされた。


「あ、う……っ!」


 何が起こったかわからなかったが瞬時に紫は青ざめた。


「ま、まさ!!」


 爆発が収まった車両へ走ると目の前に頭をあちらに向けてうつ伏せに倒れているまさがいた。所々破れた服から見えたのは傷ついた肌から出ている血。


「ま、さ」

「おやおやぁ? 挑戦者に女の子もいる。勇敢(ゆうかん)だねぇ」

「……っ」


 運転席から一人の男が出てくる。舌で舐めるように見るその目に紫は震え上がった。


「君なら殺さないで僕達と一緒に遊ぶっていう手もあるなぁ。もしかして小学生? 幼女は大好物だよ」


 男が紫の方へ歩み寄って来ようとした所でまさが苦しそうに動いた。


「ゲホッ……! ゆ、ゆかに近づくな」


 紫を守るように立ち、隠してあったナイフを取り出す。


「あれぇ生きてた? 爆発をあんなもろに食らったら即死なのに、それか痛みで気絶するとか?」

「痛みには慣れてる……い、異能者は体も他とは違うからね」

「いのうしゃ? へえー他とは違うんだぁ」


 男は舌なめずりをする。


「じゃあ遊ぼうよいのうしゃくん。この爆弾達で」


 男は両手に余るほどの手榴弾(しゅりゅうだん)を出し気味悪く笑う。


「僕はねぇ昔研究員だったんだぁ。でも所長が僕をクビにして無職。どうしてクビにされたかわかる? 爆弾を作ったからだって。それで人を殺そうとしたら止められちゃった。だから腹いせに研究所を丸ごと爆発したんだ。楽しかったよ、絶叫する人達がどんどん死ぬんだよ」

「……っ」


 恐怖を感じて紫は思わずまさの空いている手を握った。魔姫のような威圧的なものではない。もっと体の奥から(むし)()が走るような恐怖。


「あ、でも女の子は傷つけたくないなぁ」


 男がそう言った瞬間紫は後ろから腕を回されて動きを封じられた。


「お前幼女趣味なんかあったのかよ」

「可愛いじゃんだってぇ」


 ひょろひょろした男とは対称的に二メートルはありそうな大男が紫を捕らえていた。


「は、離して!」

「ゆか!」


 まさが手を伸ばすが片手で突き飛ばされる。その時に打ち身が悪く肩が外れる音がした。


「よっわぁい。大口叩いた割には大したことないんだね君〜」


 仰向けに倒れ込んだまさの手の平に男はナイフを突き刺した。


「ぐっ!」


 その後、爆弾をバラバラと周りに落とす。


「それ十秒後に爆発するから〜。じゃあねぇ」


 紫を抱えた男を連れて運転席に行く。


「まさ……まさ!」

「……っ!」


 必死にまさの方へ手を伸ばすが別室へ移されてしまう。強くめり込んだナイフまさはを力を入れて抜いたが時既に遅し。


 鼓膜が破れそうな爆発音が紫の耳をつんざき、扉が一瞬吹き飛びそうになった。


「ま、まさ」


 今の爆発に耐えられるものなど存在しないだろう。紫は青ざめて泣きそうになった。


「さあて死体はどうなったかなぁ?」


 男が扉を開けるとまさは首から上を外に出して(もた)れるように座っていた。


「んー?」


 男が覗き込んで頭をそちらに動かそうとした。

 すると――


「っぐほぇ!!」


 きっ、と頭を上げたまさはそのまま拳を男の顔面にめり込ませた。


「な、な」

「え?」


 まさの体には傷跡一つ付いていなかった。


「なんで!?」

「ゆか」

「は、はい」

「どうして僕の異能が活発(かっぱつ)溌地(はっち)と呼ばれるか知ってる?」

「いえ」


 まさは男を無視して紫と視線を合わせる。


「本来の力と違うことをすれば魔力とは違う力を奪われる。僕の異能はね、治癒じゃないんだ。自分の能力を高めることもできる。あさとやまの異能を足して割った感じかな?」

「な、何故傷一つ無いんだ!」


 除け者にされた男が叫ぶ。


「ついでに治癒ができるって今言ったよね? 自身でも例外では無いんだ。ただし」


 まさは自分の服を(めく)って証拠を見せる。


「瀕死の状態で無ければ自分を治せない。だから治療する時は無理にでも体を傷つけないといけないんだ」


 苦笑してゆかを捕らえている男の方へ歩み寄る。


「そ、そいつを殺せ!」

「その前にゆかを解放してよ」


 まさが大男の手首を掴み、一瞬の内にゆかから引き離した。


「あさにも似てるって今言った……あ、そっか、君達はあさのこと知らないんだ」


 嫌な音がして手首が有り得ない方向に曲がる。


「まだ僕が相手で良かったね。社長やから姉だったら半殺しじゃ済まないよ……僕も容赦しないけど」


 素早く腕の中に紫を抱えて顎に一発食らわせると男はすぐに失神した。


「さてと」

「ひっ!」


 男がガタガタと震えながら腰を抜かす。


「覚悟してねおじさん。探偵社は、仲間を傷つけた奴を許さないから」




 結局爆弾魔の二人は通報を受けた警察に捕まることになった。

 異能者のことがどうだとか言っていたがきっと警察は聞く耳を持たないだろう。


「警察にも引き渡したし後は社長がなんとかしてくれるかな」

「そうですね……」

「ゆか? ……怖かった?」


 唇を噛み締めて紫はコクリと頷く。


「怖かった。まさが爆発に巻き込まれた時私のせいでって。何もできなくて。異能を使えなくて悔しかった」


 差し出された手を震える両手で握りしめた。無理矢理作ったような笑みがどんどん崩れていく。


「良かったです。まさが無事で。仲間を、死なせなくて……良か……っ」


 声を詰まらせた紫の目から決壊(けっかい)したように涙が溢れ流れた。


「ごめ、なさい……異能、使え、なくて。迷惑、かけて……ごめんなさい」


 我が儘を言ってついて来てもらったのに紫は何もできず、まさに痛い思いをさせてまで助けてもらった。


「……ゆか」


 俯いた紫の頬に両手を当てて上げさせる。


「君が気に病むことは何も無いよ。それに異能を使えば少なからず他人を傷つけることになる。まだそんな苦しみを抱えて良い時じゃないよ」


 いつか必ず役に立つ時が来るから。まさは微笑んで紫の頭を優しく撫でた。


「……っはい」

「うん。じゃあ帰ろうか。このことも社長に報告しなきゃ」


 紫とまさは夕陽に染まる帰り道を歩いて行った。

紫「ところで服は戻らないんですか?」

まさ「うん。だからこういう時のためにパーカー持ってきてるんだ」

紫(パーカーの中ってどうなってるんだろう。確か気エロ萌えとか……)

ふしだらなことを思う紫だった。

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